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2章 ビギシティと出会い
初めてのクエストと謎の魔物
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「あそこにいるのは……スライムか。デュアルアクションの習得条件を満たすために倒しとくか。」
クエストのために、街を出て三分ほど歩き、街から離れた所でスライムを四体発見した。
デュアルアクション(初級)の習得条件は同じ初級魔法を二回連続で使って魔物を十体倒すことだ。
つまり、Gランクのスライム相手だと、ワンパンで倒してしまうかもしれないから少し加減して倒さないといけない。
二回魔法を使わないといけないからな。
「リーフはどうする?デュアルアクション習得したいなら、半分そっちに寄越すけど……。」
隣にいるリーフに話しかける。
「いえ、私はユウキさんが習得した後で大丈夫ですよ。デュアルアクションは攻撃魔法を主に使うユウキさんが早く習得した方がいいでしょうし。
ほら、私は回復魔法をメインで使うので。
手助けは……いりませんよね。」
「手助けは大丈夫だ。そんじゃ、お言葉に甘えて……。〈集いし魔力の高まりよ・我が手より放たれよ〉!」
四体のスライムは全員が固まって動いていたため、その中心に向かって『マジックショット』を放つ。
四体のスライムが衝撃で散らばり、あたふたしている。
直撃はしていないため、まだ倒せてはいない。
スライムが混乱しているうちに、再び『マジックショット』で仕留めていく。
「ユウキさん、後ろ!」
スライムを三体倒した直後に、離れたところから見ていたリーフが俺の真後ろを指しながら叫ぶ。
後ろを見ると、スライムが飛び跳ねてタックルしてきていた。
その攻撃は、昨日見たばかりなので軽く体を横へとずらして、そこに『マジックショット』を撃ち込み、スライムを全滅させる。
「うーん、やっぱりいちいち長々と詠唱してると、こうなるよな。」
ますます、デュアルアクション、それに詠唱を一節短縮させる詠唱省略(小)が欲しくなってきた。
「あと六体か。この調子で行けば、クエスト完了とデュアルアクションを習得出来そうだな。リーフも戦うか?」
「あはは、今みたいに一対四みたいなのはちょっと怖いので、戦うならもう少し少なめのときにしときます。」
確かに今のスライムの攻撃を避けられなければ、そこそこのダメージを受けていたからな。俺も用心するとしよう。
「ギャギャッ!」
「わっ、びっくりした。ゴブリンですね、今の戦闘音に気づいて近づいてきたみたいですね。」
急に出てきた三体のゴブリンにリーフは驚き、数歩後ろに下がる。
「さっそく、クエストの対象が出てきたな。
リーフ言った通り、まずは俺が前衛で抑えるから、リーフは後ろから攻撃してくれ!」
「分かりました!」
さらにリーフは下がって魔法の詠唱を開始する。
それをちらっと見て確認し、棍棒を持って襲いかかってくるゴブリン達を目の前にして、俺は防御魔法を唱える。
「〈我が眼前にいでよ・守りの膜よ〉!」
初級水属性魔法『ウォーターフィルム』の呪文を唱える。すると、俺の目の前に肩から太ももくらいの大きさの水の膜が出現した。
「ギャッ!ギャッ!」
ゴブリンが棍棒を振るう度に、『ウォーターフィルム』が衝撃を防ぐ。
しかし、あまり耐久がないため、少しずつ水が飛び散っていく。
あくまで、リーフの攻撃のための時間稼ぎの防御魔法なので、別に『ウォーターフィルム』が崩されても問題は無い。
「行って、『ファイア』!」
「ギィ……ャ!?」
『ウォーターフィルム』がまだ残っているうちにリーフの『ファイア』の詠唱が完成し、俺にどんな魔法を使用したか分かるためか、魔法の名前を言って、一体のゴブリンに直撃する。
ゴブリンは後ろのリーフに気づいていておらず、不意をつかれ、数メートル後ろに吹っ飛んだ。
リーフは俺をちらっと見て、さらに攻撃魔法を放つために詠唱を開始する。
「「ギャッギャッ!!」」
残りの二体のゴブリンが前衛の俺を守っている『ウォーターフィルム』の横を通り抜け、詠唱中のリーフに向かって走っていく。
ゴブリンが迫ってきているというのに、リーフは怯まず、詠唱を続けている。
なぜなら……
「阻め、『アースウォール』!!」
さっき俺を見た時にさらに防御魔法の詠唱をしていることに気づいたからだ。
『ウォーターフィルム』で足止めしていた間何もしていなかった訳じゃない。初級土属性魔法の『アースウォール』を詠唱し、リーフとゴブリンの間に地面から畳二畳分ほどの土の壁が現れた。
ゴブリンの目の前で『アースウォール』を発動したため、勢い余って二体のゴブリンは壁にぶつかる。
「いまっ、『ウィンドブロウ』!」
そこに『アースウォール』の横から体を出し、射線を通したリーフが初級風属性魔法『ウィンドブロウ』を二体のゴブリン目掛けて放った。
『ウィンドブロウ』は、突風を放って敵を押し戻し、僅かに怯ませるという効果を持つ。
ゴブリンが僅かに怯んだ、その瞬間に……
「〈小さき火種よ・火球となれ〉!」
「〈小さき炎の灯火よ・我が手に宿りて・火球となれ〉!」
俺は振り返り、一体のゴブリンに……リーフはもう一体のゴブリンに『ファイア』を同時にぶち込む。
「「ギャッギャッ!?」」」
挟み撃ちにされ、ゴブリンは瀕死になりながら混乱している。
「ハッ!!」
あの二体のゴブリンをリーフに任せ、俺は前を向きながら、ベルトに付けている短剣を取り出し、目の前に向かって投げる。
「ギャッ……。」
そこには、一番最初に『ファイア』を受けたゴブリンがかなり近くまで来ていたが、頭に短剣が刺さっていた。
僅かに、ゴブリンの声が聞こえて、咄嗟に反応し、短剣を投げたがちゃんと刺さってよかった。
後ろからもゴブリンのうめき声が聞こえる。
振り返ると、ゴブリンが倒されていた。
混乱しているうちに攻撃魔法で倒したのだろう。
「やったなリーフ。」
「ふふ、そうですね。」
ゴブリンからリーフに視線を移すと、僅かにだか、笑みをうかべていた。
「なんだか、嬉しそうだな。」
「多分、ステータスが上昇したんだと思います。それで、ちょっと高揚した気分になっただけなので、気にしないで大丈夫ですよ。」
そういえば記憶にあったな。
この世界の人はステータスが上昇すると、本能が喜び、数秒間気分が高揚すると。
俺も昨日、ステータスが上がり、ほんのちょっとだけ気分が高揚した。
リーフは上昇したステータスを確認するため、ギルドカードを取り出した。
「あっ、やっばり魔法攻撃力が上がってます!」
俺にギルドカードを見せながら嬉しそうに笑っている。
確かリーフの魔法攻撃力はF-だったはずだ。それが今は、Fになっている。
「良かったな、まだ魔法攻撃力を鍛えるか?俺はまだ魔法防御力が上がってないから、俺は構わないが。」
「そうですね、私の魔法攻撃力があと一段階、ユウキさんの魔法防御力が一段階上がったら攻守交代しましょう。」
「分かった。魔力は大丈夫か?攻撃魔法ばっかり使ってたし、火属性魔法も二回使ってただろ?」
攻撃魔法は敵へ放つ前提で作られている魔法であるため、自分の周りに放つ防御魔法と違って、安定させて敵に当てるのにさらに魔力を使う。
だから、防御魔法よりも消費魔力量が多いし、火属性はさらに消費魔力量が多い。
ちなみにリーフの魔力量はF+だ。
これは、同じ消費魔力量の魔法……つまり消費魔力量がF+の魔法を一度放つと全ての魔力が無くなる訳ではなく、だいたい五回ほど放つと魔力が無くなる。
先程リーフは消費魔力量がFの『ファイア』を二回とG+の『ウィンドブロウ』を放っていた。
まだ、魔力には余裕があるだろうが、一応気にかけておく。
「はい、まだ半分以上、魔力残っているので大丈夫ですよ。」
「なら、まだ休憩しなくても大丈夫だな。」
「はい、体力も全然残ってますし、このままゴブリンの探索にしましょう。」
やはりまだ魔力は大丈夫のようだ。それに体力も。
ギルドカードを見て、あとゴブリンを七体討伐しないといけないことを確認し、ゴブリンを探すために辺りを見回しながら移動を開始した。
「ふう、ゴブリンはあと四体か。」
持っていた初級魔石を砕いて魔力を回復させる。
あれから一時間後、たった今ゴブリンを三体倒し、40分前にデュアルアクションの条件を達成するための、スライムも五体倒した。
ゴブリン討伐にはあと四体、デュアルアクションの条件を達成するのに、あと一体の魔物を二回連続で同じ初級魔法で倒さなければならない。
そんなことを思っていると、僅かな高揚感が身体を包む。
もしやと思い、ギルドカードを取り出すと、
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 F+
魔法防御力 F+
魔法回復力 F+
魔法制御力 E+
魔力回復速度 E
魔力量 D+
Eランク
スキル欄(3)
スキル
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(2)
器の加護
マジックシェア
「お、魔法防御力が二段階上がった。」
今回もゴブリン戦の時に防御魔法を何度か使った。
魔法防御力がF-から魔法攻撃力と同じF+になっていた。
一番低いステータスだっただろうか……上がりやすく一気に二段階上昇していた。
「わ、私も魔法攻撃力が上がりました。それに魔力量も……というか、ランク自体が上がりました!Eランクです!Eランク!」
リーフも同じくステータスが上昇したのか、ギルドカードを取り出していた。
しかも、ランクも上がったみたいだ。
「おめでとう。」
「えへへ、ありがとうございます!」
「ステータス見せてもらってもいいか?」
「どうぞどうぞ!」
リーフのギルドカードを受け取り、確認してみる。
リーフ・クレイン(16)
魔法使い 得意属性【?】
魔法攻撃力 F+
魔法防御力 F--
魔法回復力 D-
魔法制御力 E--
魔力回復速度 F+
魔力量 F++
Eランク
スキル欄(3)
回復魔法使い
「だいぶ、ステータス上がってきたな。」
「まぁ、こんなにすぐステータスが上がるのは最初のうちだけでしょうけどね。これから、どんどんステータス上がりにくくなるでしょうね。
Eランクからランクを上げるのが大変になるって聞きますし。」
あはは、と笑いながらリーフはギルドカードをポケットに入れる。
「さて、ちょっと疲れてきましたし、休憩でもしましょうか?」
「そうだな、もう昼だしひと休みしよう。」
リーフの提案にのり、少し歩いて魔物のいない木の木陰に腰を下ろす。
そして、俺達は街を出る前に買った黒パンと干し肉、水筒を『マジックポケット』から取り出す。
重量があまりないため、魔力量も減少しなかったので助かった。
黒パンと干し肉……今まで食べたことがないからちょっと楽しみだ。
「んじゃ、いただきます。」
黒パンを一口……
「かったぁ!?」
黒パンは硬いと言うが、予想以上に硬かった。
「だ、大丈夫ですかユウキさん?」
隣で干し肉を食べようとしていたリーフが、俺の声にピクっと驚いたように反応する。
「あぁ、すまない。思っていた以上にこれが硬かっただけだ。干し肉はどうだ?」
もう片方の手に持っていた干し肉を食べる。
「しょっぱ……。」
塩が大量に塗られてるから当たり前だけど、めちゃくちゃしょっぱかった。
水筒を取り出し、ゴクゴクと水を飲む。
「あまり美味しくないですよね、黒パンに干し肉。
別に今日みたいにそんなに遠出しないクエストなら保存性の効くこの食料を買わなくても良かったんですけど……。」
そう、本当は普通の食材でも良かった。
それでも、黒パンと干し肉を選んだ理由はただ単に俺の好奇心が勝ったからだ。どんなものか食べてみようと、購入したのだが、何故かリーフも一緒に黒パンと干し肉を選んだのだった。
「どうしてリーフも黒パンと干し肉にしたんだ?」
「これから、冒険者として活動する機会も今後は多くなるので今のうちに味に慣れておこうかと思いまして。
私あとひと月もしたら王都に行くんですよ。
王都の冒険者ギルドのクエストは時間のかかるクエストも多いと聞いたので、その分干し肉とかを食べる機会も増えてくると思ったので……だからです。」
「そういえば、昨日食事の時に王都に行くって言ってたな。」
アレンやリーパーと食堂で会った時に、アレンがリーフが王都へ行くと言っていたことを思い出す。
「王都にあるハーパン魔法学園の入学するための試験があと1ヶ月後にあるんですよ。それを受けに行くんです。」
へぇ、やっぱりこの世界にも学校みたいなものがあるんだな。
「そのハーパン魔法学園で魔法について学べるのか?」
「はい、3年間にわたって様々な魔法の効果や使い方を教えてくれますよ。将来冒険者を目指す人はもちろん、魔法の研究をしたい人とか色んな人が集まります。」
魔法を学べる……か。もしそれが本当なら俺もハーパン魔法学園に行っていろいろ学びたいものだ。
「その顔……もしかしてユウキさんもハーパン魔法学園で魔法を学びたいって思ってます?」
「え、あぁ、まあ。
でも、試験を受けるためにはいろいろ準備とかあるんだろ?」
この世界に来たばかりだから、試験を受けるための準備なんてしている訳ない。
「あぁ、試験と言っても魔法を使って的を撃つだけの簡単な試験です。昔は、魔法に関する筆記テストとか魔法もある程度使えないと入学出来なかったらしいんですけど、魔王が現れたからは少しでも戦える魔法使いを増やすために簡単な的を撃つだけの試験にしたみたいです。
試験を受ける人が魔法使いであれば、ほぼほぼ合格できるんだとか。
授業料とかも昔と違ってかなり緩和されて、入学時に15万ギル必要で、そして1ヶ月の授業料は5000ギルなんだとか。そして、寮も無料で使えるみたいです。
昔はもっと高かったらしいですよ。」
余程切羽詰っているのだろうか?そこまでして戦える者を増やしたいとは……。
まあ、何はともあれ俺でも試験を受けることが出来るということが知れたのは、朗報だ。
「なら、俺も受けてみるか……。リーフはいつ王都に行くんだ?」
「ビギシティにある王都行きの馬車があと1週間ほどでビギシティに来るので、今日から数えて1週間後ですね。一緒に行きましょうか?ビギシティにいるなら、またここに来た時に訪ねますよ。」
「そうだな、1人だと分からないこともあるだろうし……。
それにしても、明後日ミラン村に帰って、その後また戻ってくるのか。大変そうだな。」
「一旦親に帰ってこいと言われているので、ビギシティに留まれないんですよね。」
リーフは、はは、と軽く笑いながら黒パンを口に入れる。
「じゃあ、俺も準備しとくか。お金も減ってきたし、試験までに稼いでおかないとな。」
残り10万ギル程しかないから、リーフが帰ったあともクエスト受けないといけないな……。
「あはは、王都にも冒険者ギルドあるので、王都でも一緒にクエストしましょうよ。毎月払う分の学費10万ギルも稼がないといけないですし。」
「そうだな、その時はまたよろしく。」
「こちらこそよろしくお願い致します。」
手を差し、握手をする。
「……あれ、あそこに誰かいませんか?」
リーフが俺の背後を見て目を凝らす。
「本当だ。こんな所に人がいるってことは、クエスト受けてる冒険者か?」
「なんか、ふらふらしてませんか?
