~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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軌跡への遁走曲《フーガ》

ソウルフードとほうれんそう

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「ん~、後1つだけ食べよっかな」

私は目の前に積まれた梅干し……もといネムの実を1つ摘まんで
口の中に放り込む。
途端に口の中に広がる塩味が強めの酸っぱさ、ん~~これがたまらないね。
正直元の世界だと栄養バランスの為に食べてただけで
味なんか気にしてなかったけど、久しぶりに食べると
こうも感慨深い味になるとはね、期待もしてなかったからなおさらだ。
そんな私を様々な表情で見守る私達。

「ネムの実をそのまま食べて嬉しそうな顔をする人を初めて見たわ……」

フィルは驚き半分呆れ半分でそんな事を呟き

「あはははは、調味料で使われてるネムの実を丸ごと食べてるなんて
 やっぱレンお姉ちゃんは面白いね、あはははは」

何が面白いのかマリスはひたすら笑い続ける。

「……マスターのあのような表情、初めて見ました
 その植物は人間にとってそれ程までに美味なんでしょうか?」
「違う、あれは多分レンだけ」

感心した様に言葉を放つリーゼに突っ込むリア。
三者三様の仲間達を横目に私は口の中の酸味を堪能する。
ん~~~っ、やっぱりこの味だよねぇ。
これで米やみそ汁があれば完璧なんだけど流石にそれは望み過ぎかな。
けど、王国はこの世界の食材が集まる場所とも言ってたね。
……ちょっと探してみようかな。
流石に味噌は無いとは思うけど米なら似た様な植物があるかもしれないしね。
私は秘かに目標を1つ増やしつつ、ネムの実をもう1つ取って口の中に入れる。

「……はぁ、レンの新しい表情を見れたのはいいんだけど
 これじゃ話どころじゃないわね、先に食事の支度をしましょうか」
「そだね~、中々珍しい肉が手に入ったから今日はそれを焼こっか
 調味料なら山ほどあるしね
 あ、レンお姉ちゃん、これいくつか貰ってくよ~」

フィルとマリスはそう言いながら山のように積まれたネムの実を
いくつか手に取って部屋を出て行く。
む、流石に夢中になり過ぎたかな。
とは言え梅干し風味の焼肉か……そんなソースのステーキもあったっけ。
これはちょっと楽しみかも、2人には悪いけど今日の料理当番は変わって貰おう。
とは言え後で埋め合わせはしないとね、何か梅干しでいい料理あったかな……
完全に頭が梅干しで支配された私を横目に、穏やかな表情で私を見つめるリーゼ。

「ふふ、本当に嬉しそうですねマスター
 マスターのその様な表情を見ていると我も嬉しくなってきます」

本当に嬉しそうに微笑みながらそう言って来る。
……そんなに嬉しそうな顔をしてるかな私?

「……それ、凄く酸っぱいのに
 どうしてレンは平気なの?」

リーゼとは対照的に不思議そうな表情で質問してくるリア。

「私のいた国では、これと同じ様な味の食材があったんだよ
 一般の人が手軽に食べられるような感じでね」

そう言いつつ無意識に次のネムの実を手に取る私。
……流石に食べ過ぎた様で口の中が梅干しの風味で支配されちゃってる。
これ以上は止めておいた方がいいかな。
けど、慣れ親しんだ味がこれから何時でも味わえるのは
やっぱり嬉しい、体から活力がみなぎる感じがする。
ソウルフードとはよく言ったものだ、元々の意味は違うみたいだけど。
しかし、フィルとマリスには悪いことしちゃったな……
そんなつもりはなかったけど、料理当番押し付ける形になっちゃった。
とは言え今から手伝いに行くのも少し気まずいし
なにより3人も調理場にいたらやりにくくなりそうだから
ここは開き直って待ってた方がいいかな。
そう結論付けて、私は料理が出てくるのを待つことにした。



