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2章 ビギシティと出会い
絶望
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「まさか、本当に倒すとは思わなかったな。だが……」
フロウアは私に近付きながら笑みを浮かべる。
「お前はもうじき死ぬことになるだろうな。」
「……あなたはヒューデット達を倒したら逃がしてやる……そう言ってませんでしたか?」
魔力が空になりほとんど力が入らない体に鞭を打って、フロウアの前に立つ。
「くくく、確かに言ったな。だが、俺は逃がすといったが、こいつらは逃がすと言ってないぞ?
なぁ、お前たち?」
フロウアがそう言うと、周りのヒューデット達が声を上げ、ゆっくりと近付いてくる。
「ひとでなし」
「そうだな、俺は人ではなく悪魔だ。ところで取引をしないか?私にとってもお前にとっても損の無いものだ。」
「取引ですか、悪魔であるあなたからの取引なんて嫌な予感しかしませんね。」
内心死の恐怖に怯えながらも、私はそれをなんとか表情に出さないよう、冷たく言い放つ。
「もし断ればこの場で苦しみながら死ぬことになるだろうな。故にどんな取引きだろうがお前は頷くしかない。」
「……取引の内容はどんなものなんですか」
ここで死ねばフロウアへの復讐もできない。
とりあえず取引の内容だけでも聞いてみることにする。
「おぉ、引き受けてくれるか。私は嬉しいぞ、話を聞いてくれる気になってくれて。」
やけにわざとらしく喜ぶふりをしながらフロウアは笑みを浮かべる。
「私はまだ受けるとは言ってません!」
「受けるしかないだろう、でなければ死ぬんだからな?
別にお前でなければいけないということは無いんだ。
いくらでも替えがきくんだからな。」
「くっ……取引の内容を教えてください。」
奥歯がギリっと音を立てる。少しでも判断を間違えればフロウアの機嫌を損ね、死んでしまうかもしれない。
緊張しながら、フロウアに問いかける。
「ふん、怖気付いたか。まあいい。
取引の内容だな?それを話す前に俺のEXスキルクリエイトアンデットについて説明しよう。」
フロウアが横で死亡しているアレイさんに手をかざすと、リーパーさんの時と同様、黒い魔法陣が出現し、アレイさんの体が変化し、シャープデットへと姿を変える。
「アレンさんっ……」
「俺のクリエイトアンデットは自分で殺した人間をヒューデットやシャープデットに変えるスキルだ。そして殺した人間のランクに応じて、アンデットとなった者達の力は変化する。ただの村人ならヒューデット、Cランク程の強さを持つこいつならシャープデット、というふうにランクが高ければ高いほどアンデット化した際強くなる。
元々は、どんな人間であれランクに関係なくDランクのヒューデットしか作ることが出来なかった。
だが、魔王様が俺の力に可能性を見出し、俺に力をくれたんだ。」
フロウアは懐から手のひらサイズの2つの器の形状をした紫色の物体と、ハートの形状をした緑色の物体を取り出す。
「神の欠片、元々は神の力が封印されていて神の使徒が使うことで、神の力を使うことが出来るものだ。神の使徒に関してはお前も知っているんじゃないか?」
「確か、神様達から選ばれた魔王を倒す人達のことですよね。」
「あぁ、そうだ。そして神の使徒は神の欠片を使うことで俺達に対して優位に戦うことが出来る。
そんな本来そんな物を悪魔である俺達が使おうとしたら、逆に聖なる力で浄化されるが、魔王様の力で俺達が使っても大丈夫なように改良してくれた。
神の力を使うことは出来ないが、俺達が使った場合、所有者のEXスキルを強化してくれる。」
フロウアは辺りのヒューデットを見回しながら話を続ける。
「神の欠片のおかげで殺した人間のランクに応じて作成できるアンデットの種類が増え、たまに変異種も作れるようになった。さらに、1体ずつしかできないが、俺の魔力と時間を使うことで使用した魔力と時間に応じたヒューデットも作ることができるようになった。
俺は魔王様のお力になるためこの力を使いこなさなければならない。実験体が必要、そこでお前に提案だ。
俺は今1体のヒューデットに俺の魔力を与え、強力なヒューデットを作っている。そして約2日後にはAランクのヒューデットが作れる予定だ。そのヒューデットと今まで作ってきたアンデットでビギシティを襲い、冒険者や街の連中をまとめてアンデット化させる。だが、あの街には今AランクやBランクの冒険者も滞在しており、不安が残る。だから、お前はこのヒューデット達を殺し、力をつけて襲撃を手伝え。
そしてそこで作ったアンデット達もお前が殺し、神や神の使徒、魔王様達といった一部の者しかなれないSSSランクまで言わないが、SSランクとなり、その後俺に殺されアンデットとなるんだ
くくく、とんでもない化け物が誕生するだろうな。」
「なにを……あなたは……何を言ってるんですか」
ビギシティを襲う?ヒューデット達を私が殺す?SSランクになってアンデット化させる?
