15 / 58
何言ってんだよ
しおりを挟む「ただいまー」
「ああ、おかえりなさい」
智紀が帰ると、ちょうどヘルパーさんが帰り支度をしているところだった。
智紀と幸田は、ペコリとヘルパーさんに会釈をした。
「こんにちは。あれ、母さんは」
「ちょっとだけ買い物に行くと行って出かけていきましたよ」
大荷物を持って帰っていくヘルパーさんを見送ると、とりあえずさち子の様子を確認しに行く。
「ただいまばあちゃん。調子は?」
「おかえり智紀。調子はいいよ。おや、その子は?」
さち子はゆっくりと幸田に目線を合わせる。
幸田はさち子に近づいた。
「こんにちは。竹中くんの同級生の、幸田梨衣です」
「はいこんにちは。珍しい、智紀が女のコ連れてくるなんて。祥太のはよく見たけど」
そう言いながら、さち子は嬉しそうな顔をした。
「ああ、もしかして亮子さんのとこのお孫さんだったかな?」
「え?亮子さん?」
「ばあちゃん、それは狭山茉莉花さんだよ。ほら、全然違うだろ。あの人はもっと派手な感じじゃん」
智紀が訂正するのを、さち子は首を傾げた。
「そうだったかな。こんな感じじゃなかったかな。どうも最近若い娘は全部同じ顔に見えてね。ごめんなさいね」
「いいえ!気持ちわかりますー。私もハリウッド俳優とか全員同じ顔に見えますし」
幸田はケラケラと笑ってみせた。
さち子と幸田が話をしているスキに、智紀は居間の様子を見に行った。自分の部屋は散らかり放題でちょっと人に見せられるレベルじゃないことを思い出したので、居間で勉強しようと思ったのだ。
しかし、居間の方も、何やら母が作業の途中だったらしく散らかっていた。
「ごめんばあちゃん、ここで勉強させてもらってもいい?」
智紀はちゃぶ台を運んできながらさち子に言った。
「え?おばあちゃんの部屋で?邪魔じゃない?」
「え?そう?俺よくここでやるよ?」
「ああ、大丈夫だよ。大騒ぎしたって、私は耳が遠いんだから問題ないさ」
さち子は平然と言うので、そんなもんか、と幸田は納得した。
ちゃぶ台の上に、智紀の教科書とノートを開く。
「えー、なにこの竹中くんのノート。詳しすぎ」
「幸田さんのが省略し過ぎなんだよ。とりあえず、これ、と、この、問題の解き方覚えよう。そうすればあとは応用で行けるはずだから」
「頭いい人はすぐに応用でイケるとかいう……。イケないんですよ」
幸田はブツブツと言いながら、自分もノートを開いた。
少しすると、母が帰ってきた。
「あら、智紀帰ってきてたんだ。あれ、女子がいる」
「お邪魔してます」
幸田が会釈すると、母が満面の笑みになった。
「珍しい、智紀が女のコ連れてくるなんて。祥太のはよく見たけど」
さち子と全く同じ台詞を言って、「今お茶入れてあげるね」と立ち去って行った。
「どんだけお兄さんは女のコ連れてきてるんですか」
幸田が面白そうに言うので、智紀は苦い顔をした。
「兄貴にはそれが当たり前なんだよ。とりあえずお茶入れてくれるみたいだし、一旦休憩するか。ばあちゃん、仏壇のお菓子貰ってもいい?」
「どうぞー」
母がお茶を持ってきてくれたタイミングで二人はノートを閉じ、智紀は慣れた手付きで仏壇に線香を挿して手を合わせてから饅頭を下ろしてきた。
幸田も一応、智紀の真似をして仏壇の前に行って手を合わせる。
「あれ、これ初恋の杜じゃん」
幸田は、仏壇に饅頭と一緒に供えられている漫画本を手に取った。
「そうなんだ。供えられているんだよ」
智紀は苦笑いして本を手に取って幸田に渡した。
幸田は、それを持ってさち子のベッドの側に行った。
「おばあちゃん、私もこれ、読んだ事あります」
「おお、そうか」
さち子は嬉しそうな顔になった。
「もうすっごくいい話ですよね。ハルとナツがだんだんと心通わせていくのがすっごくキレイな絵で描かれてて」
「そうだね、本当にキレイだ。そしてとてもドキドキする」
「キュンキュンしますよね」
「そうだね、でも2巻は悲しい。別れないでほしいね」
「そうですよね。辛いですよね」
「もっと二人が仲良くしているのを見たいねえ」
いつもよりかなり饒舌なさち子に、智紀は何だか感動してしまった。
やっぱり一人で本を読むより、仲間がいればもっと楽しいようだ。
「そういえば、このおばあちゃんの部屋って、ハルの部屋に似てません?」
ふと、幸田はお茶を飲みつつ、辺りを見渡して言った。さち子は頷きながら説明した。
「昔の家はみんなこんな感じだったんだよ」
「そうですよね。私マンションだから、こういう和室とか縁側とかはお話の世界なんですよね」
「ここに、二人がいるって想像できて、悪くないだろ?」
「悪くないですね」
幸田はニヤリと笑いながら饅頭を頬張った。さち子もニヤリを返した。
「だからね、私は智紀と祥太にもイチャイチャしてもらいたいんだよ。ここで」
「おい、ばあちゃん」
智紀は慌てて口を挟んだ。
「何言ってんだよ、急に」
「あはは、わかりますよー。おばあちゃん目覚めちゃったんですね?イケメン同士の魅力に!仕方ないのです。女子なら必ず想像します!」
「幸田さんも何言ってんだよ」
前は女オタクが全員BL好きだと思うなってブチギレてたくせに。幸田がさち子に合わせているだけだとわかってはいたが、あまりにも調子よく喋るので、なんだかハラハラしてしまう。
「ほら、もういいだろ。続きやるぞ」
「わあ、鬼軍曹ー」
ブツブツいう幸田を引っ張って、智紀はまた数学ノートを開いて強引に話を切り上げさせたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる