憧れの世界は牙を剥く

奈倉ゆう

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2章 ビギシティと出会い

ヒューデットと中級魔法

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 次の日の朝

 リーフとともに朝食を食べ、グレイトウルフの装備を身につけて、懐に閃光石を入れ、ポーションや魔石を入れた小物入れのベルトを装着する。
 グレイトウルフの装備は昨日洗ったばかりだが、すぐに乾くものだったらしく、朝にはすっかり乾いていた。

「さて、リーフと合流して冒険者ギルドに行くか。」

 この世界に来てまだ3日目のため、荷物なんてものはほぼないが、最低限の荷物だけ持って部屋を後にした。





「ユウキさん、こっちですよー。」

 受付付近でリーフを見つけ、リーフも俺を見つけると、手を振る。
 昨日と同じ格好で準備万端といった感じだ。

「おやおや、今日もクエストかい?」

 受付のおばあさんが俺達を見つけて話しかけてきた。

「あぁ、新種の魔物を撃破するクエストだ。」

「新種の魔物かい?そういえば、爺さんが食材が届かないって言ってたが、もしかしてその魔物のせいかね?」

 おぉ、このおばあさん勘がいいな。

「まだ、そいつのせいだと断言は出来ないが……多分そうなんじゃないかって俺たちは思っている。」

「そうかい……気をつけるんだよ。危なくなったらすぐ逃げなさい。」

「分かってます。危ない目に遭わないのが1番ですけどね。」

 リーフが苦笑いしながら、呟く。

「それじゃ、行ってくる。」

「あぁ、頑張ってきなよ。」

 わざわざ外に出ておばあさんは見送ってくれた。

「んじゃ、冒険者ギルドに行こうか。」

「アイオンさん達はもう着いてるんですかね?」

「さぁな、着いてるんじゃないか?」

 今は朝の8時過ぎ。一般的に冒険者達が活動し始めるのは9時過ぎくらいだ。
 早く宿を出たのは、昨日冒険者ギルドを出る前にガローギルドマスターから、ヒューデットの解析を朝までに終わらせ、情報を共有するから少し早めに来てくれと言われたためだ。

 しばらく歩いていき、冒険者ギルドに8時30分くらいに着き、中へと入った。




「お、来たか、2人ともおはよう!」

「おはようございます。」

 入口近くにある椅子に座っていた、アイオンとキャサリンが俺たちに気づいて、こっちに歩いてきた。

「おはよう。」

「おはようございます。えーと、もしかして私達遅刻しました。」

「いや、俺達が早く来ただけだ。2人とも昨日はちゃんと休めたか?」

「あぁ、体力も魔力も全快してる。」

 軽く笑みを浮かべ、俺は頷く。

「私もちゃんと休めましたので大丈夫ですよ。」

 リーフもやる気満々の様子だ。

「はは、若いってやっぱいいな。なぁ、キャサリン?」

「えぇ、20年ほど前を思い出しますよ。あの時のアイオンは敵に向かって突っ込むことしか頭になくて、サポートするのが大変でした。」

「いや、それ今思い出さなくても良くないか?少なくとも後輩冒険者たちの前で言うべきでないと思うのですよ、キャサリンさん?」

 アイオンがじーとキャサリンを見て、どこかおかしな言葉でキャサリンを責める。

「冗談ですよ。いえ、本当にあったことですけど。
 とりあえず、ガローにヒューデットに関しての情報を教えてもらいましょう。」

 口に片手を軽くつけながら上品にキャサリンは笑い、ギルド職員の方へと足を進めて行った。

「誤魔化したなあいつ。」

 はぁ、とため息をつきながらも、キャサリンの後を追っていくアイオン。

「私達も行きましょうか。」

「そうだな。」

 リーフの言葉に頷き、ギルド職員に話しかけているキャサリンの元へと向かう。





「すみません、ギルドマスターに依頼を受けたものですが……ギルドマスターは今いらっしゃいますか?」

「はい、いらっしゃいますよ。クリッチさんに、ラグナさん、ツキモトさんに、クレインさんですね。
 ギルドマスターの元へ案内致します。」

 キャサリンがギルド職員に話しかけると、事前にギルドマスターから、職員に話していたのか、スムーズにギルドマスターの部屋へと案内される。
 というか、3人の苗字忘れてて一瞬、誰のことを言っているのか分からなかった。
 とりあえず、着いていくことにしよう。




