38 / 45
case8 大石菜々美『優しい少女と白い魔法使い』
第38話【インテーク】守りたい人がいるんです
しおりを挟む
神守坂神社の本殿に久能さんと白夜様、犬飼君とその飼い犬の狛十郎さん、それから久能さんのおじい様(本当は久能さんのほうがずっと年上だった)が集まっていた。
その末席に私も座らせてもらっている。
全員が集まったところで「それではお話を伺いましょう」と久能さんが静かに切り出した。
「今回の相談者はそちらになるんですね?」
と犬飼君が持ってきた段ボール箱を久能さんが指さすと、犬飼君は大きく縦に首を振った。
「はい、創始様。おっしゃるとおりです」
そう答えると、犬飼君は静かに立ち上がって、輪になって座っている真ん中に段ボールを静かに置いた。
それからまた元の場所に戻った犬飼君が深々と久能さんに向かって頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「わかりました。では、皆さんにも証人として聞いていただくためにきちんと姿を見えるようにいたしましょうね」
いったい、なにが始まるというのだろう。
さっぱり見当もつかない私の目の前で、久能さんがすばやく指を組んだ。
「オン アビラウンケン ソワカ!」
呪文のような言葉を口にした久能さんが組んだ指を段ボールに向かって突き出した。
その瞬間、閉じていた段ボールの蓋がひとりでにパカンッと開いて、小さな金色の球体が飛び出した。
段ボールの横でぐにゃぐにゃと球体から別のものへと変化していくのを、私は息を飲んで見つめ続けていた。
「あっ!」
思わず声が出て、急いで手で口を押えた。
球体だったものが、小さな黒猫の姿に変わったからだ。
生きているのだろうか?
それともなにかの映像なのだろうか?
黒猫の体は金色の光でおおわれているんだけど、透けて向こう側が見えている。
「生後半年くらいでしょうか? 白夜さんに比べると実にかわいらしいサイズです。ねえ、白夜さん?」
久能さんの呼びかけに白夜様はふんっと鼻を上に向けた。
どうやら私以外のみんなにもちゃんと見えているらしい。
「あの……すみません。これって……本物ですか?」
「本物と言いますと?」
「ええっと、どこかにプロジェクターがあって3D投影しているのかなあって」
「ああっ! プロジェクトマッピングッ! なるほど、なるほど。そういう技術が今の世界にはありましたっけね」
フフフッと久能先生が笑った。
そんな彼の隣で久能のおじい様が「魂を実体化させたんじゃよ」と説明した。
「孝明……いや、創始様は強い霊力がおありでなあ。魂を実体化させたり、憑依術ができたりと。まあ、いわゆるスピリチュアルな技術がいろいろ備わっておってな」
「そう……なんですか。私も霊感はあるほうなんですけど、なんか私が見たことある霊とはちょっと違うような気がして」
「おそらくアカリさんがよく見かけるのは思念ではないかと思われます。人の強い思いはこの世界に残りやすいので。今回はまだ亡くなったばかりということもあって、完全に魂が離れていなかったのでこうして姿を完全再生させたんです。これは狛十郎さんの持つ力あってこその、なんですけどね」
犬飼君の隣で鎮座している柴犬を見る。
彼は狛犬一族とともに神守坂神社を守ってきたという犬神様なのだという。
犬神様には白夜様同様、特別な力があるらしい。
とはいえ白夜様ほどの強大ではないらしいけど、魂をこの世につなぎとめられるくらいのことは簡単にできるらしい。
「では早速、本題に移るといたしましょう。いったい、あなたになにがあったのか。あなたが狛十郎さんに力を借りてでもこの世で成し遂げたいと思うことがなんなのか。お話していただけますね?」
久能先生が小さな黒猫に向かって語りかけた。
すると黒猫は小さな頭をこくりと動かすと、人の言葉でこう言ったのだ。
「ぼくには守りたい人がいるんです」
そうハッキリと――
その末席に私も座らせてもらっている。
全員が集まったところで「それではお話を伺いましょう」と久能さんが静かに切り出した。
「今回の相談者はそちらになるんですね?」
と犬飼君が持ってきた段ボール箱を久能さんが指さすと、犬飼君は大きく縦に首を振った。
「はい、創始様。おっしゃるとおりです」
そう答えると、犬飼君は静かに立ち上がって、輪になって座っている真ん中に段ボールを静かに置いた。
それからまた元の場所に戻った犬飼君が深々と久能さんに向かって頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「わかりました。では、皆さんにも証人として聞いていただくためにきちんと姿を見えるようにいたしましょうね」
いったい、なにが始まるというのだろう。
さっぱり見当もつかない私の目の前で、久能さんがすばやく指を組んだ。
「オン アビラウンケン ソワカ!」
呪文のような言葉を口にした久能さんが組んだ指を段ボールに向かって突き出した。
その瞬間、閉じていた段ボールの蓋がひとりでにパカンッと開いて、小さな金色の球体が飛び出した。
段ボールの横でぐにゃぐにゃと球体から別のものへと変化していくのを、私は息を飲んで見つめ続けていた。
「あっ!」
思わず声が出て、急いで手で口を押えた。
球体だったものが、小さな黒猫の姿に変わったからだ。
生きているのだろうか?
それともなにかの映像なのだろうか?
黒猫の体は金色の光でおおわれているんだけど、透けて向こう側が見えている。
「生後半年くらいでしょうか? 白夜さんに比べると実にかわいらしいサイズです。ねえ、白夜さん?」
久能さんの呼びかけに白夜様はふんっと鼻を上に向けた。
どうやら私以外のみんなにもちゃんと見えているらしい。
「あの……すみません。これって……本物ですか?」
「本物と言いますと?」
「ええっと、どこかにプロジェクターがあって3D投影しているのかなあって」
「ああっ! プロジェクトマッピングッ! なるほど、なるほど。そういう技術が今の世界にはありましたっけね」
フフフッと久能先生が笑った。
そんな彼の隣で久能のおじい様が「魂を実体化させたんじゃよ」と説明した。
「孝明……いや、創始様は強い霊力がおありでなあ。魂を実体化させたり、憑依術ができたりと。まあ、いわゆるスピリチュアルな技術がいろいろ備わっておってな」
「そう……なんですか。私も霊感はあるほうなんですけど、なんか私が見たことある霊とはちょっと違うような気がして」
「おそらくアカリさんがよく見かけるのは思念ではないかと思われます。人の強い思いはこの世界に残りやすいので。今回はまだ亡くなったばかりということもあって、完全に魂が離れていなかったのでこうして姿を完全再生させたんです。これは狛十郎さんの持つ力あってこその、なんですけどね」
犬飼君の隣で鎮座している柴犬を見る。
彼は狛犬一族とともに神守坂神社を守ってきたという犬神様なのだという。
犬神様には白夜様同様、特別な力があるらしい。
とはいえ白夜様ほどの強大ではないらしいけど、魂をこの世につなぎとめられるくらいのことは簡単にできるらしい。
「では早速、本題に移るといたしましょう。いったい、あなたになにがあったのか。あなたが狛十郎さんに力を借りてでもこの世で成し遂げたいと思うことがなんなのか。お話していただけますね?」
久能先生が小さな黒猫に向かって語りかけた。
すると黒猫は小さな頭をこくりと動かすと、人の言葉でこう言ったのだ。
「ぼくには守りたい人がいるんです」
そうハッキリと――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる