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第七章 かなえとわたしパートⅡ
第七章 かなえとわたしパートⅡ
学年が改まった。わたしの務める学校は中高一貫校ながら中学と高校で、校舎は同じでも微妙に区別された感じになる。高校からの生徒が中学から一貫生の倍の数が新規に入ってくる。クラスも六クラスにふえる。そしてわたしや大塚先生のように中学のみの教師と高校の資格も取得している教師で区別され、高校生になったかなえは少し遠い存在になる。しかし実は相変わらずごく近い関係で推移すことになる。かなえがそれを仕掛けてきた。
ゴールデンウィークが過ぎたある夜、突然かなえがわたしのアパートに訪ねてきた。僅か二ヶ月の間に雰囲気がだいぶ変わっている。大人びて、色気さえ感じるが、あの母親から産まれた娘だ。少なくとも女性として見ることはできない。前回同様ソファーに腰をおろさせ、コーヒーを入れる。そのコーヒーに口をつけるものの、何も話さない。当然大塚先生の件で訪ねてきたのだろうと
「大塚先生のこと、まだ思っているの?」
と聞くと首を横に振る。
「もう、諦めたのかな?」
うん、とばかりに大きく今度は首を縦に振る。ホッとひと安心し、彼女の母親、雅恵に教えてあげたいが、今はそんな関係ではない。このことを理由に会えない訳ではないが、危険な予感がする。と頭の中で思考している間もかなえは黙ってままだ。
「それじゃ、三田さん、今日はどんな御用かな?」
「何でもないです。
コーヒーごちそうさまでした。帰ります。」
「えっ、どうしたの?」
「先生の顔見たかっただけなんです。
中学の時、担任だったから毎日のように会えていたでしょう。
高校になるとほとんど会えないもの、つまんない。」
「待って。君は大塚先生が好きって言ってたでしょう。」
「あれは嘘。わたしは先生が、やっばり、好きなんだ。」
「えっ、そんな様子なかったけど。
逆に無関心に見えてさみしかったくらいだよ。」
「先生、遅くなると母が心配するので帰ります。」
すくっと立ち上がり、玄関で前回のように手を振り本当に帰って行った。
残ったわたしは困惑の極み状態。あれこれ考えを巡らせるも、かなえがわたしに寄せる思いは本当かもしれないと考え、ぞっとしている。
彼女の母親とわたしは不倫の仲だった。肉体関係もつい何ヵ月か前にあった。二度と会わない誓いをしたものの身体は感触を覚えていて懐かしむとともについ二三日前には彼女を相手に夢精さえしている始末だ。たぶんこんな状態がしばらくは続くと思われたこんな時にかなえが目の前に突如として現れ、思いもしない告白でわたしの心を乱している。
わたしは初めて家庭教師として彼女に会った時のことを思い出していた。恥ずかしそうに母親の後ろからわたしを見上げていた小学三年生の彼女。小さくて可愛らしい女の子だった。髪にリボンを着け、母親には似てない顔立ちだった印象が強くあった。
そう、当時人気のモデルに似たバタ臭いとも言える彫りが深めな、それでいて憎めない可愛らしさがあった。母親は純和風なので父親に顔立ちは似てるのかと、勝手に想像していたが後で会った父親は田舎っぽい人の良さそうな、これまた和風の顔立ちでトンビが鷹を、そんな不躾なことを考えていた。しかしまだ子供であり、わたしは母親に心惹かれていたことでかなえは単に教え子の域に留めていた。
中学で偶然出会ったが、わたしには真弓という恋人がいて、少なくとも女性の一人、異性とは全く考えられない。四年前に会っていたことがあるねと話しかけたが、知らないとまで言われている。意識するあまりの嘘とわかってはいても強いてそれを否定せず受け流した。まあ担任でもないので、ちょっとしたいざこざはあったものの無事一年が過ぎる。担任になったあとも、かなえの母親とは不倫へ向かっていくが、かなえ本人とは何もなかった。
高校生になったかなえが牙をむくようにわたしへの好意を告げて去って行った今、心は荒海の如く乱れ出した。それは静かだったかなえへの恋情が一瞬にして目覚めた瞬間なのかもしれない。無意識の意識が恋の種子を心の奥に埋めていたのだろうか。今、「好きです」という言葉の水を得て発芽し恋の花へと成長していくのかもしれない。
胸騒ぎに似た心の動揺を強く否定する自分もいる。かなえの母親と関係を持った段階で、家庭教師をした半年間に生じた心の襞(ひだ)は全て解消したはずだ。ましてその娘と今後何かがあるとは思えない。いや、あってはいけないことだ。そう言う自分と、好きだったと言われて嬉しく心躍らせ若く溌剌としたかなえを好ましく感じている自分がいる。まさに乱れに乱れる心を抱えて、さほど眠れぬまま朝を迎えた。
さすがにまだ高校一年生の彼女を性の対象とは考えられない。もう法律的には婚姻可能な年齢であり、世の中には結婚し子供まで出来てる女子もいることだろうが、かなえにはその雰囲気は微塵もない。彼女に性的興奮を覚えるとしたら、それはロリコン等のアブノーマルな性癖の持ち主ということになる。それほどわたしの前にいたかなえは幼く可愛らしい女子高生そのものだった。
わたしの心に波風をたて、そのまま二週間が過ぎた。同じ学校ながら不思議と彼女の姿が確認できない。もちろん、彼女のクラスを訪ねればその姿を見ることはできる。そこまでする心の準備はできるはずもない。しかし、彼女への対応をいかにすべきか何も思いつかないのに、彼女のほうから職員室のわたしを訪ねてきた。
「先生、お願いがあります。
どうしても先生の力が必要です。」
「急にどうしたの?」
訝るわたしに、
「先生、新しい部活動を立ち上げたいのです。
是非先生に顧問になって頂き、一緒に活動してください。」
「えっ、どんな部活だろう?」
「源氏物語を現代文に翻訳したいと思い、もう八人集めました。
一緒に校長先生に掛け合って、新部活として認めて貰いたいんです。
部活が無理なら同好会でもいいです。
学校に公認してもらえれば、堂々と教室とか図書室、使えると思います。
先生、お願いいたします。」
真剣にわたしの目を見て懇願するかなえに、なんのやましさも感じられない。純粋にわたしを顧問として、部活をしたいという熱意を感じる。あの好きです、の一言さえなければすっかり共鳴し、二つ返事で引き受けていたかもしれない。
「三田さん、源氏物語なら古文の先生が顧問には適任だと思うけど、どうして現国の僕に頼むのかな?」
「先生、源氏物語を古文からアプローチするのは誰でもすること。
でも、それでは文字通り、当たり前の解釈で終わります。
現国の池端先生と一緒に、現代文としての源氏物語を模索したいのです。」
難しい言葉を駆使して、懸命にわたしを口説こうとしている。
「趣旨はわかりました。少し考えさせてね。」
「はい。いい返事お待ちしています。」
ペコリとお辞儀をして立ち去る彼女に、やっぱり引き受けることになり、しかも何かが起こりそうな予感を感じていた。
生活指導の先生や教頭先生とも相談し、わたしの意向、すなわちかなえの提案は了承された。そして、彼女と賛同する彼女のクラスメート数人で、図書室隣の談話室で実現に向けた話しを始めた。彼女から話が出て三日目の速さだ。驚くことにかなえ以外はいわゆる文学少女、メガネを掛け美少女の対極にいる子ばかりだ。かなえの底意が見え隠れしている、としなくてもいい邪推までしている。
取り敢えず高校の、同じ現国の先生、因みに三十そこそこの独身女性も指導者として加わり同好会としてスタートを切った。こうして週二回、放課後にかなえとわたしが会うシチエーションができた。かなえの目論見がひとつ叶ったことになる。
源氏物語を大胆な現代口語に翻訳する試みは、かなえとの軋轢がなくとも興味深かいこと、同好会にのめり込むことになる。さらに、高校の現国先生、富沢先生とも気が合い、同好会が待ち遠しいほどになる。たぶんかなえの想定外の筋書きが始まろうとしていた。
会員は予想外、二十人を超え、さらに中学生にも入会の案内をしたところ五人の生徒が希望してきていた。
「いずれのおんときにか・・・」で始まる源氏物語を五人のグループごとに勝手にディスカッションして現代文にし、さらにディベートしながら同好会としての作品へと向かう道筋が決まり、生徒が自主的にグループ作りをしていた。富沢先生とわたしはあまり口出しせず、和気あいあいの雰囲気の中で作業が進んでいき現代文というより口語体の源氏物語が出来ていく。
かなえとわたしはつかず離れずの関係のまま日々だけが過ぎていく。彼女が好きですと告白しながら、その後は週二回会えることで満足しているように思え、特別のことは何もしてこない。わたしも荒海のような心になったことも次第に落ち着き、担任だった中学時代の心境に戻りつつあった。
このまま何事も無くかなえの高校生活が終わりを迎える訳にはいかない。それは源氏物語が「葵の巻」に入った頃、わたしと富沢先生は同好会の反省を兼ねて夕食をファミレスで共にしたことがある。わたしは富沢先生に好意から恋へ行きかねないほどに興味を感じ、食事だけでなくお酒をともにしたいと思ったがまたね、と軽くいなされてしまう。ただ、次の機会にはと希望を持たせれる言い方をされ、彼女との今後に胸を躍らせていた。
しかし翌朝校内の掲示版に「年上の女教師がうら若き男性教師を誘惑、注目しましょう。」と書かれた貼り紙があった。もちろんわたしと富沢先生のことだ。食事のみで疚しいことは全くないにも関わらず、校長から二人だけということをひかえなさいの注意を受けてしまう。
富沢先生に心惹かれ、付き合いたい意欲さえ芽生えていたので残念な気持ちになっていた。そして富沢先生とはお互い距離を置くようになってしまい目覚めた恋心を放棄してしまった。あの貼り紙がなかったらどう発展したかわからないとつくづく思う。貼り紙を貼ったのが誰なのか、結局わからず時は過ぎたが、かなえの仕業に違いないと密かに思っている。勿論それがわたしの邪推であるのは当然わかっている。
瞬く間に一年、二年と経ち、かなえは三年生になっている。相変わらず源氏物語同好会は続けられ、週二回は会い続けているものの二人の間にはこれといったことはないままだ。わたしは日々成長し、美しくなっていくかなえを父あるいは兄の思いで見ようと努めていたが、好きですと言われて騒いだあの思いは澱(おり)ように心の奥底に常に存在している。
学年が改まった。わたしの務める学校は中高一貫校ながら中学と高校で、校舎は同じでも微妙に区別された感じになる。高校からの生徒が中学から一貫生の倍の数が新規に入ってくる。クラスも六クラスにふえる。そしてわたしや大塚先生のように中学のみの教師と高校の資格も取得している教師で区別され、高校生になったかなえは少し遠い存在になる。しかし実は相変わらずごく近い関係で推移すことになる。かなえがそれを仕掛けてきた。
ゴールデンウィークが過ぎたある夜、突然かなえがわたしのアパートに訪ねてきた。僅か二ヶ月の間に雰囲気がだいぶ変わっている。大人びて、色気さえ感じるが、あの母親から産まれた娘だ。少なくとも女性として見ることはできない。前回同様ソファーに腰をおろさせ、コーヒーを入れる。そのコーヒーに口をつけるものの、何も話さない。当然大塚先生の件で訪ねてきたのだろうと
「大塚先生のこと、まだ思っているの?」
と聞くと首を横に振る。
「もう、諦めたのかな?」
うん、とばかりに大きく今度は首を縦に振る。ホッとひと安心し、彼女の母親、雅恵に教えてあげたいが、今はそんな関係ではない。このことを理由に会えない訳ではないが、危険な予感がする。と頭の中で思考している間もかなえは黙ってままだ。
「それじゃ、三田さん、今日はどんな御用かな?」
「何でもないです。
コーヒーごちそうさまでした。帰ります。」
「えっ、どうしたの?」
「先生の顔見たかっただけなんです。
中学の時、担任だったから毎日のように会えていたでしょう。
高校になるとほとんど会えないもの、つまんない。」
「待って。君は大塚先生が好きって言ってたでしょう。」
「あれは嘘。わたしは先生が、やっばり、好きなんだ。」
「えっ、そんな様子なかったけど。
逆に無関心に見えてさみしかったくらいだよ。」
「先生、遅くなると母が心配するので帰ります。」
すくっと立ち上がり、玄関で前回のように手を振り本当に帰って行った。
残ったわたしは困惑の極み状態。あれこれ考えを巡らせるも、かなえがわたしに寄せる思いは本当かもしれないと考え、ぞっとしている。
彼女の母親とわたしは不倫の仲だった。肉体関係もつい何ヵ月か前にあった。二度と会わない誓いをしたものの身体は感触を覚えていて懐かしむとともについ二三日前には彼女を相手に夢精さえしている始末だ。たぶんこんな状態がしばらくは続くと思われたこんな時にかなえが目の前に突如として現れ、思いもしない告白でわたしの心を乱している。
わたしは初めて家庭教師として彼女に会った時のことを思い出していた。恥ずかしそうに母親の後ろからわたしを見上げていた小学三年生の彼女。小さくて可愛らしい女の子だった。髪にリボンを着け、母親には似てない顔立ちだった印象が強くあった。
そう、当時人気のモデルに似たバタ臭いとも言える彫りが深めな、それでいて憎めない可愛らしさがあった。母親は純和風なので父親に顔立ちは似てるのかと、勝手に想像していたが後で会った父親は田舎っぽい人の良さそうな、これまた和風の顔立ちでトンビが鷹を、そんな不躾なことを考えていた。しかしまだ子供であり、わたしは母親に心惹かれていたことでかなえは単に教え子の域に留めていた。
中学で偶然出会ったが、わたしには真弓という恋人がいて、少なくとも女性の一人、異性とは全く考えられない。四年前に会っていたことがあるねと話しかけたが、知らないとまで言われている。意識するあまりの嘘とわかってはいても強いてそれを否定せず受け流した。まあ担任でもないので、ちょっとしたいざこざはあったものの無事一年が過ぎる。担任になったあとも、かなえの母親とは不倫へ向かっていくが、かなえ本人とは何もなかった。
高校生になったかなえが牙をむくようにわたしへの好意を告げて去って行った今、心は荒海の如く乱れ出した。それは静かだったかなえへの恋情が一瞬にして目覚めた瞬間なのかもしれない。無意識の意識が恋の種子を心の奥に埋めていたのだろうか。今、「好きです」という言葉の水を得て発芽し恋の花へと成長していくのかもしれない。
胸騒ぎに似た心の動揺を強く否定する自分もいる。かなえの母親と関係を持った段階で、家庭教師をした半年間に生じた心の襞(ひだ)は全て解消したはずだ。ましてその娘と今後何かがあるとは思えない。いや、あってはいけないことだ。そう言う自分と、好きだったと言われて嬉しく心躍らせ若く溌剌としたかなえを好ましく感じている自分がいる。まさに乱れに乱れる心を抱えて、さほど眠れぬまま朝を迎えた。
さすがにまだ高校一年生の彼女を性の対象とは考えられない。もう法律的には婚姻可能な年齢であり、世の中には結婚し子供まで出来てる女子もいることだろうが、かなえにはその雰囲気は微塵もない。彼女に性的興奮を覚えるとしたら、それはロリコン等のアブノーマルな性癖の持ち主ということになる。それほどわたしの前にいたかなえは幼く可愛らしい女子高生そのものだった。
わたしの心に波風をたて、そのまま二週間が過ぎた。同じ学校ながら不思議と彼女の姿が確認できない。もちろん、彼女のクラスを訪ねればその姿を見ることはできる。そこまでする心の準備はできるはずもない。しかし、彼女への対応をいかにすべきか何も思いつかないのに、彼女のほうから職員室のわたしを訪ねてきた。
「先生、お願いがあります。
どうしても先生の力が必要です。」
「急にどうしたの?」
訝るわたしに、
「先生、新しい部活動を立ち上げたいのです。
是非先生に顧問になって頂き、一緒に活動してください。」
「えっ、どんな部活だろう?」
「源氏物語を現代文に翻訳したいと思い、もう八人集めました。
一緒に校長先生に掛け合って、新部活として認めて貰いたいんです。
部活が無理なら同好会でもいいです。
学校に公認してもらえれば、堂々と教室とか図書室、使えると思います。
先生、お願いいたします。」
真剣にわたしの目を見て懇願するかなえに、なんのやましさも感じられない。純粋にわたしを顧問として、部活をしたいという熱意を感じる。あの好きです、の一言さえなければすっかり共鳴し、二つ返事で引き受けていたかもしれない。
