10㎡の戦争-エンペラーガーディアン-

フェーベ

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最初の疑問と死のゲーム

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館内が完全消灯された午後10時。非常灯のみとなったオフィスで青山健太はデスクスタンドの灯りを頼りに翌日に控えた商談のためのプレゼンを1人残って作業していた。三和ホームは10年ほど前、内部告発による労基署の監査で数億円に上る未払い残業代が発覚。それ以降、徹底した労務管理を行うようになったため、夜10時以降の残業は原則禁止となった。とは言え営業職の場合、商談客が重なったり、今日依頼を受けたものを明日までにというような顧客のニーズに対応するため杓子定規にはいかない。社内のルールでは事前に深夜残業の届けを出すことになっているが、やってみないとどれくらいの時間が必要かも分からないので、半ば有名無実化していた。

ふー、と大きな息を吐き目頭を押さえる。何気なく窓の外に目を向けると、完成した例のオフィスビルが見える。あの日、川上奈々美と法務局で土地の登記簿謄本を確かめた。もともとの所有者は個人だったが、売買により帝都建設に所有権移転されていた。通常貸店舗の場合、所有者が建物を建てて店子を集い家賃収入を得るケースがほとんどだ。生保会社でもない限り投資目的での建築は考えにくく、何よりこの地域では供給過剰でテナント募集の看板を至るところで見かける。

よっぽど気になったのか、奈々美は管理会社であった不動産業者を訪ねている。街の小さな不動産屋という風情の会社で社長が1人で営業しているような会社だった。以前は積極的に不動産仲介もしていたようで、三和ホームの社員が来ても不思議がられることはなかった。社長によると、オフィスビル建設の3ヶ月ほど前にオーナーから解約通知が届いたらしい。駐車場の借主は近くの企業だけだったため、明け渡しは容易だったが、長い付き合いにもかかわらず連絡もなかったことに釈然としない様子だった。

物流センターのように全面道路側に2階分ほどはあろうかという大型シャッターが取り付けられていたが、海も高速もないこの場所に拠点を作るとは考えにくい。その時、その大型シャッターが開き、道路にハザードランプを点灯させて止まっていた4t車が建物の中へと入っていった。時刻は夜の11時。こんな時間に?しばらく建物の入り口を見ていた健太だったが、スマホの鳴動音で我に返った。

奈々美からのラインだった。茶化すようなスタンプに続き、「まだやってます??」。ちょうどいい。健太は貸与されているガラケーから奈々美に発信した。コール音が聞こえる前に相手が電話に出る。
「すいません、怒りました?」
「まだやってるけど、そんなんで怒らないよ。それより、あの日社長何か言ってなかったか?オーナーのこと。」
「不動産屋の?どうしたんですか、急に。」
「今、大型車がビルに入っていったんだ。資材積んで。テナントの引越しにしてはおかしいだろ、こんな時間に。」
「うーん、確かに。でも社長は何も知らなそうでしたよ。一方的に破棄されたって怒ってはいましたけど。」
うーん、と健太は考える仕草をしたあと、ややあって奈々美が続けた。
「ちょっと調べてみません?青山さん火曜日ヒマでしょ?」
予想だにしていなかった発言に健太は情けないことに少しどもってしまった。
「は、はぁ!?決めつけんなよ!」
「あれ?忙しかったです?」
「い、いや、特別予定はないけど。」
「じゃ決まり。お仕事頑張ってください!」そう言うと奈々美は健太の返事も聞かず通話を切った。先輩舐めてんのか?健太は毒づきながらも嫌な気はしなかった。


『エンペラーガーディアンへようこそ』
真っ白い壁がモニターなのか、黒い文字が浮かび上がった。振り返ってその文字を目で追った綾瀬コウは、途端に体が硬直するのを覚えた。エンペラーガーディアン、皇帝の守護者。訳すならそんなところか。隣の椎名さくらはへたりこんだままの姿勢で両手で鼻から下を隠すようにして、息を飲んでいる。高鳴る鼓動が自分にも聞こえてきそうな、そんな感覚に囚われながらもモニターから目を離せないでいる。救助、という淡い期待は文字通り泡と消えいこうとしていた。そしてそれは次に表示された一文で露と消えた。

『このゲームは死の危険を伴います』
死ぬ?俺たちに何をさせようというんだ。。
「どういうこと!?なんで死ななきゃいけないの!?」さくらが悲痛な叫び声をあげる。
「落ち着こ、まだ殺されると決まったわけじゃない。これがゲームならヒントがあるはずだ。」
コウは自分に言い聞かせるように片膝をつき、さくらの目を見て言った。が、さくらの黒目は萎縮しモニターの文字を捉えて離さないようだった。そう、ゲームというからには何かしらのヒントがありクリアの方法があるはず。もしかしたら端末やコントローラーを操作する類かも知れない。

次にモニターに映された文章をコウはさくらを励ますように肩に手を置き2人無言で黙読した。全ての文章を頭に叩き込まなければ。そんな気がしていた。またそうする他に方法もなかった。
『エンペラーガーディアン  ルールその1
①このゲームは2人1組複数同時プレイのゲームです。
②ゲームフィールドは大東亜戦争の各戦地で、プレイヤーの所属兵科部隊、装備は戦場により異なりますが最初の階級は少尉となります。
③クリア条件は戦闘終了もしくはプレイヤーが1組または1人となった場合です。
④ゲームクリア後、戦果総合判定を行います。
⑤プレイ中のNG行為やNGワードの発言は即ゲーム中止となり、当該プレイヤーは死に至るので注意が必要です。
⑥ゲームスタート前には一定のブリーフィングタイムが設けられています。情報を共有することでゲームを有利に進めましょう。』

「戦争に行かされるってこと?」
生気を失った虚ろな表情でさくらが口を開いた。どうやらルールを見る限りそうらしい。モニターには1つづつルールが示され、全て出揃ったのか6つの文章が表示されている。震えるさくらの肩をポンポンと優しく叩き、コウはゆっくりとした口調で話し掛ける。
「なぁ、なんでこんなことになったのか、それはもちろん俺にもわからないよ。でも、死ぬと決まったわけじゃない。そうだろ?」
「わたし、死にたくない。」
モニターを見つめるさくらの目から涙が零れ落ちる。
「俺だって。」
肩にかけた手に力を入れてコウは言った。これが本当にゲームでこれから始まるのだとしたら相当大掛かりだ。1人や2人で出来るものではないだろう。だとすると、主催者又は開発者は必ずしもプレイヤーを殺そうとしているのではない、根拠はないがコウの勘がそう言っている。

「椎名、きっとこれはデスゲームじゃない。攻略法があるはずだ。だからルール説明がある。そう思わないか?」
「どういうこと?」
泣きっぱなしだからか、少し腫れた目をようやくこちらに向けてさくらが聞く。彼女の横で胡座をかいて向き合ってコウは感じたままのことを話そうとしたとき、モニターの画面が変わった。
「ちょっと待って!」さくらがモニターを指差した。
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