74 / 82
リメイク版
第6話 謁見
皇居・半蔵門
健仁を乗せた車は半蔵門から皇居の中に入って行った。本来、半蔵門を利用できるのは天皇家と皇嗣家、つまり内廷皇族やそれと同等の皇族のみでである。一般人(殆ど入れる機会は稀だが)や他の皇族は乾門から入らなければならない。
では何故、皇室の血を引くとはいえ一般人に過ぎない健仁が半蔵門から入れたのか。それは極めてシンプルな理由である。
「半蔵門の方が御所に近いからそこから入らせて欲しい。」と健仁が会う約束をする際にお願いしたのである。
御所に到着し、侍従職の職員に案内され応接間に入る。
しばらくするとやや小柄だが、ガッシリとした体格の男性が入ってきた。
この空間の主人である天皇である。
「久しぶりだね、健仁君。君には色々と世話になった。」
天皇は慈愛に満ちた声色で健仁に声を掛ける。健仁は皇后や時子に対し何度か別荘を貸した事がある。その経験は彼女らに安らぎを与え回復に少なからず寄与したのだ。
「いやいや、甥として当然のことをしたまでだよ伯父さん。」
健仁はフランクにそう返す。健仁は葛城宮家とは余り交流がなかったが天皇御一家とは彼らが東宮家だった頃から手助けをしていたのだ。
「所で、康子と時子には会ったか?」
「いやまだ。」
「ちょうどバルコニーでお茶を飲んでいるはずだ。少し顔を見せて行きなさい。」
「そうするよ。」
天皇と健仁は応接間を出て御所の私室部分のバルコニーへ向かった。
◇◇◇
御所・バルコニー
皇后と時子は紅茶を飲みながら会話をしていた。内容は皇后の姪で時子の従姉である誠子の事だ。
「誠子ちゃん…随分と大変みたいね…」
皇后は心配そうに呟く。彼女自身、誠子には励まされる事も多く、娘を見守り支えてくれる誠子を頼もしく思っているからだ。
「ホント…あんなに可愛くて、頑張り屋さんで家族思いで…なんであんな良い人が貶められなきゃいけないんだろう…」
時子は悔しそうにそう呟く。そして彼女も理解していた。誠子を傷つける人々の多くが『英弘の御一家を敬愛しています』だの『筬宮時子さまを皇太子に!』と主張している事を。更に大好きな祖母の死を願う様な事を平気で公言している事を。
大好きな従姉や祖母を侮辱し、病気に追い込む連中に持ち上げられて嬉しいはずがない。
正当な皇位継承者を押し除けてまで自分に分不相応な地位を押し付ける人間に寄り添いたいと思えるわけがない。
率直に言って時子は『時子さま信者』が大嫌いなのである。
彼女にとって信頼の置ける葛城宮家や上皇ご夫妻を誹謗中傷する者は彼女の首を真綿で締め上げる事に等しい物であった。
「私を皇太子にって言って誠子お姉ちゃんを虐めてる人達ってさぁ、まるで226事件を起こした青年将校みたい。宮内庁が動かないなら、私自ら皇宮警察を率いて鎮圧に向かいたいくらいだよ」
時子はそう言って憤る。その時、父の声がした。
「康子、時子。健仁君が来たぞ」
その声に皇后と時子は振り返る。特に時子は目を輝かせた。
「健仁お兄ちゃん!」
そう言って健仁に抱きつく時子。小さい頃から健仁の事が大好きな彼女は久々に会った従兄に力の限り抱きついた。
「時ちゃん久しぶり。ホント、綺麗になったよね。最近は大学出て公務の幅も広げてるみたいだし本当にすごいよ」
そう言って愛おしそうに頭を撫でる。健仁も時子を妹の様に大切に思っている。だからこそ皇室を離れた後も折に触れて彼女には手を差し伸べていたのだ。そう言った周囲の手厚いサポートを受けながら彼女は皇族として、人間として少しずつ歩みを進めその姿は多くの人々に敬愛されている。思わぬ副産物が生まれたがそれは葛城宮家のみならず時子本人をも苦しめている。
「あ、でもね…私の職場、パレスチナの人達の支援もしてるから…健仁お兄ちゃんのお仕事、ちょっと複雑かも」
時子は少し気まずそうにそう言った。彼女は現在、人道支援団体で勤務しておりその中にはパレスチナ人への支援も含まれている。その為、健仁の事は大好きだが彼の仕事には少し複雑な気持ちを抱いているのだ。
「それはそうだよね。なるべく減らす様に努力しているとはいえ、テロリストが住宅や学校、病院を拠点に攻撃をしている以上民間人の犠牲は出るから」
健仁は真剣な表情で答える。イスラエルは現在、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配する武装勢力と戦争状態にある。ハデレフ・ルシャロム製のAI搭載ドローンやPMC部門の兵士もガザに投入されており大勢の民間人被害や人道危機を引き起こしているのだ。
