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餅つきも大変なのです!

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 今日も私は、に苦しめられる。
 悪魔には寿命がない。なので私は可愛い可愛い悪魔ちゃんだが年齢は4万7714歳なのだ。
 毎度のことながらこの年齢には苦しめられている。
 そして今日はデヴィル家の毎年恒例の餅つきがある。なぜか恒例行事になっていて毎年やる羽目になっている。

 そう。もう、お分かりの通り、デヴィル家の餅つきで、私は餅を、付かなければならない。つまり4万7714回、つくのだ。
 100歳未満の時は楽しく餅つきをしていたのを今でも覚えている。本当に楽しかった。
 でも歳を重ねるにつれて餅をつく回数が上がっていき辛さが増してきている。

 大食いじゃなくて心の底から本当に良かったと思っているよ。だって、餅は太るし大食いなんてしたら喉につまらせて苦しい思いをするかもしれない。そもそも私は大食いは無理だ。

 4万7714回も餅をつくのは非常に大変だ。やりたくない。でもやらなきゃいけない。
 これが私の逃げることのできない運命なのだから……


 ただし、餅を4万7714回ついた後のを食べるのは本当に美味しい。だからその餅のような物体のために頑張るしかないのだ。餅だったものと言ったほうがいいだろうか……まあ、どっちでもいい。

 そんな感じでデヴィル城の中庭で餅つきが開始されたのだった。


 デモンストレーションでパパとおじいちゃんが餅をついている。

 セッセッセッセッセッセッセッセセッセッセッセッセッセッセッセ
 ヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤ

 息の合った掛け声と動き。さすが親子。さすが悪魔族最強の2人だ。
 スピードが早過ぎて全くデモになっていないことは気にしないでおこう。

 たったの1分ほどで1万回つき終わったらしい。私の年齢が4万7714歳だから約5分でつき終わる計算だ。なんて羨ましいんだ。
 私はパパやおじいちゃんのようなすごい能力はない。普通の可愛い可愛い悪魔ちゃん。地球人に例えるとただの女子高校生なのだ。訂正しよう。女子高校生なのだ。

 そんな、か弱い女子高校生が4万7714回も餅つきをできるはずがない。それに樫かしなんて重いものを扱えるはずがないのだ。

「エイエーン姫!! 黒魔法で作った樫が改良を重ねて今年も出来上がりましたー!!! 今年のは自信作です!」

 元気よく跳ねているのはデヴィル城で仕える手下だ。兎頭の悪魔でデヴィル城の手下の中では1番の古株。
 そんな手下の彼が私専用の樫を作って持ってきてくれたのだ。

「この樫は黒魔法で作ってまして……重さは無いです! ゼロです!無です!」

 確かに、受け取った樫は持っているのかどうかわからないくらい軽い。いや、無だ。黒魔法凄すぎる。

「そして、餅をついたと樫が判断すると、軽く黒魔法が反応し、衝撃波を与えます。これによって餅が本来の樫の重さでしっかりつかれるわけです! あ、餅以外にも反応して衝撃波を与えますのでそこだけ注意が必要です!」

 人差し指を立てて自信満々に説明をする手下。
 なんとも無駄な技術だ! 世界を滅ぼすレベルの黒魔法がもったいない使われ方してる!! 黒魔法もこんな使われ方をされるとは思ってもみなかっただろう……

「さらにあちらのモニターに餅をつかれた数を表示するようにBluetooth機能を搭載しました! 無線で飛ばしてます! 黒魔法と連動することによってモニターに数字が映し出されます! 黒魔法の衝撃波は電波にもなるんですよー!」

 なんか知らない知識出てきたー!!! 何? ブルー……なんだ? ブルーチュウウス? 言い辛いな……黒魔法が派生した青魔法とかの魔法なのか?
 それにしても、ここまで改良されるなんて思わなかった。
 去年は1000回くらいで、私の腕がパンパンになってしまい目標を達成することができなかった……でも、今年こそは絶対に達成するぞ! 何だか達成できそうな気がしてきた!!

 ブンブンと野球選手のように樫を振り回す。その姿はス○ブラでハンマーを手に入れたピ○チ姫のようだ。

「ありがとう! これなら今年は年齢分の餅つきができそう! いや、やってみせる!!!!」

「エイエーン姫に喜んでいただけて光栄です! では餅つき頑張ってください!」

 手下は膝をつき頭を垂れて丁寧にお辞儀した。
 樫の説明を終えるのを待っていたのだろうか、その後、タイミングよくお兄ちゃんが声をかけてきた。

「エイエーン。今年の餅の返しは、俺がやることになった。やるからには悪魔族として全力でやるからなっ!! 兄妹でがんばろうぜ!」

 お兄ちゃんは笑顔でサムズアップした。
 さすがにお兄ちゃんと餅つきをやるのは不安要素が多すぎるが、餅つきだけで気絶することはないだろう。
 あ、これ気絶フラグになってる? まあ、いつものことだし気にしないでおこう。

「よろしくね! お兄ちゃん!」

 と、私もお兄ちゃんのように可愛い可愛い笑顔を50%、いや、20%に止めてサムズアップを返した。
 もし、100%の満面の笑みをこぼしてしまったら、この時点でお兄ちゃんは気絶しかねない。いや、今、気絶してもらって代役に任せたほうが後々、面倒ではないかもしれない。そっちの方が良かったと後悔したがもう遅い。
 気絶しないことを願うしか無いな。そろそろかっこいいところを見せてほしい。

「それじゃ準備はいいかな? 孫たちよ!!」

「いつでもどんと来いだよ! おじいちゃん!」

「任せてください。お爺様」

 餅つきの準備がされて、いよいよデヴィル家恒例の餅つきが開始される。

 私の周りを円で囲むようにデヴィル城の手下の悪魔達が見守っている。その中にはパパとママがいてママの腕の中には愛龍のクウチャンが可愛く鳴きながら応援してくれている。
 クウチャンは最近バレンタイでもらった4万7714個のチョコとダークエルフの里でもらった4万7714本の黒い薬草コクサイの料理の食べ過ぎてお腹だけは大きくなっている。メタボで可愛い。やっぱりペットは太ってなくちゃね。

 おっと、話が逸れてしまった……今は餅つきに集中しよう。さて、樫がどんなものかお手並拝見だな!

「行くよ! お兄ちゃん! 私の餅つきについて来てね!」

「誰だと思っている。俺は悪魔族最強の戦士だぞ。最後まで餅を綺麗に返してやるよ! 戦士の誇りにかけて!」

 決め台詞のようにかっこいいセリフを言ったが、その台詞こそが気絶フラグのように聞こえてしまって仕方がなかった。
 だが、気にしている場合じゃない。私は餅をつかなければならない!


 エイエイエイエイエイエイエイッ!!
 ふっふっふっふっふっふはっはっはっはッ!!


 樫に重さを感じないおかげで連続で餅がつける。餅をついたときの黒魔法の衝撃波も全くと言っていいほど感じない。これなら本当にいけそうだ!
 そしてさすが、お兄ちゃんだ。一寸の狂いもなく私がついた餅を返している。


「さすが御兄妹ですねぇえ!!」

「素晴らしいです!!!」

「エイエーン姫可愛すぎるぅうう!!」

 手下の悪魔達も私たち兄妹の餅つきに感動している!!
 この勢いのままやるぞっ!!!!


 どりゃどりゃどりゃどりゃどりゃどりゃりゃぁあっ!!
 よっよっよっよっよっよっよっよほいほいほいっ!!!


 スピードをどんなに上げても、お兄ちゃんは遅れることなく餅を返してくれる。順調すぎる。怖いくらい順調だ。

「このペースでいくぞ! エイエーン!!」

(あぁ、エイエーンの可愛い可愛いおへそが目の前にぃい、いやいやダメだ……集中するんだ……でも、くびれも……あぁ、太もッもッ!!!!!)

