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葛城さくら
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3、葛城さくら
柳ケ瀬川下流域の扇状地にある立瀬、南立瀬は美吉町の中で最も東に位置している地区の一つだ。
東西に流れる美吉川にTの字に合流する柳ケ瀬川と並ぶように国道から分岐した県道が走っている。このセンターラインすらない県道が地区を行き来する唯一の道路だった。
柳ケ瀬川が一度蛇行するため県道には川を渡る橋が架かっていて、この橋が立瀬と南立瀬を隔てている。南立瀬まで来ると平地は極端に少なくなり、すぐ後ろに山が迫る。
二つの地区の中核を立瀬が成しているのだが、家は100軒に満たないし、ここ10年で主をなくした家屋も目立ってきた。それでも、何軒かの商店や内科医院、地銀の出張所や郵便局など最低限の生活機能は保っている。
廃校になった旧立瀬小学校は立瀬地区の入口にあり、県道から山手へ急な坂道を上ったところに建てられていた。
一方、南立瀬は戸数30軒ほどの小さな集落で地区内には商店が一つあるだけだった。
細長く形成された集落を抜けると、もう柳ケ瀬川上流に住戸はなく、外れに廃業した製材所とその資材置き場の倉庫がひっそりとあるだけで隣村へと続く県道は山と川に左右から圧迫されていく。
葛城さくらは南立瀬唯一の商店、『北山百貨店』の一人娘だ。百貨店と言っても食料品や日用品を扱うだけの住居を兼ねた小さな店だが、父親を早くに亡くしたため母と母の実母である祖母が切り盛りしている。
この家から小学校、中学校、県外の私立高校と通い、大学進学と同時に神座にマンションを借りたが、町役場に就職して実家に帰って来た。
実家に戻ったさくらを驚かせたのは同世代が皆町外に出ていってしまっているという事だった。小学校のときの記憶では10人くらいで集団登校をしていたように思うのだが。神座に出るにも1時間以上かかるここでは致し方のないことだろう。
ただ、不思議とさくら自身は町を出たいとは一度も思ったことがなかった。高校・大学で都会を経験しているからかも知れない。
役場からなら車と電車で1時間半あれば都会に行ける。残業がなければ19時には着けるから、さほど不便も感じていない。
さくらはどちらかというと活発で休日でも一日中家にいることはまずない。店の手伝いをすることもあるが、日曜日は定休日だし、家族も多くは望んでいないから手伝うといっても土曜日の午前中くらいのものだ。
活動的なさくらではあるが、どうしても苦手なものがあった。同世代の異性。元来持つ性格のせいか女子高・女子大と進んだからか、中学校以来、不特定多数の異性と接する機会が少なかったのも影響していると、自分では考えている。
役場に勤めて3年目だが、それが変わることはない。係長や課長職といった中年男性には全然抵抗がないのに20代はだめだ。萎縮してしまう。時間をかけて相手を知れば大丈夫とは思っているけど、自分から話しかけられないから、それは無理な相談だ。
このことが災いして気になる人がいても近づくことさえ出来ない。
昨日の夜、同僚の青山健太から電話がかかってきていた。さくらはその時間、月に3回通っている料理教室にいた。家では専ら食べる専門だから本当に趣味。健太はメールも送ってきていて、帰り際に携帯を開くまで気付かなかった。
着信から3時間経っていたし、今さら遅いかなと思ったのと自分からかけにくかったので、そのままにしておいた。そのせいで、今日どんな顔して会えばいいんだろうと不安なのだが。
役場の駐車場にはすでに健太の車が止まっていて、さくらはますます気が重くなった。
町民課のブースに入ると、意外にも健太のほうから声をかけてきた。
「おはよ。昨日悪かったな。あんな時間にかけちゃって。」
不機嫌になっていると思い込んでいたさくらはほっとした。
「あ、いえ。」
やっぱり上手く言葉が出てこない。さくらは健太と目を合わさないようにバッグを机に置いて、パソコンの電源を入れる。
それでも健太は気にする素振りもなく、
「今日おれ来るの早いだろ?」
と、笑顔を見せた。確かに早めに来るさくらと違い健太はいつもぎりぎりにしか来ない。
「出勤するの、待ってたんだ。ここじゃ話せないから、ちょっといいか?」
そう言って健太は窓の外を指さした。
言われるまま、さくらは健太の後ろについて庁舎を出た。建物の裏手には職員用の駐車場の他に、歩行者通路を挟んで藤棚とその下に木製のベンチが置かれている。裏側にあるため、ほぼ職員専用と化している。
健太が先に座ったので、さくらも一人分間を空けて腰を下ろした。
緑のすき間から夏の陽光が差し込んでくる。今日も暑くなりそうだ、と思うと溜息が出た。
「どした?」
さくらの溜息を見た健太はその意味を違うようにとらえたのか。さくらは慌てて否定した。
「あ、今日も暑くなりそうだな、って。」
それより、とさくらは、健太を促す。
「話って、何ですか?」
急かしたらいけなかったかな。と、言ったそばから思いもしたが、健太はうん、と言って昨日の集まりのことを話し出した。
さくらは健太が話し終えるのを黙って最後まで聞いていたが、ゆっくりと要領よく聞かせてくれたおかげで、全て理解出来た。事態の深刻さも、電話の理由も。
と同時に、怖いという感覚が蘇ってきた。自然とさくらは自分の両腕で肩を抱く仕草になった。
こんな人口の少ない町で同時期に二人も姿を消すことってあるのだろうか。ふと、子供のころ母親によく言われたことを思い出した。『暗くなっても帰らない子のところには鬼が来て山につれて行かれるよ。』子供に言う事を聞かせるための効果的な言葉。
「青山さん、あとはお昼休みに。」
「ああ、そだな。」
健太は腕時計に目をやって立ち上がった。
「あ、そうだ。わたし、今日お弁当持ってたんだ。」
さくらは申し訳なさそうに上目づかいで立ち上がった健太を見た。
健太はくすっと笑って、こう言ってくれた。
「いいよ、なんか買ってくる。」
さくらは健太が庁舎内に入って行くまで背中を見送っていた。
町民課でのさくらたちの仕事は各種証明書の発行などに代表される窓口業務の他に、住民台帳の管理・更新や統計表などの作成がある。それ以外にも独居老人訪問、会議資料や議事録の作成やホームページの管理なんかも町民課の仕事だ。
美吉町は急激な過疎化で10年前には1万5000人いた人口が今では9000人にまで減っている。それに伴って税収も落ちるから、外部委託は極力さけるし、役場も整理された。そのため、総務や経理といった直接住民とは関わらない部署は廃止された。
健太の話が頭から離れなかったが、切り換えないと、とさくらは頭を振ってモニター上に一つのファイルを開いた。
今、さくらを悩ませているのが町内全家庭に配布される来月の広報誌だ。課ごとに紙面が送られてきているのを、再構成し16ページにまとめなければならない。それだけでも大変なのに、町民課の紙面も来月号はさくらが担当なのだ。
先週夏祭りの取材に行ったときの画像データを紙面に落とし、文字を添えレイアウトを作っていく。金曜日には印刷所に送らないといけないから、直しを考えるとその一日前には仕上げておきたい。
バランスを考えて画像を大きくしたり、文字を増やしたりしてみたのだけど、しっくりこないままお昼になってしまった。
気が付くと向かいの席に健太はいなかった。周りを見渡してみても姿が見えない。コンビニにでも行ったかな、と思いしばらく待つことにした。
やがてコンビニの袋を提げた健太が額の汗をハンカチで拭いながら帰って来た。
「お待たせ。図書館でも行こっか。」
役場から道路を挟んだ東隣に町立図書館がある。ハコモノ行政最後の建築物で図書館と多目的ホール、貸会議室を備えた2階建ての建物だ。その1階部分には持ち込み自由のサンルームになったテラスがある。健太は多分そのテラスのことを言っているのだろう。
27度に空調が設定されている役場と違い、図書館は寒いとすら感じる温度だ。夏休みのせいか、受験生とおぼしき高校生の姿も目立っていた。
二日続けて20代の異性とお昼を食べるなんて思いもしなかった。しかも、ある意味さくらから誘って。健太はさくらに緊張を強いらせないタイプなのかもしれない。
テラスで開いたさくらの弁当を見た健太が聞いてきた。
「それ、自分で作ったの?」
「作りませんよ。お母さんです。」
さくらが料理をするのは料理教室だけで、家族に披露することも、まして自分で弁当を作るなんてしたことがない。
さくらはご飯を食べながら、料理教室の話や実家の話をした。自分から異性にこんな話をするのは初めてだな、と思いながら。
さくらの話を健太はたまに相槌を打ちながら聞いていたのだが、
「へー、意外。けっこう何でもしそうに見えるのに。」
と、本当に意外そうな顔をした。
「けっこう何にもしないです。」
そう言ってさくらは笑ってみせた。つられた健太も笑っている。
弁当箱を袋に直したさくらは本題に入った。
「朝の話なんですけど。」
「うん。」
健太は椅子の背もたれに預けていた体を起こし、身を乗り出すような姿勢になった。
さくらは一呼吸置いてから話を始めた。
