不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第二章

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沼地、湿地には恐るべき亡霊が出現するというのが帝国の古くからの言い伝えである。

最近の話では、亡霊で武装している者共が、多数出没するようになってきたということである。

ただ、攻撃を受けてもこちらが傷を負うことはないという話だった。

…だが、これはかなりきつい。精神的に参る。

サタヴァは周囲を見ながらそう感じた。

亡霊が集団でよろよろと歩いていた。

かれらは数限りなく無限に湧いてあらわれるかのごとく、大勢あらわれたのだった。

みな傷だらけ、火傷などを負ったり、目もあてられない有り様である。

老若男女やらはともかく、赤子までおり、目にしたくない光景だった。

サタヴァは後ろの二人を振り返った。

いくら精神的にも強化される虹色の光彩の中にいるとしても、

これらを目にしたら、酷くショックを受けるのではないか、と心配したのだ。

だが、後ろの二人はのんびりと歩いている。
光彩のおかげで、見えていないようだった。
サタヴァはホッとした。

(それにしても、この亡霊達はなんだろう。
みな普通に暮らしていた人々が、まるで一度に亡くなったみたいだ……)
そう思い人々を眺めた時、ナギのことが頭に思い浮かんだ。

そういえば衣服などの様子は、なんとなく似通っている。また、彼らの中には、手に四角い板を持っている者がちらほらいるが、ナギが通信用の機器だと話していたものに、それらはよく似ていた。

そのあたりのことで、ナギを思い出したのかもしれなかった。

(…そう言えば、彼はどうしたのだろうか)サタヴァはふと思った。

(泉で別れを交わした折に、乗り物とやらに乗るかもしれないとか言っていたな。また、乗る時は狼煙をあげる、とも話していた…)

ちょうどその時、渦の方を見やると、一筋の白い煙が立ち上っているのが目に入った。

それはまるで狼煙のように見えたが、霧に混ざっており、たった今、狼煙のことを考えていたから、そう見えているだけかもわからなかった。

思えば不思議な邂逅だった。その後彼がどうなったか、聞ける折があれば聞きたいことだ、と、サタヴァはとりとめもなく思いを馳せるのであった。


幾度かの細かい意識の途切れを繰り返した後、ナギは意識を取り戻した。

見回すと機上におり、飛行中であった。

一体どうしたというんだ。飛行時に意識を失ってしまうなぞ…。

機体を少し傾け、周囲の様子を見ようと旋回する。

太陽の光が海面に反射して見えている。その放射線状の光がナギの目に眩しくうつる。

海…?どこの海だ?

短く意識不明になっていたことにも加え、自分のいる場所もよくわかっていないとは…!

しかし海が続いている先に、赤い大きな鳥居が海面から突き出ているのが目に入った。

ここは三矢島か…

ぼんやりとした意識の中、何やら、尾が別れている白い獣のようなものが、二体ほど海面を走っているように、目の端にうつって見えた。

その途端、これまでのことがナギの脳裏に蘇った。

日時を確認する。三日ほど前に戻っている。

「フ…フフフ、ハハハ!やったぞ!」一人で大きな笑い声をたててしまった。

(過去へ戻れた…!泉の仙女、心より感謝する…!
それにしても、水辺が異界への入口という…確かにふさわしいな! )三矢島の鳥居と海面を下に飛行しながら思う。

ナギは直ちに通信回線を開き、自分の上官に連絡をとろうとした。

連絡はつながり話ができるようだった。ナギはひとまずホッとした。

過去に戻る場合、自分とこの機体は、過去に存在するもう一組の自分たちと、半分ずつ物質を分け合っているとの話だったので、連絡自体、繋がる状況であるか不安だったのだ。

通信で連絡ができなければ、基地へ直接飛行し、直談判しないといけなかったのだが、

その場合でも、向こうがこちらを認識できるかどうか、不安だったためだ。

固有番号を確認されて、通信は上官に繋いでもらえた。

ナギは手短に、未来から戻っている、〇〇日〇〇時多数飛来して来る兵器のため、

本土は広範囲に被弾、防衛システムもレーダーもダウンし、防げないため、早急に対応が必要と思われます、と話をした。

「突然なんだ」上官は言う。「ふざけている場合か」

「全くふざけてはおりません。」

ナギは続けて、過去に戻ったとき、物質を半分ずつ分け合っていると話し、現在待機しているナギ本人と、機体を確認して頂ければわかります、おそらく普通の状態ではないです。