あっ、倒れました!もしかして怪我してるとか!?」
慌てた様子で駆け寄ろうとリーフは、走り出す。
俺も気になるので後を追うことにした。
辿り着くと、衝撃の光景に目を疑った。
「な、なんて酷い怪我……こんな怪我私には……。」
うつ伏せに倒れた人物は、村人のような格好をして魔物が出現するこんな場所なのに、武器なども一切持っていなかった。
そして、気になる点はまだある。腕には無数の噛み傷があって血が滲んでおり、ボロボロの服、そして脇腹にピンポン玉くらいの穴が空いている。そこからかなり出血したみたいで、この人物のものであろう血液が、地面に大量に付着している。
「これは、もうダメだろうな……っ!?」
そっと、その人物の体を動かすと顔が見えた。その顔はまるで力任せに何度も何度も殴られたかのような酷い有様だった。
「な、なんて酷い。一体この人はなんでこんな傷を……。」
声を震わせながらリーフは呟く。
「魔物にやられたのか?それに、なんで武器を持っていないんだ。」
魔物にやられた可能性を模索するが、この噛み跡はグレイウルフのような狼のような噛み跡じゃない。それに、顔の殴られた跡もゴブリンに殴られたようなものでもない。
というか、
「なぁ、この顔の殴られた跡……人間の拳みたいな形をしてないか?それにこの噛み跡も、人間の噛み跡みたいな……。」
「まさか、これを人がやったって言うんですか!?
一体何の目的で……。」
「さぁ、俺に言われてもな。でも、この人の死の一番の原因は、この穴だろうな。」
脇腹に空いた穴を見る。日本に住んでいてこんな傷……というか、こんな状態の死体すら見た事ないが、何とか気持ちを落ち着ける。
「多分なにかの魔法でしょうね。この人の格好からするにさほど鍛えてない村人の方でしょうけど、人体に穴を空けるほどの攻撃力を有している。
つまり、中級魔法以上の魔法を使える人に殺された?」
「つまり、何人かに攻撃されたってことか。」
殴られ、噛まれ、魔法で穴を空けられ……なんでこの人はそんな目にあったんだろうな。
「とりあえず、ここら辺から離れた方がいいかもしれませんね。いつ私達も襲われるか分からないですし。」
いつの間にかリーフは、少し落ち着いたのか、声は震えなくなっていた。
「一応、ギルドにも報告した方がいいかもな。
この人はどうしようか……『マジックポケット』に入れてギルドに預けようかな。」
放置したとしても、魔物に食べられたりするだけだろうし、ギルドに説明する時に一緒に引き渡そう。
そう思いながら、手をかざして、『マジックポケット』を詠唱しようとすると……
「ぐ……」
「生きてた!?動かないでください。回復魔法をかけるので!」
小さなうめき声……それにリーフが反応し、初級光属性魔法『ヒール』をかけようとする。
「グ……ガ……」
「リーフ待て……様子がおかしい。」
俺は『マジックポケット』をキャンセルし、手でリーフを静止させる。
「で、でも!早くしないと死んじゃいますよ。」
「見てみろ、起き上がろうとしてる。あの傷と出血量で……だ。」
手で地面を押して、体を起こしこっちを向いた。
その目は、白目を向いており、どう考えても普通じゃない。
「グガァ!!」
「っ!〈集いし魔力の高まりよ……〉」
両手を突き出し、走りながら俺に向かってきたため、『マジックショット』を詠唱する。
しかし、至近距離のため、間に合わないし回避しようとすると、リーフが犠牲になってしまう。
「これでもくらえ!」
やつの手が俺を掴む前に、詠唱を諦め、短剣を抜いてそれで腕を切り裂く。
「グガァァァ!!」
「ゆ、ユウキさん……。」
若干怯み、硬直したのを見て少し、リーフと後ろに下がる。
「あれはもう人じゃない。殺らないと、今度は俺達が殺られるぞ!」
「ぅ……わ、分かりました。サポートします!」
俺の一喝により、覚悟を決めたのか、『ファイア』の詠唱を始めるリーフ。なら俺は……
「〈阻みし風よ・ここに満ちよ〉!」
突風を吹かせて僅かにだが、足止めを行う。
「ユウキさん!」
後ろからリーフの声が聞こえ、右に一歩移動する。
その直後に、火の塊がそいつ向けて放たれ、直撃し数メートル吹っ飛ばす。
「ど、どうですか。」
「いや、まだ完全に死んでないな。〈集いし魔力の高まりよ・我が手より放たれよ〉!」
『ファイア』が思いっきり、直撃しても体が若干ピクピクと動いていたので追撃で『マジックショット』を遠慮なしで頭に向けて放つ。
……僅かな高揚感。いや、それよりもまずこいつの確認だ。
それに視線を移すと、まだピクピクと体を動かしている。
「グ……グ……がァァァァァ!!」
「なんて耐久力だよ。」
無防備なところに『マジックショット』を撃ったのにも関わらず、今までよりもより素早くこっちに接近してくる。
「きゃぁぁぁ!?」
そいつの狙いはリーフに向いたようで、思いっきりリーフに向かって突進し、リーフを数メートル吹っ飛ばしながら、押し倒す。
「リーフっ!」
速すぎて俺も、リーフも反応が遅れる。
「ガアァァ!」
口を大きく開けて、そいつはリーフの首元を食いちぎろうとする。
「離してっ!!」
必死にそいつの頭を手でリーフは抑えるが、そいつの力が強すぎて、ほとんど効果がない。
どうする、魔法は2節……もう間に合わない。
短剣を手に持っているが、この距離だと投げるしかない。しかし、距離が離れているのと首元を食いちぎろうとしているため姿勢が低いため、制御しやすい初級魔法と違って当たらない可能性もあるし、なんなら頭目掛けて投げようもんなら、リーフに短剣が刺さる可能性もある。
いや待て、さっきの高揚感……もしかして、
脳裏に自分のステータスを映し出す。
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 F++
魔法防御力 F+
魔法回復力 F+
魔法制御力 E++
魔力回復速度 E
魔力量 D+
Eランク
スキル欄(3)
スキル
詠唱省略(小)
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(2)
器の加護
マジックシェア
やっぱり、魔法制御力がさっきので上昇して、詠唱省略(小)の習得条件を満たしたんだ。ついでに魔法攻撃力も上昇している。
詠唱省略(小)を使用したいと思うと、勝手にスキル欄に詠唱省略(小)が映し出され、使用出来るようになる。
「ガァァァ!!」
リーフが押し倒されてから、ここまで約0.5秒。
「〈集いし魔力よ〉っ!!」
左手を突き出し、やつの体に『マジックショット』が直撃させる。
またしてもその衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
そこに、詠唱を一瞬で終わらせ、準備した『マジックショット』で追撃する。
「リーフ無事か!」
「少し噛まれましたけど、噛みちぎられる前にユウキさんが『マジックショット』を撃ってくれたので、何とか大丈夫です。」
リーフは首元を抑えながらよろよろと立ち上がる。
噛み跡がついているが、出血はしていない。
何とか間に合ったようだ。
「それにしても、まだ立ち上がるみたいですね。」
リーフの視線を辿ると、まだ動いていた。
「ならこれでトドメだ。〈集いし魔力よ〉!」
頭をしっかりと狙って魔力多めの『マジックショット』を至近距離で放つ。
「ガ……」
しばらく痙攣していたが、数秒後、その体は動きを止めた。
「はぁ……一体なんなんだこいつは。」
かなり魔力を使ってしまい、倦怠感が体を襲い始める。
腰袋から1つ初級魔石を取りだし、魔力を込めて握ると、パキンと魔石は割れ、魔石の中に入っていた魔力が体に染み込む。これで持っている魔石は中級魔石3つのみだ。
「まさか、人が魔物になるなんて。」
「もしかして、この人も魔物にされた人間達から逃げてきたのか?」
小柄なリーフではあるが、人を数メートル吹っ飛ばす程の力、それに噛み付き攻撃もしていた。腕は多分魔物になった人間に噛まれたのだろう。
脇腹の穴だけは未だに謎だが。
「とりあえず、早くギルドに報告した方がいいかもな。こいつは俺が『マジックポケット』で回収するからリーフは周りの警戒を頼む。」
あれだけ大騒ぎしたのだ。魔物がよってきてもおかしくはない。
「分かりました……って言おうとしたんですが。」
困った表情を浮かべるリーフ。
言いたいことは分かる。もう、周りにゴブリンが集まっているのだから。
しかも、クエスト達成に必要な4体ちょうど。
「今回は俺が攻撃しよう。試したいこともあるしな。」
魔力も満タンではないが、半分はあるしちょうどいい。
さっき、この人間の魔物を倒した時にデュアルアクションの習得条件も達成した。すでに、スキル欄に移動させ、いつでも使用可能だ。
「その顔……なにかあるんですか?」
「あぁ、詠唱省略(小)とデュアルアクションのスキル習得できたから試してみたいんだ。リーフはそこで見といてくれ。」
「分かりました。」
大人しくリーフは下がり、俺とゴブリン4体が向かい合う形になる。
「さて、もうひと仕事頑張りますか。」
「「「「ギャッギャッ!」」」」
4体のゴブリンが一斉に襲いかかってくる。
「〈集いし魔力よ〉!」
左手から『マジックショット』が一発放たれその直後に、デュアルアクションの効果により、もう一発『マジックショット』が放たれる。
さすがに魔力は『マジックショット』二発分持っていかれ、消費魔力量は多いが、ゴブリンが二発の『マジックショット』の直撃で倒れるのを見て、まぁいいかと思った。
「〈小さな火球よ〉!」
今度は、少し威力の高い『ファイア』を二発撃ってみる。
『マジックショット』でもゴブリンは倒れたため、やはり『ファイア』でもゴブリンを仕留めることに成功する。
「ギ……ギャ」
ほんの五秒ほどで仲間を二体も倒されたゴブリン達は混乱しながらも、棍棒を持って走ってくる。
「〈風よ阻め〉」
『ウィンドブロウ』を二重に放ち、ゴブリン達は風に押され思うように前に進めない。
「最後だ、〈集いし魔力よ〉!」
二体に『マジックショット』を叩き込む。
まだ発動していた『ウィンドブロウ』の影響で、『マジックショット』は加速し、速度が上昇しなんと一体、一発で仕留めることが出来た。
「いや、詠唱省略(小)とデュアルアクションのコンビ強いな。」
魔石を使用したことで魔法の効果が、下がっていたが、それでも二十秒も経たずにゴブリン4体を殲滅してしまった。
「す、凄いですねユウキさん。」
後ろで見ていたリーフが握手しながら近寄ってきた。
「スキルってやっぱり大事なんだな。っと、それよりも早くギルド行こう。」
「そうですね、あまり長居しているといつあの魔物も来るか分からないですしね。」
『マジックポケット』で人間の死体を回収し、俺達はビギシティに向かった。
今回使用した魔法
ウォーターフィルム 初級魔法
防御力 F++
魔法制御力 F-
消費魔力量 F-
魔法発動速度 F+
呪文
我が身を守れ・青く輝く・水の膜よ
説明
自分の目の前に50cmほどの大きさの水の膜を作り出す。
ウォーターフィルム 真・無属性ver
防御力 F+
魔法制御力 F--
消費魔力量 F--
魔法発動速度 F+
呪文
我が眼前にいでよ・守りの膜よ
ウィンドブロウ 初級魔法
攻撃力 G
魔法制御力 G
消費魔力量 G
射程 F
魔法発動速度 E-
詠唱
自然に満ちし緑の風よ・我が敵の行く手・阻みたまえ
説明
突風を吹かせ、敵を押し戻す魔法。
さらに、僅かな間敵を怯ませる。
ウィンドブロウ 真・無属性
攻撃力 G+
魔法制御力 G-
消費魔力量 G+
射程 F
魔法発動速度 F++
詠唱
阻みし風よ・ここに満ちよ
アースウォール 初級魔法
防御力 F-
魔法制御力 F--
消費魔力量 G
魔法発動速度 G
詠唱
隔てよ・地よりいでし・土壁よ
詠唱
土でできた畳二畳程の大きさの土壁を作り出す魔法。
アースウォール 真・無属性ver
防御力 F--
魔法制御力 F-
消費魔力量 G++
魔法発動速度 G+
詠唱
隔てるものは・土の壁
クエストのために、街を出て三分ほど歩き、街から離れた所でスライムを四体発見した。
デュアルアクション(初級)の習得条件は同じ初級魔法を二回連続で使って魔物を十体倒すことだ。
つまり、Gランクのスライム相手だと、ワンパンで倒してしまうかもしれないから少し加減して倒さないといけない。
二回魔法を使わないといけないからな。
「リーフはどうする?デュアルアクション習得したいなら、半分そっちに寄越すけど……。」
隣にいるリーフに話しかける。
「いえ、私はユウキさんが習得した後で大丈夫ですよ。デュアルアクションは攻撃魔法を主に使うユウキさんが早く習得した方がいいでしょうし。
ほら、私は回復魔法をメインで使うので。
手助けは……いりませんよね。」
「手助けは大丈夫だ。そんじゃ、お言葉に甘えて……。〈集いし魔力の高まりよ・我が手より放たれよ〉!」
四体のスライムは全員が固まって動いていたため、その中心に向かって『マジックショット』を放つ。
四体のスライムが衝撃で散らばり、あたふたしている。
直撃はしていないため、まだ倒せてはいない。
スライムが混乱しているうちに、再び『マジックショット』で仕留めていく。
「ユウキさん、後ろ!」
スライムを三体倒した直後に、離れたところから見ていたリーフが俺の真後ろを指しながら叫ぶ。
後ろを見ると、スライムが飛び跳ねてタックルしてきていた。
その攻撃は、昨日見たばかりなので軽く体を横へとずらして、そこに『マジックショット』を撃ち込み、スライムを全滅させる。
「うーん、やっぱりいちいち長々と詠唱してると、こうなるよな。」
ますます、デュアルアクション、それに詠唱を一節短縮させる詠唱省略(小)が欲しくなってきた。
「あと六体か。この調子で行けば、クエスト完了とデュアルアクションを習得出来そうだな。リーフも戦うか?」
「あはは、今みたいに一対四みたいなのはちょっと怖いので、戦うならもう少し少なめのときにしときます。」
確かに今のスライムの攻撃を避けられなければ、そこそこのダメージを受けていたからな。俺も用心するとしよう。
「ギャギャッ!」
「わっ、びっくりした。ゴブリンですね、今の戦闘音に気づいて近づいてきたみたいですね。」
急に出てきた三体のゴブリンにリーフは驚き、数歩後ろに下がる。
「さっそく、クエストの対象が出てきたな。
リーフ言った通り、まずは俺が前衛で抑えるから、リーフは後ろから攻撃してくれ!」
「分かりました!」
さらにリーフは下がって魔法の詠唱を開始する。
それをちらっと見て確認し、棍棒を持って襲いかかってくるゴブリン達を目の前にして、俺は防御魔法を唱える。
「〈我が眼前にいでよ・守りの膜よ〉!」
初級水属性魔法『ウォーターフィルム』の呪文を唱える。すると、俺の目の前に肩から太ももくらいの大きさの水の膜が出現した。
「ギャッ!ギャッ!」
ゴブリンが棍棒を振るう度に、『ウォーターフィルム』が衝撃を防ぐ。
しかし、あまり耐久がないため、少しずつ水が飛び散っていく。
あくまで、リーフの攻撃のための時間稼ぎの防御魔法なので、別に『ウォーターフィルム』が崩されても問題は無い。
「行って、『ファイア』!」
「ギィ……ャ!?」
『ウォーターフィルム』がまだ残っているうちにリーフの『ファイア』の詠唱が完成し、俺にどんな魔法を使用したか分かるためか、魔法の名前を言って、一体のゴブリンに直撃する。
ゴブリンは後ろのリーフに気づいていておらず、不意をつかれ、数メートル後ろに吹っ飛んだ。
リーフは俺をちらっと見て、さらに攻撃魔法を放つために詠唱を開始する。
「「ギャッギャッ!!」」
残りの二体のゴブリンが前衛の俺を守っている『ウォーターフィルム』の横を通り抜け、詠唱中のリーフに向かって走っていく。
ゴブリンが迫ってきているというのに、リーフは怯まず、詠唱を続けている。
なぜなら……
「阻め、『アースウォール』!!」
さっき俺を見た時にさらに防御魔法の詠唱をしていることに気づいたからだ。
『ウォーターフィルム』で足止めしていた間何もしていなかった訳じゃない。初級土属性魔法の『アースウォール』を詠唱し、リーフとゴブリンの間に地面から畳二畳分ほどの土の壁が現れた。
ゴブリンの目の前で『アースウォール』を発動したため、勢い余って二体のゴブリンは壁にぶつかる。
「いまっ、『ウィンドブロウ』!」
そこに『アースウォール』の横から体を出し、射線を通したリーフが初級風属性魔法『ウィンドブロウ』を二体のゴブリン目掛けて放った。
『ウィンドブロウ』は、突風を放って敵を押し戻し、僅かに怯ませるという効果を持つ。
ゴブリンが僅かに怯んだ、その瞬間に……
「〈小さき火種よ・火球となれ〉!」
「〈小さき炎の灯火よ・我が手に宿りて・火球となれ〉!」
俺は振り返り、一体のゴブリンに……リーフはもう一体のゴブリンに『ファイア』を同時にぶち込む。
「「ギャッギャッ!?」」」
挟み撃ちにされ、ゴブリンは瀕死になりながら混乱している。
「ハッ!!」
あの二体のゴブリンをリーフに任せ、俺は前を向きながら、ベルトに付けている短剣を取り出し、目の前に向かって投げる。
「ギャッ……。」
そこには、一番最初に『ファイア』を受けたゴブリンがかなり近くまで来ていたが、頭に短剣が刺さっていた。
僅かに、ゴブリンの声が聞こえて、咄嗟に反応し、短剣を投げたがちゃんと刺さってよかった。
後ろからもゴブリンのうめき声が聞こえる。
振り返ると、ゴブリンが倒されていた。
混乱しているうちに攻撃魔法で倒したのだろう。
「やったなリーフ。」
「ふふ、そうですね。」
ゴブリンからリーフに視線を移すと、僅かにだか、笑みをうかべていた。
「なんだか、嬉しそうだな。」
「多分、ステータスが上昇したんだと思います。それで、ちょっと高揚した気分になっただけなので、気にしないで大丈夫ですよ。」
そういえば記憶にあったな。
この世界の人はステータスが上昇すると、本能が喜び、数秒間気分が高揚すると。
俺も昨日、ステータスが上がり、ほんのちょっとだけ気分が高揚した。
リーフは上昇したステータスを確認するため、ギルドカードを取り出した。
「あっ、やっばり魔法攻撃力が上がってます!」
俺にギルドカードを見せながら嬉しそうに笑っている。
確かリーフの魔法攻撃力はF-だったはずだ。それが今は、Fになっている。
「良かったな、まだ魔法攻撃力を鍛えるか?俺はまだ魔法防御力が上がってないから、俺は構わないが。」
「そうですね、私の魔法攻撃力があと一段階、ユウキさんの魔法防御力が一段階上がったら攻守交代しましょう。」
「分かった。魔力は大丈夫か?攻撃魔法ばっかり使ってたし、火属性魔法も二回使ってただろ?」
攻撃魔法は敵へ放つ前提で作られている魔法であるため、自分の周りに放つ防御魔法と違って、安定させて敵に当てるのにさらに魔力を使う。
だから、防御魔法よりも消費魔力量が多いし、火属性はさらに消費魔力量が多い。
ちなみにリーフの魔力量はF+だ。
これは、同じ消費魔力量の魔法……つまり消費魔力量がF+の魔法を一度放つと全ての魔力が無くなる訳ではなく、だいたい五回ほど放つと魔力が無くなる。
先程リーフは消費魔力量がFの『ファイア』を二回とG+の『ウィンドブロウ』を放っていた。
まだ、魔力には余裕があるだろうが、一応気にかけておく。
「はい、まだ半分以上、魔力残っているので大丈夫ですよ。」
「なら、まだ休憩しなくても大丈夫だな。」
「はい、体力も全然残ってますし、このままゴブリンの探索にしましょう。」
やはりまだ魔力は大丈夫のようだ。それに体力も。
ギルドカードを見て、あとゴブリンを七体討伐しないといけないことを確認し、ゴブリンを探すために辺りを見回しながら移動を開始した。
「ふう、ゴブリンはあと四体か。」
持っていた初級魔石を砕いて魔力を回復させる。
あれから一時間後、たった今ゴブリンを三体倒し、40分前にデュアルアクションの条件を達成するための、スライムも五体倒した。
ゴブリン討伐にはあと四体、デュアルアクションの条件を達成するのに、あと一体の魔物を二回連続で同じ初級魔法で倒さなければならない。
そんなことを思っていると、僅かな高揚感が身体を包む。
もしやと思い、ギルドカードを取り出すと、
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 F+
魔法防御力 F+
魔法回復力 F+
魔法制御力 E+
魔力回復速度 E
魔力量 D+
Eランク
スキル欄(3)
スキル
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(2)
器の加護
マジックシェア
「お、魔法防御力が二段階上がった。」
今回もゴブリン戦の時に防御魔法を何度か使った。
魔法防御力がF-から魔法攻撃力と同じF+になっていた。
一番低いステータスだっただろうか……上がりやすく一気に二段階上昇していた。
「わ、私も魔法攻撃力が上がりました。それに魔力量も……というか、ランク自体が上がりました!Eランクです!Eランク!」
リーフも同じくステータスが上昇したのか、ギルドカードを取り出していた。
しかも、ランクも上がったみたいだ。
「おめでとう。」
「えへへ、ありがとうございます!」
「ステータス見せてもらってもいいか?」
「どうぞどうぞ!」
リーフのギルドカードを受け取り、確認してみる。
リーフ・クレイン(16)
魔法使い 得意属性【?】
魔法攻撃力 F+
魔法防御力 F--
魔法回復力 D-
魔法制御力 E--
魔力回復速度 F+
魔力量 F++
Eランク
スキル欄(3)
回復魔法使い
「だいぶ、ステータス上がってきたな。」
「まぁ、こんなにすぐステータスが上がるのは最初のうちだけでしょうけどね。これから、どんどんステータス上がりにくくなるでしょうね。
Eランクからランクを上げるのが大変になるって聞きますし。」
あはは、と笑いながらリーフはギルドカードをポケットに入れる。
「さて、ちょっと疲れてきましたし、休憩でもしましょうか?」
「そうだな、もう昼だしひと休みしよう。」
リーフの提案にのり、少し歩いて魔物のいない木の木陰に腰を下ろす。
そして、俺達は街を出る前に買った黒パンと干し肉、水筒を『マジックポケット』から取り出す。
重量があまりないため、魔力量も減少しなかったので助かった。
黒パンと干し肉……今まで食べたことがないからちょっと楽しみだ。
「んじゃ、いただきます。」
黒パンを一口……
「かったぁ!?」
黒パンは硬いと言うが、予想以上に硬かった。
「だ、大丈夫ですかユウキさん?」
隣で干し肉を食べようとしていたリーフが、俺の声にピクっと驚いたように反応する。
「あぁ、すまない。思っていた以上にこれが硬かっただけだ。干し肉はどうだ?」
もう片方の手に持っていた干し肉を食べる。
「しょっぱ……。」
塩が大量に塗られてるから当たり前だけど、めちゃくちゃしょっぱかった。
水筒を取り出し、ゴクゴクと水を飲む。
「あまり美味しくないですよね、黒パンに干し肉。
別に今日みたいにそんなに遠出しないクエストなら保存性の効くこの食料を買わなくても良かったんですけど……。」
そう、本当は普通の食材でも良かった。
それでも、黒パンと干し肉を選んだ理由はただ単に俺の好奇心が勝ったからだ。どんなものか食べてみようと、購入したのだが、何故かリーフも一緒に黒パンと干し肉を選んだのだった。
「どうしてリーフも黒パンと干し肉にしたんだ?」
「これから、冒険者として活動する機会も今後は多くなるので今のうちに味に慣れておこうかと思いまして。
私あとひと月もしたら王都に行くんですよ。
王都の冒険者ギルドのクエストは時間のかかるクエストも多いと聞いたので、その分干し肉とかを食べる機会も増えてくると思ったので……だからです。」
「そういえば、昨日食事の時に王都に行くって言ってたな。」
アレンやリーパーと食堂で会った時に、アレンがリーフが王都へ行くと言っていたことを思い出す。
「王都にあるハーパン魔法学園の入学するための試験があと1ヶ月後にあるんですよ。それを受けに行くんです。」
へぇ、やっぱりこの世界にも学校みたいなものがあるんだな。
「そのハーパン魔法学園で魔法について学べるのか?」
「はい、3年間にわたって様々な魔法の効果や使い方を教えてくれますよ。将来冒険者を目指す人はもちろん、魔法の研究をしたい人とか色んな人が集まります。」
魔法を学べる……か。もしそれが本当なら俺もハーパン魔法学園に行っていろいろ学びたいものだ。
「その顔……もしかしてユウキさんもハーパン魔法学園で魔法を学びたいって思ってます?」
「え、あぁ、まあ。
でも、試験を受けるためにはいろいろ準備とかあるんだろ?」
この世界に来たばかりだから、試験を受けるための準備なんてしている訳ない。
「あぁ、試験と言っても魔法を使って的を撃つだけの簡単な試験です。昔は、魔法に関する筆記テストとか魔法もある程度使えないと入学出来なかったらしいんですけど、魔王が現れたからは少しでも戦える魔法使いを増やすために簡単な的を撃つだけの試験にしたみたいです。
試験を受ける人が魔法使いであれば、ほぼほぼ合格できるんだとか。
授業料とかも昔と違ってかなり緩和されて、入学時に15万ギル必要で、そして1ヶ月の授業料は5000ギルなんだとか。そして、寮も無料で使えるみたいです。
昔はもっと高かったらしいですよ。」
余程切羽詰っているのだろうか?そこまでして戦える者を増やしたいとは……。
まあ、何はともあれ俺でも試験を受けることが出来るということが知れたのは、朗報だ。
「なら、俺も受けてみるか……。リーフはいつ王都に行くんだ?」
「ビギシティにある王都行きの馬車があと1週間ほどでビギシティに来るので、今日から数えて1週間後ですね。一緒に行きましょうか?ビギシティにいるなら、またここに来た時に訪ねますよ。」
「そうだな、1人だと分からないこともあるだろうし……。
それにしても、明後日ミラン村に帰って、その後また戻ってくるのか。大変そうだな。」
「一旦親に帰ってこいと言われているので、ビギシティに留まれないんですよね。」
リーフは、はは、と軽く笑いながら黒パンを口に入れる。
「じゃあ、俺も準備しとくか。お金も減ってきたし、試験までに稼いでおかないとな。」
残り10万ギル程しかないから、リーフが帰ったあともクエスト受けないといけないな……。
「あはは、王都にも冒険者ギルドあるので、王都でも一緒にクエストしましょうよ。毎月払う分の学費10万ギルも稼がないといけないですし。」
「そうだな、その時はまたよろしく。」
「こちらこそよろしくお願い致します。」
手を差し、握手をする。
「……あれ、あそこに誰かいませんか?」
リーフが俺の背後を見て目を凝らす。
「本当だ。こんな所に人がいるってことは、クエスト受けてる冒険者か?」
「なんか、ふらふらしてませんか?
