不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第二章

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「おりゃああ!」「わああ!」

霧の多い夜である。いきなり三人ほどの兵士と思われる人物らがサタヴァへと襲いかかってきている。

仲間の二人はルクの部屋と呼ぶ異空間でもう就寝していたが、サタヴァだけがふと外に出た途端、この三人が攻撃してきたのだ。

こんな場所に夜に単身でいるのは、どう考えても人間ではない!亡霊だろうがなんだろうが、斬って捨ててしまえ!と、一人は後ろから叫んでいる。この一人は上官だろうか。

皆どことなく帝国兵士に身なりが似ているので、砦の周辺を見回りに出ていた斥候なのかもしれない。

話す間もなくいきなり攻撃されてきている。サタヴァは人を殺傷したくないのだが…

こちらのせいではないのに戦いを避けるわけにはいかなくなっていた。降り掛かった火の粉は払わないといけない…今のサタヴァの武装は、最初から持っていた剣一本だけである。

上官に命令された目の前の二人は、同時にサタヴァへと斬りかかってきた。

サタヴァは二人の刃が振り下ろされる前に左側へと抜けた。

 半身ほど前進しながら、右手の剣で左側の兵士の剣を受ける。

右側の兵士は、サタヴァが位置を変えたので左側の兵士が邪魔となり、こちら側へすぐ攻撃ができなくなった。

後ろにいた上官はその状態を見ると、前に出て空いた左側からサタヴァへ斬りかかった。

サタヴァは剣を左側の兵士の剣と合わせたまま、剣先を下に向け刀身をずらし、手元近くで左側の兵士の剣を受けたまま、剣の先で上官の剣を受けた。

つまり、一本の剣で二つの剣を同時に受けたのだ。

この時、右手を上にあげる形となり右脇を相手に見せているため、右の兵士がサタヴァの右脇の方へ回り込んでそこを狙われたら危ないことになる。

だがサタヴァは脇を締めるように剣を持ち替えた。自分の剣は二つの剣と合わせた位置から変えないままである。

そして自分の体を、二本の剣の切っ先の向かう側から、左側へと素早く移動させる。

同時に自分の剣をその二本に絡め、下側へむけてひねった。

 歩も踏み変える。ひねりに勢いをつけるためだ。うまくいけば二人の体勢を崩すことも可能である。

兵士二人の剣の刀身はサタヴァの動きにつれ絡めひねられてゆくようなので、効果はあったようだ。

二人は逆らうよう剣をぐっと持ち直した。捻られゆく方向の反対側へ押し返して来る。

サタヴァの体勢を逆に崩そうとしているのだ。だが…

 崩れたのは、二人の体勢であった。

サタヴァは二人の押し返しを悟ると、力が向かって来ている側から斜め方向、かつ地面へ向かうよう誘導したのだ。

兵士二人は重なって倒れてしまった。

二人は剣をしっかりと握り込んでしまったので、微妙な力加減が難しくなってしまっていたのだ。

また、勢いよく押している時には、少しずれた方向に誘導されると立て直しは難しくなるのだ。

残った右側の兵士が回り込んでサタヴァへ向かって来た。サタヴァはその剣は普通に受けたが、相手の体がすぐ近くまで迫り来た。

…相手は鎧を着用しているが、簡素なもので隙間部分が外から見える程度のものだ。またこの距離だと自分は徒手の技が使える…サタヴァは瞬間的にそう考えた。

 拳で、剣を持ってない左手の拳を、相手の鎧の隙間に叩き込む。

 打っても鎧に当たる部分では大した効果はないが、隙間から相手の体にじかに触れた。

さらに相手はサタヴァの方へ押し込んできていたため、その力も利用することとなり、結構な威力の打撃となった。

 天を仰ぎながら、最後の兵士も倒れたのであった。

…倒れた連中は、また起き上がって来れるだろうか?斬りつけたりしてはいないのでその可能性はある。

サタヴァはまだ警戒し、地に倒れている兵士らを見たままでいる。
…それか、この隙にルクの部屋へ戻ろうか…

 下を向きながらサタヴァが考えているうちに、倒れていた三名の兵士らは、ぼうっと消えてしまった。

どうやら、こちらを亡霊かなにかだと決めつけて襲いかかって来ていたのに、彼らの方が亡霊だったようだ。自らの死に気づいていなかったのだろう。

倒された後、自分達が亡霊であることに気づけたのだろうか…

以前戦った鎧の亡霊と同じように、成仏できたのであろうか。

それらはサタヴァにはわかりようが無いことだった。

今日は就寝前に、仲間のヤトルの奥さんと二人の子供たちの話を聞いたところだった。

ヤトルはクガヤとサタヴァが独身のため、気を遣って、自分の家庭の話は話そうとしていなかった。

ただ、やいのやいの馬鹿話をしているうちに水をむけると、本当は話したい話題だったらしく、怒涛のごとく話し始めた。

しばらくしてヤトルは自分だけ長々と話をしてしまったことに気づき、焦りながら申し訳なさそうに謝ってきた。

サタヴァとクガヤは、そんな謝ることじゃない、聞いてて楽しかったと笑いながら返した。

ほっとした顔になったヤトルとクガヤが休んだ後、サタヴァはなんとなくルクの部屋の外に出て、ぼんやりと夜霧の平野を眺めていた。三人の兵士に襲撃されたのはその時であったのだ。

ヤトルの家族の話が、家族と縁遠いサタヴァに辛かったというわけではない。

また将来的に誰かと家庭を持つことが、自分のように人か魔かあやふやな状態では極めて難しい、そう改めて認識したというわけでもない。

誰かと家庭を持って幸せに暮らす、そのことは遠い遠い幻のようにしか思えないことであった。

手の届かぬ幻。

ここで出会う亡霊は、少なくともある程度は触れるので、亡霊の方が現実と言ってもいいかもしれなかった。
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