愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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終章完結編

神の力より愛のある世界を

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 エルダリア王都エルダリシオン

 魔物の女王エラリアが君臨し、統治される魔法王国。
 少しばかり留守にしていた間に、魔族が当たり前に闊歩する世界に変貌を遂げていた。
 まあ、エラリアがその正体を隠さず統治をすると決意してからサムライ達との戦争を経て、より強固に団結したと言えるだろう。

 アークデーモンやオークにオーガ、コボルドたち。
「結構雰囲気変わったねーオープンになった感があるぅ~」黒曜は異形の最たる例だが、元々馴染めていたものの、多種多様の種族が入り混じる光景は珍しいのだろう。

 ラカスタのカイラ筆頭に猫耳メイド達も人間スタイルは維持しているが、ひげや尻尾が飛び出て、気が緩んでいるように見える。その見た目は、見た目でアリだな…と思う。

「もう、目移りしすぎです…」少しむくれた顔の雫も可愛い。


「なんだかえらい国に来ちゃったんじゃないのアタシら…!? なんじゃこりゃ、ヤバかっちゃねぇ…。けどよ、こんなとこでもアタシらが負けるわけなかばい! 」
 お銀はフィジカルお化けだが、ただの人間だ。もちろん中には人間もいる。

「亜人魔人のるつぼですね…ちょっと驚きました」
 ハーフエルフのサユリは正体を隠すのが馬鹿らしいと言わんばかりに頭巾を解いている。
 その美貌は別の意味で目立つけどな…

「はえぇえ…コレなら私は何も気にせず生活できそうだよ」
 獣人ハーフが隠せないアカツキはそれを気にしないで済むことが嬉しそうでハタハタ尻尾を振りっぱなしだ。

 王宮にそのまま向かう。

「良く戻ったなシェル…ははっ!さらに男前になったではないか!」
 幼女でもなく、乙女でもなく…魔女王デーモンクイーンのメリハリ効いた姿を隠さなくなったエラリアが直々に出迎えてくれた。頭の角はより立派になった気がする…

「ははん…まあ、魔族の復活とマナの集中がワシの魔力を高めておる…いいだろう?」
 そのモノ言いに、これまで通りの接し方で良いというエラリアの配慮が感じられて少しうれしく思う。

「はい、エラリア女王様…シェル・ヴォスは、無事任務を終えて帰還いたしました」

「その姿、そのオーラ…出発前と変わらぬ姿で戻ったな……つまり、お主は【そういう選択をした】のだな」
「はい…私は女王様の婿にて配下ですので、過分な力は不要かと存じます」

「ご機嫌ようエラリア女王様」
「何じゃ…お主は…雫か?」
「はい、その通りでございます。我が夫のご主人様」
 スカートの裾をもって礼をする雫。

 エラリアはその変わりように驚きつつも、悟ったように、にこやかに頷く。
「………そうか、それがシェルよ、お主の答えか」

「お父様!」
 オレを父親呼ばわりするのは…黒龍の娘洛陽らくようだ。

 そして彼女が手を引いているよちよち歩きの女の子が…
「メイだよ…可愛いでしょ?!もう歩けるようになったんだ!」洛陽は自分がお姉ちゃんになったのが、嬉しそうである。

 その光景を、見た目のいかつさとは裏腹に、エラリアは優しい眼差しで見ながら語る。
「私とシェルの思いに応えた娘だ…恵威めいの転生体だ」
「うーまぁうま」オレの前世での心残りのメイが…大きくなっている。

「そこで泣くんじゃないぞ?」エラリアは笑いながらいう。
「おい、ここに通せ」

 奥からアラベル・サンクラウンに連れらてセレスト・アルヴィナが出てくる。
 セレストの顔は働き者の少しやつれたキャリアウーマンみたいな容姿から母の顔へ柔らかく変貌していた。
 腕には、生まれて程ない赤子が抱かれている。

 アラベルが厳かに言う「シェル様と私の名を合わせて『ルシア』と名付けました…」
 セレストは、一歩前に出てその赤子「あなたの娘です」

「抱いてあげて」雫は分かっていますよという顔でオレに促す。
 オレの人間の子の娘をこの手に抱く。

 繊細で柔らかさが包布ほうふ越しからも伝わってくる。
 緊張するのが伝わったのか、赤子の娘が泣き出す。
「お、おいおい…泣きたいのはこっちだって」
 周囲に笑いが起きる。どうしていいのか…揺らしてみたりするが余計に泣く。
 見かねてアラベルが赤子を取り上げ、抱いて、オレを解放してくれる。再びセレストが抱き、すぐに泣き止む。

「……オレは…」
「シェル様…私が望んだのです」セレストが聖母のような笑みを浮かべる。

「あなたが残す血筋に対しては、責任を取るべきです」
 横からピシャリと雫が言う。それを聞いたセレストが少し驚いた顔をする。
「雫…さま?…驚きです…かなり雰囲気が御変わりになりました…」

