不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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最終章

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猫の明王ルクはそう言いながらスタッとサタヴァのふところから地に降り立った。砂地をテトテトと歩いていく。

「黙れ、関係ない奴が口を挟むな」大蛇はルクの方を向いて怒りをあらわにする。

「関係あるのだ」ルクはくるっと振り返り言う。「我は猫の姿ではあるが、明王である。
そしてこやつは我が眷属であるからして、その面倒をみてやる必要があるのだ。」

「ふん!明王だか何だか知らんが、お前の話など聞くつもりはないわ!」大蛇はがなるように言う。「わしの相手は、話すにしろ戦うにしろ、このエフィドなのじゃ」

だがいつの間にか、大蛇の眼の前からその彼は消え失せていた。「エフィド、ど、どこへ行った」

大蛇の頭の後ろ側、上空から羽ばたく音がする。
熱をもつ輝くものが、蛇の頭の横を通り過ぎてゆく。

エフィドという幼名で呼ばれているサタヴァは、炎をまとう鳥の姿へと変化をとげていたのだった。ルクと大蛇は地上から炎の鳥を見上げるように目で追った。

「…炎の鳥、そのような姿に変化できるのか」
大蛇は霧の合い間から出てきた太陽を背景に、空を駆け飛ぶ炎の鳥を眩しそうに見た。

炎の鳥は大蛇に向かって来た。大蛇は近くに来る鳥を追い体をくねらせながら進むが、捕まえることはできなかった。

空を飛ぶ生き物を捕まえることは難しい。
弱った時、巣で休む時、雛でまだ上手く飛べない時ならば捕まえることは容易だが、今のサタヴァはそのどの状態でもない。

サタヴァは飛びながら思った。…確かにこの姿だと、人の姿の時のように、逃げ方について困ることはないだろう。このまま隙をつき、ルクを掴んで飛んで逃げることも可能だ。
だがこれまで虎視眈々と自分のことを執念深く狙ってきた相手だ。
逃げてもずっと追って来る。それを止めるには…

大蛇はこれまでサタヴァに勝ったことしかない。ここで敗北させ、自分が敵わない相手だとわかれば、追うことを諦めるかもしれない。殺さない程度に弱らせ、相手に負けを悟らせたい。

ただそれは非常に難しい。
例えば、この姿で蛇へ炎を吐いてしまうと、殺してしまうかもしれない。
うまく弱らせることは可能かもしれないが、どの程度であれば良いのかわからないからだ。

では別の姿になるべきか?…サタヴァは続けて考える。

…他になれる姿といえば、最初に変化した、人と蜥蜴の混ざったような姿だが、一度負けて頭から飲まれてしまっている。また同じ目に合うのではないか。

飲まれて、吐き出されるまで蛇の体内でじっと待つのは、さすがに耐え難い。
我が身かわゆさに、最近取得した石化の術を大蛇の体内で使ってしまいそうだ。

そうすると大蛇を倒せ外に出られるだろうが、大蛇の内臓器官を石化させてしまうので、じわじわ苦しませながら死なせることとなる。
子蛇の時よりも残酷な殺し方である。

よし、人蜥蜴の姿への変化はやめよう、とサタヴァは決めた。

「こやつめ、ちょこまかちょこまかと飛びよって!」大蛇が喚いている。

だが、他に自分が変化可能な姿は、ないはずだが…?
サタヴァは思いを巡らせる。
いつの間にか蛇の姿にはなれるようになっていたようで、それは不思議だった。
そもそも、サタヴァが術にかかって大蛇を父親だと思っていたとき、お前は蛇となるのだ、と命じたのはこの大蛇であった。

蛇への変化などしたこともなかったのに、指示されただけでやったこととなる。

実は、サタヴァの姿が蛇に変化したとき、暗示をかけるだけのつもりだった大蛇はひどく驚いたのだが、サタヴァはそのことは知らない。

…なぜ、蛇へ変化ができるようになっていたのだろう?

サタヴァが他の生き物への姿の変化を成し遂げるためには、対象となる相手との深い精神の交流が必要なのだ。…いつ蛇と精神の交流を行ったのだろう?

思い当たることと言えば、人蜥蜴の姿で飲まれ吐き出されるまでの間、しばらく蛇の体内で暮らしたが、そのことが、知らぬうちに大蛇との深い精神の交流と同等のこととなっていたのかもしれない。

その理屈で言えば、深い精神の交流に近いことを知らず知らずのうちに行ったものがいれば、変化したことがなくとも自分はその姿をとれるはずだ。

…あの母鳥とは、そこまで深いつき合いじゃなかったよな。とサタヴァは考える。
ただ、母鳥の姿へ変化できたとしても、技は使わないと決めた石化息なので変化しても意味がない。まだこの炎の鳥の姿の方がいい。

だが、炎による攻撃は、最初考えたように、大蛇を殺さないとは言い難いため、他の方法にしたかった。

他に自分が変化できそうな姿は、無いだろうか…
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