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《ときめきの夏休み編》
008:目標はツーショットチェキ100枚
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「リベンジチェキ失敗だね」
その言葉に頭の中が真っ白になった。
「ほら、だって、隼兎くん、すごいニヤけてるよ」
「え? あっ! ほ、本当だ!」
くままの甘い声が僕の思考を起動させる。それと同時に現実を突き付けられる。
僕の表情はくままに言われた通りニヤけている。ニヤけすぎている。
直前に手を握られてしまったせいだ。表情筋が緩みに緩んでしまったんだ。
そして感情を隠しきれなかった。だって仕方ないじゃないか。相手は妖精で天使で聖女で女神なんだから。
しかしこれで僕のリベンジチェキが終わったわけではない。
練りに練った策を披露する時が来たのだ。
「あっ、もう一枚いいですか?」
そう、練りに練った策とは、成功するまで何度もチェキを撮るということだ。
そのために小遣いの全てを持ってきた。
単純計算で20回は失敗できる!
そして幸い……と言っていいのだろうか、ファンとしては複雑だが、僕以外にくままとのチェキに並ぶ人はいない。
時間が許す限り、そして財布のお金が底を尽きるまで、何度でもリベンジできる。
「はい、もう一回ですね。またツーショットチェキにしますか?」
「もちろんです! お願いします!」
僕は女性スタッフにお金を渡し、ツーショットチェキを撮る最善の位置へ――さっきと同じ位置へと移動した。
くままも同じように動いてくれた。
「今度こそ成功させようねっ!」
なんて可愛い笑顔なんだ。天使すぎるだろ。
その笑顔は今の僕には毒だ。
またニヤけてしまう。嬉しくて表情筋が緩んでしまう。
気持ちをしっかりと保て山本隼兎!
20回は失敗できると言ったが、慈愛に満ち溢れたくままとはいえ、さすがに20回も失敗したら引かれるぞ。
だからこれで成功させるんだ。
「う、うん! 成功させたい!」
「よしっ! じゃあ私も気合入れて、全力のくままポーズ~!」
ぜ、全力のくままポーズ?
さっきと何も変わって……い、いや違う。明らかに変わっている。
肘の角度、拳の位置、膝の曲げ方、そして笑顔!
何もかもが神の域に達している! 女神だ! くままは女神だ!
可愛すぎて可愛い。つまり可愛くて可愛すぎる。可愛いが可愛い。
な、何を訳のわからないことを言ってるんだ、僕は!
これがくままの全力か……未熟な僕にはまだ早い領域だ……。
でもいつかこの全力のくままポーズの隣に立つに相応しい人間に――
「――隼兎くん? 隼兎くん!」
「へ?」
「もう終わったよ? 大丈夫?」
もう終わった?
まさか、僕が全力のくままポーズに魅了されている間にチェキを撮り終わってしまったというのか?
ここまで魅了させるだなんて、くままは魔女か?
いや、時間をも凌駕する女神だ!
「そろそろ浮かび上がってくるよ~。って、浮かび上がる前からニヤけてるってわかるよ。ふふっ」
「ほ、本当だ……は、恥ずかしい。さっきよりもニヤけちゃってるよ……」
この時、僕は気付いてしまった。
今日は無理! リベンジできない!
くままの可愛さに僕はまだついていけてない。
「でもこれはこれですごく良いチェキだと私は思うな~。世界に一枚しかないチェキだしねっ」
「世界に一枚……」
「うんっ! この表情、もう一回やってって言ってもできないでしょ? 私も全く同じ表情できないもん。くままポーズだって、全く同じにやってって言われてもできないもん。それに隼兎くんすっごく幸せそうな表情だよ~? だからリベンジチェキ成功なんじゃない?」
リベンジチェキ成功? くままがそう言うのなら、そうなのかもしれない。
浮かび上がったチェキに映る僕のニヤけ顔。確かに今までで一番幸せそうな顔をしてるかもしれない。
自分でもこんなに幸せそうな顔してるの見たことないぞ。
「家宝が増えました」
「ふふっ。よかったっ」
どんなに表情が悲惨でも、どんなにポーズが乱れたとしても、この一瞬を切り取ったチェキは世界で一枚しかない。
だから失敗なんかじゃない。どれもが素晴らしい最高のチェキだ。
教えてくれてありがとう! 神様、仏様、くまま様!
悲惨な表情も宝物。万が一、億が一、兆が一の確率もありえないが、くままの表情が悲惨になったとしてもだ。
うん。それはそれでレアなのでは?
「よしっ、決めた!」
「ん? 何を決めたの?」
「今後イベントがあるたびに必ずくままとチェキを撮る。それで家宝を増やしていく! もちろんツーショットチェキで!」
「うん! ありがとうっ! 覚えとくねっ! それで最初の目標は10枚かな? ううんっ、100枚だねっ! ふふっ」
本当にくままは心の底から楽しく笑ってくれる。
そんなくままに僕は〝ときめき〟を感じたんだ。
この〝ときめき〟が嘘じゃないって証明するためにも、推しの要望には全力で応えないと。
「うん! ツーショットチェキ100枚! 絶対に撮る!」
冗談のつもりで100枚と言ってくれたのかもしれない。
けれど僕はそれを真剣に受け止める。
推しの要望には全力で応える。
だから100枚、くままとツーショットチェキを撮る。
「うんっ! 楽しみにしてるねっ! それじゃ早速だけど~、もう一枚撮っちゃう?」
「はい! お願いします!」
夏休み最終日、僕に新たな目標ができた。
くままとのツーショットチェキを100枚撮るという目標が。
何の因果か、僕が購入したチェキ専用の写真入れ――アルバムのポケットは100ポケットある。
つまり100枚のチェキを容れられるということだ。
このアルバムを――くままのイメージカラーの黄色のアルバムをくままとのツーショットチェキで埋める。
それが僕の新たな目標――そしてファンとしての最初の目標だ。
その言葉に頭の中が真っ白になった。
「ほら、だって、隼兎くん、すごいニヤけてるよ」
「え? あっ! ほ、本当だ!」
くままの甘い声が僕の思考を起動させる。それと同時に現実を突き付けられる。
僕の表情はくままに言われた通りニヤけている。ニヤけすぎている。
直前に手を握られてしまったせいだ。表情筋が緩みに緩んでしまったんだ。
そして感情を隠しきれなかった。だって仕方ないじゃないか。相手は妖精で天使で聖女で女神なんだから。
しかしこれで僕のリベンジチェキが終わったわけではない。
練りに練った策を披露する時が来たのだ。
「あっ、もう一枚いいですか?」
そう、練りに練った策とは、成功するまで何度もチェキを撮るということだ。
そのために小遣いの全てを持ってきた。
単純計算で20回は失敗できる!
そして幸い……と言っていいのだろうか、ファンとしては複雑だが、僕以外にくままとのチェキに並ぶ人はいない。
時間が許す限り、そして財布のお金が底を尽きるまで、何度でもリベンジできる。
「はい、もう一回ですね。またツーショットチェキにしますか?」
「もちろんです! お願いします!」
僕は女性スタッフにお金を渡し、ツーショットチェキを撮る最善の位置へ――さっきと同じ位置へと移動した。
くままも同じように動いてくれた。
「今度こそ成功させようねっ!」
なんて可愛い笑顔なんだ。天使すぎるだろ。
その笑顔は今の僕には毒だ。
またニヤけてしまう。嬉しくて表情筋が緩んでしまう。
気持ちをしっかりと保て山本隼兎!
20回は失敗できると言ったが、慈愛に満ち溢れたくままとはいえ、さすがに20回も失敗したら引かれるぞ。
だからこれで成功させるんだ。
「う、うん! 成功させたい!」
「よしっ! じゃあ私も気合入れて、全力のくままポーズ~!」
ぜ、全力のくままポーズ?
