赤の書 彼女の選ぶ道

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第二章 捕虜からの脱獄

第36話 新しいお家

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そしてギブスがとれて、数日ごろだろうか、私の行先も決まったのだった。
その日の対応はとても、素敵な日と言ってもよかった。

お風呂に入れてもらえ、体は綺麗に洗え、粗末な御飯ではあったが、私たちが食べていたものよりも、それはちゃんとした御飯が朝、昼、晩と出たのだ。

ただし眠る場所は房であることは変わりなかったが。

こうしてみんな売られていったのだな。ただ、何も感じずそう思った。。












首枷をつけられ、行きついた先に一人の小太りの男が立ってたい。
これが私のご主人様となる男らしい。

とても良い人そうには見えない。
後ろには女の子を一人連れていた。

私と同じぐらいの子だろう、そして、私と同じ境遇なのだろう。

「おぉ、おぉ、おまちしておりましたよ。
これですか―」


「申し訳ございません。準備に少し時間を要してしまって。

これです。素晴らしい上玉ですよ」


「なんと美しい奴隷か。
これは最高だ。

こんなものがまだこの世にいたとは」


どうやら、私の目や髪の色に惹かれた男の一人らしい。

「よくこんなものを取って置いてくれたものだ」

「それはもちろん。あなた様の為に特別に」

耳打ちをするように選別人は手をすり合わせ、ご機嫌取りをしていた。


「ふん、だからお前の商売は好きだ」

「ありがとうございます」

「またよろしく頼むぞ」

「何卒、またごひいきにお願いいたします。
また、上玉がでたら必ず」


「うん。楽しみに待っているぞ」



その男の馬車に乗せられ私はこの城を去ることになった。


どんどんとお城が小さくなっていた。

アーネ待っていてね。必ずあなたを探し出して、守るから。 どうか無事でいて……。



「さぁ、中に入りなさい
 私の可愛い、家畜よ」



 家に入ると少女が2人食卓に座っていた。
 彼が入ってくると、彼女たちは立ち上がり、近くにやってくると頭を地面に垂れる。

「おかえりなさいませ」

 そういって上着などを脱がしては掛ける。

 二人も私ぐらいだろうか。……身寄りがないのか、いや、彼女たちもまた奴隷なのだろう。 行動を見るに。
 だけど服は見てきたものよりもちゃんとしていた。
 
 作られた笑顔。

 その晩。私たちの部屋という場所に案内された。

 彼女たちは最初暗く元気のない子たちかと思ったが、話してみるととても明るく元気な子たちだった。 だから1夜にしてすぐに打ち解けあった。

 そして彼女たちはここで気を付けないといけない事を私にいろいろと教えてくれた。 


 まず、絶対に逆らったり、不機嫌にさせてはいけないということ。 彼の気は短く、お仕置きがとても恐ろしいという事だった。 

 次に私たちにはやらなければならないルーティンのようなものがあるらしい。 
 それをこなしていなければ、逆鱗に触れるのだとか。 なんとも怖い場所に来てしまったものだわ。 

 だけど、彼女たちが恐れていたのは、そこよりも、当番制についてだった。

 今日はレニと言う、おとなし目な女の子がそうらしく、えらく元気がない。 

「その、当番とは、いったい何をするの?」


 私は伺ったが、詳しくは教えてくれなかった。 当番は色々あって一色単には言えないのだと。 
 
 だけど当番の日だけはとても嫌なのだと。 気難しい彼と一緒にいなければならない日。 
 それは毎日日替わりでやってくるのだとか。 

 いつか私にも回ってくるのかと思うと、ぞっとする。 罰と聞くなら、以前に選別人から受けた、あの死ぬほど苦しい日々が蘇ってくる。
 私はここでもうまくやらないとと、ぐっと唾をのんだ。 

「あなたも売られてきたの? どこから来たのかしら?? アングリア民?ではなそうだけれど」

 ここではお姉ちゃんみたいな存在なのだろう。シェアという女の子がそう聞いてきた。 ここにきてから色々と詳しく教えてくれたり、面倒を見てくれたのも彼女が主になってが多かった。

