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第一章
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ヤトル、クガヤがここに泊まろうと言いながらサタヴァを連れてきた建物は、先程の場所からあまり遠くない場所にあった。
木造の古い平屋だが、見たところ少なくとも6~7部屋はありそうに見える。
看板があるため、もしかしたら宿屋などを営んでいたのかもしれないが、読むことができる状態ではないのでわからない。
「…本当に泊まるのか?休める感じか?ここ、怪しくないか?人がいるにしては草が生えすぎてる」
サタヴァは見つけたのが今回自分ではなく二人だったことには礼を言っていたが、それでもなにか不満を持っているらしいというのが見てとれた。
「でも見たところ、このあたりに建物があるのはここくらいだろ。」
「そうそう!結構山のあたりなのに建物があることを有難く思わなくちゃ。誰かがいるようなら話して泊まることを頼んでみましょうよ。
まあサタヴァさんはとにかく休んでください。」
連れてきた二人が口々に言うので、サタヴァは「そうか…お前らがそういうなら…」と口ごもりながらここにとどまることを承諾した。
「うーん、やっぱり誰もいないのかなあ。俺ら話してても誰も出てこないよ。」クガヤが建物の内部を見渡しながらいう。
「人がいても、たまたま用でいないのかもしれないですよ。」
ヤトルが部屋の中に入ると、クガヤは「じゃ、俺はその辺を誰かいないか見てくる」と立ち上がって出ていった。
ヤトルに続いてサタヴァも部屋に入りながら言った。「日が落ちたら、こんな状態じゃ、夜は寒いかもわからんな。」
ヤトルは不思議そうに言った。「そんなに寒々しい感じしますかね?自分よくわからないですけど。
寒気がするんなら、ふらついたのは鍋が当たったからではなく、疲れが出てたのかもしれませんよ。やっぱり、座って休んでた方がいいですよ。
僕は水がくめる井戸が近くにないか、探してみます。」
サタヴァは少々戸惑った顔をしていたが、ヤトルにすすめられ床に座った。
あまり動かない方がいいかもしれないですよ、できることは僕らやりますから気にしないでくださいねと言いながらヤトルは井戸を探しに行った。
サタヴァはだが、ここに来たときからなにかの気配を感じて仕方なかった。
「妙な感じがする。」
気配はどうも複数いるようだ。
さらにその気配よりもおかしく感じていることがある。
自分より遥かにきれい好きと思われる二人が、こんなうらぶれた場所をひどく有難がって喜んでいる。変だと話しても二人ともまるで気にしない。
そのことがひどく奇妙で、あり得ないことのように思えるのだった。
サタヴァはふと、気配の一つに動きがあったのを感じた。
剣を静かに鞘から引き抜くと、音を立てぬようひそかな足取りで、気配の元を探しに出た。
一方クガヤは、建物の裏手に来ていた。今のところ誰にも会わなかったのでそろそろ戻ろう、そう思ったとき、近くでガサッと何かが動く音がした。
「誰かいますか?おーい!」
呼んでその場でしばらく立っていると、裏手の物影から女の子が怯えた顔でこわごわこちらを覗いた。
年の頃は15~6くらいだろうか。ちょっと見ないほど整った顔立ちで、ほっそりとした体つきだった。
目は薄い緑だ。黒白メッシュのようになっている髪が肩の上まである。
「えっ、君、ここの人なの?」クガヤは言った。女の子は怯えた顔のまま、かたまってしまった。
クガヤは、女の子一人が山奥で男に出くわす危なさに遅ればせながら気がついた。複数の男の声がしていたから隠れたのか。
今自分の仲間をここに呼びよせてしまったら、この娘はさらに警戒するだろう。
「俺ら、別にあやしいもんじゃないから!」
クガヤは焦りながら、今にも逃げそうな相手に、懸命に害意がないことを話した。
自分達は薬草を探しに来ており、ここに泊めてもらうことが可能かどうかを知りたくて話しかけてるだけだと言った。
「君に何かしようってわけじゃ絶対ないから!俺らが男ばっかりだからここに泊まるの無理だって言うんなら、その時は諦めるし!」
話しながら女の子の様子をうかがっていたが、体つきがほっそりしているというより、やせ細っているように見えてきて気になった。
膝上の短いズボンをはいていて、きれいな足が出ているのだが、健康的と言えない細さの一歩手前だった。
よく見ようと一歩近寄ると、女の子は身をかわし逃げようとした。
「待って、食べ物!干し肉とかあるから!」クガヤは肉を荷物から取り出してみせた。
女の子は勢いよくザッと振り向いた。恐る恐る近づき、クガヤが差し出した干し肉を素早くとり、離れた場所でこちらをチラチラ見ながらガツガツ食べ始めた。
食べた手の間や指先まで舐めていたので、よっぽどお腹が空いているようだった。
クガヤは女の子が食べ終わるまで待っていた。
「まだあるよ、良かったら食べる?」
女の子は先程と同じようにして何度か干し肉を取って食べた。
だんだんクガヤの近くまで来るようになっていた。
「俺、クガヤって言うんだ。君はここに住んでるの?」
「シャプナ」女の子は言った。どうやら名前らしかった。「お肉、ありがとう。ずっと食べてなかった。美味しかった。」
シャプナは続けて言った。
「シャプナここ住んでない。シャプナ住んでたのずっと遠く。」
木造の古い平屋だが、見たところ少なくとも6~7部屋はありそうに見える。
看板があるため、もしかしたら宿屋などを営んでいたのかもしれないが、読むことができる状態ではないのでわからない。
「…本当に泊まるのか?休める感じか?ここ、怪しくないか?人がいるにしては草が生えすぎてる」
サタヴァは見つけたのが今回自分ではなく二人だったことには礼を言っていたが、それでもなにか不満を持っているらしいというのが見てとれた。
「でも見たところ、このあたりに建物があるのはここくらいだろ。」
「そうそう!結構山のあたりなのに建物があることを有難く思わなくちゃ。誰かがいるようなら話して泊まることを頼んでみましょうよ。
まあサタヴァさんはとにかく休んでください。」
連れてきた二人が口々に言うので、サタヴァは「そうか…お前らがそういうなら…」と口ごもりながらここにとどまることを承諾した。
「うーん、やっぱり誰もいないのかなあ。俺ら話してても誰も出てこないよ。」クガヤが建物の内部を見渡しながらいう。
「人がいても、たまたま用でいないのかもしれないですよ。」
ヤトルが部屋の中に入ると、クガヤは「じゃ、俺はその辺を誰かいないか見てくる」と立ち上がって出ていった。
ヤトルに続いてサタヴァも部屋に入りながら言った。「日が落ちたら、こんな状態じゃ、夜は寒いかもわからんな。」
ヤトルは不思議そうに言った。「そんなに寒々しい感じしますかね?自分よくわからないですけど。
寒気がするんなら、ふらついたのは鍋が当たったからではなく、疲れが出てたのかもしれませんよ。やっぱり、座って休んでた方がいいですよ。
僕は水がくめる井戸が近くにないか、探してみます。」
サタヴァは少々戸惑った顔をしていたが、ヤトルにすすめられ床に座った。
あまり動かない方がいいかもしれないですよ、できることは僕らやりますから気にしないでくださいねと言いながらヤトルは井戸を探しに行った。
サタヴァはだが、ここに来たときからなにかの気配を感じて仕方なかった。
「妙な感じがする。」
気配はどうも複数いるようだ。
さらにその気配よりもおかしく感じていることがある。
自分より遥かにきれい好きと思われる二人が、こんなうらぶれた場所をひどく有難がって喜んでいる。変だと話しても二人ともまるで気にしない。
そのことがひどく奇妙で、あり得ないことのように思えるのだった。
サタヴァはふと、気配の一つに動きがあったのを感じた。
剣を静かに鞘から引き抜くと、音を立てぬようひそかな足取りで、気配の元を探しに出た。
一方クガヤは、建物の裏手に来ていた。今のところ誰にも会わなかったのでそろそろ戻ろう、そう思ったとき、近くでガサッと何かが動く音がした。
「誰かいますか?おーい!」
呼んでその場でしばらく立っていると、裏手の物影から女の子が怯えた顔でこわごわこちらを覗いた。
年の頃は15~6くらいだろうか。ちょっと見ないほど整った顔立ちで、ほっそりとした体つきだった。
目は薄い緑だ。黒白メッシュのようになっている髪が肩の上まである。
「えっ、君、ここの人なの?」クガヤは言った。女の子は怯えた顔のまま、かたまってしまった。
クガヤは、女の子一人が山奥で男に出くわす危なさに遅ればせながら気がついた。複数の男の声がしていたから隠れたのか。
今自分の仲間をここに呼びよせてしまったら、この娘はさらに警戒するだろう。
「俺ら、別にあやしいもんじゃないから!」
クガヤは焦りながら、今にも逃げそうな相手に、懸命に害意がないことを話した。
自分達は薬草を探しに来ており、ここに泊めてもらうことが可能かどうかを知りたくて話しかけてるだけだと言った。
「君に何かしようってわけじゃ絶対ないから!俺らが男ばっかりだからここに泊まるの無理だって言うんなら、その時は諦めるし!」
話しながら女の子の様子をうかがっていたが、体つきがほっそりしているというより、やせ細っているように見えてきて気になった。
膝上の短いズボンをはいていて、きれいな足が出ているのだが、健康的と言えない細さの一歩手前だった。
よく見ようと一歩近寄ると、女の子は身をかわし逃げようとした。
「待って、食べ物!干し肉とかあるから!」クガヤは肉を荷物から取り出してみせた。
女の子は勢いよくザッと振り向いた。恐る恐る近づき、クガヤが差し出した干し肉を素早くとり、離れた場所でこちらをチラチラ見ながらガツガツ食べ始めた。
食べた手の間や指先まで舐めていたので、よっぽどお腹が空いているようだった。
クガヤは女の子が食べ終わるまで待っていた。
「まだあるよ、良かったら食べる?」
女の子は先程と同じようにして何度か干し肉を取って食べた。
だんだんクガヤの近くまで来るようになっていた。
「俺、クガヤって言うんだ。君はここに住んでるの?」
「シャプナ」女の子は言った。どうやら名前らしかった。「お肉、ありがとう。ずっと食べてなかった。美味しかった。」
シャプナは続けて言った。
「シャプナここ住んでない。シャプナ住んでたのずっと遠く。」
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