 エイエーンの可愛い姿を見て葛藤するナガイーキ。目の前に大好きなエイエーンがいれば当然の反応だ。

 そしてモニターの数字は、もう100超えていた!


「いけぇえええエイエーン姫!!!」

「餅をつく姿が可愛すぎる!! 美しい!!!」

「俺もつかれたい! 樫で叩いてェエエ!!」

「頑張れぇえええ!! 頑張れぇえええ!!!」

「きゃわぃいいいいい!! きゃわいすぎるぅううう!」


 手下達も熱心に応援をしてくれている。これなら本当にいけそうだ!! 私の年齢分! 4万7714回ついてみせるっ!!!

 エイッ!!!

 あっ……

「お兄ちゃんごめん!!! 手、大丈夫??」

 気合を入れ過ぎてしまいお兄ちゃんの手を餅ごとついてしまった。
 しかし、お兄ちゃんの反応はない。

 まさか! と思ってお兄ちゃんの顔を見てみたらそのまさかだった。


 気絶していたのだ……

 100回を超えたあたりから耐えられなくなったのだろう。
 そわそわし出して様子もおかしいと思っていた……順調過ぎたし予想はできてた……
 よく100回まで耐えたものだ。偉いぞシスコンお兄ちゃん!

 なぜだろう。気絶している兄の手にもう1発ついてみたくなった。
 いや、ついてやろう。

「ナガイーキよ、やはりエイエーンの美しさに耐えきれなかったか……く、よくぞここまで頑張った。わかるぞ。わかる。娘の可愛さは特別だ! エイエーンの可愛さは悪魔遺産だッ!!!」

 パパが泣きながらお兄ちゃんを熱く強く抱きしめている。私の可愛さで気絶するってところまでは理解できるが、その後の行動はよくわからない。男というものはよくわかんない生き物だ。

「それでは、わしが代役を……」

「その代役、私がやりますわ!!!!」

「誰じゃ!!!」

 おじいちゃんの言葉をかき消すかのように突然、大声をあげた人物がいた。
 その人物はデヴィル城の手下達では無い。

「ダークエルフの里よりやって参りました。ワッフルでございます」

「おぉおおお!! これはこれは!ワッフル姫!!!」

 ワッフルはダークエルフの里から邪精霊とドワーフを連れてやってきた。どうやら今日が餅つきの日だと知っていたらしい。
 そして、まためんどくさそうなことが起きそうな予感がする……いや、絶対に起きる。

「エイエーンちゃんと餅をつく日が来るなんて夢のようですわ。初めての共同作業。ドキドキしますわね」

「ワ、ワッフル……ちゃ、ちゃんとやってよね……今絶好調なんだから……」

「わかってますわ。エイエーンちゃんに迷惑はかけません。私のアピールタイムでもありますからね!」

 このまま、お兄ちゃんの代役はワッフルに決まった。ワッフルは長い黒髪を束ね気合十分だ。
 姫同士の餅つき。こんな機会は滅多にない。手下の悪魔達は私たちに釘付けだ。

「それじゃいくよー、せーの!」


 よっよっよっよっよっよっよッ!
 はいはいはいはいはいはいはいッ!


 ワッフルが言った通り初めての共同作業だ。変な意味ではない。だから少し遅めについていたんだけど案外ついて来れるみたいだ。この調子なら全然いけるぞ!!
 と、なると……ワッフルの体力が心配になるけど……


 ハァハァハァハァ……


 息切れしてるみたいだし、やっぱりペースは上げずにこのままやろう。


 ハァハァ……エイエーンちゃん……ハァハァ

 おへそ……ハァハァ……くびれ……ハァハァ

 ハァハァ……ふとももぉお……ハァハァ

 ワッフルは息切れではなく興奮しているだけだった。


 ダメだ、このダークエルフゥウウ!!!! ただ私に興奮してるだけの変態エルフだった!!!