「久井さんの話と違って、わたしの知ってることがどれだけ役に立つのか、わかんないですけど。」
なぜ、久井歩美の話と比べる必要があるのか、さくらにもわからなかった。
久井の話は自分の友人のことだから、ほぼ当事者の話であると言える。さくらは子供のころの知り合いの話を母親や、馴染みの客から又聞き程度にかじっただけだ。情報量には違いがあって当然で、そもそも比べられるような事ではない。
さくらの心の葛藤など健太が気付くはずもない。
「役に立つに決まってるよ。大事なのはまず、本当に二人なのかってこと。だろ?」
健太の言うとおりだ。さくらは自分の言い回しを恥じた。
「そうですね。」
さくらの言葉を聞いた健太の表情が柔らかくなるのがわかる。
健太の表情に安心感を覚えたさくらは記憶を辿りながら話を続けた。
「確か、名前は黒滝美和さん、だったと思う。小学生のころは集団登校で学校まで一緒に通いました。東中までわたしと一緒だったから、久井さんの友達とは違います。私立なんですよね?」
さくらの中学校時代の記憶の中に久井はいた。龍門小と立瀬小は同じように廃校になった旧美吉東中校区で生徒数も少なかったから、同時期に在籍していた生徒の名前くらいは言われれば思い出すはずだ。その中に伊勢谷恵子はいない。
「龍門小から私立って言ってた。決まりだな。」
健太はこぶしを強く握り、何もない空間に視点を合わせてそう言った。
「でも。わたし、捜索願とか詳しい話、聞いてないですよ。」
決めつけてしまっていいのかと、さくらは自信なさげに付け足した。
「それが普通じゃない?だって黒滝さんとは友達じゃないんだし。知り合い程度なんでしょ?おれでも聞かないよ。」
さくらは詳しく聞いていないことを自分の不手際のように感じていたから、明らかにフォローしてくれる健太の言葉が嬉しかった。
「よかった。お母さんだったら他に何か知ってるかも。聞いてみます。」
「うん、頼む。それと、」
健太はそこで言葉を区切り、真っ直ぐさくらを見据えた。思わず目を逸らしそうになる。
「聞き込みとか協力して欲しいんだ。葛城にも。」
「えっ。」
「サポートはおれがする。」
さくらは視線を外し、考えてみた。全ての話を聞いた以上、無関係ではない。したほうがいいとは思うのだけど、問題は自分に出来るのかということ。
課内で一番事務作業の多いさくらは、反対に訪問割り当ては一番少ない。作業効率を上げれば時間の確保は難しくなさそうだ。
庁舎内で机に向かう日々に気が滅入ってもいる。
それに、地元なら実家がお店ということもあって顔馴染みも多いし、不思議とさくらは男女問わず中年以上の世代にはうけが良かった。さくらは決心した。
「わかりました。やってみます。」
と、今度はさくらが健太の目を見て言った。
「ありがとう。助かるよ。」
ほっとしたのか健太はこのときだけ緊張した表情を緩めた。が、すぐに厳しい顔つきに戻ると再び話を始めた。
「じゃあ、ちょっとおれの考えを言っとく。」
さくらはお昼休み大丈夫かな。と横目で時計を確認する。あと10分。
「想像の域は出ないけど、二人の失踪は無関係じゃないと思ってる。おれが知らないだけかもしんないけど、それっぽい報道がないから、黒滝さんのほうも痕跡がないんだと思う。手がかりのない失踪が続くかな?こんな田舎で。」
その通りだと思う。さくらは黙って頷いた。
そういえば、1か月くらい前だったか、さくらの店番中に馴染みのお客さんが来たとき、その人が言っていた。『黒滝さんとこの美和ちゃん、まだ帰ってないんだって。』
その時はふーん。くらいにしか思わなかったけど、今思えば狭い地区内のことだ。みんな知っているのだろうし、気にかけてもいる。これって、痕跡がないことを物語っているんじゃないか。
健太は続ける。
「関連があるなら事故じゃない。そんな事故、偶然じゃ起こりえない。第三者がいる事件だ。あ、いや。二人とも単に家出っつう可能性は残るんだけどね。」
最後は和らげようと無理をしたっぽいな、とさくらは思った。
実は朝この話を聞いてからさくらなりに考えていた。そして同じ結論に達していた。家出か事件。もっとも、この時点では自分も手伝うなんて思いもしていなかったが。
もちろん、家出であって欲しいし、何か新しい情報が出てくれば別。みんなそうだろうが、事件じゃない、って証拠が欲しいんだ。
役場への横断歩道を渡りながら健太が言った。
「今日はまず、御門に行ってみるよ。」
「あ、はい。わたしも明日から行けるように頑張ります。」
机に戻ったさくらは、わき目も振らずに広報誌と格闘し、夕方には仕上げてしまった。一回で『よし』と言ってもらえることはないけど、修正と他の業務を考慮しても一日は空けることができたはずだ。
広報誌はメールで課長に送信し、残った時間で訪問先をリストアップする。
さくらは、出来た。とばかりに伸ばした手の平を机にぱんと乗せた。
終業時間をやや過ぎて、ようやく健太が帰って来た。どうでした?と健太の顔を伺ったが、健太は無言で首を横に振るだけだった。
それは、そうだ。素人が簡単に手がかりを見つけられるなら、警察なんていらない。
帰りの車を運転しながら、さくらは健太に注意された二つのことを思い出していた。一つは、伊勢谷恵子の件は役場の人間にも家族にも話さない。もう一つ、金曜日の集まりまで黒滝美和に関しては、家族と地区の人だけに限定する。
どちらも、事実から離れた噂話が広がるのを防ぐため。
「とは言ってもなぁ。」
不平とも不満ともとれる言葉がさくらの口をついた。
女3人で暮らしているからか、さくらの家族はとにかく仲が良い。3人で住むようになってからは隠し事もしたことがない。一緒に出掛けることも多い。
何よりさくらの気を重くしたのは、仕事から帰ると必ず母親が聞いてくる『今日はどんな一日だった?』。子供のころから変わらずこう聞いてきてくれる。そんな母親をさくらは大好きだったが、今日は憂鬱に思う。
家に帰ったさくらは、自分でぼろを出すんじゃないかと冷や冷やしながら母親や祖母と話をしたけど、杞憂に終わった。
二人とも黒滝美和がいなくなったという事以外、何も知らなかったからだ。
さくらは言いようのない不安に襲われた。手がかりですら掴めないんじゃないか、と。
翌日の午後、さくらは町が所有する軽自動車に乗り、役場を出発した。
車両使用申請書を課長に出したら、「一人で大丈夫か?」と聞かれた。それが、一人で訪問に行けるのか?という意味なのか運転に対しての心配なのかわからなかったが、「大丈夫です。」と答えておいた。
今までは何かあったら困るからという配慮で、課長か、係長に同行してもらってたけど、別の目的がある以上、そういうわけにもいかない。
さくらは運転にも自信があるほうではなく、細い道には入っていけない。最初は健太にでも一緒に来てもらおうか?とも思ったが、いい口実が思いつかなかったのと、一人のほうが気楽、と思い直してやめておいた。
さくらの気持ちがわかったのか、健太も一緒に行こうか?とは言わず、「困ったら、電話しといで。」と言って送り出してくれた。
独居老人訪問。その名の通り、一人暮らしの高齢者に対する行政サービスで、本来なら民生委員の仕事だ。
しかし、民生委員自体が高齢化しているのと、公務員に対する風当たりが厳しくなっている現状を踏まえて、美吉町東部地区のみ、役場も協力している。役場内では通称〟安否確認〟と呼ばれている。過去には職員が発見した孤独死もあったらしい。お目にかかりたくないものだ。
訪問予定軒数は10軒。半分が立瀬で残りは他地区。先に立瀬に行ってしまうと時間が読めなくなるから、後から行くことにした。
午後2時半、立瀬に到着。集落の入口にある旧立瀬小学校への上り坂に車を停め、一軒目のお宅へ向かい歩き出した。
立瀬地区は南北に通る細い県道に沿って1キロほど家や商店などが並ぶ。少し歩を速めれば10数分で通り過ぎてしまうほどの小さな集落だ。県道の東側に立つ家の裏はすぐ柳ケ瀬川。家と家の間からは水面が見え、せせらぎの音も聞こえる。反対の西側には県道から枝分かれした何本かのさらに細い町道が地区の奥へと続いている。
さくらは、県道沿いの一軒目、中に入った二件目と聞いて回ったが、さくらの家族同様の答えしかもらうことが出来なかった。
三件目に向かう道すがら地区の中心あたりにある郵便局を曲がって、さくらはふと足を止めた。
「この道って。」
毎日のように通る県道と違い、中に入るなんてそれこそ中学以来だったけど、奥へ続く家並みにさくらは見覚えがあった。
引き込まれるように奥へ進むと、やっぱり。子供のころ友達に連れられ、一度だけ来たことがある黒滝美和の家だ。
美和の家は大きな純和風の建物で、立派な門にくぐり戸が横にある。木製の表札には、はっきりと黒滝と書かれていた。門と瓦まで乗った塀とで、中を窺い知ることは出来ないが、母屋の2階は雨戸が閉じられているのが見える。
目的の三件目は美和の家の隣だった。先にこっちを当たったほうがいいな、と判断してさくらはお隣の呼び鈴を押した。
反応が無いので、家の間の里道を抜け裏へ回ってみると畑仕事をする老女の姿が目に入った。
「こんにちはー。」