………



………………



………………………


「あははは、依頼を受けたらグレナディーア至高騎士と模擬戦する羽目になるなんて
 ネムの実の件と言いレンお姉ちゃん相変わらず退屈させないね~」

数十分後、フィルとマリスが作った晩御飯を食べつつ
今日あった事を報告する私達。
予想通りマリスが大爆笑し、フィルが呆れた顔でこっちを見つめる。

「ホント、リーゼだったから無事で済んだものの
 またレンが無茶したんじゃないかと思ったわよ……」
「いやいや、仮に私だったら断るって
 それにリーゼだって無傷で済んだわけじゃないよ」
「……そうですね
 リアがいなければ暫くは動けなかったでしょうし」

そう言いながらリーゼはリアを見る。

「しかし祈祷魔法を見て覚えた、ねぇ
 ロテールさんはそんな事はあり得ない的な事を言ってたけど……」
「当たり前よ
 他の魔法は兎も角、祈祷魔法は聖教から洗礼を受けないと使えないの
 そもそも、見て覚えることが出来るならとっくの昔に
 レンも使えるようになってる筈でしょ?」
「ちなみに他の魔法も同じだよん
 まぁこっちは洗礼みたいな儀式じゃなくて理論を理解してないと
 詠唱や陣を組み立てたって発動しないしね~」

私の言葉にフィルとマリスが答える。
確かに見て使えるようになるのなら、2人の傍で散々魔法を見て来た
私が使える様になる筈だけどそんな感じは一向にない。
……ちょっと残念な気もするけど。

「となると、リアは攫われる前に聖教の洗礼を受けていたと
 考えるのか自然なのかな?」
「……そうでしょうね、一応例外として『神器』に選ばれた『聖女』なら
 洗礼を受けなくても祈祷魔法を使うことは出来るけど
 流石にそれは無いでしょうね」
「そだね~、『聖女』は『勇者』が召喚されないと選定されないっぽいし
 もしそうなら聖教が大々的に捜索してる筈だろうしね」

おんや、また聞きなれない言葉が出て来たね。
『聖女』に『神器』ね……ちょっと興味はあるけど
2人の話じゃリアの手掛かりには関係ないっぽいしスルーしておくべきかな。
……余計な好奇心は寿命を縮めるしね。

「となると、聖教とやらにも接触しないといけないかなぁ
 フィル、その聖教の総本山ってこの近くにあるんだっけ」

何気なしにフィルに聞いてみる、この中で聖教に1番詳しいのはフィルだしね。
だけどフィルは少しだけ目を逸らし

「……そうだけど、あそこは司祭以上にならないと立ち入ることは出来ないの
 私達が行っても、門前払いが関の山よ
 私達が接触できるのは精々教会くらいしか無いわ、それも信者じゃなかったら
 あまりいい対応はして貰えないでしょうね」

あれま、思ったより排他的な宗教だねぇ。
まぁフィルも身内以外にはあまり積極的にかかわろうとはしないし
……まぁ、宗教ってそんなモノかも知れないけど。

「だけど、祈祷魔法を使えるって事はリアは少なくとも信者って事じゃないの?
 それなら話は変わってくるとは思うけど」
「そうなんだけどね……」

おや、フィルにしては歯切れが悪い返事だね。
そう言えばフィルってば私と一緒にいる為に聖教から抜け出したんだっけ
それならば聖教に近寄りたくない気持ちは解るかな。
けど、話からすればフィルがいないとまともな対応を
してくれそうはないし、どうしたものやら……

「それなら、聖教からの依頼を待ってればいいんじゃないかな~
 たまにだけど冒険者へギルドを通して依頼を出してるみたいだし
 その時に話題を振れば話を聞いてくれるかもね~」

口に物を入れて頬張りながらマリスが提案して来る。
聖教も冒険者に依頼するんだ、まぁ当然と言えば当然か。

「……確かにね
 運よく依頼を確保できればの話だけど」

フィルも肯定はするけどやっぱり歯切れが悪い。
ふむ、フィル的には余り聖教には触れて欲しくないっぽいね。
それが個人的な事かはたまた別の要因かは知らないけど。
ふと、フィルと初めて出会った時に暗殺者らしき人間に
襲われていたのを思い出す、もしかしてアレが関係してる?
改めてフィルの事を何も知らない事に気づかされる。
話してくれるのを待つ気でいたけど少し突っ込んだ方がいいのかな……
そんな事を考えながら、私はフィルの横顔を見つめていた。
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