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あの日の意味
5.4
しおりを挟む17時頃になって、玄関のチャイムが鳴る。
また、誰かのイタズラなのかと思い部屋に塞ぎ込むが、何度も何度もチャイムが鳴り止まない。
恐る恐る通話ボタンを押すと、
ドアップで鼻しか映っていない人の姿。
「…皐月?」
『hello!!!』
玄関のドアを開けると、大量の荷物を抱えた皐月と皐月のお母さんの姿。
2人はズカズカと家の中に入り、両親にその荷物を手渡す。
「ともちゃんの体調が良くなってきたお祝いしましょ!ともちゃん抜きで!」
段ボールを机の上で開けて俺達に見せびらかす。
中には、大量の食料が入っていて。
段ボール6箱分もの食料や生活用品等が敷き詰められていた。
「駄目だよこんな…」
お父さんは驚いて返そうとするが、皐月のお母さんがそれを阻止する。
「うちの娘がお世話になってるお礼です。足りなくなったらいつでも買いに行くんで、受け取って下さい」
「あっ…、ありがとうございます…本当に…」
朋美のお母さんは泣き崩れ、朋樹は私に思い切り飛びついて来た。
外に出る事も出来なくなっていた朋美の家族に何かしたい、とお母さんは思ったらしく、貯めたお金で大量に買い占めたそうだ。
「みんなでご飯食べましょ!ね?」
料理下手なお母さんは、朋美のお母さんに教わりながらハンバーグを作る。
朋美の家族は、全員涙を流しながらゆっくりと味わいながら食べていた。
「立花晃さんと面会させて下さい」
葛原と別れて一旦学校に戻った後、刑務所まで手ぶらで出向いた。
娘が自殺したのは、俺が40歳になったばかりの時。
娘がまだ、22歳の時だ。
あれから7年の月日が過ぎていたが、未だに昨日の事の様に鮮明に覚えている。
「面会時間は10分です」
連れて来られた立花晃。
昔の面影はそのままで、忌々しい瞳も相変わらずだ。
「久しぶりだな、高城舞の父親だ。覚えているだろう」
「…ええ、お久しぶりです。会いたかったですよ」
冷静で、淡々と話す立花晃。
俺の教え子だと話すと、驚いた様な表情を見せる。
「数奇な運命ですね、まさか舞のお父さんの教え子だったなんて」
「軽々しく娘の名前を言うな、お前は父親が自分の命を落としてまで伝えたかった意味がわからないのか!」
「考えましたがね、ただ逃げたかっただけでしょう?僕と向き合う事もせずに逃げた愚かな父親なんて、知りませんよ」
フッと寂しそうに微笑み、下を向いて黙り込む。
俺は無性に腹が立った。
「逃げたんじゃない、伝え方を誤っただけだろう。命がどれ程重くて尊いのか、まだわからないのか」
「僕には理解ができませんよ。何を言われても、何をされても。欠陥品ですから、僕は。」
長くて、短い面会が終わる。
立ち去って行く立花晃の後ろ姿。
俺はあの日から何度、この男を夢の中で殺して来ただろうか。
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