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花火大会も大変なのです!

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 花火大会。
 それは花火を打ち上げる夏の風物詩である。


 暗黒界にも“花火大会”というものはある。
 カップル同士で花火を見るのも良し。
 家族で見るのも良し。
 友達と集まって見るのも良し。
 地球で行われていた花火大会と内容はほとんど変わらない。


 そして今年の花火大会は悪魔国家のみで行われる。


 暗黒界のあらゆる場所から他の種族が悪魔国家に集まるだろう。
 悪魔国家では、かなり大規模な花火大会になると予想されている。


 そして、私のパパとママが今回の花火大会の主催者で悪魔国家全域に花火を打ち上げるそうだ。
 重要な役割としてパパとママは気合が入っている。


 この花火大会の主催はいきなり決まったものではない。
 実は10年くらい前から決まっていた。
 なので知り合いの花火職人の悪魔に3年前から花火を準備するように頼んでいたそうだ。
 3年前からの準備。
 なんて大掛かりな準備なんだと、思ったけど本当に大掛かりだった。
 だって打ち上げる花火の本数は4万7714本!!!!!
 そう! もうお気付きの通り、私の年齢と同じ数だけ花火を打ち上げるそうだ。


 私は4万7714歳だけど寿命がない悪魔族の中ではまだまだ子供!!
 地球人にもわかるようにいうと女子高生くらいの見た目の若さだ!
 まだまだピチピチの可愛い可愛い悪魔ちゃんなのだ!


 そんな悪魔ちゃんな私の年齢と同じ数だけ花火を打ち上げようと計画を立てたパパとママは私のことが大好きな親バカだ!
 娘の歳の数分だけ花火を打ち上げようなんて考えてくれる親は他にどこにいるだろうか。
 暗黒界中を探しても見つからないだろう。
 でも4万7714本もの花火って……花火職人の悪魔さんはかわいそうだ。顔も見たことがない悪魔だけど3年間お疲れ様でした。
 私は、花火職人の悪魔に心の底から感謝した。


「まもなく本日のメインイベント花火大会を開催いたします!!! みなさま、せいだ、ちょ、ちょっと!! モウスーグ様! キャア!!」

 会場でアナウンスがされた。花火大会が開催されるらしい。
 そしてアナウンスをしていたのはおそらくデヴィル城で働く白い雌の兎の使用人だろう。そのマイクを取り上げたのは私のおじいちゃん、デヴィル・モウスーグだ。

「えぇえ、ゴッホン。みなのもの! 今年は盛大に盛り上がってくれー!!! なんと打ち上げる本数はわしの孫の歳と同じ4万7714本じゃ! 思いっきり花火大会を満喫すると良いぞ!!」


「ウォオオオオオ!!!!」

「すげー!!!!」

「4万も!!!!」」

「聞いたか!」

「凄すぎる!!!」

「エイエーン姫!!!」

「キャァアアアアア!!!!」

 会場は盛り上がっているみたいで本当に良かったと思う。でもみんなよーく考えて欲しい。
 4万7714本の打ち上げ花火。一体どのくらいの時間で終わるんだ。
 絶対途中で飽きちゃうだろう。いやいやいや100本くらいで十分だって!!! 最後まで見る悪魔なんているのだろうか??


「なぁ4万本ってどのくらい時間がかかるんだ??」

「さぁ?? 連続だったらすぐなんじゃないかしら?」

 と、カップルの悪魔が会話をしている。


「俺明日も護衛だよ~、最後まで見れるかな?」

「俺も護衛だわ~、一緒にサボるか?」

「バカ!! 殺されちまうよ!!!」

 こっちでは護衛団に所属しているであろう強そうな二人の悪魔が話していた。


「パパ~!! 僕絶対最後まで見る~~~!!!」

「おう!! いいぞ!! 最後までみよう!!」

 ここでは家族の悪魔が楽しそうにはしゃいでいる。


 会場にいる悪魔たちは4万7714本という未知の数字に困惑はしているものの最後まで見たいという気持ちが強いらしい。
 気持ちはわかる。達成感はすごいだろう。
 私もロウソクの火を消したり豆を食べたりした。おそらく、それくらい厳しいものだと私は思う。
 ただ花火を見てるだけだから楽と言えば楽なんだが本当にどのくらいの時間がかかるんだ??
 こういう時は直接聞いたほうが早い!!

 さっきアナウンスをしていたあそこに行けばおじいちゃんと使用人がいるはずだ!!


 予想は的中した。

 おじいちゃんと使用人はアナウンスルームにいた。


「おぉお!! 孫よ!!! こんなところまでどうしたのじゃ??」

「おじいちゃん!! この花火大会ってどのくらい時間がかかるの??」

「それは可愛い可愛い孫の頼みであっても答えることができない質問じゃ!!! だって言ってしまえば花火大会の楽しみがなくなってしまうからのぉ!いつ終わるのかわからないドキドキも花火大会の楽しみの一つなのじゃ!」


 確かにその通りだ。
 おじいちゃんが教えてくれないということは誰も教えてくれないだろう。
 途中でデヴィル城に帰るのもいいけど多分帰らせてくれないだろう。最後まで花火を見るしかないな。


 4万7714本の打ち上げ花火、どのくらいの時間がかかるんだ。


「お、そろそろじゃな!! 孫よ! あっちの方にナガイーキがいるのは見えるな? あそこが家族席じゃ! そこに行くといいぞ! 花火がしっかりと見える!」

 おじいちゃんが指を差す方角を見るとお兄ちゃんが座りながら待っていた。
 その周りにはキリンの頭の使用人や虎の頭をしたお兄ちゃんの直属の護衛がいる。
 パパとママは主催者だからどこかで花火大会の手伝いでもしているのだろう。


「わしもあとで行くから待ってておくれ!!」

「わかったわ!! じゃあ先に言ってるね!!」

 おじいちゃんに言われた通り家族席に向かう。


 とその前に"クラーケン焼き"でも買って行こう。
 あと"禁断の果実飴"もいいな。

 屋台で食べ物を買っているうちに1発目の花火が突然打ち上がった。

 ヒュ~~~~~ドンッ!!!!

 私はその花火を見逃さなかった。でも見た瞬間見なきゃ良かったと思った。
 だって1発目に飛んだ花火は私の顔の花火だったからだ!!!
 恥ずかしい!!!!!!!
 もう、パパとママは花火職人にどんな注文をしたんだよ!!


 そして2発目も打ち上がった。


 スーーーーーヒュ~~~~ドッンッ!!!!


 今度は私の全身の花火だ。いやーよくできてる。心の中で感心しているけどよくできすぎて恥ずかしい!!!!!! 恥ずかしすぎる。体のラインも完全再現しているではないか!


 どうせ花火を見てる悪魔たちなんて笑っているんだろうな。
「親バカだな」とか「またエイエーン姫かよ」とか言ってそう。いや、絶対言ってるに違いない。


「うぅうう、ぐすっ……ぐすっ」

 あれ?あそこにいる悪魔は泣いているぞ。


「エイエ~ン様~、あぁあわぁ……」

 こっちの悪魔も大泣きだ。


「可愛い!!!! 可愛いすぎる!!!!」

 こっちの悪魔は喜んでいる。


 花火大会の会場に集まっている全悪魔が感動に包まれていた!


 えぇええええええ、おかしいって!!!!

 悪魔国家の悪魔以外の悪魔も、その他の種族のみんなも感動しちゃてるじゃん! どんだけ、みんな私のことが好きなんだよ!!!