ただ、こちらに戻る時、こちらではブースターを使ってしまっているので、そちらで確認される機体のブースターのみが通常の状態のはずです、と話した。

それらは急いで確認された。「全く妙なことだ。こんな状態は見たことがない。」

どうやら待機していたナギ本人と機体の方は、ものを触れることもあるし、通り抜けることもあるという、奇妙な状態となっていたが、例のブースターの部分のみは、通常の状態であった。

それらを確認した現場は、かなり混乱したようだった。

「自分を信じて頂けないでしょうか。早急に手を打つ必要があります。」まだ心を決めかねているらしい上官を見て、ナギは、ある情報を加えて話した。

「まもなく、潜水艦が、ある基地から発進する予定です。
自分はそのため、当時、哨戒でその周辺の空域におりました。
今現在、まだその命令はおりていないはずです。」そして基地の名前と哨戒予定の空域を告げた。

潜水艦は行く先は秘されている。
そして直前でないと、行く先は知らされないのだ。
そして、これをもってナギは身分を証明したようだった。

「防衛システムやレーダーについては、実はかなり前から某国が侵入している疑いがあり、近いうちに一気に入れ替える予定だったが、入れ替える情報が漏れたのかもしれない。

新システムは外部からの侵入や制御は受け付けないから、今がチャンスだと敵は思ったのかもしれない。

ただ、すぐ対応させる用意はされている。即時手配するように頼もう。」

「しかし急速に大量の兵器が接近し、広範囲を狙ってきます。

全部を狙って撃ち落とすのは、厳しいかもわからないです。」

「…その場合、あれを使うか…こんなこともあろうかと、と言いながら用意されているものがあるのだ。」

それは各地域に用意された防災備品ということだった。

「防災備品…ですか?」ナギは首をかしげた。

「そう。うちの国は各地域に、対空兵器くらい用意したい状況なんだが、いろんなくくりがあって、大っぴらに用意できなかった。
そのため防災備品という名目で用意されているものがあるんだ。」

それらは火薬系の物資で、土砂崩れがおきたときなどに、発破をかける材料として用意されているということであった。

「…でも、それで、撃ち落とすことはできないのでは?」

「通常の使い方をするならな。あるやり方で組み立てると、実は防衛装置の一環にもなるんだ。まあ広義の防災備品だな。」

説明によると、組み立てる材料とともに、全国津々浦々に密かに備えられているらしかった。

「急速に大量の兵器が来たら、狙って撃ち落とすだけだと限界があるからな。網をはるんだ。弾幕だな。」

フレアで上空で誘爆させ、地上まで爆撃が届かないようにするようだ。

「なんでも、電磁パルス攻撃を先に受けてしまうことも想定し、手動で発射させることも可能らしいぞ。
…大丈夫、思ったより上空へ行くんだ。
お前の機体にも利用されている、新技術の恩恵が、付け加わったからな。

あと、まだ、他にもあるからな。」最後の声は小声であった。

ナギは明るくなった表情で、自分も作戦に参加します、撹乱させることくらい、できるかもわかりません。

現状、自動ステルス状態にありますから。といって、笑いをとった。

ナギは調子にのって、
自分は現在亡霊みたいなもんです。でも可能なら英霊と呼ばれたら嬉しいです、などと言った。

「ばかもん、そんなものにはさせるか!
時間が来たらここにいる元の体と合体するんだろう?
その時は亡霊で無くなるだろう?
そしたら生きて帰ればいいだけだ!
今現在、先手がうてる状態になっているんだ。
絶対、全員、生きて帰らせるからな!」



…あの怪しげな亡霊の集団はいつの間にやら、あらわれなくなった、

サタヴァは思う。

そして、それはなぜか、ナギの働きによるものだ、

ナギは仲間達とともに、自分の国を救ったのだ、と、

誰かから告げられたように、そういった考えが浮かぶのであった。
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