1 / 19
一話 神の力
しおりを挟む
大神殿の祭壇で、15になったばかりの男が儀式を受けている。
剣士や魔法使いはその優れた攻撃力で、少し成長は遅いが魔物使いや賢者はまた別の理由で非常に優遇されている。
故にこの儀式で、その者の一生が決まると言っても過言ではない。
「貴方の適性は【遊び人】と出ました」
「は……? 今なんと……」
「貴方の適性は……残念ながら遊び人でございます……」
騎士団への入隊に憧れ、日夜剣の稽古に励んだ。
魔法の適性があっても大丈夫なようにと、魔導書はいくつも読んだ……
それだというのに、与えられたものは『成長しないわ、武器もまともに扱えないわの最低最悪大外れの落ちこぼれ』と名高い遊び人……
これが、俺ことラグナの授かった唯一の『ジョブ』であった。
初級ダンジョン、ゴブリンの巣。
主にEランクDランクの冒険者が向かう林の中である。
あの日から数年経ち、ラグナの努力が報われる奇跡などは起きているはずもなかった。
「おいっ、荷物持ち!
とっととついて来いよっ、くそ遅っせえなぁボケが!」
「タックス、横で叫ぶのやめてようるさいわねぇ。
アンタもよラグナ!
雇ってもらってる以上は相応の働きをするもんじゃなくて?」
前を歩く冒険者、剣士のタックスと魔法使いのセリシュは、魔物に噛まれ脚を引きずり歩く俺に容赦なく言った。
「まぁまぁ、期待などするだけ無駄でしょう。
それにセリシュさんは、夜にしっかりと働いてもらっているじゃないですか」
その隣に、賢者のアースが杖を器用に回しながら歩いている。
そして俺はというと、そんな将来有望な冒険者様たちの小間使いとして契約し、なんとか生活できているというレベルのものである。
ボロボロのローブに身を包み、冒険者様が不快にならぬよう、フードを深くかぶって表情を見せないように生きてきた。
「まぁね。そんなくらいしか役に立たないんだから、しっかりと使わせてもらうわよ。
意外と溜まって仕方ないのよね、冒険ってさ」
「へっ、んなもん荷物持ちのゴミクソじゃなくても、俺様が相手してやるぜ?」
「いやよ、アンタ自分だけ気持ちよくなるじゃないの。
そんなのは『御屋敷』に行ってやってきなさいよ」
賢者なら回復魔法も使える……
だが、俺みたいな荷物持ちには使うつもりはないらしい。
持たされた荷物の中に薬草もあるが、くそっ……そこまで俺を痛ぶって面白いのか!
『面白いわよ、ゴミ虫ちゃん』
サァッ……と血の気が引いた。
耳元で、誰かがそう囁いたのだ。
幻聴まで聞こえてきたか……
やはり俺には冒険者は無理なのだろうか……
小さな頃から剣の修行と魔導書で学んできたことは、儀式の日に全てが無駄となってしまった。
当時付き合っていた彼女からは蔑まれるような目で見られ、剣の師は俺を無視するようになった。
仕方がない、俺みたいな外れジョブと関わっていては、その者にも被害が及んでしまうのだから……
しかし、数日後に別の男と並んで歩く彼女の姿を見るのは辛かったな……
「おっせぇぇ!
あーもう我慢ならねぇ、殺していいか?!」
「やめなさいよぉ、死体でも見つかったら魔水晶で私たちがやったってバレちゃうんだから」
セリシュの言葉がまた心を抉ってくる。
逆にバレなかったら殺しても構わないと思っているのだな。
そう思うと俺は、急に色々なものが胸の奥底から込み上げてきた。
「……! うっ、うぐぇぇ……げぽっ……」
『びちゃびちゃ……』と辺りに巻き散らかされる数時間前のなにか。
「ちょっと、こいつアタシの作る愛情のこもったお料理を吐きやがったぞ。
これはお仕置きしてもいいよなぁ? いいよー、そうだよなぁ」
「はははっ、セリシュのマズ飯なんか食ったら、俺でも吐いちまうぜっ」
「うっさい、練習中なんだ馬鹿にすんなしっ!」
不味いのはまだいい……時にはムカデやノネズミを入れやがる。
何度も死にかけて、それでも俺は生きるために荷物持ちをやらなくてはならない……
儀式から約三年……常に地獄だ。
出口のない迷宮を彷徨い続け、身も心もボロボロになっていくのがよくわかる……
神の加護が無ければどんなに強い武器もただの棒切れ。
レベルが上がらなければスキルも増えることはない……
なぜこのようなジョブを作り出したのだ、神よ……
俺の心は完全に砕け散り、もはや立ち上がる気力も無くなってしまった。
その場に膝から崩れ落ち、焦点も合わずに周りの声など聴く余裕すらなくなってしまっていた。
「ちょっとどうすんのよコレ」
「セリシュさんが虐めるからですよ、ふふふっ」
「ちっ、いいぜもう行こうぜっ。
いつまでもこんな場所にいたらゴブリン共がやってきちまう」
3人は俺から荷物を剥ぎ取ると、更に奥へと進んでいく。
唯一俺が捨てられずにいるための荷物は、もう残っていない。
俺の人生はどうやらここで終わりを迎えるらしい……
剣士や魔法使いはその優れた攻撃力で、少し成長は遅いが魔物使いや賢者はまた別の理由で非常に優遇されている。
故にこの儀式で、その者の一生が決まると言っても過言ではない。
「貴方の適性は【遊び人】と出ました」
「は……? 今なんと……」
「貴方の適性は……残念ながら遊び人でございます……」
騎士団への入隊に憧れ、日夜剣の稽古に励んだ。
魔法の適性があっても大丈夫なようにと、魔導書はいくつも読んだ……
それだというのに、与えられたものは『成長しないわ、武器もまともに扱えないわの最低最悪大外れの落ちこぼれ』と名高い遊び人……
これが、俺ことラグナの授かった唯一の『ジョブ』であった。
初級ダンジョン、ゴブリンの巣。
主にEランクDランクの冒険者が向かう林の中である。
あの日から数年経ち、ラグナの努力が報われる奇跡などは起きているはずもなかった。
「おいっ、荷物持ち!
