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025:ミミックVSクラーケン〝岩雪崩〟

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 はぁはぁ……いくら噛み付いてもクラーケンの触手は千切れてはくれないみたいだな。

「ルォオオオオオオーンッ!!!」

 くっそ。
 こっちは疲労困憊してるってのにクラーケンのやつは元気ピンピンじゃんか。
 格上相手の戦術――我慢と根性で乗り切るのもこのままじゃ無理かもしれない。
 というか絶対無理。
 触手が千切れてくれさえすればまだ希望はあったけど……。
 低反発枕も驚きの物凄い歯応えだよ。さすがタコだ。

 だから別の手を考えなきゃいけないんだけど……
 さっきから攻撃が止まってくれない。
 こっちは躱すので精一杯で反撃する余裕もなくなってる。
 それだけ消耗してるって証拠だ。
 早く打開策を……何かいい案を……

「ルォオオオオオオーンッ!!!」

 まずいっ!
 死角から触手が!?

「ギィイイイイイ (ひぃいいいい)」

 あ、危なかったー。
 ギリギリだ。ギリギリ躱せたぞ。
 もう少し反応が遅かったら触手と壁に挟まれてペシャンコになってた。

 ん?
 待てよ。視界がおかしい。
 私は今どこにいるんだ?
 って、えええ!?
 壁に立ってる!?
 ど、どうして?
 今までこんなことできなかったのに。

 そ、そうか。
 レベルアップしたから壁も地面と同じように移動できるようになってたのか。
 やっば。重力とか完全無視じゃん。 (ニュートンも驚きだよ)

 ということは……このまま壁を上って逃げることが可能なのでは!?
 上に行けば行くほど出口にも近付けるし。
 やばいやばいやばい。いきなり大きな希望が見えてきたぞ。
 胸の高鳴りも抑えられない。 (ただの息切れ)

 よっし!
 このまま一気に駆け上るぞー!

「カパカパカパカパッ!!!」

 勝負はお預けだクラーケン。
 またどこかで会おうではないか。
 ではさらば!!!

 私はクラーケンに別れを告げて壁を駆け上って行く。
 そんな私を叩き潰そうと触手が狙ってくるが攻撃が当たることはなかった。
 壁でも地面と同じようにすいすいとアイススケートのように移動できるから、触手攻撃を躱せるのだ。
 それに壁を滑ってても違和感はない。視点が変わっただけで地面を移動しているときと全く同じ感覚だ。

 ある程度壁を上ると触手攻撃が止む。
 クラーケンの攻撃範囲の外に出た証拠になる。つまり私にとっての安全圏内だ。

 ふぅー。
 完全に安心はしていない。だけど一息だけはつかせてくれ。
 どこまでも伸びる触手じゃなくて本当によかった。

 さて、出口へ出口へ~。
 でもおかしいな。
 上れば上るほど暗くなっていくのはなぜ?
 まるで行き止まりかのような……いや、まるでなんかじゃない。
 天井……行き止まりじゃんか!

 さ、最悪だ。
 せっかく壁を上れるってのに行き止まりだなんて。
 ここはドーム状の洞窟になってて、出口が一つしかないってことなのね。
 とほほ……。
 別れを告げたばかりなのに戻らなきゃ行けないとか、恥ずかしすぎるんだけど。
 というか別れを告げたのがダメだった?
 フラグ発言だった的な?

 でもクラーケンの攻撃はここまで届かないし、一旦落ち着こうかな。
 タコだから吸盤とか使ってここまで上って来そうだけど、その時は塞いでる出口が開くチャンス。
 どちらにせよ、ここにいるのが正解だ。

 ……ん?
 なんだ?
 一息つこうとした時、違和感を感じた。

 体が光り始めた?
 もしかしてレベルアップ?

 いや、でもなんか違うぞ。
 いつもの感じじゃない。
 どちらかと言えば、私の体じゃなくて、私の体の周りが光ってる感じ?
 なんだか、魔法陣みたいな形で……。
 って、これやばいっ!!

 私は魔法陣の形に沿って輝く謎の発光物から瞬時に離れた。
 その直後、発光物から黒い液体が放出された。

 やっぱり魔法陣みたいな形だと思ったけど、これは魔法陣だったか。
 この黒い液体はおそらくクラーケンの魔法。
 タコだもんね。墨を吐いたってことか。
 だとしてもこの墨、ちょっと危険すぎないかな?
 岩が完全に溶けちゃってるんだけど……。
 これも食らったら一発アウトだよね?

 というか遠距離攻撃もできるだなんて強すぎる。
 せっかく休めると思ったのに!!
 でも1発目が来るまで時間がかかってたな。
 それに2発目も全然来ない。
 魔法の発動に時間がかかるってことか。
 そうじゃなかったら下で戦ってたときにバンバン墨を吐いていたに違いないからね。
 だとしたらまだ触手を相手にするよりはマシか。

 私も魔法とか使えたりしないかな?
 ほら、アイススケートみたいに移動できるようになったり、壁を移動できるようになったりしたからさ、もしかしたら気付いてないだけで使えたりして。
 でも発動方法がわからん。
 魔法陣とか出現させるくらいには、複雑なんだろうなって気はするけど。
 というかさ、やっぱりこういうのって教えてくれないとわからないって。
 レベルアップを告げれるんだったら、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃんかよ。

 ええーい。
 やめだやめ。
 これ以上謎を増やしてどうする。頭パンクしちゃうぞ。
 今は魔法よりもこの状況の打開策を……。

 ぬあ!?
 2回目の魔法攻撃がきた!
 でも避けるのは簡単だ。
 魔法陣が出現してすぐに魔法が放出されるってわけじゃないからね。
 それにあの魔法陣は追いかけて来たりしない。
 当たることはまずないと思う。
 だけど……。

 2回目の魔法攻撃が放出された。
 先ほど同様に直撃した壁が溶けて消えた。

 私の足場が無くなるのも時間の問題だ。
 逃げ場を失えばここで魔法の餌食に。下に行けば触手の餌食に。
 早く打開策を考えないと殺される。

 打開策を考えていると、魔法で溶けた壁から小石などがゴロゴロと転がり落下していくのが見えた。

 これだ!!!
 閃いた!!!

 ここの壁を壊しまくって岩を下に落とせばいいんだ。
 どうせ足場が無くなる未来なんだから、溶けて無くなるよりは有効活用しなきゃだよね。
 となると……次に溶かして欲しい部分は……ここだな。

 私は溶かして欲しい部分に移動する。
 直後、私を狙うクラーケンの魔法陣が出現。
 私は魔法陣から離れて魔法の放出を待つ。
 勢いよく放出された黒い液体は、私の思惑通り壁を溶かした。

 よしっ。十分だ。
 あとは私自らの手で……いや、体で!

 必殺――体当たり攻撃ボックスアタックッ!!!

 壁に向かって体当たり攻撃。
 壁に亀裂が入り、重力に逆らえなくなった大きな壁の破片が落下していった。

 これだけじゃダメだ。
 もっと、もっと落とさないと。

 必殺――回転攻撃スピンアタックッ!!!

 壁に攻撃、攻撃、攻撃。
 とにかく攻撃を続け、砕けた壁の破片を落下させていく。

「ルォオオオオーンッ!!!」

 聞こえる。聞こえるぞ。
 クラーケンの悲鳴が。
 ダメージは受けてないと思うけど、こんなに岩が降って来ちゃどうすることもできないよね。
 どうだ!?
 私の岩雪崩いわなだれの味はー!!
 今度こそ潰れてタコ煎餅になってしまえー!!

「カパカパカパカパカパッ!!」

 岩雪崩が落ち着くまで笑い続けた。
 耳を澄ましてみるがクラーケンの咆哮は聞こえてこない。
 聞こえてくるのは瓦礫が崩れるような音や湖の波の音ばかり。

 クラーケンが塞いでいた出口に光が見える。
 比喩的表現じゃない。本物の光だ。
 クラーケンが岩に潰れたことによって出口が現れてくれたんだ。
 岩で塞がらなくてよかった。
 今ならいけるんじゃないか?

 咆哮が聞こえない。
 動いてる様子もない。
 でも触手は見えてる。
 触手が見えてるってことは死んでないということ。
 この世界のモンスターは死ぬと粒子になって消失するから。
 だから今は気を失ってる状態だと思った方がいい。
 このまま倒したいところだけど、私にはそんな力はない。
 千載一遇のチャンスだ。
 逃げるなら今だろ!!!

 私は最大スピードで壁を滑り下りた。
 そして出口に向かってまっすぐ進む。
 岩に潰されているクラーケンの横を通ってまっすぐだ。

 よっしゃー!!!
 出れたぞー!

 でも安心するのはまだ早い。
 早くここから逃げないと。
 この距離ならまだ触手が届く。
 遠くへ、もっと遠くへ。
 触手も魔法も届かない位置まで。

 私は全速力でクラーケンから離れた。
 呆気ない戦いの終わりだけど、人生なんてそんなもんだろ。
 私なんて階段から落ちて死んだんだから。
 それと比べればまだマシだよね。
 まあ、クラーケンは死んでないんだけどね。
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