あまりにも重大な情報がたくさんで頭が混乱し、言葉を無くす。
「私が……私がそんなことに協力すると思うんですか!」
「協力しなければここで死ぬだけだ。それにヒューデット達を狩り尽くし、SSランクになったら私がアンデット化させる前に、逃げることが出来るかもしれないぞ?いや、もしかしたらこいつらの仇を打つことが出来るかもしれない。」
ピクりと私の体がフロウアの言葉に反応する。
「仇……」
先程ヒューデットとなったみんなの前で誓った言葉が脳裏に蘇る。
「そうだ、SSランクになれば、俺を討つことが出来るかもしれないな?
まあ、そのためにはまずビギシティを襲う。それは必須条件になるがな。」
「ビギシティを……襲う……?」
その言葉を口から吐き出した時、脳裏にユウキさんの姿が横切る。
彼はまだビギシティにいるはず、もしもビギシティを襲うことになったら彼とも戦うことになるだろう。
「そんなの嫌っ!それに人を傷つけるのも、人類の敵になるのも嫌です!
私はあなたなんかに協力なんてしません!」
フロウアに向かって感情のままに叫ぶ。
「ほう?」
それを聞いたフロウアは眉をピクりと動かし、腕を組んだ。
「唯一、お前が生き残れる希望のある道を教えてやったというのに……その判断を後悔させてやることにしよう。」
そう言うと、片腕を上げ、パチンと指を鳴らした。
「えっ……」
一瞬で視界が暗くなり、霧が周りを覆っていき、音という音が無くなり、静寂に満たされる。
「……声?」
霧で見えなくなったヒューデット達がいた周囲から、かすかに声が聞こえ、警戒する。
「うわあああっ!」
「逃げろぉ!」
「死にたくないっ!」
霧が晴れ、ほんの少ししか聞こえなかった声が急に聞こえるようになり、目の前にはミラン村があった。
「っ……なに……これ」
今のヒューデット達が闊歩し、血みどろのミラン村ではなく、まだ今のミラン村よりはマシだが、ボロボロのミラン村。
そこでは、村人達が血相を変えて、ヒューデットとフロウアの放つ魔法から逃げ、叫んでいた。
「助けてっ!助けてっ!」
目の前で一人の女性がヒューデットに捕まり、必死に逃げようと声をあげ、虚空に手を伸ばす。
「リエラさん!?捕まって!」
その女性は私の家の隣に住んでいたリエラさんだった。ひと月ほど前に結婚し、幸せそうに旦那さんと暮らしていた。
たまに張り切りすぎて夕飯を作りすぎてしまい、私の家にお裾分けもしてくれた人だ。
私も手を伸ばし、ヒューデットから離そうとするが……
「えっ、なんで……」
スカッと、私の伸ばした手はリエラさんの手を貫通し、女性の手を掴むことが出来なかった。
「嫌だっ、離してっ!」
リエラさんは必死にもがくも、ヒューデットの力はそれ以上でリエラさんの首に口を近づけ――
「ダメっ!」
ガブリと首元にかぶりつき、リエラさんの命を奪った。
「よ、よくもっ!〈小さな火球よ〉!」
ヒューデットに向かって『ファイア』を放とうと、詠唱するが……
「……っ、魔力が……」
つい先程魔力を使い果たし、このたった数分で回復した魔力だけじゃ、『ファイア』に必要な魔力に届かず、魔力が消費され、不完全な炎の球がゆらゆらと放たれ、途中でパッと弾けた。
「やめろぉ!」
再び魔力が0になり、かなりの疲労感に襲われていると、後ろで男性の悲鳴が聞こえ、振り返ると、子供がヒューデットに襲われ、地面に叩きつけられていた。
「マッドさんっ……」
それを見た子供の父親、マッドさんは子供を守ろうと、ヒューデットの前に立ち塞がるが、横から別のヒューデットがマッドさんに向かって飛びつき……ほんの数秒で血飛沫があがった。
「……なんなの……これは……っ」
