祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

文字の大きさ
31 / 58

可愛らしい口実だな

しおりを挟む


 結局、浴衣は亮子に託して帰ることになった。


 帰り道、智紀は祥太と並んで歩くのは、数年ぶりであることに気付いた。

「帰りはお迎えの女の人は来ねえの?」

 気恥ずかしさを隠すように、ちょっと茶化すようにたずねると、祥太は怪訝そうに言った。

「お前は自分の兄が、女の人をアッシーにするような男だと思っているのか」

「思って……ないです」

 冗談なのに、と智紀は口を尖らせた。


 歩きながら、祥太は唐突に話しだした。

「俺は今日、茉莉花さんと二人で話に行った時に、ご両親と話をするように提案したんだ」

「ご両親?」

 急に切り出された話に、智紀は一瞬ついていけなかった。

「えっと、ご両親って?」

「茉莉花さんは、亮子さんと二人で住んでいる。お父さんとお母さんもいるらしいのだが、亮子さんと折り合いが悪く、別居しているそうだ」

「へえ」

 そう言えばさっき、「息子は見捨てたのに」的な事を亮子が言っていたのを思い出した。

「確かに、茉莉花さんは亮子さんの孫だし、扶養義務はある。しかし、茉莉花さんが世話しているからと言って、亮子さんの息子である、茉莉花さんのお父さんが素知らぬフリをしているのはおかしいだろう。だから、場を設けるから一度ちゃんと話し合ったらどうかと言ってみたんだ」

「それは、その……余計なお世話って言われなかった?」

「言われた」

 祥太は自虐的に笑った。

「お金は出してくれてるんだからいいんだと言われた。十分な生活費と、多めのお小遣いをもらっているから。……あっちはお金で解決しているんだからいいんだと」

 お金で解決する。どちらかと言うと、祥太の考えに似ている。でも。

「不服そうだね」

 智紀が言うと、祥太はため息をついた。

「そうだな。嫌いな考え方ではないんだが、何で気に入らないんだろうな。同族嫌悪かな?」

「さあ、何だろうね」

 智紀は適当に相槌を打つ。祥太にわからないものが、自分にわかるはず無いのだ。



 家の近くの公園に差し掛かったときだった。

「竹中くん!あ、お兄さんも!」

 幸田が公園にいて手を振っていた。

「連絡したのに全然返信無いから。今帰ろうとおもってたとこだよー」

「あ、そういえば」

 智紀は自分のスマホを取り出した。病院に行くときに電源を切ったままだった。

「悪い悪い。てか、今日化学の再テストどうだった?」

「ふふーん、おかげさまでなんとかなりました!モル計算が出来るようになった私にはもう死角はないよっ」

 幸田はドヤ顔で言う。

「ま、私の化学なんて置いておいて。茉莉花さんのおばあちゃんが入院中って聞いて、お見舞い行こうかって誘おうと思ったのに、遅くなっちゃったよ。明日一緒に行かない?」

「あー……俺達今日行ってきちゃったんだよ」

 智紀が申し訳無さそうに言うと、幸田は「ガーン」と気持ちを声に出した。

「何で私を誘ってくれなかったの!私と竹中くんの仲でしょー」

「幸田さんが学校で話しかけるなって言うんじゃないか。勝手だなあ」

 智紀が呆れ顔になると、幸田は更に頬を膨らませて口を尖らせた。

「せっかくお菓子買ったのに。これ美味しいのに」

「明日行ったら?」

 智紀が提案すると、幸田は、うー、と悩みながらブツブツ呟いた。

「一人で行くのなんか気まずいしなー……うん、じゃ、竹中くんにあげる。」

 幸田は智紀に小さな箱を押し付けた。

「勉強のお礼ってことで。じゃ、また明日ね!」

 そう言って幸田はサッサと走って行ってしまった。


「可愛らしい口実だな」

 祥太は意味ありげに智紀を見た。

「口実って……幸田さんはそんなんじゃねえし」

 素っ気なくいう智紀から、小さなお菓子の箱を取り上げて、祥太はニヤリと笑った。

「何言っているんだ。よく見てみろ。ご老人のお見舞いに持って行くには随分と可愛らしいお菓子じゃないか」

「幸田さんの趣味だろ」

「というか、茉莉花さんが教えてくれたんだ。すでに梨衣ちゃんは昨日お見舞いに来てくれたんだと。ちょうど亮子さんは検査の最中だったらしくて会わずに帰ったらしいが」

 祥太はニヤニヤしたまま話す。

「まあ、あの子はとてもいい子じゃないか。智紀にお似合いだと思うぞ」 

「あのさあ。そんなんじゃねえって」

 智紀はため息をつく。

――兄貴は幸田さんのことがまるで分かっていないんだよな。もしこのお菓子が智紀に渡す目的だったとしても、その意図は多分恋愛の類じゃないんだよ。


 そう伝えようとしたのだが、さっきまで重い空気をまとっていた祥太がちょっとご機嫌になっているようだったので、そういうことにしておこうかな、と智紀は肩をすくめるだけにしておいた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...