「そうかしら…ふふ、セレストさんこそ、素敵な雰囲気になりました。シェルの子供を授かるなんて…」
「す、すいません…雫さんを差しおいて」
「え!?いいのよ!違うの…あなたを責める気持ちなんて少しも無いのよ?…ただ、嬉しくて」

「なあ、この会話って…」
 オレが差し込もうとすると雫はキっとオレを睨んですっこんでろと言う顔をした。
 …それを見て、オレが何を言ってもダメな気がして、頷いて黙る。

「え?あの…?シェル様、雫様?」
「セレストさん…どうか、ちゃんと聞いてください」
「は、はい…」
 雫はにっこり笑い
「私はホーリースライムの代理端末として存在しておりましたが、この度改めて契約をもって人間に転生し直し、シェル様の伴侶となりました」
 と堂々と宣言した。

「シェルはわしの夫でもあるのだぞ?分かっておるのだろうな……」エラリアが会話に乱入する。
「勿論です魔王様。ですが、エラリア魔王様もシェル様に求婚する際に、そのことを承知のうえで許容されていたかと存じます」
「カッハッハ…!ワシが言っているのは、お主がその状況を許容するのかと聞いておるのじゃ」
「私はシェル様がエラリア様の隣で殿下としてお仕えするのは『仕事』と理解しております」
「言うではないか…」「ええ、今の私は言い返します」

 ウハハ……ホホホ……と笑い声は響くが、顔はまったく笑っていない……何コレどうすればいいのだ?

「ワシはシェルの娘を生んだぞ?…正妻としての面目もあるわい」
「シェル様は私に『愛している』と言ってくださります」
「何じゃと?!…そのセリフはわしは聞いたことが無いぞ」

 ここで、雫の言葉を借りて「仕事ですから」と言ったら世界が滅ぶだろうな…と思って黙る。

「何じゃ…お主からのフォローは無しか?!」
 うわぁ…顔がコワイ…けどエロイ。エラリアの容姿は美しく、体型は女性の極みともいえるメリハリを持ち、その赤褐色の艶やかな肌は威圧と健康美とセクシャリティを体現し、角と羽は神々しささえ讃えている。
 現状維持以上を望まなかったオレとは違う。

「私は女王陛下を敬愛しております…陛下の歴史も、メイのことも含めてこの国を支えてくださる全ての行動に対し、尊敬しております」
「ふん、世辞はいいゾ…と言いたいところだが、お前に言われるのは心地いいわい」

「そのもとで伴侶たる地位に置いていただいていることにも感謝しております…今回、任務という形を取らせていただき、ホーリースライムの覇権争いのメインは終わっていましたので、誓約を行い、無事平定しました」
「ホーリースライムは…どうなったんじゃ?」
「オレを端末に情報統合を行い、世界を作り換える…と言っていましたが、断りましたので……解散と」

「は?何じゃそれは?!…おま……それで世界は平和にはなるまいよ…」

「オレはわずかながらの要望として、これまで私を献身で支えてくれた雫に関して、人としての立場でのささやかな恩義を返したく、その中で育んだ愛を共有したところです…」

「はぁ…シェルなら何かしら落としどころを考えるであろうと期待していたが…まさかな…」
「でもこれで、エラリア魔王が世界を平和に導くしかありません」

「ワシに宿題を押し付けるつもりか?」
「欲望は満たされたら終わりです魔王様。だから追いかけるし、独りでは為せないから皆で協力するんです。支配は従えるのではなく導くのです…それがオレの行き着いた答えですかね…」

「ハハハ…何を偉そうに…」
 エラリアはオレの全身を舐める様に見つめ
「ワシも久しく夫をその身に抱いておらん…相手をしてくれるんじゃろうな?」
「エラリア…魔王様?」
 雫がちょっとだけ怖い顔をしてオレの腕にしがみつく。

 それを見たエラリアは少しだけ呆れた顔をして……
「ふん…まあ、我が脅威と憂いを無くした礼くらいをしないとな…今回の旅路は新婚旅行とはいかんかったであろう…ワシもハネムーンには憧れるが魔王としては今国の再建中故そこまで自由な時間は無い…お主と雫で少しばかり新婚旅行ににでも行ってくるがよい」

「「……ありがとうエラリア魔王様」」
 オレと雫がハモる
「あーもう、全く…お前の子供たちの面倒もしばらくはこちらで手配する故、任務を忘れて羽を伸ばすがよい…ただし、帰ってきたら公務と父親で忙殺してやる」

 エラリアは手を振ってしっしと払う。

 オレと雫は手を取り合って退出する。


…………

 オレ達はブリギッタが手配してくれた馬車に乗り、諸国を回る旅に出た。
 そこには任務もなく、迷いもなく……二人で世界を見て回る旅となるだろう。

 戻ればまた任務がある。だからこそ、今という時間がありがたい。

 隣を見ると雫が微笑んでいる。

「何かしら?」
「愛している」
「嬉しいわ…」

 <了>
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