さくらが声をかけると、麦わら帽子を被った老人は首に巻いた手拭いで顔を拭きながら、腰を伸ばしてこちらを振り返った。
「美吉町役場から来ました。」
そう言うと老女は麦わら帽子を取り丁寧にお辞儀をしてくれた。
「まぁまぁ、わざわざ遠いところを。こちらどうぞ。」
老女に勧められるまま、座敷の縁側にさくらは腰かけた。縁側からは庭と畑が望め、その向こうには山が迫っている。時刻は午後3時半を指していたが、高い山の稜線がすぐそこにあるせいで直射日光はなく、かなり過ごしやすく感じる。山の木々の緑に目を向けていると、お盆を手に老女が茶の間から戻って来た。
「お口汚しですけど。」
と、麦茶と羊羹を差し出してくれた。
「あ。いいえ、おかまいなく。」
さくらは、あえて丁寧な口調で答え背筋を正した。
「まぁ、最近の娘さんにしては丁寧な方。」
その言葉に家族を褒めてもらった気がして嬉しかった。さくらはバッグから名刺入れを取り出し一枚差し出した。
「ご挨拶が遅れました。町民課の葛城さくらと申します。」
「もういいわよ。かしこまらなくても。」
さくらの名刺を受取ると老女はそう言って、にこやかに笑った。
「え?」
状況が呑み込めないさくらはきょとんとする他なかった。
「北山さんとこのお孫さんでしょ。立派になって。もうお嫁にいくお年頃かしら?」
どうやら祖母の知り合いのようだった。さくらが持つ訪問カードには対象者の個人情報が記されているから、名前や年齢などは確認できている。けど、まさかさくらを知る人とは思いもしなかった。
老女の名前は三宅節子。歳は70歳だ。母が子供のころからの付き合いらしいく、一目でさくらだとわかったと言う。
ひとしきり節子の話を聞いた後でさくらはおもむろに切り出した。
「このあとお邪魔してみようとは思ってるんですけど、あの、お隣の黒滝美和さんのこと、何かご存じですか?」
さくらの問いかけに節子は困ったような顔になった。
「こんなことよそ様に話していいのかしらね。あなたのおばあちゃんにも言ってないのよ。」
ここで引き下がるわけにはいかない。ここでさくらを知る人物に会えたのは偶然じゃないはず。なんとか上手く聞きださなければ。
さくらは脳みそを総動員して節子に訴えかけた。
「それはわかります。今、役場の有志で美和さんを探してるんです。警察は頼りにならないからって。ホントは今日、お伺いした理由もそれです。ごめんなさい。」
節子は、そう。と言ったきり黙り、正面に迫る山に目を向けた。さくらは節子の重い口が開くのを辛抱強く待った。ヒグラシの鳴き声だけが聞こえる。逆光に入った山麓が幻想的にさえ感じた。
さくらにとって1時間とも感じられる数分の沈黙の後、節子はとつとつと話し出した。
「私がする話は、さくらちゃんが信用出来る方にしかなさらないでね。約束してくださる?」
「はい。もちろんです。」
さくらの返事を聞いた節子は手に持ったグラスをお盆に戻した。
「山桜が満開の頃だったから、4月の半ばよ。黒滝さんの若奥さんが顔面蒼白で家にやってきて、美和を見かけてませんかって言うの。聞けば3日帰って来ていないそうでね、それはもうかなり慌ててらしたわ。」
「3日も、ですか?」
何日も経ってから自分の娘がいないと騒ぐのは遅すぎないだろうか?
さくらの母親は帰りが少し遅いだけで心配して電話をかけてくるし、伊勢谷恵子の場合もそうだったはずだ。
「1日、2日ならよくあったらしいの。美和ちゃん、いい人がいたそうだから若奥さんもその人のところにいると思い込んでたんですって。」
「そうじゃなかったんですね。」
先読みしたさくらに節子はゆっくりと頷いて続きを聞かせてくれた。
美和の姿が見えなくなって丸3日が経った朝、美和の母陽子は電話にも出ず、連絡もないのがさすがに心配になり、彼女の部屋に入った。
陽子は化粧台の隅でチカチカ光る美和が忘れて行ったであろう携帯を目にし、着信画面を確認した。すると自分を含めた何件もの不在着信の中で、もう一人何度もかけている人が目に留まった。それが彼氏だろうと、陽子はすぐに連絡を取り、美和が来ていないと知る。
慌てた陽子は美和のアドレスに載っている番号全てに電話をかけたが徒労に終わり、夫の成司と手分けして近所中聞いて回った、というのが節子の話した内容だった。
「あの、それで警察には?」
さくらは聞きたいことを頭の中で整理して順番に尋ねることにした。
「その日のうちに。ここにもお見えになりましたよ。警察のほうでも美和ちゃんの交友関係とか、通話記録を調べるからと電話も持ち帰ったそうよ。」
ふーん、とさくらは考え込んだ。美和の失踪には携帯電話という大きな手がかりが残されていた。それを警察が持ち帰ったのなら、それなりには調べたはずだ。
それでもニュースになってないのは交友関係や通話履歴からは何も出ていないと考えるのが妥当だと思う。仕事先とかはどうなんだろう。
「美和さんって、お仕事、何されてたんですか?」
「一年くらい前まではそこの郵便局でアルバイトをしてらしたけど。それからは。家事手伝いっていうのかしらね。」
「そうですか。」
一年も前に辞めていたのならあまり関係なさそうだ。そこでさくらにある疑問が浮かんだ。
「おばさん、車は?美和さんの車。」
自分で思ったよりも声が大きかったようで、節子は驚いた表情を見せた。
「あ、すいません。つい。」
「ご自身のは。若奥さんのを一緒にお使いだったみたいね。その車も車庫に置いてあったから、若奥さんはてっきり彼氏が迎えに来たんだろうと思ったらしいわ。」
「でも会ってない。」
「ええ。」
どういうことだろう?歩きや自転車で地区外に出る人などいない。一日に数本しかないバスに乗ったのだろうか?お年寄りか高校生しか乗らないバスに。
これは家族に聞いてみるしかないだろう。
さくらは最後の質問をした。
「覚えてたらでいいんで、最後にこれだけ教えてください。4月の何日ですか?」
「ちょっと待ってね。」
節子は座敷に入り、隅に置いた箪笥の引き出しから1冊の本を取り出して戻って来た。それをさくらは目で追っていたけど、
「やっぱり年には勝てないわね。どうしても物忘れしちゃうから、こうやって日記を書いてるのよ。」
節子の言葉にさくらは見ちゃいけない、と思い体を正面に向き直した。
「18日ね。」
さくらはバッグから手帳を出し、4月の頁を開く。4月18日水曜日。『広報5月号』と書いてある。
さくらにとっては何の変哲もない普通の出勤日だ。恐らくこの日も、いつもと変わらず前の県道を通り役場に行って、何も知らずに県道を通って家路についたのだと思う。そう考えると何とも言い知れない罪悪感に包まれてきた。
「あ、それと。」
さくらはもう一つ思いついたことを聞いてみた。
「美和さんが家を出たのって、何時くらいなんでしょうか?」
節子はうーんと記憶を辿るようにしばらく目を閉じて考え込む様子を見せてから、
「ごめんなさいね、そこまでは。」
と言った。
「お話、ありがとうございました。あとは直接聞いてみます。」
さくらは丁寧にお辞儀をしてバッグを手に立ち上がろうとした。すると、節子は引き止めるようにこんな話をした。
「平日はどなたもいらっしゃいませんよ。若奥さん、心労から倒れられて今は山向うの大きな病院に入院されているから。銀行勤めの成司さんは毎日看病に行かれているから、帰りも遅いし。」
「えっ、あ、そうですか。他にご家族は?」
「お父さんお母さんはもう亡くなられてるわ。美和ちゃんのお姉さんも嫁がれて県外だし。夜遅くに成司さんがお帰りになるまでは、どなたも。」
ここまで来たのだから、家族にも会いたかったが仕方がない。さくらにはっきりと落胆の色が出ていたのか、節子は申し訳なさそうに、
「お役に立たなかったかしら?」
と言った。とんでもない、とさくらは慌てて否定し、努めて明るい声でお茶菓子のお礼を言った。
それを見た節子はほっとしたようだった。
「さくらちゃん、見つけてあげましょうね。」
「はい。必ず。」
さくらは手を振って三宅家を後にした。
美和が勤めていた郵便局まで戻り、『立瀬』バス停にある古い樹脂製のベンチに腰を下ろして、さくらは手帳に節子に聞いた内容を記した。
時刻表に目を向ける。朝と夕方に各2本ずつあるだけだ。さくらはこのバスに乗った記憶がなかった。高校のときは毎朝母に神座の駅まで送ってもらっていたし、中学校は自転車通学だった。高校を出るとすぐに運転免許を取ったから乗る機会もなかった。
こんなバスに乗るのかな。役に立つかはわからなかったけど、バスの時刻も手帳に控えておいた。
辺り全体が山陰に入り一段と気温が下がった気がする。さくらは携帯を開いた。午後5時すぎ。中途半端にするのもな、と思ってさくらは残りの2軒も行くことにした。
どうしても美和がバスに乗ったとは思えなくて、この2軒の方には『見かけない車を見なかったか』とも付け足したけど、首を傾げられるばかりで新しい話は出てこなかった。
近隣をくまなく回るにはさくら一人では無理だ。小さな集落といっても100軒近くあるわけだから、時間がかかりすぎる。もう少しやりたかったけど、すでに定時を過ぎているから帰らないといけない。
さくらは役場に電話を入れ、「今から帰ります。」と伝えたら課長が「そのまま帰っていい」と言ってくれた。