「……おうお前ら、ヒューデットの鑑定終わってるぜ。」

 クマを作り、少し眠たげな口調でガローギルドマスターが出迎える。

「ガローお前寝てないのか?」

 その様子に気づいたアイオンが真っ先に気づいた。

「まあな……新種の魔物だから、できるだけ早くどんな魔物か調べて、注意喚起しないといけないのさ。特にこの街は初心者の冒険者が多いからな。」

「まるでギルドマスターの鏡だな。」

 ふっ、と笑いながらアイオンは、ガローの肩を叩いた。

「冒険者時代に夜に周囲を警戒するために寝ないことなんて、いくらでもあっただろう。
 こんなことで褒めんでもいい。
 とりあえず、ヒューデットの情報を共有するぞ。」

 呆れるように笑いながら、アイオンの手を軽く振り払い、1枚の羊皮紙を持ってきた。
 いつも見る羊皮紙よりも少し大きくそこにはヒューデットのステータスや、特徴などが書かれていた。

「魔道具を使って、ヒューデットを調べた結果だ。
 とりあえずステータスを見てくれ。」

 ヒューデット 
 戦士

 筋力 B
 戦技攻撃力 E
 戦技防御力 E
 戦技回復力 E
 戦技制御力 E
 魔力回復速度 E
 魔力量 E

 Dランク

 スキル欄(4)

 魔法使いとステータスの項目が違い、戦士は筋力のステータスがあり、魔法攻撃力、魔法防御力、魔法回復力、魔法制御力が全て戦技に置き変わっているみたいだ。
 いや、今注目するべきはそこじゃないな。

「筋力Bで、それ以外が全てEだと?」

 アイオンが険しい表情でステータスを見る。

「これは……かなり尖っているステータスですね。私は戦士では無いですが、これが不自然なことは分かります。」

 キャサリンも眉をひそめる。

「本来こんなステータスにはならない。いや、戦技をあまり使わず、筋トレを何年もかけてすればなるかもしれないが……これは人がヒューデットに変化したからこんなステータスになったんだろうな。
 筋力がかなり高く、その他のステータスは軒並みEランク……結果的にランクはギリギリDランク認定された。」

 ガローギルドマスターが俺とリーフに説明する。

「そのヒューデットになるからくりが分かればいいんだけど……急に苦しみだしてヒューデットに変化したからな。」

 村人がヒューデットになった時を思い出してみるが、どうしてヒューデットになったのか分からない。

「人を魔物に変えるなんらかの手段があるのだろうな。
 少なくともそんなスキルや魔法、魔法具は俺の知る限りない。
 ……ということは、だ。」

 ガローギルドマスターは、途中で一呼吸着いて、自身の予想を口にする。

「人を魔物に変える魔法、またはEXスキル。それを持ったものがいるかもしれない。あくまでも、俺の予想だがな。」

「そんなことが出来る魔法は知りませんが、確かにEXスキルは特別なスキル。そのEXスキルが人を魔物に変えることができる、という効果ならこのヒューデットのことにも説明がつきますね。」

 納得し頷くキャサリン。

「問題はEXスキルの所持者が誰かという点だが……人間ではないだろう。そんなEXスキル持っていたら直ぐにバレる。ステータスを鑑定できる魔道具もあるしな。」

「それじゃあ……魔物か?」

 人間でないとすると、あとは魔物くらいしか思いつかない。

「魔物かもしれんが、まだ候補に上がる奴がいる。
 悪魔だ。奴らは狡猾なだけでなく、ランクもAランク以上の奴らがほとんどだ。
 もしもそんな奴がこの近くにいたら、かなりまずい。
 お前達、特にツキモトと、クレインは悪魔を見かけたらすぐに逃げろ。どれが悪魔か、すぐわかるはずだ。奴らは魔物とは別格だからな。」

「分かりました、私達じゃヒューデットはともかく、悪魔には何も出来そうにないですもんね。」

 少し悔しげにリーフは言う。

「流石に悪魔は俺達も無理だな。もし出会ったら全力ダッシュだな。」

 Bランクであるアイオンも、流石に悪魔は勘弁願いたいらしい。

「まぁ、もしかしたら、だけどな。それと、ツキモトと、リーフは昨日俺が言ったことを覚えてるな?
 ヒューデット3体同時に遭遇したら逃げろと言ったやつだ。
 ヒューデットを調べた時に、こいつはほかの魔物よりも倒した時、ステータスが上がりやすいことが分かった。
 だからヒューデットを倒すほど、お前達のステータスが今日かなり上がり、大丈夫だと思うかもしれない。だが、一応保険をかけておくにこしたことはない。」

 やはり、昨日アイオンが言っていた通り、ヒューデットはステータスが上がりやすいみたいだ。
 だが

「分かってるさ、俺だって死にたくないしな。」

 当然のように俺とリーフは頷いた。
 昨日、中級魔法を教わった時、何度か魔法を使ったため、俺もリーフも昨日キャサリンにステータスを見せた時より少しステータスが上がり、昨日ヒューデットを相手した時よりも強くなっているが、油断せずに行こうと思う。
 油断していないことが分かったのか、ガローギルドマスターはよし、と呟いた。

「それじゃあ、受付に行ってくれ。クエストの手続きをしないといけないからな。
 もう少ししたら声をかけたDランク以上の冒険者が来てまた説明しないといけないから、少し寝る。」

 ガローギルドマスターはそう言って欠伸をする。
 大変だな、とアイオンとキャサリンは軽く笑い、俺達は部屋を出て、受付へと向かっていった。
 その後、受付でギルドカードをギルド職員に渡し、ヒューデット撃破と名付けられたクエストがギルドカードに記載された。





「おう、2人とも街の外へとお出かけか?」

 冒険者ギルドを出て、街の門にて髭面の門番のおっさんが声を掛けてきた。
 この世界に来た初日に会った槍を持ったノリのいいおっさんだ。

「おはようございます。今からクエストで魔物を倒しに行くんです。」

「クエストか。またヒーリンソウとかの採取系のクエストか?」

「いえ、私1人では怖かったからそういうクエストを選んでましたけど、ユウキさんが一緒にクエストを受けてくれたので昨日はゴブリン討伐のクエストを受けました。
 そして、今日も討伐系のクエストを受けるんです。」

 そう言って、ギルドカードを取り出し、おっさんに受注中のクエストの部分を見せる。

「ヒューデット撃破?聞いた事のない名前だが……新種の魔物か?そういえば、昨日休みで酒場にいたんだが、見たことの無い魔物が目撃されたって冒険者の友人が言ってたな。」

 髭を触りながら、おっさんは言う。

「その新種の魔物がヒューデットっていう名前だ。ランクはDで、タフで足が速くて筋力が高い魔物だ。」

「おいおい、そんな魔物が出てきたのか。しかも、Dランクって……この辺りは1番強くてもEランクのグレイウルフだぞ。
 この街は初心者冒険者が多いから、そんなやつに遭遇したら大変な目に遭っちまう。」

「だから、俺達がヒューデットの撃破に立候補して今から倒しに行くってことだ。俺はEランクで、リーフも昨日ランクがFからEランクに上がって、しかもBランクの先輩冒険者に色々と教わったからな。2人なら何とかなるはずだ。」

「そうか……気ぃつけろよ。相手は格上なんだから絶対油断するな。」

 真剣な表情でおっさんは俺達に注意する。
 昨日から何度も油断するな、危なくなったら逃げろと言われ続けている。この街の人達は過保護だな……と思いつつも、分かったと言い、門を潜り街の外へと出た。




 街の外に出て少し離れると、ゴブリン3体が俺達を視界に捉え、手に持ったボロい棍棒を持って走ってくる。

「ゴブリン3体か。中級魔法の練習にちょうどいいな。リーフ、中級魔法を使ってみようか?」

 数歩踏み出し、後ろにいるリーフに問いかける。

「はい、〈青き水の盾よ・更なる守りの力を発し・受け止めよ〉」

 ゴブリンが俺に棍棒を振るう瞬間、俺の目の前に2m近い水の盾が出現し、完全に攻撃を防ぐ。

「「「ギャ、ギャ!!」」」

 中級水属性魔法『ウォーターシールド』を壊そうと、必死に棍棒を振るうが、ほとんど効果がない。
 ……しかし、『ウォーターシールド』の魔法制御力はE、リーフの魔法制御力も上がっているが、それでもEと同じであるためそこまで長くもたない。
 俺も中級魔法を使って早く切り抜けるとしよう。

「〈赤き炎を纏いし火矢よ・刺し射抜け〉!」

 詠唱を完了させたと同時に、後ろのリーフに合図して目の前の『ウォーターシールド』を消してもらう。
 その直後に、中級火属性魔法『ファイアアロー』を目の前のゴブリンに放つ。
『ファイアアロー』は5本の火矢を召喚し、放つ魔法だ。
 俺は、真・無属性により『ファイアアロー』の魔法制御力はEだが、本家の『ファイアアロー』の魔法制御力はE+のため、リーフは使えない魔法だ。

