カベワタリの物語ーリキとアヤラセー(森蘭丸の弟、異世界に渡る 第二部)

天知 カナイ

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*更新が遅くてすみません‥しかも今日は少し短いです、すみません


叫ぶようにそう言ったリキを見て、テンショウはふっと鼻先で笑った。馬鹿にされたように思えて、リキは怒りを込めた視線を投げる。
テンショウはくくっと口の中で小さく笑いながら答えた。
「最長老に会いたい‥?ははっ、会いたいと願って会える方ではない」
「‥何、だと」
テンショウはまたくくっと笑った。面白くて仕方ない、といった笑い方だった。
「私だとて最長老にお会いしたのは、この永い生の中でも一度きりだ。あの方は、必要とされるところにのみ現れる」
テンショウの淡々とした答えに、リキはがっくりと力が抜けてしまい、地面に膝をついた。それでは結局何もわからぬのと同じことではないか。
そのリキを見ながら、またテンショウは淡々とした調子で言った。

「そもそも、ヒトはみな自分の役割を承知して生きているか?どのように生きていくべきか、他に教えてもらってその通りに生きているのか?私にはそのようには見えぬ。ヒトはみな、短い生の中でもがき苦しみながら答えを探し、その生を全うしているように見えるがな」

テンショウの言葉に、リキはハッと胸を衝かれた。頭を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。
その通りだ、と思った。
自分が常では考えられぬような目に遭っているから、自分のことを特別な人間であるかのように思ってしまっていた。
そうではない。
自分は、何の特別なこともない、ただの人間だ。
この世界トワで、少し珍しい髪色をしているだけ。
ただ、別のところからなぜかここに飛ばされてきただけ。
本当であれば、おそらくあの本能寺での夜に死んでいたはずの命を拾ってもらっただけの存在だ。

何を思い上がっていたのだろう。
自分の生きる道は、わからぬながらもみな自分で切り開いていかねばならないのは、ごく当然のことであったのに。

へなへなとその場に座り込んだリキの足に、柔らかい銀の砂がまとわりつく。子果樹を育てるという砂。子果樹はその持ち主たるムリキシャが死ぬと、枯れてこの銀の砂になるという。その砂を手にすくってさらさらと落としてみる。
「‥‥この繭も、ユウビが目覚めて私が死ねば、同じような銀の砂となって次の子果樹を育てるのだろうか‥?」
頭の上からテンショウの声が降ってきた。
「さあ、どうだろうな。どうもこれは、通常の子果樹とは違うようだからまだわからん。そもそも、この繭がいつ開くかもわからぬのだろう?」
「もう、ユウビがこの繭に入ってから一年以上になる‥」

リキは手を伸ばしてそっと繭に触った。柔らかな金と銀の枝がシャリシャリと指をくすぐる。本当にこの中にユウビはいるのだろうか。確かにこの繭の中に入ったのをこの目で見たのだが、あまりに時間が経ってしまって現実味を失ってしまった。不安だけが募っていく。
しかし、声の調子を変えずに淡々と龍人タツトは告げた。
「確かにこの中に生き物はいるな。その気配がする。言っただろう、この中にいるものの気配は龍人タツトに近いと」
その言葉を聞いて少しほっとする。
「しかし、いつユウビが出てくるかはわからない、のだな」
「そうだな。私もこのようなものを見たのは初めてゆえに」

リキは柔らかな砂地に手をついて、ゆっくりと立ち上がった。テンショウはその様子をじっと見つめている。リキはテンショウの顔を見た。静かな金色の瞳が、こちらを射抜くかのように見ていた。
「もう、私に訊きたいことはないのか、カベワタリよ」
リキはテンショウの瞳を負けずに見つめ返しながら、ゆっくりと首を横に振った。
「あなたの言葉は、私の胸に響いた。他のヒトと同じように、私ももがき苦しみながら自分の人生を切り開いていかねばならないのだと思う」

テンショウは微笑んだ。今まで見せた人間らしさのない冷たい笑みではなく、温かい微笑みだった。
「そうか。それならよい。‥ただ、龍人タツトの習いを教えておこう」
テンショウは屈強な身体をリキの正面に向けた。そして真摯な目でまたリキを見た。

龍人タツトは、基本的にヒトの営みには関わらぬ。世界に大きな影響が及ぶとき、調整をしに訪れることはあっても、個人に関わることはせぬのが習いだ。しかし」
リキは固唾をのんで次の言葉を待った。テンショウはそっとユウビの眠る繭に視線をくれた。
「生涯ただ一人、龍人タツトは番いを持つ。ヒトの番いだ。龍人タツトにはホトを持つものがおらぬゆえに、龍人タツトを産めるのはただ一人の番いのみ」
テンショウはそう言ってするりとユウビの眉を撫でた。
「この生き物が、まこと龍人タツトだとするならば‥いずれヒトの番いを見つけるやもしれぬ」

リキは驚きのあまり声が出なかった。‥それでは、いつかユウビは‥自分以外の番い、とやらを見つけるかもしれない、ということなのか‥?
恐る恐るリキは目の前の龍人タツトに尋ねた。
「あなたにも、番いはおいでなのか?」
テンショウは何とも言えぬ顔をしてわずかに首を振った。
「いや。私はまだ、千年も数えておらぬ龍人タツトだ。我が番いにはいまだ出会ってはいない」
「番い、とは‥探すものなのか?」
そう問いかけるリキに対してテンショウは、やはり感情の読めない顔で淡々と答えた。
「こちらから探しに行かずとも、番いであれば必ずどこかで会える。そのようにできている」

「そうか‥」
ではいつか、目覚めたユウビは番いを見つけるのだろう。自分の元から巣立つと思えば心を抉られたように辛いが、それでも永いと言われる龍人タツトの寿命の中で一人にならないで済むのならその方がいい。
自分はいずれヒトとして死ぬのだろうから。

リキはもう一度、優しく繭を撫でてゆっくりと立ち上がった。衣服にまとわりつく銀の砂を、丁寧に払い落とす。
そして、真っ直ぐにテンショウの顔を見つめた。テンショウもその視線を受け止め静かに立っている。
「もう訊きたいことはないか、カベワタリよ」
「ないわけではないが‥ヒトとして生きていく覚悟ができた。だからもう問わぬ。ただ‥」
と言って言葉を切り、ユウビが眠る繭に視線をくれる。
「いつかユウビが目覚めたとき、どなたか龍人タツトと呼ばれる方が、ユウビを導いてくれたらと願う」
「承った」

テンショウは、やはり感情の見えぬ声でそう答えると、来た道を戻りだした。リキもその後をついて行く。
裏庭まで来ると、飛竜が大人しくそこに待っていた。改めて見るとやはり大きい。だが美しい生き物だな、とリキは思った。
テンショウは優しい手つきで飛竜のくちばしを撫でると、そのまま飛ぶようにひらりと飛竜の背に跨った。
「では」
短くそう言い置くと、飛竜は大きな翼を広げ力いっぱい羽搏かせた。風がリキの身体を押しやるように吹いてくる。しっかりと足を踏みしめながら、空高く上がっていく飛竜の姿をリキはしっかりと見送った。
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