あっ、倒れました!もしかして怪我してるとか!?」
慌てた様子で駆け寄ろうとリーフは、走り出す。
俺も気になるので後を追うことにした。
辿り着くと、衝撃の光景に目を疑った。
「な、なんて酷い怪我……こんな怪我私には……。」
うつ伏せに倒れた人物は、村人のような格好をして魔物が出現するこんな場所なのに、武器なども一切持っていなかった。
そして、気になる点はまだある。腕には無数の噛み傷があって血が滲んでおり、ボロボロの服、そして脇腹にピンポン玉くらいの穴が空いている。そこからかなり出血したみたいで、この人物のものであろう血液が、地面に大量に付着している。
「これは、もうダメだろうな……っ!?」
そっと、その人物の体を動かすと顔が見えた。その顔はまるで力任せに何度も何度も殴られたかのような酷い有様だった。
「な、なんて酷い。一体この人はなんでこんな傷を……。」
声を震わせながらリーフは呟く。
「魔物にやられたのか?それに、なんで武器を持っていないんだ。」
魔物にやられた可能性を模索するが、この噛み跡はグレイウルフのような狼のような噛み跡じゃない。それに、顔の殴られた跡もゴブリンに殴られたようなものでもない。
というか、
「なぁ、この顔の殴られた跡……人間の拳みたいな形をしてないか?それにこの噛み跡も、人間の噛み跡みたいな……。」
「まさか、これを人がやったって言うんですか!?
一体何の目的で……。」
「さぁ、俺に言われてもな。でも、この人の死の一番の原因は、この穴だろうな。」
脇腹に空いた穴を見る。日本に住んでいてこんな傷……というか、こんな状態の死体すら見た事ないが、何とか気持ちを落ち着ける。
「多分なにかの魔法でしょうね。この人の格好からするにさほど鍛えてない村人の方でしょうけど、人体に穴を空けるほどの攻撃力を有している。
つまり、中級魔法以上の魔法を使える人に殺された?」
「つまり、何人かに攻撃されたってことか。」
殴られ、噛まれ、魔法で穴を空けられ……なんでこの人はそんな目にあったんだろうな。
「とりあえず、ここら辺から離れた方がいいかもしれませんね。いつ私達も襲われるか分からないですし。」
いつの間にかリーフは、少し落ち着いたのか、声は震えなくなっていた。
「一応、ギルドにも報告した方がいいかもな。
この人はどうしようか……『マジックポケット』に入れてギルドに預けようかな。」
放置したとしても、魔物に食べられたりするだけだろうし、ギルドに説明する時に一緒に引き渡そう。
そう思いながら、手をかざして、『マジックポケット』を詠唱しようとすると……
「ぐ……」
「生きてた!?動かないでください。回復魔法をかけるので!」
小さなうめき声……それにリーフが反応し、初級光属性魔法『ヒール』をかけようとする。
「グ……ガ……」
「リーフ待て……様子がおかしい。」
俺は『マジックポケット』をキャンセルし、手でリーフを静止させる。
「で、でも!早くしないと死んじゃいますよ。」
「見てみろ、起き上がろうとしてる。あの傷と出血量で……だ。」
手で地面を押して、体を起こしこっちを向いた。
その目は、白目を向いており、どう考えても普通じゃない。
「グガァ!!」
「っ!〈集いし魔力の高まりよ……〉」
両手を突き出し、走りながら俺に向かってきたため、『マジックショット』を詠唱する。
しかし、至近距離のため、間に合わないし回避しようとすると、リーフが犠牲になってしまう。
「これでもくらえ!」
やつの手が俺を掴む前に、詠唱を諦め、短剣を抜いてそれで腕を切り裂く。
「グガァァァ!!」
「ゆ、ユウキさん……。」
若干怯み、硬直したのを見て少し、リーフと後ろに下がる。
「あれはもう人じゃない。殺らないと、今度は俺達が殺られるぞ!」
「ぅ……わ、分かりました。サポートします!」
俺の一喝により、覚悟を決めたのか、『ファイア』の詠唱を始めるリーフ。なら俺は……
「〈阻みし風よ・ここに満ちよ〉!」
突風を吹かせて僅かにだが、足止めを行う。
「ユウキさん!」
後ろからリーフの声が聞こえ、右に一歩移動する。
その直後に、火の塊がそいつ向けて放たれ、直撃し数メートル吹っ飛ばす。
「ど、どうですか。」
「いや、まだ完全に死んでないな。〈集いし魔力の高まりよ・我が手より放たれよ〉!」
『ファイア』が思いっきり、直撃しても体が若干ピクピクと動いていたので追撃で『マジックショット』を遠慮なしで頭に向けて放つ。
……僅かな高揚感。いや、それよりもまずこいつの確認だ。
それに視線を移すと、まだピクピクと体を動かしている。
「グ……グ……がァァァァァ!!」
「なんて耐久力だよ。」
無防備なところに『マジックショット』を撃ったのにも関わらず、今までよりもより素早くこっちに接近してくる。
「きゃぁぁぁ!?」
そいつの狙いはリーフに向いたようで、思いっきりリーフに向かって突進し、リーフを数メートル吹っ飛ばしながら、押し倒す。
「リーフっ!」
速すぎて俺も、リーフも反応が遅れる。
「ガアァァ!」
口を大きく開けて、そいつはリーフの首元を食いちぎろうとする。
「離してっ!!」
必死にそいつの頭を手でリーフは抑えるが、そいつの力が強すぎて、ほとんど効果がない。
どうする、魔法は2節……もう間に合わない。
短剣を手に持っているが、この距離だと投げるしかない。しかし、距離が離れているのと首元を食いちぎろうとしているため姿勢が低いため、制御しやすい初級魔法と違って当たらない可能性もあるし、なんなら頭目掛けて投げようもんなら、リーフに短剣が刺さる可能性もある。
いや待て、さっきの高揚感……もしかして、
脳裏に自分のステータスを映し出す。
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 F++
魔法防御力 F+
魔法回復力 F+
魔法制御力 E++
魔力回復速度 E
魔力量 D+
Eランク
スキル欄(3)
スキル
詠唱省略(小)
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(2)
器の加護
マジックシェア
やっぱり、魔法制御力がさっきので上昇して、詠唱省略(小)の習得条件を満たしたんだ。ついでに魔法攻撃力も上昇している。
詠唱省略(小)を使用したいと思うと、勝手にスキル欄に詠唱省略(小)が映し出され、使用出来るようになる。
「ガァァァ!!」
リーフが押し倒されてから、ここまで約0.5秒。
「〈集いし魔力よ〉っ!!」
左手を突き出し、やつの体に『マジックショット』が直撃させる。
またしてもその衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
そこに、詠唱を一瞬で終わらせ、準備した『マジックショット』で追撃する。
「リーフ無事か!」
「少し噛まれましたけど、噛みちぎられる前にユウキさんが『マジックショット』を撃ってくれたので、何とか大丈夫です。」
リーフは首元を抑えながらよろよろと立ち上がる。
噛み跡がついているが、出血はしていない。
何とか間に合ったようだ。
「それにしても、まだ立ち上がるみたいですね。」
リーフの視線を辿ると、まだ動いていた。
「ならこれでトドメだ。〈集いし魔力よ〉!」
頭をしっかりと狙って魔力多めの『マジックショット』を至近距離で放つ。
「ガ……」
しばらく痙攣していたが、数秒後、その体は動きを止めた。
「はぁ……一体なんなんだこいつは。」
かなり魔力を使ってしまい、倦怠感が体を襲い始める。
腰袋から1つ初級魔石を取りだし、魔力を込めて握ると、パキンと魔石は割れ、魔石の中に入っていた魔力が体に染み込む。これで持っている魔石は中級魔石3つのみだ。
「まさか、人が魔物になるなんて。」
「もしかして、この人も魔物にされた人間達から逃げてきたのか?」
小柄なリーフではあるが、人を数メートル吹っ飛ばす程の力、それに噛み付き攻撃もしていた。腕は多分魔物になった人間に噛まれたのだろう。
脇腹の穴だけは未だに謎だが。
「とりあえず、早くギルドに報告した方がいいかもな。こいつは俺が『マジックポケット』で回収するからリーフは周りの警戒を頼む。」
あれだけ大騒ぎしたのだ。魔物がよってきてもおかしくはない。
「分かりました……って言おうとしたんですが。」
困った表情を浮かべるリーフ。
言いたいことは分かる。もう、周りにゴブリンが集まっているのだから。
しかも、クエスト達成に必要な4体ちょうど。
「今回は俺が攻撃しよう。試したいこともあるしな。」
魔力も満タンではないが、半分はあるしちょうどいい。
さっき、この人間の魔物を倒した時にデュアルアクションの習得条件も達成した。すでに、スキル欄に移動させ、いつでも使用可能だ。
「その顔……なにかあるんですか?」
「あぁ、詠唱省略(小)とデュアルアクションのスキル習得できたから試してみたいんだ。リーフはそこで見といてくれ。」
「分かりました。」
大人しくリーフは下がり、俺とゴブリン4体が向かい合う形になる。
「さて、もうひと仕事頑張りますか。」
「「「「ギャッギャッ!」」」」
4体のゴブリンが一斉に襲いかかってくる。
「〈集いし魔力よ〉!」
左手から『マジックショット』が一発放たれその直後に、デュアルアクションの効果により、もう一発『マジックショット』が放たれる。
さすがに魔力は『マジックショット』二発分持っていかれ、消費魔力量は多いが、ゴブリンが二発の『マジックショット』の直撃で倒れるのを見て、まぁいいかと思った。
「〈小さな火球よ〉!」
今度は、少し威力の高い『ファイア』を二発撃ってみる。
『マジックショット』でもゴブリンは倒れたため、やはり『ファイア』でもゴブリンを仕留めることに成功する。
「ギ……ギャ」
ほんの五秒ほどで仲間を二体も倒されたゴブリン達は混乱しながらも、棍棒を持って走ってくる。
「〈風よ阻め〉」
『ウィンドブロウ』を二重に放ち、ゴブリン達は風に押され思うように前に進めない。
「最後だ、〈集いし魔力よ〉!」
二体に『マジックショット』を叩き込む。
まだ発動していた『ウィンドブロウ』の影響で、『マジックショット』は加速し、速度が上昇しなんと一体、一発で仕留めることが出来た。
「いや、詠唱省略(小)とデュアルアクションのコンビ強いな。」
魔石を使用したことで魔法の効果が、下がっていたが、それでも二十秒も経たずにゴブリン4体を殲滅してしまった。
「す、凄いですねユウキさん。」
後ろで見ていたリーフが握手しながら近寄ってきた。
「スキルってやっぱり大事なんだな。っと、それよりも早くギルド行こう。」
「そうですね、あまり長居しているといつあの魔物も来るか分からないですしね。」
『マジックポケット』で人間の死体を回収し、俺達はビギシティに向かった。
今回使用した魔法
ウォーターフィルム 初級魔法
防御力 F++
魔法制御力 F-
消費魔力量 F-
魔法発動速度 F+
呪文
我が身を守れ・青く輝く・水の膜よ
説明
自分の目の前に50cmほどの大きさの水の膜を作り出す。
ウォーターフィルム 真・無属性ver
防御力 F+
魔法制御力 F--
消費魔力量 F--
魔法発動速度 F+
呪文
我が眼前にいでよ・守りの膜よ
ウィンドブロウ 初級魔法
攻撃力 G
魔法制御力 G
消費魔力量 G
射程 F
魔法発動速度 E-
詠唱
自然に満ちし緑の風よ・我が敵の行く手・阻みたまえ
説明
突風を吹かせ、敵を押し戻す魔法。
さらに、僅かな間敵を怯ませる。
ウィンドブロウ 真・無属性
攻撃力 G+
魔法制御力 G-
消費魔力量 G+
射程 F
魔法発動速度 F++
詠唱
阻みし風よ・ここに満ちよ
アースウォール 初級魔法
防御力 F-
魔法制御力 F--
消費魔力量 G
魔法発動速度 G
詠唱
隔てよ・地よりいでし・土壁よ
詠唱
土でできた畳二畳程の大きさの土壁を作り出す魔法。
アースウォール 真・無属性ver
防御力 F--
魔法制御力 F-
消費魔力量 G++
魔法発動速度 G+
詠唱
隔てるものは・土の壁
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直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
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