マッドさんを襲っているヒューデットを離そうと、ヒューデットに掴みかかろうとするが、さっきと同じく貫通し、触れることが出来なかった。
「なんで触れられないのっ!なんでっ、皆が死んでいくところを見ていることしか出来ないのっ!」
拳を握り締め、目に熱いものが溢れるのを我慢し、悔しさのあまり悲鳴をあげるように叫ぶ。
こうしている間にも周りでは、ヒューデット達が村人達を襲い、ひとつまたひとつと村人達の命が消えていく。
「ごめんなさい、助けてあげられなくてっ、ごめんなさいっ!」
耳を塞いで悲鳴を遮断しようとするが、完全には防げず、悲鳴は聞こえ、肉がひしゃげる音や、何かの咀嚼音など聞きたくない音がどうしても聞こえてしまう。
「触れられない理由を教えてやろう。これは俺の使用した魔法〈パストミスト〉は霧を発生させ、霧を媒体にその場で起きた過去を見ることが出来る幻属性の魔法だ。」
私の様子を面白そうに見ていたフロウアが私の隣によって来て、笑顔で私に話しかけてくる。
「過去を見せる……魔法……?」
「そうだ、だから今を生きているお前は過去に干渉できない。
故に、触れることが出来ない。」
「これが……こんなことが、この村で起こったって言うの……?こんな地獄が……」
辺りを見回す。
子どもがヒューデットに殴られ、血を吐きながら壁にたたきつけられた。
子どもは数秒で呼吸を止めた。
愛する家族を守るため、ヒューデットを抑えつけながら、逃げろと家族に向かって叫ぶ男がいた。
叫んだせいで近くにいたヒューデット達の注意が男に向き、ヒューデットに囲まれ、一瞬で見えなくなった。
村一番の仲良しな友人二人が必死に逃げていた。
片方がひと足早く建物に入り、鍵をかけ、もう片方を見殺しにした。
しかし、建物の中に隠れていたヒューデットにその者も殺された。
「は、ははは、これは……悪夢だ、よ。ううん、夢だよ。
これは……夢、そう、夢なの」
村で今も尚起こり続けている非日常的な出来事、それを否定しようと、私は笑う。
村人が死ぬのを見て笑って、こんなのはただの夢だと自分に言い聞かせる。現実じゃないんだって、言い聞かせる。
「ふっ、自分を保とうと必死だな?だが、これを見て冷静でいれるかな?」
「お父さん……お母さん……?」
一階建ての多い村の中で数少ない二階建ての建物――その屋根の上に数人の村人と一緒に両親はいた。
「両親の生前の記録だ。お前も先程ヒューデット化した両親を見ただろう?
お前の両親がどんな最期を遂げたか……特別に見せてやろう。」
「ふざけな……い……で……?」
フロウアの言葉に振り返った直後、いつの間に詠唱したのか〈エレキバインド〉が私を縛り、〈エレキバインド〉の痺れで膝をつく。
私の頭にフロウアの手が置かれ、髪を引っ張られ強制的に両親の方を向かされる。
「――ッ!」
その際に横目で見たフロウアの表情は――悪魔というに相応しいほどの笑みを浮かべていた。
今回使用した魔法
パストミスト 上級幻属性魔法
影響力 A
魔法制御力 B+
魔法効果時間 B
消費魔力量 C++
魔法発動速度 A--
詠唱
漂え霧よ・この場で起きた過去の記録・我が脳刻むべく・その身を糧に・ここに映せ
説明
霧を作り出し、霧を媒体としてその場所で起きた過去の出来事を映し出すことが出来る。
映し出せる記録は10日前まで
フロウアは私に近付きながら笑みを浮かべる。
「お前はもうじき死ぬことになるだろうな。」
「……あなたはヒューデット達を倒したら逃がしてやる……そう言ってませんでしたか?」
魔力が空になりほとんど力が入らない体に鞭を打って、フロウアの前に立つ。
「くくく、確かに言ったな。だが、俺は逃がすといったが、こいつらは逃がすと言ってないぞ?