「あ、でもね…健仁お兄ちゃんの事は好きだよ!それは間違いない!」
健仁にそう告げる時子。その可愛らしい姿に健仁は優しげな笑みを浮かべて頭を撫でる。
「健仁君、久しぶりね。元気にしてた?」
タイミングを見計らって皇后も声を掛ける。
「元気だよ。伯母さんも少し顔色が良くなったね。」
「おかげさまでね。体調次第なところもあるけど少しずつ出来ることも増えて来たわ。本当にありがとう」
健仁に頭を下げる皇后。彼女もまた、健仁に救われた1人だった。
「どういたしまして。頼りたかったらいつでも頼ってね。」
健仁はそう言って皇后と時子と笑い合う。
その後、4人でバルコニーの椅子に座って今回の一件について話した。
「俺が誠子を連れてアメリカに向かう。そして…これはもう父さんにも言ってないんだけど…中傷業者共を潰すつもりでいる。」
健仁がそう言うと天皇と皇后は両眼を見開いた。しかし時子内親王は「賛成!アイツら改元した途端掌返しでこっちを持ち上げ始めたんだもん。あんな奴らやっつけないと!」と健仁を支持した。
「ありがとう、時ちゃん」
「そして」と健仁は続ける。
「伯父さんにお願いしたいんだけどさ…気分盛り上げる為に『朝敵・逆賊追討の詔勅』を出して欲しいんだよね。署名と御璽付きでさ。無理なら別にいいんだけど」
「ああ、そんな事か。一向にかまわん。僕もいい加減腹が立って仕方なかったからね」
天皇はそう言って健仁のリクエストに応える事を承諾した。
「ありがとう、じゃあ俺は戻るよ。久しぶりに会えてよかった」
そう言って健仁は席を立つ。
「葛城宮邸に泊まっていくのかい?」
「いや、日本で買ったマンションに泊まるよ。あそこは皇居にも赤坂御用地にもアクセスが良いし」
健仁は都心のタワーマンションの最上階を購入しており、日本滞在中の拠点としていた。
彼は皇居を後にするとすぐにマンションへと向かった。
健仁を乗せた車は半蔵門から皇居の中に入って行った。本来、半蔵門を利用できるのは天皇家と皇嗣家、つまり内廷皇族やそれと同等の皇族のみでである。一般人(殆ど入れる機会は稀だが)や他の皇族は乾門から入らなければならない。
では何故、皇室の血を引くとはいえ一般人に過ぎない健仁が半蔵門から入れたのか。それは極めてシンプルな理由である。
「半蔵門の方が御所に近いからそこから入らせて欲しい。」と健仁が会う約束をする際にお願いしたのである。
御所に到着し、侍従職の職員に案内され応接間に入る。
しばらくするとやや小柄だが、ガッシリとした体格の男性が入ってきた。
この空間の主人である天皇である。
「久しぶりだね、健仁君。君には色々と世話になった。」
天皇は慈愛に満ちた声色で健仁に声を掛ける。健仁は皇后や時子に対し何度か別荘を貸した事がある。その経験は彼女らに安らぎを与え回復に少なからず寄与したのだ。
「いやいや、甥として当然のことをしたまでだよ伯父さん。」
健仁はフランクにそう返す。健仁は葛城宮家とは余り交流がなかったが天皇御一家とは彼らが東宮家だった頃から手助けをしていたのだ。
「所で、康子と時子には会ったか?」
「いやまだ。」
「ちょうどバルコニーでお茶を飲んでいるはずだ。少し顔を見せて行きなさい。」
「そうするよ。」
天皇と健仁は応接間を出て御所の私室部分のバルコニーへ向かった。
◇◇◇
御所・バルコニー
皇后と時子は紅茶を飲みながら会話をしていた。内容は皇后の姪で時子の従姉である誠子の事だ。
「誠子ちゃん…随分と大変みたいね…」
皇后は心配そうに呟く。彼女自身、誠子には励まされる事も多く、娘を見守り支えてくれる誠子を頼もしく思っているからだ。
「ホント…あんなに可愛くて、頑張り屋さんで家族思いで…なんであんな良い人が貶められなきゃいけないんだろう…」
時子は悔しそうにそう呟く。そして彼女も理解していた。誠子を傷つける人々の多くが『英弘の御一家を敬愛しています』だの『筬宮時子さまを皇太子に!』と主張している事を。更に大好きな祖母の死を願う様な事を平気で公言している事を。
大好きな従姉や祖母を侮辱し、病気に追い込む連中に持ち上げられて嬉しいはずがない。
正当な皇位継承者を押し除けてまで自分に分不相応な地位を押し付ける人間に寄り添いたいと思えるわけがない。
率直に言って時子は『時子さま信者』が大嫌いなのである。
