~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

古代竜VS至高騎士

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「えっ!?彼女と模擬戦って……リーゼとですか?」

完全に予想外なボルクハルトさんの言葉に思わず聞き返してしまう。

「そうだ、頼めるかな?」

ボルクハルトさんは私に向き直し返答する。
リーゼと模擬戦って、言動からしてリーゼの正体は知ってるみたいだから
ドラゴンと模擬戦をしたいって言ってるんだよね?
……さて、どうしたものか。
断る理由自体はあまりない、この人が発する気配からして
少なく見積もってもロテールさん達と同じレベルの実力差だろう。
まぁ同じグレナディーア至高騎士何だから当然だろうけども。
その実力から鑑みてリーゼの攻撃を受けてスプラッタな事に
なるとは考えにくい、となれば後は確認事項が2つかな。

「失礼を承知でお聞きしますが模擬戦を名目にリーゼを……
 と言う意図はありませんよね?」

少々不躾気味に聞いてみる、王国はドラゴンに酷い目に遭わされた
歴史があるみたいだからその可能性も否定できない。
そして流石にそれを許す訳にはいかない、リーゼは私の大切な仲間だ。
その気持ちを込めてボルクハルトさんを少しだけ睨みつける。
だけど、そんな私の態度に気を悪くするそぶりも見せず
ボルクハルトさんは少しだけ首を横に振り

「……我が国の事を少しは知っている様だな
 だが、君に忠誠を誓っている彼女を害するような事はするつもりはない
 グレナディーア至高騎士の誇りにかけて誓おう」

そう言って再び私を見据えるボルクハルトさん。
まぁ流石に疑い過ぎたか、けどリーゼが私にとって大切な仲間だって事は
理解して貰えたと思う、それなら後は本人のへの確認かな?

「リーゼ、あの人はそう言ってるけどどうす……」

リーゼに視線を向けそう話しかけ様とするも
リーゼの様子がおかしい事に気付く。
体中から滝のような汗が流れていて全身びっしょりな上に
よく見ると手が小刻みに震えてる……一体何事!?

「ど、どうしたのリーゼ!?」

尋常ではない様子のリーゼに慌てて声をかける。

「……申し訳ありませんマスター
 まさか、我がマスター以外の人間から戦慄を覚える事になろうとは……」

私に視線すら向けず、僅かだけど震え気味の声で答えるリーゼ。
その視線の先には当然ながら……ボルクハルトさんがいる。

「マスターと戦った時も痛感しましたが、如何に我が外の世界を
 知らなかった事を改めて認識しています
 この有様で何が誇り高き最強種と驕っていたのか……」

リーゼは自嘲気味に言葉を続ける。
その言葉が出てくるという事はボルクハルトさんの実力を
正確に見抜いているって事だね、そしてそれは立派な成長だ。
それは伝えてあげないといけない。

「強い人を見て自信を無くしかけてるのかもしれないけど
 それが分かるって事は、リーゼは確実に強くなってる証拠
 ……私が保証するよ」

私の言葉にハッとなってこちらへ向くリーゼ、その視線に笑顔を向け

「そしてその人がリーゼとの模擬戦を望んでる
 ……これがチャンスだって事もリーゼは分かるよね?」

そう問いかける、リーゼは僅かに逡巡するもこくりと頷く。

「なら、思いっきりぶつかっておいで
 相手は格上、全力で挑まないとすぐに倒されちゃうよ!!」
「了解しました、マスター!!」

先ほどの冷や汗や震えは何処へやら、はつらつとした表情で
返事を返すとボルクハルトさんへ向き直すリーゼ。

「認めたくはありませんが、人の身でありながらその力は我を凌駕しています
 なればその力に敬意を表し、全力で挑まねば我が一族の恥となる
 力持つ者よ…我が戦斧の一撃、存分に味わって頂きましょうか!!」

リーゼが高らかに気勢を吐き、戦斧を構えてボルクハルトさんに対峙する。

「……感謝する、古代より世界を見守りし者達よ」

それに対してボルクハルトさんは静かに返答し、インベントリ・キューブから
自らの武器を取り出す。
……それは長く、そして柄に豪奢な装飾が施された、幅広の剣だった。
両手剣ツーハンデッドソード…だっけ、漫画とかで見た事ある剣だ。
それにしたって刀身は長く…そして幅広い、刃の長さだけで
2m近くあるんじゃなかろうか、刃幅も10㎝くらいだ。
こんな重量が10kg超えてそうな剣、普通の人間なら振り回すなんて
とてもじゃないけど出来そうに無いんだけど………驚くべき事に
ボルクハルトさんはそれを片手で難なく持つとそのまま上段に構え

「ふっ!!」

息を吐くと同時に、恐ろしい速さで剣を振り下ろす。
途端に周囲に突風が巻き起こり、数m離れていた
私とリアの服の裾が激しく揺れる。
………こりゃとんでもないね、完全に人間を超えた強さに見える。
今の私じゃ逆立ちしたって勝てないのが今の剣閃ではっきりとわかる。
ロテールさんと言いレティツィアさんと言い、ほんと化け物揃いだね。
まぁこんな人達がいるのに定期的に王国に攻め入ってる帝国も大概だけど。

「……それでは、始めようか」

ボルクハルトさんはそう言い放ち、片手に剣を持って
構えを取らず悠然と立つ。
何とまぁ、ただ剣を持って立ってるだけなのに異様に隙が少ないね。
……構えってのはスムーズに戦闘行動へ移行する為のモノだけど
その分動きがある程度は読めてしまう、拳を眼前で構えたら
拳打を打ってくる可能性が高い、と言う感じにね。
だけどその構えをしないって事は戦闘行動への移行にタイムラグがあるけど
動きが至極読みにくいから、ある意味1番厄介な相手だったりする。
これを攻めるのはかなり難しいよ、リーゼ。
私はそんな事を思いながら2人の対峙を見つめていた……





目の前の人間が武器を持ち、我の前に静かに立つ。
マスターとは違い、ただ立っているのみだと言うのに
攻撃を入れる為の『隙』と言うものが見つけることが出来ない。

「これ程までとは……」

相手の力量を読み、自らとの力量の差を比較し、分析する。
マスターとの鍛錬の際、常に言われ続けた事だ。
マスターと出会う前の我ならば、間違いなく相手が人間という事で慢心し
不用意に攻撃を仕掛けそのまま敗北していただろう。
だが、今ではそれが愚かすぎる行動だと言うのを痛感する。
……本当にマスターは戦いと言うものを熟知しておられますね。
生きた年齢で言えば我の10分の1以下であろうマスターが
これ程戦いの知識を持っているのに対し、常に強さを求めていながら
そんな事も知らなかった我は何と無駄な時間を過ごしていたのか……
後悔の念がこみあげてくるも、直ぐに振り払う。
後悔などする暇はない、マスターが我の事をと仰っていたのだ。
それを証明せねばならない、我はマスターの龍なのだから。
そして打ち込む隙が無ければ……作り出せばいいだけの事!!

「……では行きます、我を凌駕せし人間よ」

我はマスターから得た知識を動員させ、目の前の人間に戦斧を振り下ろす―――





一瞬の沈黙の後、リーゼが前傾姿勢をとったかと思うと
後塵を上げて、地面スレスレを走りながらボルクハルトさんに接近する。
……あれは『縮地法』だ、相手の視線外へ潜り込み一気に接近する走法。
私が常にやってたのを見てたからか、真似事とは言えリーゼがそれを再現する。

「ぬっ!?」

いきなり視界から消えたリーゼに
僅かながら驚いた表情を見せるボルクハルトさん。
不意は突けた、後は……

「ぜあっ!!」

瞬く間に攻撃範囲に入り、前傾姿勢のまま右足を踏み込んで
突進の勢いを上半身に伝え、腰を回して戦斧で斬り上げる!!
完璧なタイミングだ、不意を突かれた上体勢が整ってない
ボルクハルトさんがリーゼの斬撃を避ける手段は無い。
当たる!!と目を見張った瞬間……金属同士が激しくぶつかる
甲高い音が盛大に響き渡る!!


「……ッ、これは完全に虚を突かれたな
 まさか最強種と謳われる種族がこの様な戦い方をするとは……面白い」


僅かに笑みが籠った声、その声の主は
龍の力が籠った一撃を、真っ向から受け止めていた。
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