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013:探偵スキル

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 処刑人Xは『パー』のカードを出して唸っている。

「ぅ……ぁ……ぅ……」

 ボドゲ部4人は全員『パー』のカードを出していた。

「な、なぜ~なぜ?」とピエロが驚いた表情で答えを求める。驚きすぎて座っていた赤いソファーから立ち上がっていた。
 すると「簡単ですよ」とモリゾウがしんどそうにしながら答えた。
 その隣で「危ねぇ間違えて『グー』出すところだったわ。マジで危ねぇ。死んでたわ……。危ねぇ」とキンタロウは死ななかったことに喜びを噛みしめながら騒いでいた。

「引っかかってくれてどうもありがとうございます。このジャンケンは全員で同じ手を出せば1体1のジャンケンと変わりありません。あいこは負けではありませんからね。負けなければいいのなら勝率は3分の2です。つまりカードを準備していれば勝てるんですよ」

 モリゾウは疲弊した体を休ませながらピエロに指を差した。その姿は犯人が判明し名推理をする探偵のようだ。

「大丈夫かモリゾウ」
「モリゾウくん」
 心配するメンバーに対し疲弊したモリゾウは「大丈夫です」と一言心配をかけまいと答えた。
 これがジャンケンに勝利するための代償だとモリゾウ自身わかっていたことだ。
 だから落ち着き、冷静さを保ちながらその場に座り込んだ。そしてピエロを再び見る。

「あなたはキンちゃんが宣言通り『グー』を出すと思ってましたよね。それで他の1人がキンちゃんに合わせて『グー』他の2人が『チョキ』か『パー』を揃えるて出す。そう考えたでしょう」とピエロが考えていた事をそのままモリゾウは推理した。

「でももし処刑人Xが『チョキ』を出そうとしたら、あなたたちは負けて死んでいたのよ」

 納得がいかない様子でピエロが疑問をぶつける。なぜ全員同じ手を出せたのか。キンタロウとモリゾウの発言が引っかかるピエロ。

僕たちは全員『グー』を出しますよ」

「はぁ? どういうことなのかしら?」

 まだ理解していないピエロは唖然とする。
 しかし唖然とした直後にピエロは何かに気が付いた。

「緑髪くん……あなたのは何かしら?」

 ピエロはモリゾウのスキルがこのジャンケンゲームのトリックだと気が付いたのだった。

「スキル……? さて何のことでしょうか?」とモリゾウからとぼけた返事が返ってきた。

『うふふっ。やっぱりね❤︎』とピエロは笑った。

(緑髪くんの疲弊を見る限り何かしらのスキルを発動したのは確かね。そのスキルが何なのか教えないのは当然のこと。未来を見るスキル……いいえ、違うわ。今までの会話から緑髪くんのスキルは相手の心を読み取るスキルかもしれないわね。その証拠に対戦相手の処刑人Xくんよりも私に警戒を強めているもの……。私が処刑人Xくんを操作しているということを最初から見抜いていたのね。となると緑髪くんのスキルは……『探偵スキル』とかかしら?)

 ピエロはモリゾウのスキルをズバリ当てた。

 モリゾウの探偵スキルは仲間や相手の位置を把握するだけではなく、相手の心情を色で感じることができる。嘘発見器のようなスキルでもある。
 その嘘発見器のようなスキルは『第1層2マス』の案内兎のぼんからの説明は受けていない。モリゾウ自身がボドゲ部の仲間、ピエロ、心情の微妙な変化に気が付きスキルの効果に気付いたのだ。
 さらに処刑人Xの心情の不自然さにも気付いていた。
 人なのに人ではない。マリオネットのようだと考えていたがまさにそれだったのだ。
 処刑人Xが唸っている時も心情の変化は見られない。つまり誰かに操られているということ。
 それを操れる人物はこの場にピエロしかいないということもモリゾウは知っている。なぜなら探偵スキルのもう一つの能力、敵の位置を探る能力があるからだ。
 この『第6層8マス』にはピエロ以外に処刑人Xを操れる人物がいないことを確認してある。
 それならばピエロにだけ注意していれば自ずと出す手は決まってくるというわけだ。

(ピエロがキンちゃんをからかっていた時もキンちゃんにキレられていた時も同じ赤色の光が浮かび上がってました。そしてキンちゃんが『グー』を出す宣言をした時、一瞬だけピエロの心情の色が青色に変わりましたがすぐに色が戻りました。そう。自信満々の赤い色に。そんな自信あるピエロが負ける手を出すはずがありません。ただもしものことがあれば僕が咳払いをする合図でカードを裏抜きにして出す手を変えていましたがね)

 モリゾウがジャンケンの必勝法で考えたのはカードを両面表向きにすることだった。
 ジャンケンカードを1枚に重ねたのは出す手が決まったわけではない。瞬時に出す手を変えるためだ。
『グー』と『パー』で『チョキ』のカードを挟む。そして表面は『パー』ひっくり返せば『グー』のカードに変化するように仕込まれている。これならば負けることはない。
 ピエロの心情の変化が読み取れるのならばモリゾウが考えたこの方法は必勝方法になるのだ。
 あとはモリゾウも心配していた咳払いのタイミングだったが、ピエロの心情が変化していなかったので咳払いをする必要はなかった。

「手に入れたばかりのスキルをよくここまで使いこなせたわね~ん! お見事♦︎お見事♣︎お見事♠︎緑髪くん。あなた面白いわね~ん❤︎」

 ピエロは満足げな表情でモリゾウを称えた。拍手が鳴り止まない。

 実際のところ戦会議ではキンタロウとイチゴとノリにジャンケンをさせて探偵スキルで見える心情の色を確認していた時間がほとんどだった。
 キンタロウは『グー』しか出さないように指示してイチゴとノリには『グー』『チョキ』『パー』の手を出してもらい色の変化を見ていたのだ。
 勝利の色は赤色。疑いの色は青色。負けの手を出すときだけ敗北の黄色が現れる。
 モリゾウは、この短時間で探偵スキルの能力を使いこなせるようになったのだ。そして死のジャンケンを勝利に導いたのだった。  
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