彼女にとって信頼の置ける葛城宮家や上皇ご夫妻を誹謗中傷する者は彼女の首を真綿で締め上げる事に等しい物であった。
「私を皇太子にって言って誠子お姉ちゃんを虐めてる人達ってさぁ、まるで226事件を起こした青年将校みたい。宮内庁が動かないなら、私自ら皇宮警察を率いて鎮圧に向かいたいくらいだよ」
時子はそう言って憤る。その時、父の声がした。
「康子、時子。健仁君が来たぞ」
その声に皇后と時子は振り返る。特に時子は目を輝かせた。
「健仁お兄ちゃん!」
そう言って健仁に抱きつく時子。小さい頃から健仁の事が大好きな彼女は久々に会った従兄に力の限り抱きついた。
「時ちゃん久しぶり。ホント、綺麗になったよね。最近は大学出て公務の幅も広げてるみたいだし本当にすごいよ」
そう言って愛おしそうに頭を撫でる。健仁も時子を妹の様に大切に思っている。だからこそ皇室を離れた後も折に触れて彼女には手を差し伸べていたのだ。そう言った周囲の手厚いサポートを受けながら彼女は皇族として、人間として少しずつ歩みを進めその姿は多くの人々に敬愛されている。思わぬ副産物が生まれたがそれは葛城宮家のみならず時子本人をも苦しめている。
「あ、でもね…私の職場、パレスチナの人達の支援もしてるから…健仁お兄ちゃんのお仕事、ちょっと複雑かも」
時子は少し気まずそうにそう言った。彼女は現在、人道支援団体で勤務しておりその中にはパレスチナ人への支援も含まれている。その為、健仁の事は大好きだが彼の仕事には少し複雑な気持ちを抱いているのだ。
「それはそうだよね。なるべく減らす様に努力しているとはいえ、テロリストが住宅や学校、病院を拠点に攻撃をしている以上民間人の犠牲は出るから」
健仁は真剣な表情で答える。イスラエルは現在、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配する武装勢力と戦争状態にある。ハデレフ・ルシャロム製のAI搭載ドローンやPMC部門の兵士もガザに投入されており大勢の民間人被害や人道危機を引き起こしているのだ。
「あ、でもね…健仁お兄ちゃんの事は好きだよ!それは間違いない!」
健仁にそう告げる時子。その可愛らしい姿に健仁は優しげな笑みを浮かべて頭を撫でる。
「健仁君、久しぶりね。元気にしてた?」
タイミングを見計らって皇后も声を掛ける。
「元気だよ。伯母さんも少し顔色が良くなったね。」
「おかげさまでね。体調次第なところもあるけど少しずつ出来ることも増えて来たわ。本当にありがとう」
健仁に頭を下げる皇后。彼女もまた、健仁に救われた1人だった。
「どういたしまして。頼りたかったらいつでも頼ってね。」
健仁はそう言って皇后と時子と笑い合う。
その後、4人でバルコニーの椅子に座って今回の一件について話した。
「俺が誠子を連れてアメリカに向かう。そして…これはもう父さんにも言ってないんだけど…中傷業者共を潰すつもりでいる。」
健仁がそう言うと天皇と皇后は両眼を見開いた。しかし時子内親王は「賛成!アイツら改元した途端掌返しでこっちを持ち上げ始めたんだもん。あんな奴らやっつけないと!」と健仁を支持した。
「ありがとう、時ちゃん」
「そして」と健仁は続ける。
「伯父さんにお願いしたいんだけどさ…気分盛り上げる為に『朝敵・逆賊追討の詔勅』を出して欲しいんだよね。署名と御璽付きでさ。無理なら別にいいんだけど」
「ああ、そんな事か。一向にかまわん。僕もいい加減腹が立って仕方なかったからね」
天皇はそう言って健仁のリクエストに応える事を承諾した。
「ありがとう、じゃあ俺は戻るよ。久しぶりに会えてよかった」
そう言って健仁は席を立つ。
「葛城宮邸に泊まっていくのかい?」
「いや、日本で買ったマンションに泊まるよ。あそこは皇居にも赤坂御用地にもアクセスが良いし」
健仁は都心のタワーマンションの最上階を購入しており、日本滞在中の拠点としていた。
彼は皇居を後にするとすぐにマンションへと向かった。
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
いじめられっ子だった俺はダンジョンの現れた世界で最強能力【トランスフォーム】を駆使して無双する
TB
ファンタジー
その日世界にダンジョンが現れた。
いじめられっ子な俺は、その日ダンジョンの最奥へと落とされた。
それは、偶然なのか? それとも運命なのか?
いきなり豹変してしまった世界を救う事は出来るのか?
そして世界は俺を受け入れるのか?