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三章
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しおりを挟むナジェルが火器の気配を追っていくと、屋敷の外壁に沿ったところに四、五人の裏請負らしき人影が見えた。そこに走り寄りながらキリキを練り上げ、それを使って裏請負の集団に大きな雹を恐ろしい速度でぶつけた。
凄まじい速度でぶつかってくる雹はもはや凶器である。大きな雹はそこにいた裏請負達の皮膚を破り肉を抉った。
辺りを憚らない悲鳴を聞きながら、ナジェルは一対の揃え短刀を両手に握り彼らに襲い掛かった。ここにいる裏請負たちも戦闘力は低く、ナジェルの相手にはならなかった。
あらかたの裏請負を躊躇いなく切り捨て、一番年嵩に見えた者の利き腕の筋を容赦なく揃え短刀で切り裂き、飛び上がりざま右足でその首筋を蹴り飛ばした。
そのままどうと倒れた裏請負の首の上に膝頭を押しつけ、左の足で腹部を押さえ込んだ。頬に揃え短刀をぴたりと押しつけて低い声で尋ねた。
「正直に答えろ。嘘だった時には殺す。その場合楽には死なせない」
冷たい声でそう言うナジェルに、裏請負は身動きできないながらも必死に眼球の動きだけで恭順の意を伝えてきた。それを確認してから、首を圧迫していた膝頭の力を少し緩める。
「お前たちは全部で何人だ。ヨキナが差し向けた者たちだな?」
「そう、だ、だが、全員の総数、は、俺も知ら、ない」
「暗殺依頼か?誰を殺れと言われた」
「若い、キリキシャだ、ジュセルとかいう」
やはりジュセルが狙いだったようだ。ナジェルは少し考えてもう一度尋ねた。
「仕事が終わったときの合図は決めているか」
「一番裏請負歴の、長いヤツが、速信鳥紙を持ってる』
「それは何だ、どこにいる」
「れ、レイリキシャだ。襲撃には加わってない、はずだ」
「‥ふむ」
それだけ聞き出すとナジェルは持っていた短刀の柄でゴツン!と裏請負の首元を殴って気絶させた。他の裏請負たちも息のある者は縄で縛っておいた。
「どこか全体を見渡せるところに潜んでいて、実行部隊からの連絡を待ってる、ってとこだろうな。さて、どこにいるか‥」
ナジェルは目を瞑って辺りの気配を探ることに集中し始めた。
ヤーレは目についた裏請負たちを片っ端から片づけていっていた。どいつもこいつも腕が未熟で、裏請負になってまだ日が浅いのだろうという者たちばかりだった。正面から大剣の刃を立てて斬り殺すことはしなかったが、重い大剣の峰でぶっ叩いて薙ぎ払っていく。裏請負たちは次々とその攻撃を受けて倒れていった。骨も折れているだろうし内臓を損傷したものもいるだろう。まだ未熟な者たちに対して非情な振る舞いだと言われるかもしれないが、ヤーレは容赦しなかった。
それぞれ事情はあるかもしれないが、裏請負という後ろ暗い仕事を選んだのは本人たちなのだ。自分の選択によって起きた結果は自分で受け止めねばならない。積極的に命を取ることまでしないのが、ヤーレの精一杯の温情だった。
屋敷周りにいた者たちはあらかた片づけた、と思う。それでも二十人近くはいた。最後に屋敷の周囲を回ってみれば、一部防護機工が損壊している箇所があった。
「‥侵入されたか」
ヤーレはそこから中に入って屋敷内を捜索し始めた。
ナジェルが全力でキリキを使って探索したところ、近くに潜んでいた裏請負と思しき二人組を発見した。レイリキシャとマリキシャの二人組で、道路を挟んだ民家の植え込みに潜んでいたのだ。
尋問された者は「一番裏請負歴の長い者」と言っていたが、潜んでいた二人組もさしたる腕は持っておらず、すぐにナジェルに倒されてしまった。裏請負たちが持っていた縄でまた縛り上げ、持っていたものを取り上げて中を確認する。
「‥‥これは‥」
尋問された者が言っていた通り、速信鳥紙は入っていた。それ以外にもリエンダという即効性の毒物が入っていたのだ。とにかく何をどうしてでも、ジュセルの命を確実に奪いたかったのだろうということが見てとれた。
「さて」
縛り上げた者たちを庭先の木に括りつけ、その家のものに事情を説明して断りを入れた。そして自分が持っていた速信鳥紙を取り出し、市中警護隊への伝言を吹き込んで飛ばす。
