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帝国と王国の交声曲《カンタータ》
やり切れない想い
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「………倒した、の?」
巨人が倒れたのを見てフィルが呟く、それと同時に私に
纏わりついていた雷も消える。
けど、私はそれを気にする余裕も、フィルの言葉に
答える気にもならなかった。
血で染まった左手と、胸に穴をあけ未だ黒煙が
上がっている巨人を交互に見る。
………元々戦いが楽しい訳でも無いし、戦いに勝ったとしても
私は何も感じた事は無かったけど、今回ばかりは
この巨人を倒したと言う事実が私の心に重くのしかかってくる。
この人は紛れもない被害者、本来なら助けなければいけない人だ。
けど、私は襲われたからと言ってこの女性を殺してしまった。
無駄な考えとは分かっていながらも、もっと他にやりようが
あったんじゃないかと思考がぐるぐる回る、けど答えなんか出る訳がない。
「御免なさい………私は、貴方を助けることが出来ませんでした」
――――私は血濡れの左手を握り締め、そう呟く事しか出来なかった。
「レン………」
フィルが私の名前を呟く、私の心の内を察しているのか心配そうな声色だ。
………いけない、この女性を倒したからって終わりじゃないんだ。
後悔するのは後だ、今はまだやるべきことがある。
「や~れやれ、取り合えず何とかなったねぇ」
マリスが気の抜けた声を上げて私の横に並び、物言わぬ体となった
女性を眺めている。
その表情はいつも通り飄々としてる様に見えて、何かいつもと違う
雰囲気を感じさせていた。
「全く………まだこんな事してるんだね、あの魔導士は
帝国にフルボッコにされた時点でも諦めたら良かったのに
これで帝国は本気で動きだしちゃうかもね、御愁傷様」
マリスはそう呟くと目を閉じ、女性の冥福を祈るように黙祷をする。
………けど、私にはその言葉の中に聞き逃せないものがあった。
「マリス、こんな事を仕出かした輩に心当たりあるの?」
マリスが黙祷を終え、目を開けたのを見計らって私は問いかける。
「ま~ね、この女性と戦う前に言ったと思うけど
似た様な研究をして帝国に被害を出してフルボッコにされた
魔導士がいたんだよ」
マリスは女性から目線を外さすそう答える。
「魔術協会内でもマリスと同じ様なはみ出し者でね、基本協会って
人の命を何とも思わないロクデナシの集まりなんだけど
それでも一応の倫理観は残っててね、人の命を必要とする研究には
罪人とか所謂死んでもいい人間を使う様にしてたんだよ」
マリスは淡々と、だけど結構な事柄を静かに話す。
死んでもいい人間………確かにそんな人間は存在する。
事実私も何度も見て来た、そんな輩が非道な実験に使われようと
私は何も文句はない、流石に積極的に賛成は出来ないけど。
「けど、その魔導士の研究には大量の人の命が必要らしくて
周辺の、帝国領にある村人や町民を攫って実験してたらしいんだよね
まぁ、当然ながらそんな事やってたら帝国も黙ってる訳はないから………」
「討伐されたの?」
「んにゃ、現在行方不明
まあ大方どこかで逃げて潜んでるんじゃないかなーとは思ってたけどさ」
そう言ってマリスは女性を見る目を細める。
………成程、マリスはその魔導士とやらが今回の件に
関わってるんじゃないかと思ってる訳だね。
「ま、今考えてても仕方ない事だけどね
とりあえずさっさと囚われてる人達を………」
「ひゃは………ひゃはははははははは!!」
マリスがそう言って女性から目線を外した矢先、完全にトチ狂ったかのような
ガディのおっさんの笑い声が響く。
「殺った………殺りやがった!!女が女を殺りやがった!!
ひゃははははは!!ざまあみろ、女が男に逆らうからこうなるんだ!!
もっとだ、もっと殺りあえ!!男に逆らう女なんて皆殺しにしてしまえ!!
ひゃーっはっはっはっはっは!!」
聞くに堪えない罵詈雑言巻き散らすガディのおっさん。
ちょっと黙らせた方がいいかなとおっさんの方へ歩こうとすると
横にいたマリスがすっと手を伸ばしてきて私を止める。
「ちょっと待ってレンお姉ちゃん、今ガディのおっちゃんは
『もっと殺りあえ』って言ったね、という事は………」
マリスは真剣な表情を崩さないまま女性が出て来た方向を見る、その瞬間
「■■■■■■■■■■■―――!!」
聞き覚えのある咆哮が木霊し、ズシンと重量感のある足音が奥から複数聞こえる
………まさか!!
嫌な考えが頭をよぎる、そしてその考え通り
再び巨人達が姿を現す。
「ヤな考えが当たったね、誘拐した人数に対してあの巨人
1人だけだとは思ってなかったけど………」
マリスが深刻な口調で吐き捨てる、それもそのはず
奥から現れた巨人は3人なのだ。
「嘘でしょ………」
眼前に広がる光景にフィルが絶句する。
この外道共は何処まで………
余りの事にもはや言葉も無い、けど怒りに我を忘れている場合じゃない。
「リーゼ!!まだ戦える!?」
先ずは現状の確認だ、リーゼの方に振り向くと少し黒煙を上げているけど
しっかりとした足取りで立っている。
「無論ですマスター、あの程度の雷撃で倒れるような我ではありません」
私の問いに答えるリーゼ、口調もしっかりしてるし大丈夫そうだ。
「マリスはどう!?」
次はマリス、結構な無茶をしてたみたいだから魔力とやらが
枯渇してなきゃいいけど………
「ごめ~ん、すっからかんって訳じゃないけど【蓮・雷光装填】
は流石に無理だね~、ちょっと調子乗り過ぎちゃったみたい」
枯渇はしてないけど無理は出来ないって事か、ならフィルは!?
「………御免なさいレン、流石に私も魔力が枯渇気味ね
レンに頼まれたからってリーゼの回復を張り切り過ぎたみたい」
………フィルもそろそろ限界が近いっぽいね、ならここ撤退しかないけど
恐らく背を向けた瞬間巨人達は襲い掛かってくる、それを捌きつつ
なおかつマリスとフィルを守りながらの撤退は現実的じゃない。
誰かが囮になって………もおそらく無駄だ、私やリーゼでもこの3人相手に
時間稼ぎが出来るとは到底思えない………ならば切り札を切るしかない。
「リーゼ、お願いできるかな?」
私は短くリーゼに告げる。
「………了解しました、マスターの望み通りに」
リーゼはそれだけですべてを理解してくれ、大きく息を吸い込み………
「――――その必要はありません、ここから先は私の役目です」
突如凛とした声が後方から聞こえたかと思うと、私達の頭上を
恐ろしい速さの閃光が走り抜けていく!!
「なっ!!」
反射的に私は身を屈め、隣にいたマリスの頭を掴み下げさせる。
一瞬遅れて光を感知したリーゼがフィルを庇う様に抱き込む。
「ちょっ………リーゼいきなり何!?」
「わぶっ!!」
いきなりの事に抗議の声を上げるフィルと
カエルの潰れたような声を出すマリス。
閃光が走り抜けた事を確認し、私はマリスの頭を押さえたまま周囲を警戒する。
………新手?いや、それだったら私達は既に背後から撃たれてる筈
じゃなければ………
その時、不意に私は巨人|達の唸り声が消えていることに気付く。
――――まさか!!
私は巨人|達の方へ視線を向ける、そこには頭に小さい穴をあけられた
巨人|達が仰け反ったような体勢で立っており………
ズウウゥゥゥゥゥン………
そのまま3人とも、糸の切れた人形の様に仰向けに倒れて行った。
「な、何………何が起こってるの?」
どうやらフィルもその光景を見たらしい、驚きと困惑の入り混じった声で呟く。
一体何が………と思うもつい最近同じような光景を見た事を思い出す。
という事は、まさかあの人が!?