なぁ、お前たち?」
フロウアがそう言うと、周りのヒューデット達が声を上げ、ゆっくりと近付いてくる。
「ひとでなし」
「そうだな、俺は人ではなく悪魔だ。ところで取引をしないか?私にとってもお前にとっても損の無いものだ。」
「取引ですか、悪魔であるあなたからの取引なんて嫌な予感しかしませんね。」
内心死の恐怖に怯えながらも、私はそれをなんとか表情に出さないよう、冷たく言い放つ。
「もし断ればこの場で苦しみながら死ぬことになるだろうな。故にどんな取引きだろうがお前は頷くしかない。」
「……取引の内容はどんなものなんですか」
ここで死ねばフロウアへの復讐もできない。
とりあえず取引の内容だけでも聞いてみることにする。
「おぉ、引き受けてくれるか。私は嬉しいぞ、話を聞いてくれる気になってくれて。」
やけにわざとらしく喜ぶふりをしながらフロウアは笑みを浮かべる。
「私はまだ受けるとは言ってません!」
「受けるしかないだろう、でなければ死ぬんだからな?
別にお前でなければいけないということは無いんだ。
いくらでも替えがきくんだからな。」
「くっ……取引の内容を教えてください。」
奥歯がギリっと音を立てる。少しでも判断を間違えればフロウアの機嫌を損ね、死んでしまうかもしれない。
緊張しながら、フロウアに問いかける。
「ふん、怖気付いたか。まあいい。
取引の内容だな?それを話す前に俺のEXスキルクリエイトアンデットについて説明しよう。」
フロウアが横で死亡しているアレイさんに手をかざすと、リーパーさんの時と同様、黒い魔法陣が出現し、アレイさんの体が変化し、シャープデットへと姿を変える。
「アレンさんっ……」
「俺のクリエイトアンデットは自分で殺した人間をヒューデットやシャープデットに変えるスキルだ。そして殺した人間のランクに応じて、アンデットとなった者達の力は変化する。ただの村人ならヒューデット、Cランク程の強さを持つこいつならシャープデット、というふうにランクが高ければ高いほどアンデット化した際強くなる。
元々は、どんな人間であれランクに関係なくDランクのヒューデットしか作ることが出来なかった。
だが、魔王様が俺の力に可能性を見出し、俺に力をくれたんだ。」
フロウアは懐から手のひらサイズの2つの器の形状をした紫色の物体と、ハートの形状をした緑色の物体を取り出す。
「神の欠片、元々は神の力が封印されていて神の使徒が使うことで、神の力を使うことが出来るものだ。神の使徒に関してはお前も知っているんじゃないか?」
「確か、神様達から選ばれた魔王を倒す人達のことですよね。」
「あぁ、そうだ。そして神の使徒は神の欠片を使うことで俺達に対して優位に戦うことが出来る。
そんな本来そんな物を悪魔である俺達が使おうとしたら、逆に聖なる力で浄化されるが、魔王様の力で俺達が使っても大丈夫なように改良してくれた。
神の力を使うことは出来ないが、俺達が使った場合、所有者のEXスキルを強化してくれる。」
フロウアは辺りのヒューデットを見回しながら話を続ける。
「神の欠片のおかげで殺した人間のランクに応じて作成できるアンデットの種類が増え、たまに変異種も作れるようになった。さらに、1体ずつしかできないが、俺の魔力と時間を使うことで使用した魔力と時間に応じたヒューデットも作ることができるようになった。
俺は魔王様のお力になるためこの力を使いこなさなければならない。実験体が必要、そこでお前に提案だ。
俺は今1体のヒューデットに俺の魔力を与え、強力なヒューデットを作っている。そして約2日後にはAランクのヒューデットが作れる予定だ。そのヒューデットと今まで作ってきたアンデットでビギシティを襲い、冒険者や街の連中をまとめてアンデット化させる。だが、あの街には今AランクやBランクの冒険者も滞在しており、不安が残る。だから、お前はこのヒューデット達を殺し、力をつけて襲撃を手伝え。
そしてそこで作ったアンデット達もお前が殺し、神や神の使徒、魔王様達といった一部の者しかなれないSSSランクまで言わないが、SSランクとなり、その後俺に殺されアンデットとなるんだ
くくく、とんでもない化け物が誕生するだろうな。」
「なにを……あなたは……何を言ってるんですか」
ビギシティを襲う?ヒューデット達を私が殺す?SSランクになってアンデット化させる?
