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01.バーチャルな序章
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01.バーチャルな序章
最所にhiro0917を見かけたのは、たぶんパンチゲームの中だった。半円を描くようにプレイヤーが並び、襲ってくるパッドに描かれている矢印の指示通りの方向からパンチを繰り出していって得点を競う単純なゲームだった。
俺はストレス発散になりそうだと思ってこのゲーム購入した。力を抜いてプレイすれば音ゲーとしても遊べそうだと思った。
ストレス発散目的で買った俺は、仮想世界で飛んでくるパッドめがけて思い切りパンチを振るう。最初は1ゲーム5分もしないうちに俺は息が上がり、日頃の運動不足を痛感した。そんなのだから大振りする分俺は得点も低く、いつも順位の真ん中の方にいた。
「hiro0917」を見かけて、すぐに覚えたのは、それが俺の本名の弘之のヒロと誕生日の9月17日の組み合わせが一致していたからだった。
「あいつ、俺と同じ名前で誕生日も一緒とか…」と少しだけ面白かった。それから俺はスコア表を見るたびにhiro0917の名前を見つけた。彼はいつも最下位だった。
見ているとhiro0917もパッドにパンチを当てるタイミングが少しずつ遅いので、俺のように大振りしているのだろうと、その時はそのくらい思っただけだった。それでもhiro0917に対して勝手に薄い親近感を持っていた。
次にhiro0917と出会ったのは「ダンス・バトル・ダンス」とタイトルそのままのダンスバトルのゲーム内だった。この時に俺は、連日パンチゲームで強く空中を拳で切りすぎて肩を痛めていたため、休憩を兼ねて元カノに勧められたこのゲームを買ってみた。
ここはコンピューターと一緒に踊るダンスバトルが主流だが、フロアで踊っている相手にもダンスバトルを挑むことが出来る。そしてここは以前俺とhiro0917が出会ったパンチゲームとは違って、集まったプレイヤー同士で軽いチャットが出来た。
大概はバトルの申し込みと少しのやり取りくらいだった。本格的にチャットのやり取りをしたい連中用のルームは他にたくさんあった。
hiro0917はバトルも受けるし、自分からもバトルを仕掛けてゲーム内にいるあいだじゅうは動き回っていた。俺はゲームに慣れるためにコンピューター相手にバトルをしていた。正直4回目にはすっかりこのゲームに飽きていて、24時間以内なら返品できるのでどうしようかと頭の片隅で考えていた。今日このままこのゲームから出たら、きっともうこのゲームには来ないような気がした。それでも返品をしたことがなかった俺は、その手続きが煩わしかったので迷っていた。
「こんばんは。バトルしませんか」俺の画面下に文字が現れった。相手はhiro0917だった。「いいですよ。よろしくお願いします」と俺はすぐに返事をした。二人でダンスのレベルと使う曲を選んだ。どんな曲がいいのかわからない俺にhiro0917が「ボカロにしていいですか?」と聞くので俺は「ボカロがいいです!」と返事をすると、hiro0917が笑顔のマークを送ってきた。
「September」という緩やかなメロディーの恋の曲に合わせて二人で踊った。こちらのダンスもパンチゲーム同様、体の動かし方が記載されたパッドが落ちてきてそれに反応するように体を動かす。
意外に、このスローなメロディーが躍りやすかった。テンポが、とても俺の体に合うのだ。そうなるとこのゲームが途端に楽しくなった。一曲踊り終わったあとに俺たちの得点は出てhiro0917の方が少しだけ俺よりも点数が良かった。
「ありがとう」と俺がメッセージを送るのと同時に「花火が上がるよ」とhiro0917が右矢印を出した。「きれいだ。ありがとう」と俺はもう一度メッセージを打つとhiro0917は手を上げて「明日も一緒に踊ろう」とメッセージを打ち終わるとゲームから落ちた。
***
翌日、俺はhiro0917を見かけた時間にゲームに入った。すでにhiro0917は来ていて俺を見つけると近寄ってきた。「こんばんは」とお互いに挨拶をするとhiro0917が「この曲はどうですか?」と今回はアップテンポな曲を試しに俺に聴かせた。俺は承諾して二人は横並びになって落ちてくるパッドに合わせて踊った。俺の振り切った腕の後に青い光が伸び、hiro0917の腕はピンクの光が追いかけた。
ダンスの合間に休憩を取りつつ、俺たちは曲を選んだ。hiro0917の選ぶ曲がどれも踊りやすくて、「コンピューターとバトルするのとは大違いで、楽しい」と俺が言うとhiro0917は喜んだ。「これは譜面がいいんだ」とhiro0917は言い、「kanipapa2218は僕と同じで全力で体動かす系だからこういう方が楽しいでしょ」と言うので、hiro0917の方から見ても俺の体の動き方がわかっているのだと思った。
「だから、kanipapa2218に声かけたんだ」とhiro0917は付け加えた。
それから俺はhiro0917のことを「ヒロ」と呼んだ。文字を打つ時にhiro0917は打ちづらいからだ、先に俺が「カニ』でいいよと自分の名前の短縮を申し出ると、ヒロも「僕もヒロでいいよ」と言ってくれた。
「また明日」とヒロはゲームから消えて、俺も追いかけるようにゲームからログアウトした。
***
約束はしなくても、ヒロと俺はだいたい同じくらいの時間にダンスのフロアでどちらかを待っていた。ヒロも俺を待っていて他の奴とバトルはしていなかったし、俺もヒロだけを待っていた。
たいがいはダンスで使う曲の話だった。「いつも、選んでくれてありがとう」と送ると、ヒロはその場でジャンプして「どういたしまして!」と返し、スターをポケットから取り出して俺の頭上に投げた。それがキラキラと俺に振ってきて、俺は画面越しにその光の粉を浴びた。
「ヒロ。見て!」と俺もポケットからスターをヒロの頭上に投げた。ヒロがそれを見上げて星の粉を浴びてキラキラと光っていた。
最所にhiro0917を見かけたのは、たぶんパンチゲームの中だった。半円を描くようにプレイヤーが並び、襲ってくるパッドに描かれている矢印の指示通りの方向からパンチを繰り出していって得点を競う単純なゲームだった。
俺はストレス発散になりそうだと思ってこのゲーム購入した。力を抜いてプレイすれば音ゲーとしても遊べそうだと思った。
ストレス発散目的で買った俺は、仮想世界で飛んでくるパッドめがけて思い切りパンチを振るう。最初は1ゲーム5分もしないうちに俺は息が上がり、日頃の運動不足を痛感した。そんなのだから大振りする分俺は得点も低く、いつも順位の真ん中の方にいた。
「hiro0917」を見かけて、すぐに覚えたのは、それが俺の本名の弘之のヒロと誕生日の9月17日の組み合わせが一致していたからだった。
「あいつ、俺と同じ名前で誕生日も一緒とか…」と少しだけ面白かった。それから俺はスコア表を見るたびにhiro0917の名前を見つけた。彼はいつも最下位だった。
見ているとhiro0917もパッドにパンチを当てるタイミングが少しずつ遅いので、俺のように大振りしているのだろうと、その時はそのくらい思っただけだった。それでもhiro0917に対して勝手に薄い親近感を持っていた。
次にhiro0917と出会ったのは「ダンス・バトル・ダンス」とタイトルそのままのダンスバトルのゲーム内だった。この時に俺は、連日パンチゲームで強く空中を拳で切りすぎて肩を痛めていたため、休憩を兼ねて元カノに勧められたこのゲームを買ってみた。
ここはコンピューターと一緒に踊るダンスバトルが主流だが、フロアで踊っている相手にもダンスバトルを挑むことが出来る。そしてここは以前俺とhiro0917が出会ったパンチゲームとは違って、集まったプレイヤー同士で軽いチャットが出来た。
