わたしの教え子

椎畑庄三郎

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第五章 かなえの登場

    第五章 かなえの登場

 
 確かに彼女の言う通り。如何にしても彼女と愛し愛される関係にはなりえない。奇跡のような今が突然人生の一頁として訪れ、輝く一瞬ながら誰にも誇れない、いや明かすこともない男と女の人生の接点だ。

 このあと幾つかの体位を試み同じ歓喜と同じ絶頂感を共有し、少ない睡眠、いや恍惚の微睡(まどろ)みのうちに朝を迎えた。

朝食は本館の食堂に用意されている。定番の朝食を食べながら聞く。

「よくこの時間作ること出来ましたね。」

「そうね、実は友達一人に死んでもらったの。」

「えっ?」

「もちろんうそよ。
気もそぞろに夕御飯を食べていた頃がお通夜の時間かな。」

「御主人は信じているのですか?」

「ええ、だってこの時のためにあの人につくし、信頼されてきたのよ。」

 このあと見知らぬ人の葬儀会場に行き、心ばかりの香典で会葬の御返しを頂き、アリバイならぬ「未不倫証明」を手にしてから東京に帰るという。にこやかに話す彼女に敬服しつつ、ここまでしてわたしとの逢瀬を創った女の執念を感じ恐ろしくもあった。

 そしてその執念は娘のかなえにもしっかり受け継がれていることをわたしは知ることになるが、それはもう少し先のことだ。こうして一夜の不倫は感動を共有して終えた。

 東京での生活は何事もなかったかのように継続される。真弓とも何度かデートしたものの偽物を愛している罪悪感をわたしは覚えていた。それが真弓にも感じられたのだと思う。しばらくして真弓から別れを持ち出され拒否も出来ず二度と会うことがなくなった。

 雅恵との不倫は長野でのたった一度で終わり、二度目は有り得ない。わたしとの不倫を想像することも出来ないことにするために、彼女は貞淑で子供にも優しい完璧な妻でなければならない。わたしと二人だけで会うことはもちろん教師と保護者の関係以上になってはいけない、そう考えていた。

 わたしは長年抱えていた恋心は、その相手と身体を交えたことで叶った。もう望みが完遂し不満はないはずだ。この達成感が生きる力であり、ここで人生のページを捲(めく)らねばならない。新たな生き甲斐を模索し、あるいは新たな出逢いに期待してこれから生きるべきだと思う。

 しかし人生のしがらみは永久に続くのかもしれない。重ねて書くことになるが、驚くことに彼女、雅恵とはその後三度もセックスしている。泊まりこんでの性三昧ではないが、偶然が偶然を呼び、白昼のホテル、観光地の日帰り旅館、そしてわたしのアパートで身体を交えた。全て百パーセント妊娠しない日に彼女の中にいのちのもとを注入している。しかし最後に、わたしのアパートでの性交があり、これで二度と不倫という形の逢瀬はないことを誓い合うことになる。

 その日、わたしは学校からスーパーマーケットに寄り自宅に戻る時、そのスーパー出口で彼女、雅恵と出会う。彼女の自宅からは遠く離れた場所での思いがけない出逢いに二人共驚くがともに予感があったかもしれない。そして、わたしは真弓と別れある意味欲求不満が高まっていたからなのか、彼女に性欲を感じて、長野の一夜をフラッシュバックしていた。わたしの目がそれを彼女に語っていたのだろうか。彼女から意外な反応が、

「あら、先生。こんなところで会えるなんて奇跡ね。
ううん、会いたいと今思っていたところよ。
会ってはいけないのはわかっているわ。
でも今日だけはどうしても会いたい気持ちでいたの。
だから、顔をみて涙がでるほどうれしいわ。」

と、わたしに近寄り、腕を絡めて歩きだす。どういうことだと思いながらも、

「雅恵さん、わたしのアパートに行きましょうか?」

と、その道をもう歩きだしてる。

「今日、かなえは友達のところに泊まるらしいの。
主人は寄り合いできっと午前様だわ。」

こうしてわたしの部屋に彼女が初めて上がり込んでいる。キョロキョロと部屋を見回し、

「意外にもキレイね。
ここで彼女と愛しあっていたの?」

ときつい一言のあと、

「かおるさん、今日のわたしは例の安全日よ。
いのち入れてもらえる?
彼女に悪いかしら。」

と貞淑な妻から色気ムンムンな娼婦の目付きに変えて言う。

「彼女とは別れました。」

「あら、わたしのせいかしら?」

「いいえ、関係ありません。」

もちろん彼女におおいに関係あり。でもそうとは意地でも言えない。

「じゃあ、わたしとしたい?」

一にも二にもなく愛の行為をしたい。まだ夜の八時前。隣の部屋ではまだ夕食の最中かもしれない。しかし、

「奥さま。わたしは奥さまが大好きです。
望まれれば何でもします。」

「かおるさん、雅恵と呼んで欲しいな。
わたし、虫の知らせかしら。
かおるさん、わたしに会いたがっていると感じて
あの場所に導かれて行ったのよ。」

 こうして、偶然に出会えた二人。時間も場所もまるで関係ない。女と男がひとつになる宇宙の真理をこれから二人で体現するのだ。少し大袈裟かもしれないがそんな意気込みでわたしと彼女、雅恵はわたしのアパートで、隣の部屋を気にしながら静かに合体した。もちろん彼女の中にいのちをいっぱい注入している。そして、達成感を共に感じていたその時、わたしの部屋のチャイムがなった。

 よりを戻そうと真弓がたずねてきた。雅恵との心地好い情事のあと冷や水を浴びる事態を想像し、はらはらしながら玄関に向かう。まてよ、雅恵の夫が不倫に気付き乗り込んできたのかもしれない。

 しかし、ドアスコープから見えた訪問者はそのいずれでもない。想像もしていない女性だ。スコープ越しに覗いているのが見えるかのようにわたしを見詰めている女性。それは今、身体を交えたばかりの雅恵の娘、かなえの姿だった。

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