「三田さん、源氏物語なら古文の先生が顧問には適任だと思うけど、どうして現国の僕に頼むのかな?」
「先生、源氏物語を古文からアプローチするのは誰でもすること。
でも、それでは文字通り、当たり前の解釈で終わります。
現国の池端先生と一緒に、現代文としての源氏物語を模索したいのです。」
難しい言葉を駆使して、懸命にわたしを口説こうとしている。
「趣旨はわかりました。少し考えさせてね。」
「はい。いい返事お待ちしています。」
ペコリとお辞儀をして立ち去る彼女に、やっぱり引き受けることになり、しかも何かが起こりそうな予感を感じていた。
生活指導の先生や教頭先生とも相談し、わたしの意向、すなわちかなえの提案は了承された。そして、彼女と賛同する彼女のクラスメート数人で、図書室隣の談話室で実現に向けた話しを始めた。彼女から話が出て三日目の速さだ。驚くことにかなえ以外はいわゆる文学少女、メガネを掛け美少女の対極にいる子ばかりだ。かなえの底意が見え隠れしている、としなくてもいい邪推までしている。
取り敢えず高校の、同じ現国の先生、因みに三十そこそこの独身女性も指導者として加わり同好会としてスタートを切った。こうして週二回、放課後にかなえとわたしが会うシチエーションができた。かなえの目論見がひとつ叶ったことになる。
源氏物語を大胆な現代口語に翻訳する試みは、かなえとの軋轢がなくとも興味深かいこと、同好会にのめり込むことになる。さらに、高校の現国先生、富沢先生とも気が合い、同好会が待ち遠しいほどになる。たぶんかなえの想定外の筋書きが始まろうとしていた。
会員は予想外、二十人を超え、さらに中学生にも入会の案内をしたところ五人の生徒が希望してきていた。
「いずれのおんときにか・・・」で始まる源氏物語を五人のグループごとに勝手にディスカッションして現代文にし、さらにディベートしながら同好会としての作品へと向かう道筋が決まり、生徒が自主的にグループ作りをしていた。富沢先生とわたしはあまり口出しせず、和気あいあいの雰囲気の中で作業が進んでいき現代文というより口語体の源氏物語が出来ていく。
かなえとわたしはつかず離れずの関係のまま日々だけが過ぎていく。彼女が好きですと告白しながら、その後は週二回会えることで満足しているように思え、特別のことは何もしてこない。わたしも荒海のような心になったことも次第に落ち着き、担任だった中学時代の心境に戻りつつあった。
このまま何事も無くかなえの高校生活が終わりを迎える訳にはいかない。それは源氏物語が「葵の巻」に入った頃、わたしと富沢先生は同好会の反省を兼ねて夕食をファミレスで共にしたことがある。わたしは富沢先生に好意から恋へ行きかねないほどに興味を感じ、食事だけでなくお酒をともにしたいと思ったがまたね、と軽くいなされてしまう。ただ、次の機会にはと希望を持たせれる言い方をされ、彼女との今後に胸を躍らせていた。
しかし翌朝校内の掲示版に「年上の女教師がうら若き男性教師を誘惑、注目しましょう。」と書かれた貼り紙があった。もちろんわたしと富沢先生のことだ。食事のみで疚しいことは全くないにも関わらず、校長から二人だけということをひかえなさいの注意を受けてしまう。
富沢先生に心惹かれ、付き合いたい意欲さえ芽生えていたので残念な気持ちになっていた。そして富沢先生とはお互い距離を置くようになってしまい目覚めた恋心を放棄してしまった。あの貼り紙がなかったらどう発展したかわからないとつくづく思う。貼り紙を貼ったのが誰なのか、結局わからず時は過ぎたが、かなえの仕業に違いないと密かに思っている。勿論それがわたしの邪推であるのは当然わかっている。
瞬く間に一年、二年と経ち、かなえは三年生になっている。相変わらず源氏物語同好会は続けられ、週二回は会い続けているものの二人の間にはこれといったことはないままだ。わたしは日々成長し、美しくなっていくかなえを父あるいは兄の思いで見ようと努めていたが、好きですと言われて騒いだあの思いは澱(おり)ように心の奥底に常に存在している。
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