祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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何言ってんだよ

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「ただいまー」

「ああ、おかえりなさい」

 智紀が帰ると、ちょうどヘルパーさんが帰り支度をしているところだった。

 智紀と幸田は、ペコリとヘルパーさんに会釈をした。

「こんにちは。あれ、母さんは」

「ちょっとだけ買い物に行くと行って出かけていきましたよ」

 大荷物を持って帰っていくヘルパーさんを見送ると、とりあえずさち子の様子を確認しに行く。

「ただいまばあちゃん。調子は?」

「おかえり智紀。調子はいいよ。おや、その子は?」

 さち子はゆっくりと幸田に目線を合わせる。

 幸田はさち子に近づいた。

「こんにちは。竹中くんの同級生の、幸田梨衣です」

「はいこんにちは。珍しい、智紀が女のコ連れてくるなんて。祥太のはよく見たけど」

 そう言いながら、さち子は嬉しそうな顔をした。

「ああ、もしかして亮子さんのとこのお孫さんだったかな?」

「え?亮子さん?」

「ばあちゃん、それは狭山茉莉花さんだよ。ほら、全然違うだろ。あの人はもっと派手な感じじゃん」

 智紀が訂正するのを、さち子は首を傾げた。

「そうだったかな。こんな感じじゃなかったかな。どうも最近若い娘は全部同じ顔に見えてね。ごめんなさいね」

「いいえ!気持ちわかりますー。私もハリウッド俳優とか全員同じ顔に見えますし」

 幸田はケラケラと笑ってみせた。

 さち子と幸田が話をしているスキに、智紀は居間の様子を見に行った。自分の部屋は散らかり放題でちょっと人に見せられるレベルじゃないことを思い出したので、居間で勉強しようと思ったのだ。

 しかし、居間の方も、何やら母が作業の途中だったらしく散らかっていた。


「ごめんばあちゃん、ここで勉強させてもらってもいい?」

 智紀はちゃぶ台を運んできながらさち子に言った。


「え?おばあちゃんの部屋で?邪魔じゃない?」

「え?そう?俺よくここでやるよ?」

「ああ、大丈夫だよ。大騒ぎしたって、私は耳が遠いんだから問題ないさ」

 さち子は平然と言うので、そんなもんか、と幸田は納得した。

 ちゃぶ台の上に、智紀の教科書とノートを開く。

「えー、なにこの竹中くんのノート。詳しすぎ」

「幸田さんのが省略し過ぎなんだよ。とりあえず、これ、と、この、問題の解き方覚えよう。そうすればあとは応用で行けるはずだから」

「頭いい人はすぐに応用でイケるとかいう……。イケないんですよ」

 幸田はブツブツと言いながら、自分もノートを開いた。


 少しすると、母が帰ってきた。

「あら、智紀帰ってきてたんだ。あれ、女子がいる」

「お邪魔してます」

 幸田が会釈すると、母が満面の笑みになった。

「珍しい、智紀が女のコ連れてくるなんて。祥太のはよく見たけど」

 さち子と全く同じ台詞を言って、「今お茶入れてあげるね」と立ち去って行った。

「どんだけお兄さんは女のコ連れてきてるんですか」

 幸田が面白そうに言うので、智紀は苦い顔をした。

「兄貴にはそれが当たり前なんだよ。とりあえずお茶入れてくれるみたいだし、一旦休憩するか。ばあちゃん、仏壇のお菓子貰ってもいい?」

「どうぞー」


 母がお茶を持ってきてくれたタイミングで二人はノートを閉じ、智紀は慣れた手付きで仏壇に線香を挿して手を合わせてから饅頭を下ろしてきた。

 幸田も一応、智紀の真似をして仏壇の前に行って手を合わせる。

「あれ、これ初恋の杜じゃん」

 幸田は、仏壇に饅頭と一緒に供えられている漫画本を手に取った。

「そうなんだ。供えられているんだよ」

 智紀は苦笑いして本を手に取って幸田に渡した。

 幸田は、それを持ってさち子のベッドの側に行った。

「おばあちゃん、私もこれ、読んだ事あります」

「おお、そうか」

 さち子は嬉しそうな顔になった。

「もうすっごくいい話ですよね。ハルとナツがだんだんと心通わせていくのがすっごくキレイな絵で描かれてて」

「そうだね、本当にキレイだ。そしてとてもドキドキする」

「キュンキュンしますよね」

「そうだね、でも2巻は悲しい。別れないでほしいね」

「そうですよね。辛いですよね」

「もっと二人が仲良くしているのを見たいねえ」

 いつもよりかなり饒舌なさち子に、智紀は何だか感動してしまった。

 やっぱり一人で本を読むより、仲間がいればもっと楽しいようだ。


「そういえば、このおばあちゃんの部屋って、ハルの部屋に似てません?」

 ふと、幸田はお茶を飲みつつ、辺りを見渡して言った。さち子は頷きながら説明した。

「昔の家はみんなこんな感じだったんだよ」

「そうですよね。私マンションだから、こういう和室とか縁側とかはお話の世界なんですよね」

「ここに、二人がいるって想像できて、悪くないだろ?」

「悪くないですね」

 幸田はニヤリと笑いながら饅頭を頬張った。さち子もニヤリを返した。

「だからね、私は智紀と祥太にもイチャイチャしてもらいたいんだよ。ここで」

「おい、ばあちゃん」

 智紀は慌てて口を挟んだ。

「何言ってんだよ、急に」

「あはは、わかりますよー。おばあちゃん目覚めちゃったんですね?イケメン同士の魅力に!仕方ないのです。女子なら必ず想像します!」

「幸田さんも何言ってんだよ」

 前は女オタクが全員BL好きだと思うなってブチギレてたくせに。幸田がさち子に合わせているだけだとわかってはいたが、あまりにも調子よく喋るので、なんだかハラハラしてしまう。

「ほら、もういいだろ。続きやるぞ」

「わあ、鬼軍曹ー」

 ブツブツいう幸田を引っ張って、智紀はまた数学ノートを開いて強引に話を切り上げさせたのだった。



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