役場に帰るつもりで車のエンジンをかけたさくらは拍子抜けしたけど、さすがにもう一度やる気のスイッチを入れることは出来なかった。ここからなら5分で家だし、健太には明日にでも報告したらいいだろう。
この日はまっすぐ帰ることにした。
8月24日 金曜日
午後5時半に勤務を終えたさくらは裏の藤棚ベンチに出た。6時からの報告会には出るつもりにしているのだけど、黒滝美和の件については言うべきかどうか迷っていた。
節子からは〟信頼の置ける人〟にだけ、と言われているからというのも理由の一つ。とはいっても昨日すでに健太には話してある。
健太は信用出来るかと言われると、さくらにもわからない。深い付き合いではないし、ただの同僚だからだ。それでも健太に報告したのは力になってくれる人が必要なのがわかっているから。信頼しなくてはならない。
迷っている理由はもう一つ。美和が家を出た時間だけは確認しておきたかった。せめて時間を確定させないことには手がかりを掴むことは困難だ、とさくらは考えている。
結局、この週さくらが訪問に出れたのは水曜日の午後だけ。どちらにせよ、平日に美和の家族と会うのは困難なので週末に行くしかない。となると、さくらがこの事実を皆に言えるのは早くても来週ということになる。他の参加者が信頼出来るかどうかは、さくら自身が判断する他ない。
「うん、やっぱりまだ早い。」
さくらは考えた結果、時期尚早という結論に達し、報告会の前に健太に伝えた。健太はさくらの話に頷き、理解を示してくれた。
午後6時。会議室に集まったのは、さくらを入れて6人だった。健太と、優貴人、朝会リーダーの中川、久井に松阪。どうやら残りの4人は不参加ということらしい。みんなそれぞれ事情があるから、と中川が言った。
「ありがとう、来てくれて。」
「あ、いえ。とんでもないです。」
隣に座った久井にお礼を言われてさくらは面食らった。でもこれはすでに首を突っ込んだ自分のためでもある。
「じゃあ、おれから報告しようか。」
中川は立ち上がり、ノートを手に伊勢谷恵子の勤務先から聞いてきたことを話し出した。
「水曜日にバナー広告の募集という口実で伊勢谷さんの同僚から話が聞けた。その人は伊勢谷さんと最後まで一緒にいた人らしく、警察にも同じ話をしたらしい。」
「最後に、ですか?」
久井が身を乗り出すようにして聞いた。
「うん。6月20日7時くらいに仕事を終えて同僚3人と神座駅周辺で食事に行ったそうだ。おそらく母親にメールしたのは、この前後だろう。9時には店を出て同僚2人はもう一軒行くことになったけど、伊勢谷さんは家が遠いからとその場で別れた。」
「で、そのあとの足取りがわからない。」
健太がぼそっと呟くように言った。
「どうやら、そうらしい。同僚の内の一人は車通勤で、11時ごろ会社の駐車場に車を取りに来た時には、彼女の車はなかったそうだ。」
「一緒に食事に行った人って女性ですか?」
久井の質問に中川が答える。
「どっちも。伊勢谷さんを入れて女性が二人に男性が一人。みんな20代で仲が良かったそうだ。」
中川の話だと6月20日の夜9時までは一緒にいた人がいて、車に乗ったところまでは確かのようだ。そのまま真っ直ぐ御門の自宅に向かっても1時間以上かかる。その間に何かあったと考えるべきだ。
でも。とさくらは考え込んだ。車まで消えるだろうか。
「家出の可能性があるとすると、彼女、なんか悩みとかなかったんですかね。そんな話を打ち明けるとか。」
優貴人が不思議そうな顔で誰にともなく尋ねた。
「絶対とは言えないけど、私はそんな話聞いた事ない。何かあったならきっと話してくれてると思う。」
「おれも聞いてみたけど、同僚の人からもそんな話はなかったな。いつもと変わらなかったそうだ。」
「となると、逆にヤバいっすね。」
みんな考えているだろうことを優貴人が口にした。家出や大げさかもしれないけど、覚悟の失踪でなければ事件に巻き込まれた可能性が極めて高い。突然いなくなる理由がないのだから。久井だけはそうは思いたくないだろうけど。
久井は手を顔に当て、うつむいてしまった。
そんな久井に気を遣ったのか、中川は自分の話を終えた。
「おれが聞けたのはこんなところだ。じゃあ次は。」
と、みんなの顔を見渡してさくらと目が合った。
「葛城は。今日が初めてだから、まだないよな。」
「あ、はい。すいません。」
「いや、いいんだ。青山はどうだ?」
指名された健太はなんとなく浮かない表情で立ち上がった。
「すいません。火曜と木曜、2回御門地区に行ったんですけど、これといった情報がなくて。ただ。」
健太はそう言って久井を見た。久井も健太を見る。
「伊勢谷さんのお母さんにも会いました。当たり前だけど、とても心を痛めてる。他人の僕までしんどくなるくらい。今日は何もないけど、次は必ず。」
健太の言葉に久井は黙って頷いた。
「次は僕ですかね。」
優貴人が健太と入れ替わりに立ち上がった。
「実は僕、なんだかんだ理由つけて4日間毎日、龍門、中壮と奥御門に通いました。御門は青山さんが行くって聞いたから。」
旧龍門小学校区は国道の立瀬に入る県道との交差点をまだ先に進んだところから北東に逸れる道沿いにある。手前から龍門・中壮・御門・奥御門と4つの集落から成っている。
さくらも通学した美吉東中学は龍門にあったから、さくらもそこまでは知っている。有名なお寺とか、温泉旅館、滝なんかがあって季節によってはそこそこの観光客がある。
「観産課ってことで、旅館とか土産物屋からは自然に話が聞けました。久井さんは家が近いから知ってますよね?旅館のそばの土産物屋。」
「中壮の?」
「はい。その店、観光客の多い時期は結構遅くまで開けてるんです。6月は人が来ないから早く閉めるみたいですけど。」
さくらはまったく知らない地区だ。旅館があることくらいしか。
「どういうことだ?」
中川が先を促す。
「4月の下旬頃から毎日のように同じ車を見かけるようになったらしいんです。それも決まって夜。5月の終わりまで遅くまで開けてたみたいで、その間はかなりの頻度で店の前を通ってたって。」
「住んでる人のじゃないの?」
松阪が言う。
「かもしれません。それまで見たことない車だと、店主は言ってたけど。地区の人が単に乗り換えただけかも。」
「宇多くん、それは出ていく車?それとも入って来る車?」
久井の意図がさくらにもわかった。もし、その車が夜に地区を往復していたら地区外の人間の可能性がある。その可能性を望むなら、入ってから出るという順序に限られるのだけど。
「両方。毎日見たわけじゃないみたいですけど、行きも帰りも目撃した日もあるって言ってました。それも外から入ってきて、出ていくというふうに。だから、気になってたらしいです。警察にも言ったそうです。」
「車種は?」
今度は健太が聞いた。
その質問には優貴人は顔を曇らせた。
「それが、はっきりしないんです。薄い色で、ずんぐりした形。大きくはないってことなんですけどね。僕も車種を特定したくて、次の日車雑誌を持ってって見てもらったんですけど、老夫婦だからか、暗かったからなのか分からないって言われちゃって。」
すごい行動力だ。さくらは感心した。優貴人を軽そう、という印象を抱いていたけど、改めなくては。
「夜って、何時くらいなのかな?」
さくらにとって、これが初めての発言だった。優貴人も驚いたようだったけど、
「早くて8時、遅い日は10時を過ぎてたみたいですよ。ただ、夏休みに入ってまた遅くまで開けるようになったけど、もう見かけなくなったそうです。」
と、近況まで報告してくれた。
「恵子が帰ってくる時間と似てる。あの子だいたい早くて8時だし、遅い日は11時くらいだから。」
もちろん、関係があるかどうかは分からないけど、当たってみる必要はありそうだ。
「久井はその不審な車に心当たりないか?」
中川が久井に聞く。久井も優貴人の話を聞いたときから考えているようだったけど、
「そんなに頻繁なら見たかもしれないけど、記憶には。」
と言った。その表情には悔しさが浮かんでいる。
「よし。次にやることは決まったな。4月下旬以降6月20日までの間、8時から10時の間に不審な車を見た人がいないか、龍門校区中心に聞いてみよう。」
中川の提案に全員が賛同した。
そのあとも話が続いて結局役場を出たのは8時を過ぎてからだった。中川が週末に集合をかけたお詫びにと、みんなを食事に連れて行ってくれた。
役場から国道に出てすぐのところにバスターミナルがあり、そこにいくつかの店が軒を連ねている。電車のない美吉町ではバスが唯一の公共交通機関だから神座までバスを利用する人も多い。その帰りの通勤客や公務員たちが仕事のあと飲めるお店は町内にはこの辺にしかない。
さくらは車で帰らないといけないから、お酒は飲まなかったけど、普段は仕事上だけの付き合いの人と食事をすることがないから、新鮮で楽しかった。
店を出たあともしばらくバスターミナルで話をしていた。ふと、優貴人が国道を通り過ぎた車のテールランプを目で追って、
「あれ?今の車。」
と、呟いた。
「あ、宇多くんも?」
さくらと優貴人は目を見合わせた。並んで国道側を向いて立っていた二人は同じ光景を見た。交通量が少ないにもかかわらず、減速してこっちを窺うようにして通り過ぎる同じ車を。
「2度目、ですよね?」
「うん。同じ車だった。」
柳ケ瀬川下流域の扇状地にある立瀬、南立瀬は美吉町の中で最も東に位置している地区の一つだ。
東西に流れる美吉川にTの字に合流する柳ケ瀬川と並ぶように国道から分岐した県道が走っている。このセンターラインすらない県道が地区を行き来する唯一の道路だった。
柳ケ瀬川が一度蛇行するため県道には川を渡る橋が架かっていて、この橋が立瀬と南立瀬を隔てている。南立瀬まで来ると平地は極端に少なくなり、すぐ後ろに山が迫る。
二つの地区の中核を立瀬が成しているのだが、家は100軒に満たないし、ここ10年で主をなくした家屋も目立ってきた。それでも、何軒かの商店や内科医院、地銀の出張所や郵便局など最低限の生活機能は保っている。
廃校になった旧立瀬小学校は立瀬地区の入口にあり、県道から山手へ急な坂道を上ったところに建てられていた。
一方、南立瀬は戸数30軒ほどの小さな集落で地区内には商店が一つあるだけだった。
細長く形成された集落を抜けると、もう柳ケ瀬川上流に住戸はなく、外れに廃業した製材所とその資材置き場の倉庫がひっそりとあるだけで隣村へと続く県道は山と川に左右から圧迫されていく。
葛城さくらは南立瀬唯一の商店、『北山百貨店』の一人娘だ。百貨店と言っても食料品や日用品を扱うだけの住居を兼ねた小さな店だが、父親を早くに亡くしたため母と母の実母である祖母が切り盛りしている。
この家から小学校、中学校、県外の私立高校と通い、大学進学と同時に神座にマンションを借りたが、町役場に就職して実家に帰って来た。
実家に戻ったさくらを驚かせたのは同世代が皆町外に出ていってしまっているという事だった。小学校のときの記憶では10人くらいで集団登校をしていたように思うのだが。神座に出るにも1時間以上かかるここでは致し方のないことだろう。
ただ、不思議とさくら自身は町を出たいとは一度も思ったことがなかった。高校・大学で都会を経験しているからかも知れない。
役場からなら車と電車で1時間半あれば都会に行ける。残業がなければ19時には着けるから、さほど不便も感じていない。
さくらはどちらかというと活発で休日でも一日中家にいることはまずない。店の手伝いをすることもあるが、日曜日は定休日だし、家族も多くは望んでいないから手伝うといっても土曜日の午前中くらいのものだ。
活動的なさくらではあるが、どうしても苦手なものがあった。同世代の異性。元来持つ性格のせいか女子高・女子大と進んだからか、中学校以来、不特定多数の異性と接する機会が少なかったのも影響していると、自分では考えている。
役場に勤めて3年目だが、それが変わることはない。係長や課長職といった中年男性には全然抵抗がないのに20代はだめだ。萎縮してしまう。時間をかけて相手を知れば大丈夫とは思っているけど、自分から話しかけられないから、それは無理な相談だ。
このことが災いして気になる人がいても近づくことさえ出来ない。
昨日の夜、同僚の青山健太から電話がかかってきていた。さくらはその時間、月に3回通っている料理教室にいた。家では専ら食べる専門だから本当に趣味。健太はメールも送ってきていて、帰り際に携帯を開くまで気付かなかった。
着信から3時間経っていたし、今さら遅いかなと思ったのと自分からかけにくかったので、そのままにしておいた。そのせいで、今日どんな顔して会えばいいんだろうと不安なのだが。
役場の駐車場にはすでに健太の車が止まっていて、さくらはますます気が重くなった。
町民課のブースに入ると、意外にも健太のほうから声をかけてきた。
「おはよ。昨日悪かったな。あんな時間にかけちゃって。」
不機嫌になっていると思い込んでいたさくらはほっとした。
「あ、いえ。」
やっぱり上手く言葉が出てこない。さくらは健太と目を合わさないようにバッグを机に置いて、パソコンの電源を入れる。
それでも健太は気にする素振りもなく、
「今日おれ来るの早いだろ?」
と、笑顔を見せた。確かに早めに来るさくらと違い健太はいつもぎりぎりにしか来ない。
「出勤するの、待ってたんだ。ここじゃ話せないから、ちょっといいか?」
そう言って健太は窓の外を指さした。
言われるまま、さくらは健太の後ろについて庁舎を出た。建物の裏手には職員用の駐車場の他に、歩行者通路を挟んで藤棚とその下に木製のベンチが置かれている。裏側にあるため、ほぼ職員専用と化している。
健太が先に座ったので、さくらも一人分間を空けて腰を下ろした。
緑のすき間から夏の陽光が差し込んでくる。今日も暑くなりそうだ、と思うと溜息が出た。
「どした?」
さくらの溜息を見た健太はその意味を違うようにとらえたのか。さくらは慌てて否定した。
「あ、今日も暑くなりそうだな、って。」
それより、とさくらは、健太を促す。
「話って、何ですか?」
急かしたらいけなかったかな。と、言ったそばから思いもしたが、健太はうん、と言って昨日の集まりのことを話し出した。
さくらは健太が話し終えるのを黙って最後まで聞いていたが、ゆっくりと要領よく聞かせてくれたおかげで、全て理解出来た。事態の深刻さも、電話の理由も。
と同時に、怖いという感覚が蘇ってきた。自然とさくらは自分の両腕で肩を抱く仕草になった。
こんな人口の少ない町で同時期に二人も姿を消すことってあるのだろうか。ふと、子供のころ母親によく言われたことを思い出した。『暗くなっても帰らない子のところには鬼が来て山につれて行かれるよ。』子供に言う事を聞かせるための効果的な言葉。
「青山さん、あとはお昼休みに。」
「ああ、そだな。」
健太は腕時計に目をやって立ち上がった。
「あ、そうだ。わたし、今日お弁当持ってたんだ。」
さくらは申し訳なさそうに上目づかいで立ち上がった健太を見た。
健太はくすっと笑って、こう言ってくれた。
「いいよ、なんか買ってくる。」
さくらは健太が庁舎内に入って行くまで背中を見送っていた。
町民課でのさくらたちの仕事は各種証明書の発行などに代表される窓口業務の他に、住民台帳の管理・更新や統計表などの作成がある。それ以外にも独居老人訪問、会議資料や議事録の作成やホームページの管理なんかも町民課の仕事だ。
美吉町は急激な過疎化で10年前には1万5000人いた人口が今では9000人にまで減っている。それに伴って税収も落ちるから、外部委託は極力さけるし、役場も整理された。そのため、総務や経理といった直接住民とは関わらない部署は廃止された。
健太の話が頭から離れなかったが、切り換えないと、とさくらは頭を振ってモニター上に一つのファイルを開いた。
今、さくらを悩ませているのが町内全家庭に配布される来月の広報誌だ。課ごとに紙面が送られてきているのを、再構成し16ページにまとめなければならない。それだけでも大変なのに、町民課の紙面も来月号はさくらが担当なのだ。
先週夏祭りの取材に行ったときの画像データを紙面に落とし、文字を添えレイアウトを作っていく。金曜日には印刷所に送らないといけないから、直しを考えるとその一日前には仕上げておきたい。
バランスを考えて画像を大きくしたり、文字を増やしたりしてみたのだけど、しっくりこないままお昼になってしまった。
気が付くと向かいの席に健太はいなかった。周りを見渡してみても姿が見えない。コンビニにでも行ったかな、と思いしばらく待つことにした。
やがてコンビニの袋を提げた健太が額の汗をハンカチで拭いながら帰って来た。
「お待たせ。図書館でも行こっか。」
役場から道路を挟んだ東隣に町立図書館がある。ハコモノ行政最後の建築物で図書館と多目的ホール、貸会議室を備えた2階建ての建物だ。その1階部分には持ち込み自由のサンルームになったテラスがある。健太は多分そのテラスのことを言っているのだろう。
27度に空調が設定されている役場と違い、図書館は寒いとすら感じる温度だ。夏休みのせいか、受験生とおぼしき高校生の姿も目立っていた。
二日続けて20代の異性とお昼を食べるなんて思いもしなかった。しかも、ある意味さくらから誘って。健太はさくらに緊張を強いらせないタイプなのかもしれない。
テラスで開いたさくらの弁当を見た健太が聞いてきた。
「それ、自分で作ったの?」
「作りませんよ。お母さんです。」
さくらが料理をするのは料理教室だけで、家族に披露することも、まして自分で弁当を作るなんてしたことがない。
さくらはご飯を食べながら、料理教室の話や実家の話をした。自分から異性にこんな話をするのは初めてだな、と思いながら。
さくらの話を健太はたまに相槌を打ちながら聞いていたのだが、
「へー、意外。けっこう何でもしそうに見えるのに。」
と、本当に意外そうな顔をした。
「けっこう何にもしないです。」
そう言ってさくらは笑ってみせた。つられた健太も笑っている。
弁当箱を袋に直したさくらは本題に入った。
「朝の話なんですけど。」
「うん。」
健太は椅子の背もたれに預けていた体を起こし、身を乗り出すような姿勢になった。
さくらは一呼吸置いてから話を始めた。
「久井さんの話と違って、わたしの知ってることがどれだけ役に立つのか、わかんないですけど。」
なぜ、久井歩美の話と比べる必要があるのか、さくらにもわからなかった。