大概はバトルの申し込みと少しのやり取りくらいだった。本格的にチャットのやり取りをしたい連中用のルームは他にたくさんあった。
hiro0917はバトルも受けるし、自分からもバトルを仕掛けてゲーム内にいるあいだじゅうは動き回っていた。俺はゲームに慣れるためにコンピューター相手にバトルをしていた。正直4回目にはすっかりこのゲームに飽きていて、24時間以内なら返品できるのでどうしようかと頭の片隅で考えていた。今日このままこのゲームから出たら、きっともうこのゲームには来ないような気がした。それでも返品をしたことがなかった俺は、その手続きが煩わしかったので迷っていた。
「こんばんは。バトルしませんか」俺の画面下に文字が現れった。相手はhiro0917だった。「いいですよ。よろしくお願いします」と俺はすぐに返事をした。二人でダンスのレベルと使う曲を選んだ。どんな曲がいいのかわからない俺にhiro0917が「ボカロにしていいですか?」と聞くので俺は「ボカロがいいです!」と返事をすると、hiro0917が笑顔のマークを送ってきた。
「September」という緩やかなメロディーの恋の曲に合わせて二人で踊った。こちらのダンスもパンチゲーム同様、体の動かし方が記載されたパッドが落ちてきてそれに反応するように体を動かす。
意外に、このスローなメロディーが躍りやすかった。テンポが、とても俺の体に合うのだ。そうなるとこのゲームが途端に楽しくなった。一曲踊り終わったあとに俺たちの得点は出てhiro0917の方が少しだけ俺よりも点数が良かった。
「ありがとう」と俺がメッセージを送るのと同時に「花火が上がるよ」とhiro0917が右矢印を出した。「きれいだ。ありがとう」と俺はもう一度メッセージを打つとhiro0917は手を上げて「明日も一緒に踊ろう」とメッセージを打ち終わるとゲームから落ちた。
***
翌日、俺はhiro0917を見かけた時間にゲームに入った。すでにhiro0917は来ていて俺を見つけると近寄ってきた。「こんばんは」とお互いに挨拶をするとhiro0917が「この曲はどうですか?」と今回はアップテンポな曲を試しに俺に聴かせた。俺は承諾して二人は横並びになって落ちてくるパッドに合わせて踊った。俺の振り切った腕の後に青い光が伸び、hiro0917の腕はピンクの光が追いかけた。
ダンスの合間に休憩を取りつつ、俺たちは曲を選んだ。hiro0917の選ぶ曲がどれも踊りやすくて、「コンピューターとバトルするのとは大違いで、楽しい」と俺が言うとhiro0917は喜んだ。「これは譜面がいいんだ」とhiro0917は言い、「kanipapa2218は僕と同じで全力で体動かす系だからこういう方が楽しいでしょ」と言うので、hiro0917の方から見ても俺の体の動き方がわかっているのだと思った。
「だから、kanipapa2218に声かけたんだ」とhiro0917は付け加えた。
それから俺はhiro0917のことを「ヒロ」と呼んだ。文字を打つ時にhiro0917は打ちづらいからだ、先に俺が「カニ』でいいよと自分の名前の短縮を申し出ると、ヒロも「僕もヒロでいいよ」と言ってくれた。
「また明日」とヒロはゲームから消えて、俺も追いかけるようにゲームからログアウトした。
***
約束はしなくても、ヒロと俺はだいたい同じくらいの時間にダンスのフロアでどちらかを待っていた。ヒロも俺を待っていて他の奴とバトルはしていなかったし、俺もヒロだけを待っていた。
たいがいはダンスで使う曲の話だった。「いつも、選んでくれてありがとう」と送ると、ヒロはその場でジャンプして「どういたしまして!」と返し、スターをポケットから取り出して俺の頭上に投げた。それがキラキラと俺に振ってきて、俺は画面越しにその光の粉を浴びた。
「ヒロ。見て!」と俺もポケットからスターをヒロの頭上に投げた。ヒロがそれを見上げて星の粉を浴びてキラキラと光っていた。
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