 恥ずかしがりながらも急いでお兄ちゃんのナガイーキが座っている家族席に向かった。


「お兄ちゃんごめん! 始まっちゃったね! クラーケン焼きとか買ってて間に合わなかったよ~、それにしても私に内緒で私の花火を打ち上げるなって本当に親バカだよね~」

 笑顔で話しかけたが、お兄ちゃんからの返事が一切ない。反応すらなく固まっている。
 恐る恐るお兄ちゃんの顔を見て見ると座りながら白目を向いて気絶していた。

 まさか本人ではない私の形をした花火で気絶したというのだろうか?
 どんだけシスコンなんだよ!!!!
 とうとう花火だけでも気絶するようになったか!!!!

 もうこれ写真見せただけでも気絶するんじゃね? どうするんだよこの弱点!! 敵に知られたら最悪な弱点だよ!!! 悪魔国家で最強の戦士って肩書きが薄れちゃってるよー!


 そしてこの花火大会で打ち上げられる花火の本数以外にわかったことが他にある。打ち上げられる花火は全て私の顔か全身だ。
 しかも全部形などが微妙に違っている。笑っている私、ちょっと笑っている私、うっすら笑っている私などなど。笑っている表情だけでもかなり打ち上げられている。
 1発1発、細かいが色や形が違うのだ。それが4万7714本もあると考えると凄すぎる。顔も名前も知らない花火職人にもう一度心から感謝をしよう。


 そしてもう一つわかったことがある。
 今でちょうど1時間くらい打ち上げられている。
 キリンの頭の使用人に打ち上げられた数を数えるように伝えてあったのでこれでどのくらいで終わるのかザッと計算ができる。
 私も数えたかったけど疲れるのでパスだ!!!
 数えてくれた使用人が言うには大体900本くらいが打ち上がったそうだ。

 1時間で900本の打ち上げ花火。これが遅いのか早いのか全くわからないけど4万7714本打ち上げることはわかってる。
 なのでざっと計算すると……えーっと、1時間で900本だから……大体、んーっと、48時間???????

 2日間まるまる花火大会をやるつもりだ!!!!!
 花火大会の主催者はいったい何を考えているんだ!!! こんなバカなことをする主催者は誰だ???


 あっ……


 パパとママだった。

 そうでした。

 うんうん。知ってましたよ。親バカすぎるってこと……


 暗黒界は地球という星とは違いずっと暗いなので2日間ぶっ通しで花火大会を行ってもずっときれいな花火を見ることはできる。
 だけど2日間見続けるのは不可能だ。私は眠くて死んでしまう!!!
 いや、悪魔族はそんなことでは死なないがそれぐらい過酷だ!!!!!!!
 きっと他の悪魔たちだってそうだろう。最後までは見ていられないはずだ。

 もう1時間で十分だろう。
 どれ、周りの悪魔たちの声を聞いてみようかなっと。

「エイエーン姫どちらへ????」

「ちょっと散歩!!!」

「それでしたら私共もついていきます」

 どうせ断ってもついてくるだろう。
 ずっと知っていたけど、2人の手下はずっと私のことを見ていた。そしてずっと跡をついてきている。
 全ては私に何かあったらと思ってのことだろう。パパやママ、おじいちゃんの命令だ。
 だから今回は素直についてきてもらうことにした。

「じゃあそこの牛顔の君と兎顔の君ついて来てよ~」

 私から指名してあげた。
 指名された2人の悪魔は私をずっと監視している2人だ。一緒に行動すれば少しでも緊張も解れるだろう。
 それにそんなことしなくても普通に一緒に歩いてくれればいいのに……多分バレないようにってパパやおじいちゃんに言われたんだろうな。


 手下達を連れてしばらく歩き悪魔達の声を直接聞いた。
 今この状態で私だとバレるとめんどくさいことになりそうなので屋台のお面屋でおじいちゃんのお面を買って変装した。
 まさかおじいちゃんのお面が売っているだなんて……
 おじいちゃんのお面があるということは、もちろん私のお面もあった。パパやママ、そしてお兄ちゃんのお面もある。
 すごいな、私の家族は……