「「「ギャ!?」」」

 魔法の制御が難しいが、元々魔法攻撃力の高い魔法で、至近距離だったため、5本ともゴブリンに命中し、たった1回の魔法でゴブリンを殲滅した。

「1発で倒せましたね、すごいです!」

「流石は中級魔法だな。真・無属性の効果で火属性魔法の魔法攻撃力が高いっていう特徴がなくても、Fランクのゴブリンくらいなら1発か。」

 中級魔法でゴブリンを全く苦にせず倒せたのに2人で喜ぶ。しかし、中級魔法を使えるようになってメリットがある分、デメリットもある。
 魔力の消費も多いし、なにより俺のデュアルアクションと詠唱省略(小)が使えない。
 俺のデュアルアクションと詠唱省略(小)は初級魔法にしか、効果が発揮しない。
 上手く使い分ける必要があるだろう。

「あっ、ユウキさんあれ見てください。チキンバードです。」

 リーフが裾の端を軽く引っ張って少し離れたところを指差す。
 そこには鋭い嘴を持った、鶏のような魔物がてくてくと歩いていた。

「チキンバードは、食用の魔物として広く知られていて、結構美味しいんですよ。
 しかも、あの嘴に気をつければ、かなり簡単に捕らえることが出来るし、元々Fランクでそこまで強くないので人々に好まれる魔物です。現に私もチキンバードは大好きです!」

「へぇー、でも今回はヒューデット撃破のクエストだし無視するか。」

 気にはなるが、今回のクエストはヒューデットの撃破だ。
 第一、倒したとしても、荷物になる。
 そう言うと、リーフは少し残念そうな表情をし、ハッとした表情を浮かべた。

「倒して、『マジックポケット』に入れれば大丈夫だと思いますよ。Fランクの魔物だから、最大魔力量も減らないですし……。
 血を抜けば、明日ぐらいまでなら、『マジックポケット』に入れてても腐らないと思います。」

 あー、そういえばそんな便利な魔法あったな。
 確かにあのチキンバード1体であれば『マジックポケット』を使用しても最大魔力量は減少しない。
 ちなみに魔物を収納する時は、チキンバードだと、10体入れると最大魔力量が1段階減少する。

「では、ちょっとやってみます。
 〈不可視なる風よ・鋭利なる刃となりて・切り刻め〉!」

 リーフが中級風属性魔法『エアブレード』を詠唱しながら、チキンバードの近くに行き、射程内に入ると、魔法を使用した。
『エアブレード』は、不可視の風の刃を放つ魔法で、不可視故に、チキンバードは一瞬で首チョンパされた。

「うわ……」

 少しグロテスクな光景に若干引きつつも、チキンバードの血抜きをぱぱっとして、胴体を『マジックポケット』に収納したリーフはにこにこしながら戻ってきた。

「ふふ、今度チキンバードでなにか作ろうかな~。」

「血抜きが結構慣れてたな。チキンバードの血抜きやったことあるのか?」

 ルンルン気分で戻ってきたリーフに問いかける。

「ミラン村の周りにもたまにチキンバードがいるので、その時に村の人に習って覚えたんです。」

「そうなのか……まぁいい。
 そろそろ行こう。」

「そうですね、先を急ぎましょう。」

 何体ヒューデットを撃破してこいなどの指定はされていないが、多く倒せることに越したことはない。
 俺達はさらに歩を進めて、近くにあった森の中へと入っていった。









 今回使った魔法
 ファイアアロー 中級魔法 
 魔法攻撃力 D 
 魔力消費量 D
 魔法制御力 E+
 射程 E
 魔法発動速度 E
 詠唱 
 炎を象りし赤き矢よ・猛る炎と鋭さ用いて・仇なす敵を刺し射抜け
 5本の炎の矢を真っ直ぐ放つ魔法。

 ファイアアロー 真・無属性ver
 魔法攻撃力 D-
 消費魔力量 D-
 魔法制御力 E
 射程 E
 魔法発動速度 E
 詠唱
 赤き炎を纏いし火矢よ・刺し射抜け

 ウォーターシールド 中級魔法
 魔法防御力D-
 魔法制御力 E
 消費魔力量 E-
 魔法発動速度 E+
 呪文
 青き水の盾よ・更なる守りの力を発し・受け止めよ
 説明
 2mほどの水の盾を自分の目の前に作り出す。
 ウォーターフィルムの上位互換魔法。

 エアブレード 中級魔法
 魔法攻撃力 D--
 魔法制御力 E--
 消費魔力量 E-
 射程 D
 魔法発動速度 D
 詠唱
 不可視なる風よ・鋭利なる刃となりて・切り刻め
 説明
 30cm程の大きさの不可視の風の刃を放つ。
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