とっととついて来いよっ、くそ遅っせえなぁボケが!」
「タックス、横で叫ぶのやめてようるさいわねぇ。
アンタもよラグナ!
雇ってもらってる以上は相応の働きをするもんじゃなくて?」
前を歩く冒険者、剣士のタックスと魔法使いのセリシュは、魔物に噛まれ脚を引きずり歩く俺に容赦なく言った。
「まぁまぁ、期待などするだけ無駄でしょう。
それにセリシュさんは、夜にしっかりと働いてもらっているじゃないですか」
その隣に、賢者のアースが杖を器用に回しながら歩いている。
そして俺はというと、そんな将来有望な冒険者様たちの小間使いとして契約し、なんとか生活できているというレベルのものである。
ボロボロのローブに身を包み、冒険者様が不快にならぬよう、フードを深くかぶって表情を見せないように生きてきた。
「まぁね。そんなくらいしか役に立たないんだから、しっかりと使わせてもらうわよ。
意外と溜まって仕方ないのよね、冒険ってさ」
「へっ、んなもん荷物持ちのゴミクソじゃなくても、俺様が相手してやるぜ?」
「いやよ、アンタ自分だけ気持ちよくなるじゃないの。
そんなのは『御屋敷』に行ってやってきなさいよ」
賢者なら回復魔法も使える……
だが、俺みたいな荷物持ちには使うつもりはないらしい。
持たされた荷物の中に薬草もあるが、くそっ……そこまで俺を痛ぶって面白いのか!
『面白いわよ、ゴミ虫ちゃん』
サァッ……と血の気が引いた。
耳元で、誰かがそう囁いたのだ。
幻聴まで聞こえてきたか……
やはり俺には冒険者は無理なのだろうか……
小さな頃から剣の修行と魔導書で学んできたことは、儀式の日に全てが無駄となってしまった。
当時付き合っていた彼女からは蔑まれるような目で見られ、剣の師は俺を無視するようになった。
仕方がない、俺みたいな外れジョブと関わっていては、その者にも被害が及んでしまうのだから……
しかし、数日後に別の男と並んで歩く彼女の姿を見るのは辛かったな……
「おっせぇぇ!
あーもう我慢ならねぇ、殺していいか?!」
「やめなさいよぉ、死体でも見つかったら魔水晶で私たちがやったってバレちゃうんだから」
セリシュの言葉がまた心を抉ってくる。
逆にバレなかったら殺しても構わないと思っているのだな。
そう思うと俺は、急に色々なものが胸の奥底から込み上げてきた。
「……! うっ、うぐぇぇ……げぽっ……」
『びちゃびちゃ……』と辺りに巻き散らかされる数時間前のなにか。
「ちょっと、こいつアタシの作る愛情のこもったお料理を吐きやがったぞ。
これはお仕置きしてもいいよなぁ? いいよー、そうだよなぁ」
「はははっ、セリシュのマズ飯なんか食ったら、俺でも吐いちまうぜっ」
「うっさい、練習中なんだ馬鹿にすんなしっ!」
不味いのはまだいい……時にはムカデやノネズミを入れやがる。
何度も死にかけて、それでも俺は生きるために荷物持ちをやらなくてはならない……
儀式から約三年……常に地獄だ。
出口のない迷宮を彷徨い続け、身も心もボロボロになっていくのがよくわかる……
神の加護が無ければどんなに強い武器もただの棒切れ。
レベルが上がらなければスキルも増えることはない……
なぜこのようなジョブを作り出したのだ、神よ……
俺の心は完全に砕け散り、もはや立ち上がる気力も無くなってしまった。
その場に膝から崩れ落ち、焦点も合わずに周りの声など聴く余裕すらなくなってしまっていた。
「ちょっとどうすんのよコレ」
「セリシュさんが虐めるからですよ、ふふふっ」
「ちっ、いいぜもう行こうぜっ。
いつまでもこんな場所にいたらゴブリン共がやってきちまう」
3人は俺から荷物を剥ぎ取ると、更に奥へと進んでいく。
唯一俺が捨てられずにいるための荷物は、もう残っていない。
俺の人生はどうやらここで終わりを迎えるらしい……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる