日本での常識しか知らない俺には、異世界の普通がわからない

天知 カナイ

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二章

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「なんでこんな目立たない‥っていうか、知られてない植物使おうと思ったの?これに薬効があるってどうやって知ったの?‥ジュセルの発想って不思議だな~」
「‥あは、なんか‥お、思いつき?ですかね‥」
スルジャに色々と突っ込まれても、相手の疑問に応えられるだけの材料を持っていないジュセルは、困ったように作り笑いを浮かべた。スルジャはそんなジュセルをじっと見ていたが、うん、と一つ頷くとジュセルの言ったものを書き留めた紙を取り上げた。
「ちょっと依頼かけてこの辺の材料を調達してくるから、揃ったらまた来てくれる?他に足りない材料ってないよね?」
「あの三つについてはそんな感じ、だったと思います、あの‥結構適当に作ってるんで毎回同じってわけでもないんですよね‥」
そのジュセルの言葉を聞いたスルジャは、一瞬目を丸くして、う~んと唸り腕組みをした。
「‥なんか不確定要素が多いんだよなあ‥全部が解明できるまでには日数かかりそうだな‥」
そうぶつぶつ言っているスルジャに、ジュセルは恐る恐る言葉を付け足した。

「あの‥それと、俺‥今、なんか命狙われてるみたいなんで、そう簡単にここには来れないんですよね‥」
申し訳なさそうにそう言って俯くジュセルに対し、ああ、と言ってスルジャはパンと両手を合わせた。
「そうだったね!今けっこう厄介な目に遭ってるんだよねジュセル。黒剣のせいで難儀なことだねえ」
「いや、別にケイレンだけのせいじゃ‥」
と言いかけたジュセルに対して、スルジャはダン、と机を叩いてその言葉を遮った。
「いやいやいや!絶対的にあいつのせいだよ!ジュセルもっと怒っていいんだからね?」
「あは、は‥」
何と返していいかわからなくなったジュセルが愛想笑いを浮かべると、スルジャは赤い唇の端をにいっと上げた。
「んじゃ、材料が揃ったらあたしがそれを持ってジュセルの家に行くよ!どうせ今黒剣の家なんでしょ?道具とか、いるものある?」
「あ、いや特に変わったものは使わないから‥」
「ん、じゃあ材料揃ったら行くね!行くときには使いを出すから!今、通信用の鳥がいないんだよねえ‥不便だけど」
とんとんと話を決めてしまうスルジャに対し、いいのかな?と首をかしげながらもジュセルは頷いた。
「ケイレンにも言ってみます」
「いいよそんなの気にしなくて!行く行く!」
へらっと笑ってからスルジャは机の下に頭を突っ込み、ごそごそしてから紙包みを取り出した。

「はい、これ。わざわざ来てもらったし、時間も取っちゃったからそのお礼」
少し大きめのその紙包みは、まだほんのりと温かい。
「え、ありがとうございます‥なんですか?これ」
問われてスルジャはにっこりと笑った。
「ボファン。カルカロア王国の北部でよく食べられてるお菓子なんだ。あたしはすごく好きなお菓子なんだけど、これ売ってる店が近くには一軒しかないうえに三日に一度しか開いてないんだよ。今日は開いてる日だったから買ってきといたんだ」
ジュセルは聞いたことのない菓子だった。そっと紙包みを開けて覗いてみると、真っ白な生地のシフォンケーキのような菓子が入っている。栗のようないい匂いもした。
「アマラを煮詰めたジャムみたいなのが挟んであるよ。よかったら食べてね!気に入ったらお店も教えてあげる」
「ありがとうございます!」

初めて出会った菓子に思わず顔をほころばせたジュセルを、スルジャは嬉しそうに眺めていた。そしてすくっと席を立った。
「よし、それじゃ下のホールまで送ってあげるよ!」
「‥あの、多分歩くの凄く遅いと思うんですけど、すみません‥」
スルジャはからからと笑って頷いた。

