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第181話 伝承される戦い ②
しおりを挟む要塞内部へと突入した俺達を、待ち構えていた様に布陣していたモンスター共。
「やるじゃないか、モンスターのくせに待ち伏せとは知恵を使ったな。」
「感心してる場合じゃないわよ、ジャズ。どうするの?」
ふーむ、このまま戦い続けても消耗戦になるだけだ。マトック達はこの数のモンスターを見て臆している。
姉御は流石に余裕の表情だが、ジュリアナさんが困った様な顔をしている。
「こんなの一々付き合ってられません。俺のとっておきを使います。」
そう言いつつ、精神コマンドの大激怒を使う。
「敵全体」に2500の固定ダメージを与える。例外は無い。「敵全体」である。
その瞬間、モンスター共が次々と倒れていき、あっという間に辺りは静かになった。
驚いたのはマトック達だ、みんなキョロキョロとせわしなく見回し、状況が理解できていない様子だった。
まあ、無理も無い、いきなり目の前のモンスターが全滅したんだから。
「な、なんだこれ!? 何がどうなってんだ!?」
「解りません!? 何が起こったのでしょう!? 私は何もしていませんよ!?」
「ちょっと見てみんな!? モンスターが全滅しているわよ!? どうなってんの!?」
「あらあら、どうしたのかしら? 何にもしていなくても全滅なんて?」
混乱してるな、まあ、しばらくは大丈夫だろう。なんせこの要塞に居る全てのモンスターに効果があるからなあ。
ここで姐御が俺の方に近づき、小声で言ってきた。
「ねえ、貴方の仕業ね? ジャズ。」
姉御が興味津々に聞いて来たので、俺も小声で答える。
「ええ、ガーゴイルゲートの戦いがこちらに傾いたので、ここで一回使用してもいいかなと思いまして。ジョーカーを切らせてもらいました。」
「ねえジャズ、一体何をしたの?」
「それは………秘密です。しかし、使用回数制限がある切り札ですから、そう何度も使えないんですよ。まあ、あと9回はいけますが。」
姉御は呆れた様に溜息をつき、俺に注意を促した。
「あのねジャズ、そういう力はあまり人目に付かない様にしてね。そんな普通じゃ無い力なんて、人によっては誤解されるわよ。」
「解りました、こっそり使う様にしますので、大丈夫だと思いますよ。」
「ほんと、頼むわよ。ジャズ。」
さて、ここでの戦いは片が付いた。先を急ごう。
「おいマトック、モンスターはほぼ全滅した様だし、急いで宝物庫まで駆け抜けようぜ。」
「お、おう。そうだな。急ごう。今のうちだろうし。案内は任せろ。」
「ああ、頼む、みんなもいいかい?」
俺が尋ねると、みんなはこくこくと頷き、肯定を表現した。
よっしゃ、行きますか。宝物庫へ。
通路を進み、マトックの案内で、走りながら倒れたモンスターを横目に駆け抜ける。
通路の途中に居たモンスターは、やはり絶命していた。全滅である。
楽でいいが、いつ敵の増援がやってくるのか解らないので、急ぐ必要はある。
そして、いとも簡単に宝物庫まで辿り着いた。
「ま、まさか。こうも簡単にここへ辿り着くなんて。今まで何だったのかしら。」
「ああ、ちょっと拍子抜けだが、ここまで良い感じでこれた。」
「確かに、これは楽ではありますが、しかし、油断は禁物ですよ。」
傭兵組の三人は、一応警戒しているが、まあ、大丈夫だろう。モンスターの気配は無い。
さて、ここからが本番だ。まずは扉を調べないと。
「ジュリアナさん、敵が来ないうちに早いとこ済ませましょう。」
「ええ、そうね。………えーっと、うーんと、よし! トラップの類は無いみたい。」
「じゃあ、問題は鍵ですね。」
「ええ、その為に私を雇ったのでしょ? お姉さんに任せて頂戴。」
「お願いします。」
こうして、宝物庫の扉まで来て、ジュリアナさんに扉の鍵開けをお願いして貰っている。
ジュリアナさんは、秘密の七つ道具を取り出して、床に広げて道具を選び、解錠に取り掛かった。
その間、俺達は左右から来るであろうモンスターの増援に備え、待機している。
「ジャズ、そっちの状況は?」
「大丈夫、異常なしだ。こっちからは物音一つしない。」
「そうか、こっちは何か足音っぽいのがある位だが、一つだけだし、多分味方だと思う。」
「解った、一応警戒しとこうぜ。」
「おう!」
ジュリアナさんが、扉の解錠に専念しているので、邪魔しないように静かにしていたが、傭兵組の三人が声を掛けてきた。
「なあジャズ、あんたはなぜここへ?」
「うん? ああ、依頼されたからだ。ここにあるかもしれないアイテム、魔法の杖を取り戻して欲しいっていう依頼だ。そっちは、どうしてここへ?」
「ん? 俺か? 俺はさ、ドラゴンスレイヤーを目指しているんだ。」
「ほーう、ドラゴンスレイヤーか。そりゃまた難しい事を成そうとしてんだな。」
「そうでもないぜ、この要塞の屋上に、レッドドラゴンが棲み付いたって噂が広まって、で、俺はアリシアまで来たって訳だ。ドラゴンを倒す為にな。」
何? レッドドラゴンが屋上に居る? 初耳だぞそんなの。
何か厄介そうだな、要塞奪還ってのは。レッドドラゴンは強敵だ。まあ、倒せなくは無いが。
「マトックはドラゴンスレイヤーになりたいか、イズナは? どうしてここへ?」
イズナも警戒しつつ、会話に入って来た。