「どうして私がアングリア民じゃないと??」

「簡単よ」

 彼女は自信満々に言ってのけると、私の顔を指さして言った。
 
「そんな素敵な色の目と髪色をしたアングリア人はいないわ。  あなたどこの人なの? そもそもどうしてここにいるの?」

「私は……」

「まぁ、言いたくないこともあるじゃんね! もう話は終わりで今日は寝よう! ティターナも疲れてるだろうし、あんたの傷も相当だったんでしょ」

 そう明るく気遣ってくれたのはミレイという子。 この子もまた髪が赤色の子だった。 でも私とはまた違う。

 彼女は怯えるレニを自分のベッドへと連れて行くと、一緒に眠ったみたいだった。

 寝るときの衣服は、奴隷服と言われる白いワンピースのような布切れ一枚だ。 私たちの朝は早く、当番以外は自分の時間が与えられた。 と言っても、寝るだけなのだが。それでも私たちには私たち用のまとめ部屋が唯一の憩いの場であった。 


 レニが帰ってきた時、彼女は涙を浮かべて帰ってきた。 相当に酷い事をされたのか、

 ……当番。恐ろしさだけが私を苦しめる……。

 アーネは無事なのかしら。 私のような目にあってなければいいのだけど。 捕まって殺されでもしたら大変だから。 もう大切な人を失いたくない。 だから絶対に助けに行くから。


 次の日はミレイという元気で明るくお転婆さんな女の子だった。当番……。 この時だけは彼女は慣れたように笑って見せたが、内心嫌なことが見て伺えた。


 ミレイはきれいなメイドさんのような衣装に着替えさせられると、ご主人≪かれ≫と出て行った。 手をつないで出ていく様はメイド服さえ着ていなければ、父と子みたいね。 


 そんな彼がいなくなった家で私たちはもくもくと働いた。 埃一つでも見つけられると、何をされたものでもないから。 
 その恐怖を私が目の当たりにしたのはある日のこと。 少しは羽目を外しすぎた日。 私たちは彼がいなくなったことでどこか心のゆとりできて、手を抜くようになった。 とても楽しい時間だった。 お友達と遊んでいるように。 だけど、彼が帰ってきてすぐに、小さな埃が見つかったの。 拭き忘れがあったのね。 私たちはすぐ呼ばれたわ。
私含めみんなの顔はこわばっていた。 最初彼は私を何度も指名しては問いただしてきた。 だけど、私は申し訳ありませんとしか言えず、新人と言いう事で、お仕置きの対処から今回は外された。

 そして選ばれたのはシェアだった。彼女は私が連れられる時、一緒に来ていた子だ。 つまりは、今思うとその日の当番だったのかもしれない……
彼女はとても気づかいがすごく、優しい女の子だった。 困っていたらほっておけないタイプだと思う。 だからこそ、彼女はいじめがいがあったのか、彼は、すぐにシェアを呼びつけてお仕置きをしないといけないといった。 


 シェアは必至で命乞いのように頼み込んでいた。 その姿を見ておぞましさを感じた。 過去に私がされた状況が蘇ってくる。 早くこの部屋からデタイ。  私は恐怖で言葉すら出ずにいた。 逆らえない絶対的恐怖だ。 ただその姿を見ていることしかできなかった。 

 シェアは髪の毛を引っ張られて部屋から連れていかれた。  泣きながら、こちらを見ては、必死に助けてと、小さな手を私たちに伸ばしてきていた。 
 こんなのは間違っている。 シェアはちゃんと掃除もしていたし、彼女の担当の場所でもなかった。 あいつは気分で彼女を選んだことは間違いなかった。 
 でも私は、その状況を目にして、ただ震えていることしかできなかった。 頭が何も機能していなかった。 

 その夜は私は布にくるまって自分のした事を悔いた。 どうして私は、


 その夜、彼女は遅くに帰ってきた。 全身痣だらけで涙を流して。血も流れていた。 聞かなくても何をされたのかは大体わかる。 
 私たちの扱いは。本当に、動物以下なんだ。 


 それから私たちはもくもくと働いた。 私が来て間もない日のあの頃のように。 

「ねぇ、どうしてこんな事に耐えられるの。 あなたたちのそんな姿を見て、酷いにもほどがある。 私たちが何をしたと言うの?どうして黙って従うの。 こんなに酷い事されているんだよ」


 その夜彼女たちにわたしは思いをぶちまけた。だってどうしたっておかしいもの。 普通ならこんなところに我慢してずっと入れる訳がない。

 だけど、彼女たちは黙って暗い顔をしているだけだった。 言いたいけど言えない何か……


「ねぇ、みんなで一緒に逃げましょ! こんなところに黙っている必要はないわ。 今ならいける」

「無理だよ。そんなこと。どうせ、私たちみたいなのが逃げたって、周りは全員敵だもの。 もっと酷い事されるだけ」

 何それ? 