「うぉおおおお姫同士の餅つき最高だ!!!」

 バタンッ

「美しい! なんと美しいんだぁあ」

 バタンッ

「エイエーン姫もワッフル姫も可愛すぎるぅうう!!」

 バタンッ


 手下の悪魔達も今日一番の盛り上がりだ! バタンッって音が気になるけど……


 興奮状態の変態ダークエルフを気にせずスピードを上げてやろう!!


 ヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッ!
 ハァンハァンハァンハァンアハァアアン!!!


 アァアアアンッ! いきなり積極的ィイイイイイイ!!!!! いいわいいわ! エイエーンちゃーん!!!


「うぉおおっと……あぶなっ、いきなり止まらないでよ!!!」

「…………」

「ワッフル?」


 まさか、この展開……数分前と同じ!!!!


「…………」

「ワ、ワッフル?」


「…………」

 気絶してるぅうううう!!!
 ワッフルもお兄ちゃんみたいに気絶してる!! どんだけだよ、てか、何しに来たんだよ! 興奮して気絶ってモウ変態だよ……
 ま、それほど私の魅力がすごいってことなんだけど……


「ワッフル姫~」

 小さな体の邪精霊とドワーフ達が気絶したワッフルを運んだ。

 そして周りを見てみると手下の悪魔達も何人か倒れている。どうやら姫同士の餅つきの光景に耐えられなかったようだ。美しいとは罪だ。

「全く……わしの出番じゃな! 孫よ!! どんどん餅をついていいぞ!」

「おじいちゃん!!!」

 やっぱり最初からおじいちゃんでよかったんだ。おじいちゃんは私のことを溺愛しているが滅多に気絶するようなことはしない。さすが悪魔族最強の一人だ。力だけでなく精神的な面も最強だ。

 そしておじいちゃんならどんなに早くてもどんなに遅くても全て私のペースに合わせてくれる。最高の餅返しだ。
 おじいちゃんと協力すれば必ず目標の4万7714回達成できる!その時は、私が最初に餅を食べてやるんだ!!!


 うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!
 ほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!

「孫よ! いい調子だ!!」


 このまま無我夢中で餅をつき続けること2時間。

 私の限界はいつも2時間で来る。もう腕はパンパン。いくら改良された樫だからと言っても私自身は、か弱いままだ。
 でも、ここまでは本当に順調にこれた。二人気絶したけど……


「腕が……もう動かない……」

 パンパンに腫れているだけでなく痺れも感じている。

「エイエーン姫! 頑張ってください!!」

「頑張れエイエーン姫!」

「ファイトです!!!」

 手下の悪魔達は必死に応援している。

 2時間も必死に餅ついたんだ。目標の4万7714回は目の前だろう。どれ、モニターの数字は……

『3525』

 さ、さ、さ、さ、さん、さんぜん、ごひゃく、にじゅうごォオオオ

 嘘だ、嘘だと言ってくれ……1万もいってないのかよ……目標の目の前とか言ってごめんなさい。もう無理です。

「孫よ! 順調だぞ! あと22時間くらいでいけるんじゃないか??」

「いやいやいやもう無理ぃいいいいい!! 全く順調なものかァアア!! 誰か私を気絶させてぇええええ!!」

 叫んだ。心の中ではなく声に出して叫んだ。私の悲痛の叫びはデヴィル城の上空へと響き渡った。

「おじいちゃんがいるぞ! 頑張るのじゃ!!!」


 私は無言のまま、持っている樫を大きく振りかぶった。


 ボコッンッ


「孫よぉおおお」


「「「エイエーン姫ェエエエエエエ!!!!」」」


 エイエーンは樫を自分の頭に打ち付けて気絶をした。
 その様子を見ていた祖父と手下達は叫び、すぐにエイエーンのもとへ駆け寄った。


 こうしてエイエーンは今年もデヴィル城での餅つきの目標を達成することなく終わったのだった。

「来年は……自動で動く樫を……」

 と、気絶しながら呟いたのだった。  
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