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第一章 胎動
第六話 上陸
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浦賀沖に投錨している、4隻の黒船を率いているのは、アメリカ合衆国、東インド艦隊、司令長官のマシュー・ペリーだった。
艦隊が姿を現してから6日後、久里浜に軍艦1隻が近づいてきた。軍艦の立てる波頭が、その威容を際立たせている。
海岸には、応接のための会場が、設けられていた。会場をぐるりと取り囲む天幕に、徳川家の家紋が、黒く刻印されている。
その外側に張り巡らされた、木の柵には、びっしりと、見物人が、へばりついていた。
見物人の中には、寅次郎と宮部もいる。
しばらくすると、50隻以上のボートが、久里浜に、乗り上げてきた。
黒い軍服を着た一団が、浜を上がって来る。
寅次郎は、目を細めた。
「ずいぶんと、大がかりだ」
宮部も、うなずいた。
「威圧しているつもりなのだろう」
一団の中で、先頭を歩く男は、頭抜けて身長が高かった。髪の毛は、太陽の光を浴びて、茶色く光っていた。
それを見た見物人の中から、声が上がった。
「あの鼻を見てみろ。大天狗だ!」
見物人の間で、ざわめきが広がった。
天幕の奥に、消えて行く一団を、目で追いながら、寅次郎はつぶやいた。
「アメリカに、行かなければ」
宮部は、寅次郎を、横目で、ちらっと見た。
「吉田君。奴らは、日本を侵略しようとしている連中だぞ。そんな国に憧れて、どうする」
寅次郎は、我先に、浜に向かって走っていく見物人達を、愉快そうに眺めている。浜には、50隻のボートと、その先には、軍艦1隻が、浮かんでいる。
「宮部さん。僕らも行きましょう」
宮部は、舌打ちをした。
「吉田君。話をそらすのは、辞めたまえ。君は、日本人だろう?」
寅次郎は、頭を掻いた。
「やだな。宮部さん、怒らないでくださいよ。僕は、別に、アメリカに憧れてる訳じゃないですから」
宮部は、鼻から煙を吐かんばかりに、詰め寄った。
「ほお〰、じゃあ、なぜ、アメリカなんぞに、行きたい?」
「そりゃ、もちろん、敵国を知るためです」
寅次郎は、にっこり、笑った。
「宮部さん、ひょっとして、忘れてます?」
宮部は、首をかしげた。
「僕が、兵術家だってこと」
「知っとるわ」
寅次郎は、ペリーの消えて行った、天幕を見つめて、言った。
「『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』、です」
艦隊が姿を現してから6日後、久里浜に軍艦1隻が近づいてきた。軍艦の立てる波頭が、その威容を際立たせている。
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「アメリカに、行かなければ」
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寅次郎は、我先に、浜に向かって走っていく見物人達を、愉快そうに眺めている。浜には、50隻のボートと、その先には、軍艦1隻が、浮かんでいる。
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「やだな。宮部さん、怒らないでくださいよ。僕は、別に、アメリカに憧れてる訳じゃないですから」
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宮部は、首をかしげた。
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