久井の話は自分の友人のことだから、ほぼ当事者の話であると言える。さくらは子供のころの知り合いの話を母親や、馴染みの客から又聞き程度にかじっただけだ。情報量には違いがあって当然で、そもそも比べられるような事ではない。
さくらの心の葛藤など健太が気付くはずもない。
「役に立つに決まってるよ。大事なのはまず、本当に二人なのかってこと。だろ?」
健太の言うとおりだ。さくらは自分の言い回しを恥じた。
「そうですね。」
さくらの言葉を聞いた健太の表情が柔らかくなるのがわかる。
健太の表情に安心感を覚えたさくらは記憶を辿りながら話を続けた。
「確か、名前は黒滝美和さん、だったと思う。小学生のころは集団登校で学校まで一緒に通いました。東中までわたしと一緒だったから、久井さんの友達とは違います。私立なんですよね?」
さくらの中学校時代の記憶の中に久井はいた。龍門小と立瀬小は同じように廃校になった旧美吉東中校区で生徒数も少なかったから、同時期に在籍していた生徒の名前くらいは言われれば思い出すはずだ。その中に伊勢谷恵子はいない。
「龍門小から私立って言ってた。決まりだな。」
健太はこぶしを強く握り、何もない空間に視点を合わせてそう言った。
「でも。わたし、捜索願とか詳しい話、聞いてないですよ。」
決めつけてしまっていいのかと、さくらは自信なさげに付け足した。
「それが普通じゃない?だって黒滝さんとは友達じゃないんだし。知り合い程度なんでしょ?おれでも聞かないよ。」
さくらは詳しく聞いていないことを自分の不手際のように感じていたから、明らかにフォローしてくれる健太の言葉が嬉しかった。
「よかった。お母さんだったら他に何か知ってるかも。聞いてみます。」
「うん、頼む。それと、」
健太はそこで言葉を区切り、真っ直ぐさくらを見据えた。思わず目を逸らしそうになる。
「聞き込みとか協力して欲しいんだ。葛城にも。」
「えっ。」
「サポートはおれがする。」
さくらは視線を外し、考えてみた。全ての話を聞いた以上、無関係ではない。したほうがいいとは思うのだけど、問題は自分に出来るのかということ。
課内で一番事務作業の多いさくらは、反対に訪問割り当ては一番少ない。作業効率を上げれば時間の確保は難しくなさそうだ。
庁舎内で机に向かう日々に気が滅入ってもいる。
それに、地元なら実家がお店ということもあって顔馴染みも多いし、不思議とさくらは男女問わず中年以上の世代にはうけが良かった。さくらは決心した。
「わかりました。やってみます。」
と、今度はさくらが健太の目を見て言った。
「ありがとう。助かるよ。」
ほっとしたのか健太はこのときだけ緊張した表情を緩めた。が、すぐに厳しい顔つきに戻ると再び話を始めた。
「じゃあ、ちょっとおれの考えを言っとく。」
さくらはお昼休み大丈夫かな。と横目で時計を確認する。あと10分。
「想像の域は出ないけど、二人の失踪は無関係じゃないと思ってる。おれが知らないだけかもしんないけど、それっぽい報道がないから、黒滝さんのほうも痕跡がないんだと思う。手がかりのない失踪が続くかな?こんな田舎で。」
その通りだと思う。さくらは黙って頷いた。
そういえば、1か月くらい前だったか、さくらの店番中に馴染みのお客さんが来たとき、その人が言っていた。『黒滝さんとこの美和ちゃん、まだ帰ってないんだって。』
その時はふーん。くらいにしか思わなかったけど、今思えば狭い地区内のことだ。みんな知っているのだろうし、気にかけてもいる。これって、痕跡がないことを物語っているんじゃないか。
健太は続ける。
「関連があるなら事故じゃない。そんな事故、偶然じゃ起こりえない。第三者がいる事件だ。あ、いや。二人とも単に家出っつう可能性は残るんだけどね。」
最後は和らげようと無理をしたっぽいな、とさくらは思った。
実は朝この話を聞いてからさくらなりに考えていた。そして同じ結論に達していた。家出か事件。もっとも、この時点では自分も手伝うなんて思いもしていなかったが。
もちろん、家出であって欲しいし、何か新しい情報が出てくれば別。みんなそうだろうが、事件じゃない、って証拠が欲しいんだ。
役場への横断歩道を渡りながら健太が言った。
「今日はまず、御門に行ってみるよ。」
「あ、はい。わたしも明日から行けるように頑張ります。」
机に戻ったさくらは、わき目も振らずに広報誌と格闘し、夕方には仕上げてしまった。一回で『よし』と言ってもらえることはないけど、修正と他の業務を考慮しても一日は空けることができたはずだ。
広報誌はメールで課長に送信し、残った時間で訪問先をリストアップする。
さくらは、出来た。とばかりに伸ばした手の平を机にぱんと乗せた。
終業時間をやや過ぎて、ようやく健太が帰って来た。どうでした?と健太の顔を伺ったが、健太は無言で首を横に振るだけだった。
それは、そうだ。素人が簡単に手がかりを見つけられるなら、警察なんていらない。
帰りの車を運転しながら、さくらは健太に注意された二つのことを思い出していた。一つは、伊勢谷恵子の件は役場の人間にも家族にも話さない。もう一つ、金曜日の集まりまで黒滝美和に関しては、家族と地区の人だけに限定する。
どちらも、事実から離れた噂話が広がるのを防ぐため。
「とは言ってもなぁ。」
不平とも不満ともとれる言葉がさくらの口をついた。
女3人で暮らしているからか、さくらの家族はとにかく仲が良い。3人で住むようになってからは隠し事もしたことがない。一緒に出掛けることも多い。
何よりさくらの気を重くしたのは、仕事から帰ると必ず母親が聞いてくる『今日はどんな一日だった?』。子供のころから変わらずこう聞いてきてくれる。そんな母親をさくらは大好きだったが、今日は憂鬱に思う。
家に帰ったさくらは、自分でぼろを出すんじゃないかと冷や冷やしながら母親や祖母と話をしたけど、杞憂に終わった。
二人とも黒滝美和がいなくなったという事以外、何も知らなかったからだ。
さくらは言いようのない不安に襲われた。手がかりですら掴めないんじゃないか、と。
翌日の午後、さくらは町が所有する軽自動車に乗り、役場を出発した。
車両使用申請書を課長に出したら、「一人で大丈夫か?」と聞かれた。それが、一人で訪問に行けるのか?という意味なのか運転に対しての心配なのかわからなかったが、「大丈夫です。」と答えておいた。
今までは何かあったら困るからという配慮で、課長か、係長に同行してもらってたけど、別の目的がある以上、そういうわけにもいかない。
さくらは運転にも自信があるほうではなく、細い道には入っていけない。最初は健太にでも一緒に来てもらおうか?とも思ったが、いい口実が思いつかなかったのと、一人のほうが気楽、と思い直してやめておいた。
さくらの気持ちがわかったのか、健太も一緒に行こうか?とは言わず、「困ったら、電話しといで。」と言って送り出してくれた。
独居老人訪問。その名の通り、一人暮らしの高齢者に対する行政サービスで、本来なら民生委員の仕事だ。
しかし、民生委員自体が高齢化しているのと、公務員に対する風当たりが厳しくなっている現状を踏まえて、美吉町東部地区のみ、役場も協力している。役場内では通称〟安否確認〟と呼ばれている。過去には職員が発見した孤独死もあったらしい。お目にかかりたくないものだ。
訪問予定軒数は10軒。半分が立瀬で残りは他地区。先に立瀬に行ってしまうと時間が読めなくなるから、後から行くことにした。
午後2時半、立瀬に到着。集落の入口にある旧立瀬小学校への上り坂に車を停め、一軒目のお宅へ向かい歩き出した。
立瀬地区は南北に通る細い県道に沿って1キロほど家や商店などが並ぶ。少し歩を速めれば10数分で通り過ぎてしまうほどの小さな集落だ。県道の東側に立つ家の裏はすぐ柳ケ瀬川。家と家の間からは水面が見え、せせらぎの音も聞こえる。反対の西側には県道から枝分かれした何本かのさらに細い町道が地区の奥へと続いている。
さくらは、県道沿いの一軒目、中に入った二件目と聞いて回ったが、さくらの家族同様の答えしかもらうことが出来なかった。
三件目に向かう道すがら地区の中心あたりにある郵便局を曲がって、さくらはふと足を止めた。
「この道って。」
毎日のように通る県道と違い、中に入るなんてそれこそ中学以来だったけど、奥へ続く家並みにさくらは見覚えがあった。
引き込まれるように奥へ進むと、やっぱり。子供のころ友達に連れられ、一度だけ来たことがある黒滝美和の家だ。
美和の家は大きな純和風の建物で、立派な門にくぐり戸が横にある。木製の表札には、はっきりと黒滝と書かれていた。門と瓦まで乗った塀とで、中を窺い知ることは出来ないが、母屋の2階は雨戸が閉じられているのが見える。
目的の三件目は美和の家の隣だった。先にこっちを当たったほうがいいな、と判断してさくらはお隣の呼び鈴を押した。
反応が無いので、家の間の里道を抜け裏へ回ってみると畑仕事をする老女の姿が目に入った。
「こんにちはー。」
さくらが声をかけると、麦わら帽子を被った老人は首に巻いた手拭いで顔を拭きながら、腰を伸ばしてこちらを振り返った。
「美吉町役場から来ました。」
そう言うと老女は麦わら帽子を取り丁寧にお辞儀をしてくれた。