静まりかえる室内、その後方からガシャン、ガシャンと金属が鳴る音がする。
この音も聞き覚えがある、これは具足を付けて歩く音だ。
私は音のする方向を向く、それに釣られたのかリーゼとその腕の中にいる
フィルも同時にそちらへ顔を向ける、そして………
「流石、ロティが目をかけただけはありますね
自国内とは言え、私達よりも早くこの場に辿り着くなんて――――」
蒼色の髪をなびかせ、豪奢な鎧と大弓を持った女性が部屋の奥から姿を現す。
その特徴的な姿に、私は思わず声を出す。
「レティツィア………さん?」
王国が誇る至高騎士の1人が、その場に悠然と現れた。
巨人が倒れたのを見てフィルが呟く、それと同時に私に
纏わりついていた雷も消える。
けど、私はそれを気にする余裕も、フィルの言葉に
答える気にもならなかった。
血で染まった左手と、胸に穴をあけ未だ黒煙が
上がっている巨人を交互に見る。
………元々戦いが楽しい訳でも無いし、戦いに勝ったとしても
私は何も感じた事は無かったけど、今回ばかりは
この巨人を倒したと言う事実が私の心に重くのしかかってくる。
この人は紛れもない被害者、本来なら助けなければいけない人だ。
けど、私は襲われたからと言ってこの女性を殺してしまった。
無駄な考えとは分かっていながらも、もっと他にやりようが
あったんじゃないかと思考がぐるぐる回る、けど答えなんか出る訳がない。
「御免なさい………私は、貴方を助けることが出来ませんでした」
――――私は血濡れの左手を握り締め、そう呟く事しか出来なかった。
「レン………」
フィルが私の名前を呟く、私の心の内を察しているのか心配そうな声色だ。
………いけない、この女性を倒したからって終わりじゃないんだ。
後悔するのは後だ、今はまだやるべきことがある。
「や~れやれ、取り合えず何とかなったねぇ」
マリスが気の抜けた声を上げて私の横に並び、物言わぬ体となった
女性を眺めている。
その表情はいつも通り飄々としてる様に見えて、何かいつもと違う
雰囲気を感じさせていた。
「全く………まだこんな事してるんだね、あの魔導士は
帝国にフルボッコにされた時点でも諦めたら良かったのに
これで帝国は本気で動きだしちゃうかもね、御愁傷様」
マリスはそう呟くと目を閉じ、女性の冥福を祈るように黙祷をする。
………けど、私にはその言葉の中に聞き逃せないものがあった。
「マリス、こんな事を仕出かした輩に心当たりあるの?」
マリスが黙祷を終え、目を開けたのを見計らって私は問いかける。
「ま~ね、この女性と戦う前に言ったと思うけど
似た様な研究をして帝国に被害を出してフルボッコにされた
魔導士がいたんだよ」
マリスは女性から目線を外さすそう答える。
「魔術協会内でもマリスと同じ様なはみ出し者でね、基本協会って
人の命を何とも思わないロクデナシの集まりなんだけど
それでも一応の倫理観は残っててね、人の命を必要とする研究には
罪人とか所謂死んでもいい人間を使う様にしてたんだよ」
マリスは淡々と、だけど結構な事柄を静かに話す。
死んでもいい人間………確かにそんな人間は存在する。
事実私も何度も見て来た、そんな輩が非道な実験に使われようと
私は何も文句はない、流石に積極的に賛成は出来ないけど。
「けど、その魔導士の研究には大量の人の命が必要らしくて
周辺の、帝国領にある村人や町民を攫って実験してたらしいんだよね
まぁ、当然ながらそんな事やってたら帝国も黙ってる訳はないから………」
「討伐されたの?」
「んにゃ、現在行方不明
まあ大方どこかで逃げて潜んでるんじゃないかなーとは思ってたけどさ」
そう言ってマリスは女性を見る目を細める。
………成程、マリスはその魔導士とやらが今回の件に
関わってるんじゃないかと思ってる訳だね。
「ま、今考えてても仕方ない事だけどね
とりあえずさっさと囚われてる人達を………」
「ひゃは………ひゃはははははははは!!」
マリスがそう言って女性から目線を外した矢先、完全にトチ狂ったかのような
ガディのおっさんの笑い声が響く。
「殺った………殺りやがった!!女が女を殺りやがった!!
ひゃははははは!!ざまあみろ、女が男に逆らうからこうなるんだ!!
もっとだ、もっと殺りあえ!!男に逆らう女なんて皆殺しにしてしまえ!!