「そんなの、逃げてみなきゃわからないわ!」

「あなたいい加減にして。みんなを殺す気なの! ふざけたこと言わないで。 ここはまだ幸せよ。 幸せな方なのよ。ほかのところよりもずっとまし」


 何を言っているの? そんなにぼろぼろに傷つけられて、ここが、幸せ? 彼女たちには、いえ、シェアには話が通じない。 それなら、せめて、レニだけでも! 

 私は怯えるレニの手を取って窓から出ていこうとした。 レニは怖がってからか、離してと言っていた。 ミレイも私を止めようと説得するように話しかけてくる。 本心はミレイだって逃げたいのだろう。 だから逃げれると証明すれば、彼女たちもわかってくれる。 

 その瞬間私の頬に激痛が走って止まった。

 シェアが私の頬をぶったのだ。  あまりの出来事に私の思考が止まった瞬間だった。 

「いい加減にしなさい。 そんなに逃げたければ、あなただけで逃げればいい。 私たちを巻き込まないで!!」

 怒りの形相。 穏やかだったシェアのこんな表情は初めてだった。 シェアはそのまま私に突っかかってきた。 

 私も負けじと対抗した。 

「こんな事していても何もかわらない。 ここにいても、ずっとこんな生活に我慢しないといけないだけないんよ。 自分から動かなきゃ」

「あんたは最っ低なやつね。 あなたがそんな事を言う人だとは思わなかった。 まるであの子と一緒。 ただの何も知らない偽善者」

 あの子? 

「二度とそんな事言わないで。私たちに偽りの希望を抱かせないで」 

 これが私たちの大きな喧嘩だった。 レニは私たちの喧嘩に泣いていた。 ミレイも言いたいことはあったんだろ。 だけど今回はただ暗い顔をして聞いていた。


 どうしてなの? 私はおかしい事を言ったのかしら? みんなを助けたかっただけなのに。 頬の痛みと悔しさで、私はその夜ベッドを濡らした。

 しばらくは、目もあわせられなかった関係も、いつしかみんなで苦難を乗り越えてくうちに、日常の私たちの関係は戻っていた。

 どうやらアングリア人なのはレニとシェアだけらしい。 ずっと彼女らも長く色んなところで奴隷をやっていたいらしい。 そう聞くと、私はまだ奴隷の何たるかは全く知らない。 彼女たちはそういう意味でも先輩なのだろう。

 こんな身の上の話をできるのもこのひと時の夜だけ。

 その晩、私の目的や、探している人がいることなどを話した。 彼女たちも生まれや身の上の話をしてくれた。 だけど、お互いが隠していることもきっとあるのだろう。 私もアーネの名前や探している相手が王族であることなどは伏せていたからお互い様ね。 話に出したくないこともある。 そう感じて聞いていた。 勿論私の場合は言いたくないんじゃなくて、アーネの無事を祈ってこそ、出さない方が良いと思ったからだけど。 

 レニは捨てられたみたいだった。ご両親に。レニは両親の事をかばっていたように聞こえたけど、我が子を捨てるなんて私には想像もできないわい。 少なくとも私の両親はは絶対そんな事をしない。 きっと彼女は優しいから。 ほんとうの心の内は……。 シェアは素敵な家族と過ごしていた。もともと暮らしは貧しく、そういう風にみられていたみたいだけど。 だけど連れ去らわれた……。 ミレイは、……。 戦争が起こした悲劇ね。私と同じような事を、もっと幼い頃から体験したようで。 私だったら耐えられていたのだろうか。 だからミレイとはさらに絆が深まったような、そんな気がしたんだ。

 それからしばらくして生活にも慣れてきたころのことだった。

 私が初めての当番として呼ばれる日が来てしまった。 

 ミレイやレニ、シェア達は私たちのお部屋で私の事をとても心配してくれていた。 

 当の私は何をされるのか、彼女たちの姿を見てきただけだから恐怖でしかなかったけど、いっぱいの笑顔で心配させないように振舞って見せた。


 彼女たちは当番の事に関しては相変わらず、決して何も言ってはくれない。 何をされているのかは言いたくないんだろう。 その気持ちなら私もわかるから。 
 一秒でも思い出したくないもの。 



 彼の部屋へ向かう足は震えで止まらない。 だけどいかなければもっと酷い事をされるから、止まることもできない。 選択肢などないのだ。

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