さっきと何も変わって……い、いや違う。明らかに変わっている。
肘の角度、拳の位置、膝の曲げ方、そして笑顔!
何もかもが神の域に達している! 女神だ! くままは女神だ!
可愛すぎて可愛い。つまり可愛くて可愛すぎる。可愛いが可愛い。
な、何を訳のわからないことを言ってるんだ、僕は!
これがくままの全力か……未熟な僕にはまだ早い領域だ……。
でもいつかこの全力のくままポーズの隣に立つに相応しい人間に――
「――隼兎くん? 隼兎くん!」
「へ?」
「もう終わったよ? 大丈夫?」
もう終わった?
まさか、僕が全力のくままポーズに魅了されている間にチェキを撮り終わってしまったというのか?
ここまで魅了させるだなんて、くままは魔女か?
いや、時間をも凌駕する女神だ!
「そろそろ浮かび上がってくるよ~。って、浮かび上がる前からニヤけてるってわかるよ。ふふっ」
「ほ、本当だ……は、恥ずかしい。さっきよりもニヤけちゃってるよ……」
この時、僕は気付いてしまった。
今日は無理! リベンジできない!
くままの可愛さに僕はまだついていけてない。
「でもこれはこれですごく良いチェキだと私は思うな~。世界に一枚しかないチェキだしねっ」
「世界に一枚……」
「うんっ! この表情、もう一回やってって言ってもできないでしょ? 私も全く同じ表情できないもん。くままポーズだって、全く同じにやってって言われてもできないもん。それに隼兎くんすっごく幸せそうな表情だよ~? だからリベンジチェキ成功なんじゃない?」
リベンジチェキ成功? くままがそう言うのなら、そうなのかもしれない。
浮かび上がったチェキに映る僕のニヤけ顔。確かに今までで一番幸せそうな顔をしてるかもしれない。
自分でもこんなに幸せそうな顔してるの見たことないぞ。
「家宝が増えました」
「ふふっ。よかったっ」
どんなに表情が悲惨でも、どんなにポーズが乱れたとしても、この一瞬を切り取ったチェキは世界で一枚しかない。
だから失敗なんかじゃない。どれもが素晴らしい最高のチェキだ。
教えてくれてありがとう! 神様、仏様、くまま様!
悲惨な表情も宝物。万が一、億が一、兆が一の確率もありえないが、くままの表情が悲惨になったとしてもだ。
うん。それはそれでレアなのでは?
「よしっ、決めた!」
「ん? 何を決めたの?」
「今後イベントがあるたびに必ずくままとチェキを撮る。それで家宝を増やしていく! もちろんツーショットチェキで!」
「うん! ありがとうっ! 覚えとくねっ! それで最初の目標は10枚かな? ううんっ、100枚だねっ! ふふっ」
本当にくままは心の底から楽しく笑ってくれる。
そんなくままに僕は〝ときめき〟を感じたんだ。
この〝ときめき〟が嘘じゃないって証明するためにも、推しの要望には全力で応えないと。
「うん! ツーショットチェキ100枚! 絶対に撮る!」
冗談のつもりで100枚と言ってくれたのかもしれない。
けれど僕はそれを真剣に受け止める。
推しの要望には全力で応える。
だから100枚、くままとツーショットチェキを撮る。
「うんっ! 楽しみにしてるねっ! それじゃ早速だけど~、もう一枚撮っちゃう?」
「はい! お願いします!」
夏休み最終日、僕に新たな目標ができた。
くままとのツーショットチェキを100枚撮るという目標が。
何の因果か、僕が購入したチェキ専用の写真入れ――アルバムのポケットは100ポケットある。
つまり100枚のチェキを容れられるということだ。
このアルバムを――くままのイメージカラーの黄色のアルバムをくままとのツーショットチェキで埋める。
それが僕の新たな目標――そしてファンとしての最初の目標だ。
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