~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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帝国と王国の交声曲《カンタータ》

銀光の少女

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「………ちょっとレン、本気?」

私が放った言葉に案の定フィルが聞き返して来る。
けどその口調は責めると言うよりも私を心配するような口調だ。

「うん…本気、みんなに頼りっきりの私がそんな事言える立場じゃないってのは
 重々承知してるけど、どうしても………ね」

私はそう言いながら女の子を見る。
今も僅かに震えながら不安そうな顔でこちらを見つめている。

「勿論言ったからには責任を持つよ
 この子の親が見つかるまで………そして万が一の場合は
 1人でも生きていけるようにしてあげたいと思う」

我ながら傲慢な物言いだと思う、16歳の小娘が言うべき言葉じゃないと思うし
そもそも私は育てられた経験はあるけど、動植物を含めて
何かを育てた経験なんてまるでないからね。
………けど、やっぱりこの子を見捨てる事なんて出来ない。
私と同じ………いやをしたこの子を。

「みんなにはさらに迷惑をかけると思う、自分の事で精一杯の私が
 何言ってんだと思ってるかもしれない、けど………」
「ぶっ………あっははははははははは!!」

私の声を遮るかのように、この場に雰囲気に似つかわしくない明るい笑い声が
地下室内に響き渡る。
笑い声の主は――――マリスだった。

「レンお姉ちゃん最高過ぎ!!
 何でこうもマリスの予想もつかない事やってくれるのかな
 もうマリス楽しくて仕方ないよ、あははははははは!!」

余程可笑しいのか息も絶え絶えになり涙目になりながらも笑うマリス。
………そんなに笑えるようなこと言ったかな、私。

「はぁ~~~~っ、いやはや
 ホント凄いね、レンお姉ちゃんは」

笑いが治まったらしきマリスはいつものニコニコ顔のまま、とてとてと
私の間の前まで歩いてきて

「マリスは大賛成だよ、冒険者をしながら育児って
 こんな楽しそうな事首を突っ込まないなんて有り得ないよ、それに………」

マリスはそのまま後ろを振り向き、フィルとリーゼに視線を送り

「フィルミールお姉ちゃんとリーゼは、むしろレンお姉ちゃんに
 迷惑かけられる事をむしろ喜ぶと思うよん
 2人共レンの姉ちゃんのことが大好きだからね~」

そう言って私にウィンクをするマリス。

「………コイツマリスに先を越されたのは癪だけど
 そもそも私はレンのやりたい事に反対する気はないわ
 それに、聖教にいた頃にはこの年頃の子供たちの世話もしてたし
 少なくともコイツマリスよりは役に立てると思うわよ」

フィルは私に微笑みを向けそう言ってくれる。

「我はマスターの決定に従うのみです
 ですが………何分この手の事に経験がありませんので
 ご教授頂ければ幸いかと」

リーゼもいつもの表情で淡々と述べて来る。
………ホント、付き合いいいよね私の仲間って
元の世界ではこんな風に付き合ってくれる友人や仲間はいなかった
フィル達と出会えただけでもこの世界エルシェーダに飛ばされた価値はあったと思う。
未だ私がここの世界エルシェーダに来た理由は分からないままだけど。

「………そっか、みんなありがと」

若干の照れくささもあり、私は敢えて簡単な礼で返す。
う~ん、もしかして頬が赤くなってるかな?
仲間内での意志は通した、次はこの子の意志だ。
ずっと私を見つめてくる女の子に視線を合わせ、私は尋ねる。

「ねぇ、貴方はどうしたいのかな?
 あっちの騎士のお姉さんと一緒に王国に帰りたい?」

なるべく優しく選択肢の1つを挙げる。
恐らくこれがこの子にとってベストな選択肢な筈、王国に行っても
問題は続くだろうけどレティツィアさんがついてくれるなら滅多な事は無い筈だ。
普通に考えたら半分根無し草な私達と一緒にいるより
平和で安定した生活が望めるだろう、その位の判断は出来る年頃だと思う。




………だけどこの子は考える素振りも見せず激しく首を振り
私の服をぎゅっと掴む。
そっか、それなら仕方ないかな。

「そっか………
 けど私達は冒険者、一緒にいるとここにいた時以上に
 大変な目に遭うかもしれないけど………」

私は真剣な表情で女の子を見つめる。
ここで誤魔化しても仕方が無いから事実を述べる、私達と一緒にいる事で
しなくてもいい苦労をする可能性はあるだろう、それだけは
はっきり言っておかないと。





「――――それでも、私達と一緒に来る?」





私はもう1つの選択肢を女の子に告げる。
女の子は先ほどまでの弱々しい表情から精一杯の真剣な表情に変え




――――銀の髪を揺らし、こくりとはっきりと頷いた。




「………分かったよ
 なら、貴方の事は私達が全力で守る
 だからもう、震えなくていいよ」

私はそう囁きながら女の子の頭を撫でる。

「………………」

それで緊張が解けたのか、女の子はかくんと糸が切れたように
私の胸に頭を預ける。
その際に女の子の銀髪が目の前でふわりと舞う。

「あっ………」

ここは地下の筈なのに、光に照らされたように輝いて見える髪。
何だろう………フィルとはまた違った神秘的な感じがする。
………もしかして私、白系の髪が好きだったり?
んな馬鹿な。

「おっとっと………」

雑念を捨て慌てて女の子を支える、腕の中の女の子を見ると
安心したかのように穏やかな表情で寝息を立てていた。

「無理もないわね、ここまで気の休まる事なんて無かっただろうし
 正直羨ましいけど、今日の所はレンの胸で思う存分寝かせてあげましょ」

歩み寄ってきたフィルが女の子を眺めて呟く。
その表情は聖女みたいに優し気なんだけど………本音漏れてるよフィル。

「………どうやら、話は決まったようですね」

ずっと静観していたレティツィアさんも私に寄って来て女の子の寝顔を見つめる。

「申し訳ありませんレティツィアさん、勝手に話を進めてしまって………」

私はレティツィアさんに頭を下げる。
本来であれば王国民であるこの子の処遇は
レティツィアさんの意見も聞きながら決めるのが筋だ。
それを意図しなかったとはいえ完全に無視した形になってしまった
流石にこれは謝らなければいけない。
けど、レティツィアさんは微笑みながら首を振り

「いえ、お気になさらないでください
 ………本音を言えば助かった、と言うのが事実ですから」

そう言ってレティツィアさんは少し悲しげな目で女の子を見る。

「助かった………ですか?」

どういう事だろう、王国民を守る立場のレティツィアさんが
この子に対してそんな事を思ってるなんて………
私のそんな考えを察したのか、レティツィアさんは
女の子を見つめたまま口を開く。

「正直な所、私はこの子処遇を決めかねていました
 王国にこの子を連れて帰れば、身寄りのないこの子を
 私は出来る限りの支援をするでしょう。
 それは私の望んでいる事でもあり、この子をそのまま見捨てるなど
 至高騎士グレナディーアの矜持を汚すことなどできません。
 ですが………嫌な言い方をしますが、この子は
 状態です
 そんな子を私が王国で支援をするとなると、恐らくこの子にとっても
 良くない問題が発生します、それは避けたかった」

………成程、先入観でこの子を王国民だと思ってたけど
それを証明する手立てがない上に、この子がだって十分にあるんだよね。
そんな子を至高騎士グレナディーアであるレティツィアさんが
支援をしていたらしがらみや嫉妬が発生するのは目に見えてる。
そうなるとこの子に危害を加えようとする輩も現れるかもしれない
………散々人の悪意に晒されてきたこの子に、さらに悪意に晒す事に
なりかねない事態は確かにする訳にはいかない。

「なので、あなた方が引き取ると提案してくださって安心しました
 ………少なくとも私が傍にいるよりこの子にとっては
 いい環境になりそうでしたから」

レティツィアさんは少し寂しそうな笑顔で女の子を見つめながら
そっと頬を撫で、そう吐きだした。
………本音を言えば自分で助けたかったんだろうね、この人。

「なので、至高騎士グレナディーアとしてではなく、私個人としてあなた方にお願いします
 ………どうか、その子の心を救って下さい」

レティツィアさんは深々と頭を下げる。
………男達の悪意と欲望に晒された被害者とは言え、見ず知らずの
しかも自国民ですらない可能性がある女の子にここまで頭を下げるんだ。
これは、生半可な覚悟じゃ駄目だね。

「………承りました、何処まで出来るかは分かりませんが
 この子を二度と不幸にさせない様、努力させて頂きます」

私はそう返事をして、レティツィアさんの眼前に右手を出す。

「………ええ、何卒宜しくお願い致します」

レティツィアさんは微笑み、その手を握り返してくれた。
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