「まぁまぁ、わざわざ遠いところを。こちらどうぞ。」
老女に勧められるまま、座敷の縁側にさくらは腰かけた。縁側からは庭と畑が望め、その向こうには山が迫っている。時刻は午後3時半を指していたが、高い山の稜線がすぐそこにあるせいで直射日光はなく、かなり過ごしやすく感じる。山の木々の緑に目を向けていると、お盆を手に老女が茶の間から戻って来た。
「お口汚しですけど。」
と、麦茶と羊羹を差し出してくれた。
「あ。いいえ、おかまいなく。」
さくらは、あえて丁寧な口調で答え背筋を正した。
「まぁ、最近の娘さんにしては丁寧な方。」
その言葉に家族を褒めてもらった気がして嬉しかった。さくらはバッグから名刺入れを取り出し一枚差し出した。
「ご挨拶が遅れました。町民課の葛城さくらと申します。」
「もういいわよ。かしこまらなくても。」
さくらの名刺を受取ると老女はそう言って、にこやかに笑った。
「え?」
状況が呑み込めないさくらはきょとんとする他なかった。
「北山さんとこのお孫さんでしょ。立派になって。もうお嫁にいくお年頃かしら?」
どうやら祖母の知り合いのようだった。さくらが持つ訪問カードには対象者の個人情報が記されているから、名前や年齢などは確認できている。けど、まさかさくらを知る人とは思いもしなかった。
老女の名前は三宅節子。歳は70歳だ。母が子供のころからの付き合いらしいく、一目でさくらだとわかったと言う。
ひとしきり節子の話を聞いた後でさくらはおもむろに切り出した。
「このあとお邪魔してみようとは思ってるんですけど、あの、お隣の黒滝美和さんのこと、何かご存じですか?」
さくらの問いかけに節子は困ったような顔になった。
「こんなことよそ様に話していいのかしらね。あなたのおばあちゃんにも言ってないのよ。」
ここで引き下がるわけにはいかない。ここでさくらを知る人物に会えたのは偶然じゃないはず。なんとか上手く聞きださなければ。
さくらは脳みそを総動員して節子に訴えかけた。
「それはわかります。今、役場の有志で美和さんを探してるんです。警察は頼りにならないからって。ホントは今日、お伺いした理由もそれです。ごめんなさい。」
節子は、そう。と言ったきり黙り、正面に迫る山に目を向けた。さくらは節子の重い口が開くのを辛抱強く待った。ヒグラシの鳴き声だけが聞こえる。逆光に入った山麓が幻想的にさえ感じた。
さくらにとって1時間とも感じられる数分の沈黙の後、節子はとつとつと話し出した。
「私がする話は、さくらちゃんが信用出来る方にしかなさらないでね。約束してくださる?」
「はい。もちろんです。」
さくらの返事を聞いた節子は手に持ったグラスをお盆に戻した。
「山桜が満開の頃だったから、4月の半ばよ。黒滝さんの若奥さんが顔面蒼白で家にやってきて、美和を見かけてませんかって言うの。聞けば3日帰って来ていないそうでね、それはもうかなり慌ててらしたわ。」
「3日も、ですか?」
何日も経ってから自分の娘がいないと騒ぐのは遅すぎないだろうか?
さくらの母親は帰りが少し遅いだけで心配して電話をかけてくるし、伊勢谷恵子の場合もそうだったはずだ。
「1日、2日ならよくあったらしいの。美和ちゃん、いい人がいたそうだから若奥さんもその人のところにいると思い込んでたんですって。」
「そうじゃなかったんですね。」
先読みしたさくらに節子はゆっくりと頷いて続きを聞かせてくれた。
美和の姿が見えなくなって丸3日が経った朝、美和の母陽子は電話にも出ず、連絡もないのがさすがに心配になり、彼女の部屋に入った。
陽子は化粧台の隅でチカチカ光る美和が忘れて行ったであろう携帯を目にし、着信画面を確認した。すると自分を含めた何件もの不在着信の中で、もう一人何度もかけている人が目に留まった。それが彼氏だろうと、陽子はすぐに連絡を取り、美和が来ていないと知る。
慌てた陽子は美和のアドレスに載っている番号全てに電話をかけたが徒労に終わり、夫の成司と手分けして近所中聞いて回った、というのが節子の話した内容だった。
「あの、それで警察には?」
さくらは聞きたいことを頭の中で整理して順番に尋ねることにした。
「その日のうちに。ここにもお見えになりましたよ。警察のほうでも美和ちゃんの交友関係とか、通話記録を調べるからと電話も持ち帰ったそうよ。」
ふーん、とさくらは考え込んだ。美和の失踪には携帯電話という大きな手がかりが残されていた。それを警察が持ち帰ったのなら、それなりには調べたはずだ。
それでもニュースになってないのは交友関係や通話履歴からは何も出ていないと考えるのが妥当だと思う。仕事先とかはどうなんだろう。
「美和さんって、お仕事、何されてたんですか?」
「一年くらい前まではそこの郵便局でアルバイトをしてらしたけど。それからは。家事手伝いっていうのかしらね。」
「そうですか。」
一年も前に辞めていたのならあまり関係なさそうだ。そこでさくらにある疑問が浮かんだ。
「おばさん、車は?美和さんの車。」
自分で思ったよりも声が大きかったようで、節子は驚いた表情を見せた。
「あ、すいません。つい。」
「ご自身のは。若奥さんのを一緒にお使いだったみたいね。その車も車庫に置いてあったから、若奥さんはてっきり彼氏が迎えに来たんだろうと思ったらしいわ。」
「でも会ってない。」
「ええ。」
どういうことだろう?歩きや自転車で地区外に出る人などいない。一日に数本しかないバスに乗ったのだろうか?お年寄りか高校生しか乗らないバスに。
これは家族に聞いてみるしかないだろう。
さくらは最後の質問をした。
「覚えてたらでいいんで、最後にこれだけ教えてください。4月の何日ですか?」
「ちょっと待ってね。」
節子は座敷に入り、隅に置いた箪笥の引き出しから1冊の本を取り出して戻って来た。それをさくらは目で追っていたけど、
「やっぱり年には勝てないわね。どうしても物忘れしちゃうから、こうやって日記を書いてるのよ。」
節子の言葉にさくらは見ちゃいけない、と思い体を正面に向き直した。
「18日ね。」
さくらはバッグから手帳を出し、4月の頁を開く。4月18日水曜日。『広報5月号』と書いてある。
さくらにとっては何の変哲もない普通の出勤日だ。恐らくこの日も、いつもと変わらず前の県道を通り役場に行って、何も知らずに県道を通って家路についたのだと思う。そう考えると何とも言い知れない罪悪感に包まれてきた。
「あ、それと。」
さくらはもう一つ思いついたことを聞いてみた。
「美和さんが家を出たのって、何時くらいなんでしょうか?」
節子はうーんと記憶を辿るようにしばらく目を閉じて考え込む様子を見せてから、
「ごめんなさいね、そこまでは。」
と言った。
「お話、ありがとうございました。あとは直接聞いてみます。」
さくらは丁寧にお辞儀をしてバッグを手に立ち上がろうとした。すると、節子は引き止めるようにこんな話をした。
「平日はどなたもいらっしゃいませんよ。若奥さん、心労から倒れられて今は山向うの大きな病院に入院されているから。銀行勤めの成司さんは毎日看病に行かれているから、帰りも遅いし。」
「えっ、あ、そうですか。他にご家族は?」
「お父さんお母さんはもう亡くなられてるわ。美和ちゃんのお姉さんも嫁がれて県外だし。夜遅くに成司さんがお帰りになるまでは、どなたも。」
ここまで来たのだから、家族にも会いたかったが仕方がない。さくらにはっきりと落胆の色が出ていたのか、節子は申し訳なさそうに、
「お役に立たなかったかしら?」
と言った。とんでもない、とさくらは慌てて否定し、努めて明るい声でお茶菓子のお礼を言った。
それを見た節子はほっとしたようだった。
「さくらちゃん、見つけてあげましょうね。」
「はい。必ず。」
さくらは手を振って三宅家を後にした。
美和が勤めていた郵便局まで戻り、『立瀬』バス停にある古い樹脂製のベンチに腰を下ろして、さくらは手帳に節子に聞いた内容を記した。
時刻表に目を向ける。朝と夕方に各2本ずつあるだけだ。さくらはこのバスに乗った記憶がなかった。高校のときは毎朝母に神座の駅まで送ってもらっていたし、中学校は自転車通学だった。高校を出るとすぐに運転免許を取ったから乗る機会もなかった。
こんなバスに乗るのかな。役に立つかはわからなかったけど、バスの時刻も手帳に控えておいた。
辺り全体が山陰に入り一段と気温が下がった気がする。さくらは携帯を開いた。午後5時すぎ。中途半端にするのもな、と思ってさくらは残りの2軒も行くことにした。
どうしても美和がバスに乗ったとは思えなくて、この2軒の方には『見かけない車を見なかったか』とも付け足したけど、首を傾げられるばかりで新しい話は出てこなかった。
近隣をくまなく回るにはさくら一人では無理だ。小さな集落といっても100軒近くあるわけだから、時間がかかりすぎる。もう少しやりたかったけど、すでに定時を過ぎているから帰らないといけない。
さくらは役場に電話を入れ、「今から帰ります。」と伝えたら課長が「そのまま帰っていい」と言ってくれた。
役場に帰るつもりで車のエンジンをかけたさくらは拍子抜けしたけど、さすがにもう一度やる気のスイッチを入れることは出来なかった。ここからなら5分で家だし、健太には明日にでも報告したらいいだろう。