 二人の手下もいつも大変そうでかわいそうなのでおじいちゃんのお面を買ってあげた。
 二人とも最初は断っていたが姫からの命令ということで渋々受け取っていたが、嬉しさが前面に出ていて表情でわかる。口元はニヤケて瞳はキラキラ輝いている。
 最後には「一生の宝物にします」と言っていた。

 もう一度言うが悪魔族には寿命がない。「一生の宝物」ってとてつもなく壮大だ。
 そこまで手下達も私のことが好きということだ。私は愛されていると実感した。

 その間も花火は打ち上げられ続けている。

 さて散歩に出た本当の目的に戻ろう。
 どれどれ??そこのカップルはなんと言っているかな?


「素晴らしい。こんなに素晴らしい女性は見たことがない」


 ほ~うイチャイチャしてるのか? それもそうだ花火に飽きたんだろう。


「なんて素晴らしいんだエイエーン姫は!!!」


 私かーい!!!!!
 おいおいそんなこと彼女の前で言って大丈夫なのかよ、喧嘩とかならないのかよ!! 頼むから私の花火で喧嘩とかはやめてくれよ~

「そうよね!! 私たち全女性の、いや、全悪魔の憧れですもの!! 最高すぎるわ!! 4万発じゃ物足りないわよね!!」

 まさかの賛同しちゃってるー!!!
 それに4万発じゃ足りないって??
 爆弾発言じゃんか!花火だけに!!!

 もうダメだ!! 次、次に行こう!!


 あっちは泣いてる

 こっちも泣いてる

 そっちも泣いてる

 どこに感動する要素があるんだろうか。


 おっ!
 ちょうどいい子供の悪魔がいる。この子達はもう花火に飽きてるだろうな。

 子供ってのは素直だ。どれ、どんな会話をしているのか聞いてやろう。

「僕、大きくなったらエイエーン姫をお守りしたい」

「オイラもいつか本物のエイエーン姫を見てみたい」

「だよな」

「あぁ」

「その時はお互いエイエーン姫の護衛につこうぜ!!」

 めっちゃ熱い話してるじゃーん! すごい良い悪魔!!!
 今すぐにこの子たちを抱きしめてあげたい。
 こんな子供にも、ここまで言わせるなんて悪魔国家はどんな教育してるんだ?
 悪魔学校で私の授業とかあるんじゃないかな? それ、ちょっとゾッとする。


 とりあえずみんな全然飽きてないし感動の嵐だ。
 もう家族席に戻ろう。おじいちゃんも来てる頃だろう。
 お兄ちゃんもそろそろ目を覚ましてるかな? いや、目を覚ましても目の前には私の花火。すぐに気絶するに違いない。


 家族席に戻るとおじいちゃんが酒を持って座っていた。
 そのまま「こっちじゃ! こっち!」と、手招きして仲が良い兎の頭の手下と牛の頭の護衛と共に酒を飲んで楽しんでいた。
 そして、想像通りお兄ちゃんはまだ気絶していた。


 それから私は48時間寝ることなく私の姿形をした打ち上げ花火を見続けた。
 本当は寝ようと思ったのだが誰も寝させてくれなかった。むしろ寝かけたら起こしてくる。
 こんなんだったらお兄ちゃんみたいに気絶してたらよかった。この48時間お兄ちゃんは一度も目を覚ますことはなかったのだ。
 そして会場にいる全ての悪魔達、その他の種族達は全員感動で泣いていた。
 疲れている表情は一切なかった。喜びにあふれていた。本当におかしすぎる。


 花火大会自体は大成功だったが私は疲れた。
 来年は悪魔国家じゃない別の国家で花火大会が開催される。どうか私の花火を歳の数分、打ち上げようなんて考えないでほしい。普通の花火が見たい。

 そんな風に願いながら花火大会の疲れを癒すために眠りについたのだった。 
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