あまりにも重大な情報がたくさんで頭が混乱し、言葉を無くす。
「私が……私がそんなことに協力すると思うんですか!」
「協力しなければここで死ぬだけだ。それにヒューデット達を狩り尽くし、SSランクになったら私がアンデット化させる前に、逃げることが出来るかもしれないぞ?いや、もしかしたらこいつらの仇を打つことが出来るかもしれない。」
ピクりと私の体がフロウアの言葉に反応する。
「仇……」
先程ヒューデットとなったみんなの前で誓った言葉が脳裏に蘇る。
「そうだ、SSランクになれば、俺を討つことが出来るかもしれないな?
まあ、そのためにはまずビギシティを襲う。それは必須条件になるがな。」
「ビギシティを……襲う……?」
その言葉を口から吐き出した時、脳裏にユウキさんの姿が横切る。
彼はまだビギシティにいるはず、もしもビギシティを襲うことになったら彼とも戦うことになるだろう。
「そんなの嫌っ!それに人を傷つけるのも、人類の敵になるのも嫌です!
私はあなたなんかに協力なんてしません!」
フロウアに向かって感情のままに叫ぶ。
「ほう?」
それを聞いたフロウアは眉をピクりと動かし、腕を組んだ。
「唯一、お前が生き残れる希望のある道を教えてやったというのに……その判断を後悔させてやることにしよう。」
そう言うと、片腕を上げ、パチンと指を鳴らした。
「えっ……」
一瞬で視界が暗くなり、霧が周りを覆っていき、音という音が無くなり、静寂に満たされる。
「……声?」
霧で見えなくなったヒューデット達がいた周囲から、かすかに声が聞こえ、警戒する。
「うわあああっ!」
「逃げろぉ!」
「死にたくないっ!」
霧が晴れ、ほんの少ししか聞こえなかった声が急に聞こえるようになり、目の前にはミラン村があった。
「っ……なに……これ」
今のヒューデット達が闊歩し、血みどろのミラン村ではなく、まだ今のミラン村よりはマシだが、ボロボロのミラン村。
そこでは、村人達が血相を変えて、ヒューデットとフロウアの放つ魔法から逃げ、叫んでいた。
「助けてっ!助けてっ!」
目の前で一人の女性がヒューデットに捕まり、必死に逃げようと声をあげ、虚空に手を伸ばす。
「リエラさん!?捕まって!」
その女性は私の家の隣に住んでいたリエラさんだった。ひと月ほど前に結婚し、幸せそうに旦那さんと暮らしていた。
たまに張り切りすぎて夕飯を作りすぎてしまい、私の家にお裾分けもしてくれた人だ。
私も手を伸ばし、ヒューデットから離そうとするが……
「えっ、なんで……」
スカッと、私の伸ばした手はリエラさんの手を貫通し、女性の手を掴むことが出来なかった。
「嫌だっ、離してっ!」
リエラさんは必死にもがくも、ヒューデットの力はそれ以上でリエラさんの首に口を近づけ――
「ダメっ!」
ガブリと首元にかぶりつき、リエラさんの命を奪った。
「よ、よくもっ!〈小さな火球よ〉!」
ヒューデットに向かって『ファイア』を放とうと、詠唱するが……
「……っ、魔力が……」
つい先程魔力を使い果たし、このたった数分で回復した魔力だけじゃ、『ファイア』に必要な魔力に届かず、魔力が消費され、不完全な炎の球がゆらゆらと放たれ、途中でパッと弾けた。
「やめろぉ!」
再び魔力が0になり、かなりの疲労感に襲われていると、後ろで男性の悲鳴が聞こえ、振り返ると、子供がヒューデットに襲われ、地面に叩きつけられていた。
「マッドさんっ……」
それを見た子供の父親、マッドさんは子供を守ろうと、ヒューデットの前に立ち塞がるが、横から別のヒューデットがマッドさんに向かって飛びつき……ほんの数秒で血飛沫があがった。
「……なんなの……これは……っ」
マッドさんを襲っているヒューデットを離そうと、ヒューデットに掴みかかろうとするが、さっきと同じく貫通し、触れることが出来なかった。
「なんで触れられないのっ!なんでっ、皆が死んでいくところを見ていることしか出来ないのっ!」
拳を握り締め、目に熱いものが溢れるのを我慢し、悔しさのあまり悲鳴をあげるように叫ぶ。
こうしている間にも周りでは、ヒューデット達が村人達を襲い、ひとつまたひとつと村人達の命が消えていく。
「ごめんなさい、助けてあげられなくてっ、ごめんなさいっ!」
耳を塞いで悲鳴を遮断しようとするが、完全には防げず、悲鳴は聞こえ、肉がひしゃげる音や、何かの咀嚼音など聞きたくない音がどうしても聞こえてしまう。
「触れられない理由を教えてやろう。これは俺の使用した魔法〈パストミスト〉は霧を発生させ、霧を媒体にその場で起きた過去を見ることが出来る幻属性の魔法だ。」
私の様子を面白そうに見ていたフロウアが私の隣によって来て、笑顔で私に話しかけてくる。
「過去を見せる……魔法……?」
「そうだ、だから今を生きているお前は過去に干渉できない。
故に、触れることが出来ない。」
「これが……こんなことが、この村で起こったって言うの……?こんな地獄が……」
辺りを見回す。
子どもがヒューデットに殴られ、血を吐きながら壁にたたきつけられた。
子どもは数秒で呼吸を止めた。
愛する家族を守るため、ヒューデットを抑えつけながら、逃げろと家族に向かって叫ぶ男がいた。
叫んだせいで近くにいたヒューデット達の注意が男に向き、ヒューデットに囲まれ、一瞬で見えなくなった。
村一番の仲良しな友人二人が必死に逃げていた。
片方がひと足早く建物に入り、鍵をかけ、もう片方を見殺しにした。
しかし、建物の中に隠れていたヒューデットにその者も殺された。
「は、ははは、これは……悪夢だ、よ。ううん、夢だよ。
これは……夢、そう、夢なの」
村で今も尚起こり続けている非日常的な出来事、それを否定しようと、私は笑う。
村人が死ぬのを見て笑って、こんなのはただの夢だと自分に言い聞かせる。現実じゃないんだって、言い聞かせる。
「ふっ、自分を保とうと必死だな?だが、これを見て冷静でいれるかな?」
「お父さん……お母さん……?」
一階建ての多い村の中で数少ない二階建ての建物――その屋根の上に数人の村人と一緒に両親はいた。
「両親の生前の記録だ。お前も先程ヒューデット化した両親を見ただろう?
お前の両親がどんな最期を遂げたか……特別に見せてやろう。」
「ふざけな……い……で……?」
フロウアの言葉に振り返った直後、いつの間に詠唱したのか〈エレキバインド〉が私を縛り、〈エレキバインド〉の痺れで膝をつく。
私の頭にフロウアの手が置かれ、髪を引っ張られ強制的に両親の方を向かされる。
「――ッ!」
その際に横目で見たフロウアの表情は――悪魔というに相応しいほどの笑みを浮かべていた。
今回使用した魔法
パストミスト 上級幻属性魔法
影響力 A
魔法制御力 B+
魔法効果時間 B
消費魔力量 C++
魔法発動速度 A--
詠唱
漂え霧よ・この場で起きた過去の記録・我が脳刻むべく・その身を糧に・ここに映せ
説明
霧を作り出し、霧を媒体としてその場所で起きた過去の出来事を映し出すことが出来る。
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『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
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