「私は、極東の島国から来ましたが、その目的は自分が強くなる事です。武者修行の為、ここ、アリシア王国へ渡って来ました。」
「ほうほう、武者修行とは中々出来る事ではないね。今のままでも十分に強そうだけど。」
「いえ、まだまだです。もっと強くならなければ………。」
そこでイズナは言葉を止めた。何か目的があるのだろう。若いのに感心だな。
「ケイトは? どうしてここへ?」
「私は正直よ、お金を稼ぐ為にここへ来たの。宝物庫を狙ったのもその為よ、とにかくお金が欲しいの。」
「現金な奴だな、ケイトは。」
「何よ、ドラゴンスレイヤーよりよっぽど現実的でしょ。」
なるほど、ケイトは金銭目的か、まあ、俺も似た様なモノだし、人の事は言えんな。
そうして、話していると、ガチャリと大きな音がした。
「………開いたわよ。」
「流石ジュリアナさん。見事なお手並みで。」
「ウフフ、どうも。さあ、お宝を拝みましょう。」
扉を開け、みんなで宝物庫の中へ入った。
目の前に広がる光景は、正に感動の一言だった。
「すげえ………。」
「これは、凄いですね。」
「やっほー--! お宝お宝。」
そこには、金銀財宝の山、豪華な装備品。宝箱が幾つか。正に宝物庫といった様相であった。
「よ、よし、早速目的の魔法の杖を探そう。」
「そうね、まずはその目的を果たさないとね。」
姉御が言葉を放ったその後、直ぐ後ろから声が掛かった。
「よーし、ご苦労。皆の者。そして、全員そこを動くなよ、銅貨一枚くすねる事は許さん。いいな。」
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
「ザーリアス! てめえいつからそこに!」
「マトック、知り合いか?」
俺が尋ねると、マトックは舌打ちし、傭兵三人は顔を顰《しか》め、無言の表情になった。
「知り合いもなにも、こいつが四種族連合軍の総指揮官だよ。ザーリアスって名だ。」
ザーリアスね、指揮官か。見た所貴族っぽいな。
「いいか、ここにある宝はみんな俺の物だ。手を出すなよ。解ったな。」
おいおい、なんてがめつい奴だ。全部持って行く気か?
「あのう、ここにある財貨はアリシアの物だと記憶していますが。」
「フン、余所者は引っ込んでろ。私を怒らせるな。さもなくば、ユニコーン軍がお前達を追撃する事になるぞ。」
なるほど、この人はユニコーン王国から来た貴族の指揮官ってやつか。
随分と横柄な態度だな、しかもこの財宝は全て自分の物と言い張っている。
そんなのまかり通ると思ってんのかよ。こいつ。
「あのう、すいませんが、ここにあるかもしれない魔法の杖は、あなたの物ではありませんよ。自分が依頼された事でして、その魔法の杖の持ち主は、依頼者の物なのですよ。なので………。」
「聞こえなかったのか? ここにある全ての財貨は私の物だ。手を出すなよ、いいな。もし一つでもくすねたら、ユニコーン軍が相手になるぞ。いいな。下っ端。」
こいつ、いけしゃあしゃあと。元々はアリシアの財宝だろうに。
と、ここでジュリアナさんがみんなを説き伏せた。
「みんな、行きましょう。ここを出るわよ。」
これには傭兵三人組も黙ってはいない。
「え!? だって、こんなにいっぱい財宝があるのに。」
「そうだぜ! ここまで来て指を咥えて見てるだけなんて。」
「納得いきません。」
「それに、こいつがここまで来れたのはモンスターが全滅したからに決まっている。そうじゃなきゃここまで来れなかっただろうぜ。」
「私達の後を付けてきたのでしょう。漁夫の利を得る為に。」
しかし、更にジュリアナさんはみんなを説き伏せる。
「気持ちは解るわ、でも、「命あっての物種」よ。いいわね?」
ふーむ、ジュリアナさんがここまで来て諦めるとは、何か考え、もしくは何かあると見ているのか?
だったらここは、ジュリアナさんの言う事を訊いて、大人しく引き上げるか。
「みんな、ここを出よう。」
「だ、だけどよ。ジャズ。」
「マトック、もう一度言うぞ。「命あっての物種」だ。ユニコーン軍を相手に逃げ切れるとは思わん。行くぞ。」
「くそっ。解ったよ。行くよ。」
こうして、俺達6人は宝物庫を出て、通路に戻り、来た道を引き返した。
だが、ここでジュリアナさんが俺に小声で話しかけてきた。
「ウフフ、内緒の事だけど、あそこにあった宝箱の一つに、モンスターが擬態していた物があったのよね。」
「え? そうなんですか。ジュリアナさん、わざと言いませんでしたね?」
「ウフフ、だって、あそこにある宝はみんなあの指揮官の物なのでしょう? 自分でなんとかするでしょう。」
いやはや、まったく、女ってのは怖い怖い。
ジャズ達が引き上げて行った後、ザーリアスは一人ほくそ笑んでいた。
「くっくっく、愚かな奴らめ。私の物だと決めつければ、幾らでもどうにでもなる。まったく愉快だな。」
そして、一つの宝箱に近づき、その中身を確かめようと開ける。
「さてさて、何が入っているのかな?」
しかし、宝箱を開けた瞬間、ザーリアスは上半身が喰われ、身体が真っ二つに切り裂かれた。
宝箱に偽装したモンスター、ミミックであった。
ミミックの周りには、ザーリアスだったモノの血だまりが出来ており、それがトラップであると、誰が見ても明らかな状態になっていた。
ここに、ザーリアスは絶命したのだった。
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