ぐねぐねした廊下を通って一階のホールに辿り着くと、すでにケイレンが用事を済ませたのか座って茶を飲んでいた。上から降りてきたジュセルの姿を認めると、すぐさま立ち上がって飛んできた。
「ジュセル、大丈夫だったか?」
スルジャはむっとした顔を作ってケイレンの横腹を容赦なく殴った。
「だいじょぶだったかって何だよ黒剣、あたしがジュセルに変なことするわけないでしょ!?って痛っ!‥ったく、鋼みたいな腹だな!痛ったあ‥」
スルジャはそう言いながらケイレンの腹を殴ったのだが、思いのほかケイレンの腹部が硬かったらしく自分の手の方を痛そうに振っている。なんだ申し訳ないような気がしてジュセルはぺこりと頭を下げた。それを見てすぐにスルジャは笑顔を浮かべた。
「だいじょぶだよ!ジュセルはなんも気にしなくて!」
にこにこしているスルジャに対して、ケイレンは嫌そうな顔でジュセルの腕を引いて自分の傍に寄せた。
「‥用は終わったのか?」
「うん、お土産ももらったよ」
嬉しそうに紙包みを見せるジュセルに、ケイレンは笑ってその頭を撫でた。そしてまだ嫌そうな様子を見せながらもスルジャに礼を言った。
「‥ありがとな」
「うん、どう致しまして!‥お茶の材料集めるのにこれから依頼をかけなきゃいけないからさ、材料が揃い次第黒剣の家に行くからね!じゃあねえ!」
「は!?」
ケイレンが訊き返す暇も与えず、スルジャは言いたいことだけ言ってしまうと素早く建物の奥に消えていった。

ケイレンが呆気に取られて横を見ると、仕方なくジュセルは首をすくめてみせた。
「‥なんか、どうしても俺にお茶を作ってほしいみたい‥」
「そういうことか‥」
呆れたような表情を浮かべていたケイレンだが、ふっと表情を崩した。
「そういえば昨日、言いそびれたんだが、ジュセルのお茶‥」
「うん、聞いた。ひょっとしたら買い取ってもらえるかもしれないって」
「ああ、言い忘れていてすまなかったな」
「いいよ、あの‥‥昨日、は、色々、あったし‥」
そう答えて、ジュセルは真っ赤になり下を向いてしまった。昨日交わした口づけキスのことを思い出し、恥ずかしくなったのだった。そこでとってつけたように言葉を継いだ。

「も、もし俺のお茶買い取ってもらえるなら、ケイレンにお金返せる目途が立つ、かな」
しかしそれを聞いたケイレンは渋い顔をした。
「‥‥ジュセルは、俺と心が通じ合っても、俺に甘えてはくれないんだな‥」
眉根を寄せてそう呟くケイレンに、ジュセルはややむっとした。
「恋‥人‥に、なった、としたって、そういうお金のこととか甘えるのは違うだろ」
それを聞いたケイレンは、ぱっと口に手を当て、見る見るうちに顔を真っ赤にした。ん?と怪訝な顔をするジュセルに向かって、ぼそりと呟いた。
「こ‥恋人‥かぁ‥」

改めてそう言われるとジュセルも恥ずかしくなってきて、二人で顔を赤くしてホールに立ちすくんでしまい、そこを通り過ぎる請負人カッスル質に不思議そうに眺められていた。

帰路はまた馬に乗らなければならないのだが、正直ジュセルは身体の軋むような痛みが頂点に達しつつあり、とてもではないが今から帰る気にはなれなかった。そこでおそるおそるケイレンに言ってみた。
「‥ケイレン、あの、俺ちょっとここで休んでから帰ろうかなって‥先に帰ってていいよ」
しかし、ケイレンはそう言ったジュセルの顔を覗き込んで難しい顔をした。
「ジュセル、身体が辛いんだな?馬に乗るのが耐えられないくらい。だろ?」
ずばりとそう言い当てられて、ジュセルは返事をすることができず俯いた。そんなジュセルを見つめながら、ケイレンは軽くため息をついた。

「ジュセルは甘えるのが下手すぎる。金のことはまた話し合いが必要だと思うけど、普段の生活の中では俺に甘えられる部分は甘えてほしい」
「で、でも‥」
ジュセルは第一子で、一人シンシャになってからもアミリの相談相手として生きてきた。たった十六年の人生ではあるが、その中で甘えたという記憶はなかった。
前世では弟という立場だったが、出来のいい兄と姉がいるせいでジュセル自身に関心を持ってもらうことは少なく、甘える機会もあまりなかったのだ。
正直、ヒトに甘えることができない質だというのは自分でもわかっている。
ケイレンの言葉にもうまく返事ができないジュセルの顎を、くいと手をかけられて上に向かされた。

「俺達は、恋人、だろ?‥‥それに俺はジュセルを甘やかしたい。甘やかされて安心して俺の腕の中にいるジュセルを見たいんだ」



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