ひゃーっはっはっはっはっは!!」
聞くに堪えない罵詈雑言巻き散らすガディのおっさん。
ちょっと黙らせた方がいいかなとおっさんの方へ歩こうとすると
横にいたマリスがすっと手を伸ばしてきて私を止める。
「ちょっと待ってレンお姉ちゃん、今ガディのおっちゃんは
『もっと殺りあえ』って言ったね、という事は………」
マリスは真剣な表情を崩さないまま女性が出て来た方向を見る、その瞬間
「■■■■■■■■■■■―――!!」
聞き覚えのある咆哮が木霊し、ズシンと重量感のある足音が奥から複数聞こえる
………まさか!!
嫌な考えが頭をよぎる、そしてその考え通り
再び巨人達が姿を現す。
「ヤな考えが当たったね、誘拐した人数に対してあの巨人
1人だけだとは思ってなかったけど………」
マリスが深刻な口調で吐き捨てる、それもそのはず
奥から現れた巨人は3人なのだ。
「嘘でしょ………」
眼前に広がる光景にフィルが絶句する。
この外道共は何処まで………
余りの事にもはや言葉も無い、けど怒りに我を忘れている場合じゃない。
「リーゼ!!まだ戦える!?」
先ずは現状の確認だ、リーゼの方に振り向くと少し黒煙を上げているけど
しっかりとした足取りで立っている。
「無論ですマスター、あの程度の雷撃で倒れるような我ではありません」
私の問いに答えるリーゼ、口調もしっかりしてるし大丈夫そうだ。
「マリスはどう!?」
次はマリス、結構な無茶をしてたみたいだから魔力とやらが
枯渇してなきゃいいけど………
「ごめ~ん、すっからかんって訳じゃないけど【蓮・雷光装填】
は流石に無理だね~、ちょっと調子乗り過ぎちゃったみたい」
枯渇はしてないけど無理は出来ないって事か、ならフィルは!?
「………御免なさいレン、流石に私も魔力が枯渇気味ね
レンに頼まれたからってリーゼの回復を張り切り過ぎたみたい」
………フィルもそろそろ限界が近いっぽいね、ならここ撤退しかないけど
恐らく背を向けた瞬間巨人達は襲い掛かってくる、それを捌きつつ
なおかつマリスとフィルを守りながらの撤退は現実的じゃない。
誰かが囮になって………もおそらく無駄だ、私やリーゼでもこの3人相手に
時間稼ぎが出来るとは到底思えない………ならば切り札を切るしかない。
「リーゼ、お願いできるかな?」
私は短くリーゼに告げる。
「………了解しました、マスターの望み通りに」
リーゼはそれだけですべてを理解してくれ、大きく息を吸い込み………
「――――その必要はありません、ここから先は私の役目です」
突如凛とした声が後方から聞こえたかと思うと、私達の頭上を
恐ろしい速さの閃光が走り抜けていく!!
「なっ!!」
反射的に私は身を屈め、隣にいたマリスの頭を掴み下げさせる。
一瞬遅れて光を感知したリーゼがフィルを庇う様に抱き込む。
「ちょっ………リーゼいきなり何!?」
「わぶっ!!」
いきなりの事に抗議の声を上げるフィルと
カエルの潰れたような声を出すマリス。
閃光が走り抜けた事を確認し、私はマリスの頭を押さえたまま周囲を警戒する。
………新手?いや、それだったら私達は既に背後から撃たれてる筈
じゃなければ………
その時、不意に私は巨人|達の唸り声が消えていることに気付く。
――――まさか!!
私は巨人|達の方へ視線を向ける、そこには頭に小さい穴をあけられた
巨人|達が仰け反ったような体勢で立っており………
ズウウゥゥゥゥゥン………
そのまま3人とも、糸の切れた人形の様に仰向けに倒れて行った。
「な、何………何が起こってるの?」
どうやらフィルもその光景を見たらしい、驚きと困惑の入り混じった声で呟く。
一体何が………と思うもつい最近同じような光景を見た事を思い出す。
という事は、まさかあの人が!?
静まりかえる室内、その後方からガシャン、ガシャンと金属が鳴る音がする。
この音も聞き覚えがある、これは具足を付けて歩く音だ。
私は音のする方向を向く、それに釣られたのかリーゼとその腕の中にいる
フィルも同時にそちらへ顔を向ける、そして………
「流石、ロティが目をかけただけはありますね
自国内とは言え、私達よりも早くこの場に辿り着くなんて――――」
蒼色の髪をなびかせ、豪奢な鎧と大弓を持った女性が部屋の奥から姿を現す。
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