未定

k.

文字の大きさ
2 / 2

カスケード

しおりを挟む
K市T町
海岸沿いにある比較的小さな漁師町。
一昔前は観光地として栄えていたが、今ではその面影すら感じさせないゴーストタウンのような町並み。
主な産業は漁業と農業。
広大なその土地を生かして営まれる農業はまさに先人達の知恵と努力の賜物と言えるだろう。
そして、この町の住人達は必ずと言っていいほど漁師か農家のどちらかを生業としている。
割合は、漁師:6農家:3と言ったところだろうか。
そのうち漁業にも農業にも属さない1割の住人達は、若干の居ずらさを感じながら他の住人と接している事実がある。

吉野健吾
彼がこのT町に産まれたのは15年前の事だった。
体重3125㌘身長48.2㌢
雪がちらつく3月初めの正午、T町の小さな料亭で寿司職人をしている進と専業主婦の加奈子の間にその産声を上げ誕生した。
健吾には3つ上の姉と2つ下の弟がいる。
3人姉弟の真ん中として、常に比較対象にされ肩身の狭い思いを幼少ながら感じ育っていった。
それは、両親のみならず徒歩県内の住宅に住んでいる祖父母また、学校の先生達や周りの住人から受けるものであった為、彼が道を踏み外すのに時間は掛からなかった。

「えー、今年度も引き続き皆の担任を受け持つ事になった佐野です。皆、中学卒業まであと11ヵ月。進路相談も含め皆と接する機会が多くなるけど、これからも変わらず一緒に頑張って行こうね!」
そう意気込むのは中学3年間を代わり映えない面子と共に歩んだ女教師の佐野由起子。
年は33歳で独身、ショートカットに丸顔で少々肉付きの良い何処にでも居そうな一般的な顔をしている。
メガネを掛ける頻度が多い事から過半数の生徒達に「座敷わらし」「オバさん」などのネガティブキャンペーンをこじつけられている事を彼女は知らない。
そして、やや他の教師より暑苦しい印象のある典型的な熱血教師だ。
学生時代から続けているバスケットが縁で、このT中学校の女子バスケット部顧問を担当。
因みに5年間勝ち知らずの弱小校だ。
「と、まあこんな感じで3-B全員に私の熱意をアナウンスしたかったんだけどね...」
佐野は深いため息を漏らし、教室内の生徒へ机に突っ伏すよう指示をした。
「誰か健吾と弘人が何処に居るか知ってる人、居たら挙手!」
古典的な手法はさほど効果も無く、誰一人挙手する者は現れなかった。
「全く...あの子達には」
「ヴーッ、ヴーッ」
静まり返った教室内に響く携帯のバイブレーション。
折り畳み式のそれは、キーホルダーとの相性が良いらしく、よりバイブレーションの音を鮮明に奏でた。
佐野は聞き逃す事なく、すぐに持ち主を当てる。
「櫻井、携帯は持ってきてもいいけど朝会始まったら必ず電源オフって何回言った?」
弁解する間も与えず佐野はこう言った。
「とりあえず、帰るまで没収。朝会終わったら職員室に来なさい。」
気の抜けた櫻井の返事は他の誰かが聞き取る事の出来ないほどモスキートで、聴力検査で優秀なステータスを持つ者のみに聞くことが許されるプレミアムな声域だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

処理中です...