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023:ミミックVSクラーケン〝復活〟

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 魔石を食べていて気付いたことがある。
 苦しみが一瞬だけ楽になるってことだ。
 レベルアップほどの回復じゃないけど、回復してる気がするんだ。
 HPが1だったのが2とか3とかになった感じ。すぐに1になるけど。

 溺死できし寸前のこの状況、僅かに回復したからってなんだって話だよね。
 それでもせいにしがみつくって決めた私にとっては、この僅かな回復――延命は本当にありがたいことだ。

 あっ、だからか。
 だからさっき意識を失っても死ずに済んだのか。
 直前にカニの魔物とエビの魔物の魔石を食べたから。
 もし食べてなかったら延命できずに死んでたに違いない。

 死んだら死んだらで三途の川にいたイケメン冒険者の差し伸べる手を掴めてたのかな?
 いや、ダメだ。
 妄想の中のイケメン冒険者の手じゃダメなんだ。
 本物のイケメン冒険者の手じゃないと。
 そうだ。私はイケメン冒険者に会うまで、死ぬわけにはいかないんだ。
 絶対に。絶対の絶対に。

 だから喰らう。
 砂利でも石でもなんでもいい。
 片っ端から舌が届く範囲の石を口の中へ放り込む。

 ――ガリジャリジャリギャリッ!!!

 早くレベルアップしろ。

 ――ギャリジャリギリガリッ!!!

 いくら延命できたからってレベルアップできなきゃダメなんだ。

 ――ガリガリバリガリッ!!!

 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル13に上がった》

 脳内でレベルアップを告げる声が再生された。
 その瞬間、私の体は発光する。
 発光が収まるのと同時に破損していた左半身が元通りに戻る。
 体力も全回復。
 溺死寸前の水中の中だけど絶好調っ!
 最高の気分だよっ!

「グギィゴギィボギィイイ!! (私完全ふっかーつ!!)」

 でも死にそう。復活して早々死にそう。息がもたない。
 一瞬でHP1だよ、これ……。
 もう一回レベルアップできる見込みもないし、早く地上に出ないと。
 でもどうやって地上に出ればいいんだ?
 回復したら体が浮かぶとか思ってたけど、全く浮かばない。
 宝箱は宝箱ってことか。
 それ以外の方法なんて微塵も考えてなかったぞ。
 くっそ。どうしたら……。

 そ、そうだ!
 めちゃくちゃ回転して渦を起こしちゃえばいいんだ。
 その渦に呑まれて、ポイッって地上に飛ばされればいいんだよ。
 って、めちゃくちゃ簡単に言っちゃったけど、私にできるのか?
 この規模の湖に渦なんて起こせるのか?

 いや、できる。
 今までのことを思い出せ……って、思い出してる暇なんてなーいッ!!

「――ゴボグガァッ!!!!」

 もう息が……限界が近い。
 レベルアップしたのが無駄になるその前に……残りの力を振り絞って回転攻撃スピンアタックをっ!!

 必殺――水中・回転攻撃スピンアタックッ!

 うおぉおおおおおおー!!!

 渦になれ!!
 渦になれ!!
 大きな渦に!
 台風とかハリケーンとかサイクロンとかトルネードみたいに!
 とにかく大きな渦になれー!!

 うらぁあああああああー!!!

 私の思惑通り渦が発生する。
 小さな渦だけど、勢いが消されることはない。
 それどころか私の回転を追い越して背中を押してくれている。
 いや、むしろもう渦に巻き込まれちゃってるんですけどー!!!

 ぬぁああああぁあああああー!!

 渦もダメだー!
 目が回るー!
 自分で回転する分には大丈夫なのにー!
 本当にミミックの三半規管さんはんきかんどうなってるのよー!!
 って、そんなこと考えてる場合じゃ――

 ――うわぁああああああー!!!

「ギィゴギィゴッ (ゲホゲホッ)」

 空気だ。地上に出れたぞ。
 やったー、やったー、やったぞー!
 生きてる、生きてるぞー!
 って、私めちゃくちゃ上に飛ばされてるんですけどー!?
 ここの場所だけ天井が高くてよかった。
 ん? これだけ高いってことは私はものすごく深いところにいるのでは!?
 それこそドラゴンカップルがいたところが最下層とか……。
 このままもっと高くまで飛んでこの洞窟からおさらばしたいけど、どうもそうにはいかないみたいだ。
 体がだんだん……落ちて……いくぅうううううう!!!

 落下速度半端ねぇえええええー!!!
 このままだとまた湖に落ちちゃう。
 それだけは避けないと。
 地面に……いや、せっかくならクラーケン目掛けて落下してやる。

 どこだ?
 クラーケンはどこにいる?

 落下の最中、クラーケンを視界に捉える。

「ルォオオオオオオーンッ!!!!!」

 なんだ。全然ピンピンしてるじゃん。私が噛んだところ全く痛がってないじゃんか。
 底に沈んでた大量の魔石を見る限りじゃ、私を倒したって思い込んでたってわけか。
 だから追い討ちを仕掛けにこなかったのね。

 その思い込みが仇となったなクラーケン。

 この高さからの尻落とし攻撃ボックスドロップならいける。
 さらに回転スピンをかけて威力を増せば大ダメージが期待できるぞ。
 私の復活に驚いてる今がチャンスだ。
 やってやる。やってやるぞー!
 この一撃に全てを込める!!
 タコ煎餅にしてやるよー!!!!

 狙いを定めて……
 必殺――回転スピン尻落とし攻撃ボックスドロップッ!!!

 落下速度も回転も申し分ない。
 最高火力を叩き込めるぞッ!!!

 ――ドゴーンッ!!!!

 うらぁあ!
 命中だっ!!
 手応えあり!!
 どうだ!?

 ――なっ!?

 私の瞳には無傷のクラーケンが映った。
 それだけではない――

「ルォオオオオオオンッ!!!!!」

 かなり怒らせてしまったみたいだ。

 でもなんで?
 かなり手応えがあったのに。
 攻撃を防がれた?
 いや、それならこの手応えはなんだ?
 やせ我慢か?
 違う。そんな感情をコントロールできるほど器用じゃないはず。
 モンスターはモンスター。本能のままに生きてるはずだ。
 じゃあなんで……なんで無傷なんだよ。
 噛み付き攻撃ボックスファングの時とは比じゃないほどの威力のはずなのに。

「ルォオオオオオッ!!!」

 くっ、考えてる余裕なんてなさそうだ。
 また触手攻撃が!!
 せっかく地上に出れたんだ。
 次捕まって湖にまた投げ入れられたら、その時こそ本当にゲームオーバーだぞ。
 地面に叩きつけられてもゲームオーバーだ。
 だから絶対に捕まるわけにはいかない。

 それと、これからは逃げることだけに集中だ。
 あれ以上の威力の攻撃は私には無理だからね。
 あれが通じない時点で勝ち目はゼロ。
 だからなんとか隙を見て逃げる。

「ルォオオオオオーンッ!!!」

 逃げるが勝ちって言葉があるんだ。
 逃げて勝ってやる!!
 この命もう無駄にはしないっ!!!
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