この日はまっすぐ帰ることにした。
8月24日 金曜日
午後5時半に勤務を終えたさくらは裏の藤棚ベンチに出た。6時からの報告会には出るつもりにしているのだけど、黒滝美和の件については言うべきかどうか迷っていた。
節子からは〟信頼の置ける人〟にだけ、と言われているからというのも理由の一つ。とはいっても昨日すでに健太には話してある。
健太は信用出来るかと言われると、さくらにもわからない。深い付き合いではないし、ただの同僚だからだ。それでも健太に報告したのは力になってくれる人が必要なのがわかっているから。信頼しなくてはならない。
迷っている理由はもう一つ。美和が家を出た時間だけは確認しておきたかった。せめて時間を確定させないことには手がかりを掴むことは困難だ、とさくらは考えている。
結局、この週さくらが訪問に出れたのは水曜日の午後だけ。どちらにせよ、平日に美和の家族と会うのは困難なので週末に行くしかない。となると、さくらがこの事実を皆に言えるのは早くても来週ということになる。他の参加者が信頼出来るかどうかは、さくら自身が判断する他ない。
「うん、やっぱりまだ早い。」
さくらは考えた結果、時期尚早という結論に達し、報告会の前に健太に伝えた。健太はさくらの話に頷き、理解を示してくれた。
午後6時。会議室に集まったのは、さくらを入れて6人だった。健太と、優貴人、朝会リーダーの中川、久井に松阪。どうやら残りの4人は不参加ということらしい。みんなそれぞれ事情があるから、と中川が言った。
「ありがとう、来てくれて。」
「あ、いえ。とんでもないです。」
隣に座った久井にお礼を言われてさくらは面食らった。でもこれはすでに首を突っ込んだ自分のためでもある。
「じゃあ、おれから報告しようか。」
中川は立ち上がり、ノートを手に伊勢谷恵子の勤務先から聞いてきたことを話し出した。
「水曜日にバナー広告の募集という口実で伊勢谷さんの同僚から話が聞けた。その人は伊勢谷さんと最後まで一緒にいた人らしく、警察にも同じ話をしたらしい。」
「最後に、ですか?」
久井が身を乗り出すようにして聞いた。
「うん。6月20日7時くらいに仕事を終えて同僚3人と神座駅周辺で食事に行ったそうだ。おそらく母親にメールしたのは、この前後だろう。9時には店を出て同僚2人はもう一軒行くことになったけど、伊勢谷さんは家が遠いからとその場で別れた。」
「で、そのあとの足取りがわからない。」
健太がぼそっと呟くように言った。
「どうやら、そうらしい。同僚の内の一人は車通勤で、11時ごろ会社の駐車場に車を取りに来た時には、彼女の車はなかったそうだ。」
「一緒に食事に行った人って女性ですか?」
久井の質問に中川が答える。
「どっちも。伊勢谷さんを入れて女性が二人に男性が一人。みんな20代で仲が良かったそうだ。」
中川の話だと6月20日の夜9時までは一緒にいた人がいて、車に乗ったところまでは確かのようだ。そのまま真っ直ぐ御門の自宅に向かっても1時間以上かかる。その間に何かあったと考えるべきだ。
でも。とさくらは考え込んだ。車まで消えるだろうか。
「家出の可能性があるとすると、彼女、なんか悩みとかなかったんですかね。そんな話を打ち明けるとか。」
優貴人が不思議そうな顔で誰にともなく尋ねた。
「絶対とは言えないけど、私はそんな話聞いた事ない。何かあったならきっと話してくれてると思う。」
「おれも聞いてみたけど、同僚の人からもそんな話はなかったな。いつもと変わらなかったそうだ。」
「となると、逆にヤバいっすね。」
みんな考えているだろうことを優貴人が口にした。家出や大げさかもしれないけど、覚悟の失踪でなければ事件に巻き込まれた可能性が極めて高い。突然いなくなる理由がないのだから。久井だけはそうは思いたくないだろうけど。
久井は手を顔に当て、うつむいてしまった。
そんな久井に気を遣ったのか、中川は自分の話を終えた。
「おれが聞けたのはこんなところだ。じゃあ次は。」
と、みんなの顔を見渡してさくらと目が合った。
「葛城は。今日が初めてだから、まだないよな。」
「あ、はい。すいません。」
「いや、いいんだ。青山はどうだ?」
指名された健太はなんとなく浮かない表情で立ち上がった。
「すいません。火曜と木曜、2回御門地区に行ったんですけど、これといった情報がなくて。ただ。」
健太はそう言って久井を見た。久井も健太を見る。
「伊勢谷さんのお母さんにも会いました。当たり前だけど、とても心を痛めてる。他人の僕までしんどくなるくらい。今日は何もないけど、次は必ず。」
健太の言葉に久井は黙って頷いた。
「次は僕ですかね。」
優貴人が健太と入れ替わりに立ち上がった。
「実は僕、なんだかんだ理由つけて4日間毎日、龍門、中壮と奥御門に通いました。御門は青山さんが行くって聞いたから。」
旧龍門小学校区は国道の立瀬に入る県道との交差点をまだ先に進んだところから北東に逸れる道沿いにある。手前から龍門・中壮・御門・奥御門と4つの集落から成っている。
さくらも通学した美吉東中学は龍門にあったから、さくらもそこまでは知っている。有名なお寺とか、温泉旅館、滝なんかがあって季節によってはそこそこの観光客がある。
「観産課ってことで、旅館とか土産物屋からは自然に話が聞けました。久井さんは家が近いから知ってますよね?旅館のそばの土産物屋。」
「中壮の?」
「はい。その店、観光客の多い時期は結構遅くまで開けてるんです。6月は人が来ないから早く閉めるみたいですけど。」
さくらはまったく知らない地区だ。旅館があることくらいしか。
「どういうことだ?」
中川が先を促す。
「4月の下旬頃から毎日のように同じ車を見かけるようになったらしいんです。それも決まって夜。5月の終わりまで遅くまで開けてたみたいで、その間はかなりの頻度で店の前を通ってたって。」
「住んでる人のじゃないの?」
松阪が言う。
「かもしれません。それまで見たことない車だと、店主は言ってたけど。地区の人が単に乗り換えただけかも。」
「宇多くん、それは出ていく車?それとも入って来る車?」
久井の意図がさくらにもわかった。もし、その車が夜に地区を往復していたら地区外の人間の可能性がある。その可能性を望むなら、入ってから出るという順序に限られるのだけど。
「両方。毎日見たわけじゃないみたいですけど、行きも帰りも目撃した日もあるって言ってました。それも外から入ってきて、出ていくというふうに。だから、気になってたらしいです。警察にも言ったそうです。」
「車種は?」
今度は健太が聞いた。
その質問には優貴人は顔を曇らせた。
「それが、はっきりしないんです。薄い色で、ずんぐりした形。大きくはないってことなんですけどね。僕も車種を特定したくて、次の日車雑誌を持ってって見てもらったんですけど、老夫婦だからか、暗かったからなのか分からないって言われちゃって。」
すごい行動力だ。さくらは感心した。優貴人を軽そう、という印象を抱いていたけど、改めなくては。
「夜って、何時くらいなのかな?」
さくらにとって、これが初めての発言だった。優貴人も驚いたようだったけど、
「早くて8時、遅い日は10時を過ぎてたみたいですよ。ただ、夏休みに入ってまた遅くまで開けるようになったけど、もう見かけなくなったそうです。」
と、近況まで報告してくれた。
「恵子が帰ってくる時間と似てる。あの子だいたい早くて8時だし、遅い日は11時くらいだから。」
もちろん、関係があるかどうかは分からないけど、当たってみる必要はありそうだ。
「久井はその不審な車に心当たりないか?」
中川が久井に聞く。久井も優貴人の話を聞いたときから考えているようだったけど、
「そんなに頻繁なら見たかもしれないけど、記憶には。」
と言った。その表情には悔しさが浮かんでいる。
「よし。次にやることは決まったな。4月下旬以降6月20日までの間、8時から10時の間に不審な車を見た人がいないか、龍門校区中心に聞いてみよう。」
中川の提案に全員が賛同した。
そのあとも話が続いて結局役場を出たのは8時を過ぎてからだった。中川が週末に集合をかけたお詫びにと、みんなを食事に連れて行ってくれた。
役場から国道に出てすぐのところにバスターミナルがあり、そこにいくつかの店が軒を連ねている。電車のない美吉町ではバスが唯一の公共交通機関だから神座までバスを利用する人も多い。その帰りの通勤客や公務員たちが仕事のあと飲めるお店は町内にはこの辺にしかない。
さくらは車で帰らないといけないから、お酒は飲まなかったけど、普段は仕事上だけの付き合いの人と食事をすることがないから、新鮮で楽しかった。
店を出たあともしばらくバスターミナルで話をしていた。ふと、優貴人が国道を通り過ぎた車のテールランプを目で追って、
「あれ?今の車。」
と、呟いた。
「あ、宇多くんも?」
さくらと優貴人は目を見合わせた。並んで国道側を向いて立っていた二人は同じ光景を見た。交通量が少ないにもかかわらず、減速してこっちを窺うようにして通り過ぎる同じ車を。
「2度目、ですよね?」
「うん。同じ車だった。」
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