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067:20年前の試作品

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 それは今から約20年前のこと。『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』は試作品として密かに存在していた。
 このゲームを作った『神様』と名乗る人物は、日本中から1万人の人間を選び無差別にワープさせ試作品の参加者として招待させたのだ。
 その参加者のプレイヤーの中にキンタロウの父親『ユウジ』とキンタロウの母親『アヤカ』がいる。そしてアヤカの腕の中には1歳頃のキンタロウが眠っていた。

 ユウジは現在のキンタロウと顔が瓜二つ。ボサボサ髪も全く同じだが髪色だけは違う。漆黒の黒色だ。キンタロウの髪色の遺伝は母親のアヤカからのものだった。
 いきなりワープさせられてしまったのでユウジは全身真っ黒のスウェット姿、アヤカはエプロン姿でいかにも母親という感じだ。
 キンタロウをあやしている時にワープしてしまったのだ。アヤカからしたら一緒にいれて嬉しいだろうが謎のゲームに参加することとなり危ないことに巻き込みたくなかったという複雑な気持ちが交差していただろう。

 アヤカの不安通り、神様の狙いは、試作品に参加することとなった1万人の参加者の中から優秀なプレイヤーを『ゲームの番人』として選ぶということだ。
 もちろん参加者にはこのことは伝えられていない。100マス目を目指しゲームをクリアすることが目標だと伝えられただけだ。


「そんな、家でゆったりのんびり家族の時間を過ごしていたのに、なんなんだよ」
「キーくん。大丈夫よ。よしよし」
 膝を落とし落ち込んでいるユウジの横では腕の中のキンタロウを心配させまいとあやし続けるアヤカ。2人は訳のわからない『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』に愚痴や文句を言い合っていた。

「なんで選ばれだんだよ! 新春兎宝くじも3000円しか当たったことないのによ!」
「あら、私は10万円当たったことあるわよ。うさ丸ちゃんスクラッチで」
「え? マジで? じゅじゅじゅ、10万円も!?」
「うん。マジで!」
 愚痴を言い合っていたユウジとアヤカは、いつの間にかいつもの調子に戻っていた。温かい家庭の一場面の会話のように思えるほどだ。
 しかしここは『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』という謎の白い空間だ。このまま家族団欒というわけにはいかない。

「とりあえずキーくんのためにも絶対クリアしてお家に帰らなきゃねな」
 アヤカはキンタロウのほっぺたをぷにぷにと指で突きながらウインクをした。

「まずは連れてこられた時に頭の中に流れこんだ取扱説明書の内容を理解しないとな」
 1万人の参加者がこの世界にワープした直後に参加者全員は脳内に直接、取扱説明書の情報を光の速さで流し込んでいたのだ。
 取扱説明書の内容は3ページほど。このボドゲ空間について。サイコロについて。ゴールについてなどだ。しかし重要なことはなにも書かれていない。これほど内容が薄いものを取扱説明書と呼んでも良いのだろうか。
 情報が薄いということもあって赤子のキンタロウですら頭痛などを感じない程度の刺激だった。

「他の人たちどんどん進んでるよ。どうする? 私たちも行く?」とアヤカがユウジの肩にアゴをのせて聞いてきた。
「クリアしなきゃ家に帰れないもんな」
「そうね……」

 いつも明るい姿しか見せないアヤカが不安そうな表情になりうつむいている。そんなアヤカの不安を晴らすようにユウジが明るく元気に声をかける。

「でもさ、子供の頃にテーブルゲームとか結構やってたからクリアできるっしょ! 俺に任せとけ! 絶対クリアして家に帰るぞ!」
 ユウジは自信満々にサムズアップ してみせた。

「さすがユーくん。素敵。私もがんばるわ。お家に帰ってまたキーくんと3人で楽しく暮らしましょう!」
 アヤカはキンタロウの小さな手を優しく持ち赤子のキンタロウにガッツポーズをとらせた。

 アヤカが落ち込めばユウジが慰める。ユウジが落ち込めばアヤカが慰める。2人の相性はとても良い。理想の夫婦と言っても過言ではないほどだ。
 だからこそ謎のゲームに参加させられても前向きになれるのだ。そして家族のため、未来のために前へ進むことができるのだ。

 その後、ユウジとアヤカそして赤子のキンタロウはサイコロを振りマスを進んで行った。順調にゲームをクリアしていき100マスに近付いていく。
 ユウジたちは運が良く命に関わるゲームのマスにはまだ一度も止まっていない。むしろプレイヤーに有利となるマスばかりに止まっていた。

 そして折り返し地点でもある『2層50マス』に無傷のまま無事到着したのだった。

『2層50マス』大草原が広がる中央に1本の大樹がそびえ立っている。その大樹には階段のようなものや扉のようなものがいくつもある。大樹を贅沢に使ったウッドハウスのようだ。

「折り返し地点。怖いくらい順調だよな。運がいいのかな」
「ちょうど半分だからここからが本番なんじゃないかな?」
「よっしゃ、気を引き締めていくか!」
「ユーくんなら大丈夫よ。パパファイト~」
 折り返し地点で気合いを入れ直した2人。アヤカの腕の中で眠っている1歳のキンタロウの手を振りユウジを応援するアヤカ。

 そんな時ウッドハウスの中央にある1番大きな扉が開いた。

「ようこそ。ワシはここ『2層50マス』の案内兎。ゴロウじゃ」

 杖を持った白い年寄りのウサギが長い白い髭を触りながら現れた。
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