そしてまた屋敷内に戻っていった。
屋敷内に入り込んでいた裏請負は五人ほどで、ヤーレは難なく倒した。その五人はジュセルと同じくらいの年頃の者たちで、さすがにヤーレは奥歯を噛みしめた。
こんな、成人したばかりのような者たちまで裏請負に引き込んでいるのか‥しかも、高能力者が待ち構えているところへ、捨て駒のように行かされて。
改めてヨキナに対して、グラグラと怒りがこみ上げてくる。
胸の中に凝るやりきれない感情を持て余しながら、ヤーレは年若い五人を拘束して床に転がした。
その時、ナジェルが帰ってきた。
「ヤーレ、外には多分もう裏請負はいないと思う。それから‥」
と言いかけて、ナジェルは床に転がされて気を失っている年若い裏請負たちを見た。眉根がぎゅっと寄せられる。
「‥‥若いね」
「とんだクソったれだぜ、ヨキナは‥ロザイがこのことを知ってて放置してんなら、俺達も少し考えなおさなきゃならねえな」
「どうだろう‥裏請負の中でもロザイは筋を通す方だと聞いているからね。だから主頭になった今でも敵が多いんだろ?」
ヤーレはしかめっ面を崩さないままだ。ナジェルは速信鳥紙を差し出した。
「これ、外に潜んでた連絡係のやつが持ってたんだ。うまく使えないかな?」
ヤーレは速信鳥紙をちらりと見て、ようやく口の端を上げた。
「そうだな。時間を稼がせてもらうか」
二十分ほどで市中警備隊が到着した。今回は三十人以上の裏請負が来ていたということで、馬車や機工車も連ねての大部隊で来てくれた。拘束された裏請負たちはほとんどが重傷を負っていたが命に関わるような傷の者はおらず、市中警備隊の者たちはヤーレとナジェル二人の腕に感心していた。
責任者に仔細と事情を説明し、しばらく人目につかないところで裏請負たちを拘束してくれるように頼む。そしてあの連絡係のレイリキシャだけを残して警備隊は引きあげていった。
連絡係のレイリキシャは、これから何をされるのかと怯え身体を震わせていた。裏請負稼業で食ってきたとも思えない、その情けない態度にヤーレもナジェルも半ば呆れていた。
ヤーレとナジェルの二人で考えた文章を紙に書いて、それをレイリキシャに読み上げさせる。何度か練習をして、速信鳥紙に吹き込ませ飛ばした。
内容は、『うまくジュセルをやれたが相手が強くてこちらは大多数が死んだ、まだ逃げている途中だから改めて速信鳥紙を飛ばしてくれ』というものだった。
「まあいつまで持つかわからんが、少しの時間稼ぎにはなるだろ」
そう言ってヤーレはう~んと伸びをした。伝言の吹き込みが終わった裏請負のレイリキシャは、外にある機工車この中に拘束して放り込んでおいた。
ナジェルは、辺りを見回してため息をつく。
「これ‥片づけるの大変そうだねえ」
屋敷の中でも戦闘があったせいで、廊下や扉は壊れているし血の跡もそこかしこについている。ヤーレもそれを見ながらガシガシと頭を搔いた。
「‥‥ま、さすがにこれは、ジュセルに見せないままってわけにもいかねえだろうなあ」
ナジェルの合図で外に出てきたスルジャが、ざっと襲撃内容の説明を受けてちらりとジュセルを見た。ジュセルは、おそらく襲撃の痕跡が屋敷の中に色々と残っていて、自分の目から遠ざけるのに限界があるのだろう、と悟った。
「スルジャ、ナジェル、俺もう大丈夫だよ。片づけ手伝えるし何でも言って」
立ち上がってそう伝えると、スルジャが手にしていた戦斧を放り投げてがばっと抱きついてきた。
「もう~~~ジュセル!けなげ!かわいい!マジであたしに乗り換えない?毎日楽しく研究しようよ~~~!」
思いのほかの馬鹿力でぎゅうぎゅうと抱きしめてくるスルジャの腕から、必死に逃れようとしていたらその横で優しく笑いながらナジェルが言った。
「ジュセル、さっきのパウンドケーキ食べ損ねたから何か美味しいもの食べたいなあ」
ジュセルはがっくりと脱力しながら、
(このヒトたち‥高能力者なんだよね‥?腕は立つんだよね‥?そういうところ見てないから、ただの食いしん坊としか思えねえ‥)
と考えていた。
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