わたしの教え子

椎畑庄三郎

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第六章 不倫卒業

    第六章 不倫卒業




 確かに生徒たちはわたしの住所を知っている。年賀状が来ているから、学校の名簿を見れば容易くわかるはずだ。来ようと思えば難しいことではない。しかしなぜ彼女がわたしのもとにやって来たのだろう。雅恵のあとを追って来たのか?それはあり得ない。

取り敢えず、雅恵さんを奥の部屋に隠すようにドアを閉め、玄関を開けた。

「どうしたの、三田さん。」

「先生、相談したいので来ました。
上がっていいですか?」

奥に母親がいるわたしの部屋に入りたいと言う。断ることは不自然だ。

「ああ、いいよ。」

 母親の雅恵が来ている痕跡は消してある。どんな相談か取り敢えず話を聞くためソファーに腰をおろしてもらい、コーヒー入れる。奥の部屋にはかなえの母親がいて、わたしとかなえの様子を窺っているのをわきまえながら

「三田さん、相談ってなんだろう?
学校ではできないのか?」

「ええ、できません。
先生ってわたしの小学生ころを知っているんですよね。
だから、聞いて欲しいんです。」

まさか、ここでわたしに告白するのか?

「実は好きな人ができたんです。」

やっばり。

「ほう、誰を好きになった?」

「体育の先生、大塚先生です」

えっ、わたしは我が耳を疑った。大塚先生は体育の先生とは言えチビで風采のあがらない、三十前後の妻帯者のはずだ。

「どうして、彼に好意を持ったのかな?」

「体育の授業中に先生がわたしの胸に、きっとわざとではないと思いますが触れたんです。」

「おや、そりゃ問題だ。」

「いいえ、その時ドキッとして、大塚先生のことが気になり、好きになっていきました。」

「ええっ、いつのことかな?」

「まだ一月も経ってません。」

「大塚先生には君の気持ち伝えたの?」

「いいえ、まだです。」

「もうすぐ中学も卒業して、そう、来月はもう高校生だね。
でも、彼は君の倍の年齢だし、奥さまもいる。
確かもうすぐ子供が産まれるって聞いているよ。
三田さん、悪いけど、いくら好きでもどうにもならないよ。」

 萎れた花のように下を向き、微かに肩を震わせている。可哀想だが現実は現実として受け止めて欲しい。

しかし、どうしても彼女があのしがない大塚先生に惹かれたのか理解できない。思春期の真ん中にいる女の娘の微妙な心の揺れなのだろうか。そもそも担任とは言え、なぜわたしに相談を持ちかけて来たのだろう。

「三田さん、もちろんお母さんには話していないよね。」

「はい、先生が初めてです。」

「どうだろう、先生に話して気持ちが変わったりはしないかな?」

「少し気持ちが軽くなりました。
でも先生が好きなんです。」

わたしの目を見て、大塚先生ではなく、たんに先生と言ってきた。気には留めず

「三田さん、冷静にもう少し考えてみようね。
それよりこんな時間に一人で出歩いちゃ危険だよ。」

「ううん、下で友達三人待ってるの。
その内の一人の家に泊まることになってるから心配しないでください。」

なるほど母親の言う通りで、そちらは心配無さそうだ。

「そうか。くれぐれも気をつけなさいよ。
お父さんやお母さんに心配かけないようにね。」

「はい、先生に胸の内を話したら、すごく楽になりました。
ありがとうございます。」

丁寧にお辞儀すると

「先生、お邪魔しました。帰ります。」

と、無邪気な学校で見る顔になり、玄関で手を振って帰って行った。

 急いで奥の部屋に行くとかなえの母親がわたしの「おんな」でなく、かなえの母親の顔をしてわたしを見る。

「驚いたわ。こんな偶然があるなんて信じられない。
かおるさん、大塚先生ってわたしよく知らないわ。
かなえ一度もその先生の話しをしたことないもの。
ねえ、どんな先生なの?」

 母親面談の雰囲気だ。ついさっきまでわたしと共に息をあらげて抱き合っていたとは思えない。女より母親の意識が勝っているのだろうか。ちょっぴり不満な気持ちを押さえて

「いい先生ではあってもかなえちゃんが好きになる人とは思えません。
もし、本当に好きなら目も心も閉じているとしか思えない。
どう見ても女の娘が夢中になるタイプのキャラクターではありません。
きっと何かの間違いです。」

大塚先生には悪いと思いつつもわたしの正直な感想を述べた。真剣な眼差しの彼女が

「どうしてかなえったらそんな人を好きになったのかしら。」

「雅恵さん、いいえ奥さま。
先ほども言いましたが、きっと何かの間違いに違いありません。
もう少し様子をみましょう。」

「かおるさんは親じゃないからそんなこと言えるのよ。」

「いいえ、かなえちゃんはわたしの教え子、大事な娘と変わり有りません。
そして少なくとも学校ではわたしが父親のように見守っています。」

「そうね。かおるさん、頼みましたよ。」

しばらく沈黙の時間をおいて彼女が言い出した。

「かおるさん、今までありがとう。
今日を最後にしましょう。
もう少しでかなえと鉢合わせするとこだったわ。
やっばり、わたしたちの関係はいけないことなのよ。
わたし充分に満足したわ。
こんな時を持てるなんて考えもしなかったもの。
これからは主人と睦みあって生きていくつもりよ。
そしてかなえたちの母親として暮らしていく。
かおるさん、本当にありがとう。」

「奥さま。僕こそ感謝しています。
長野の一夜で、もうわたしの夢は叶っていました。
だからそのあとのことは幸福なオマケか付録です。
もう恋はできないかもしれないけど、雅恵さんのこと一生わすれません。」

「かおるさん、わたしも絶対に忘れないわ、一生。」

真剣な眼差しで最後のキスをせがむように近寄り目を閉じた。優しく最後のキスをし、

「見送らないで」

と言ってわたしの前から消えた。しかしこのあと忘れたくても忘れられない存在になる。なぜなら義理の息子になり、もしかしたら死に水をとるかもしれない、がそれも先のことだ。


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