~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~

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時越えの詠嘆曲《アリア》

探索再開……?

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「……で、次の聖女候補がいなくなった場所ってどの辺りなの?」

ミァザさんの件から1日過ぎ、私達は「心の宿り木」に戻り
ミアとゼーレンさんを含めて朝食を摂っていた。
……あんなに大層な別れ方をしてその日のうちに戻ってきたのは
ちょっと気まずかったしミアも少し不思議な表情をしてたけど
何も聞かずに出迎えてくれたのはちょっと嬉しかった。
流石に1日歩き通しだったんで夕食を簡単に済ませてお風呂に入り
ベッドでミアを抱っこしたまま眠ってしまった。
ちなみに私の他にはフィルも同じような感じだったみたいだけど
マリスとリーゼはゼーレンさんと共にギルドへ報告がてら
情報収集までやってたらしい。
……ドラゴンのリーゼやベテランのゼーレンさんは兎も角として
マリスはそのちっこい体なのにタフだよね……
と言うか、ちょっと私が体力無さすぎな感じなのかな?
まぁ元の世界でも長時間歩くなんて仕事は無かったし、求められてたのは
瞬時に動ける瞬発力と長時間の待機に耐える忍耐力だったから
持久力に関しては余り自信が無かったりする。
けどこの世界だと移動は基本徒歩だし、それに何より
戦う相手が人間以上のスペックを持った魔物達ばかりだ、今までは
運よく数十分程度の戦闘で済んでたけど互いに決定打が無くて
スタミナの削り合いの長期戦があっても不思議じゃない。
う~ん、となればやっぱりスタミナの鍛錬は最優先かな。
依頼が終わったらリーゼにマラソンでも付き合って貰おうかな?
……リーゼなら確実に100㎞以上は平気な顔して走りそうだけど。
そんな事を考えているとフィルがゼーレンさん達に次の聖女候補の
情報を聞いてたんだけど……

「……それがじゃな、少し状況が変わっての
 どうやら聖教が今回の事で味を占めたらしい
 他の冒険者にまで依頼を出し始めているみたいじゃ」

ゼーレンさんは少し渋い顔でそう言って来る。
聖教が味を占めた? どういう事だろ?

「聖教の奴ら、昨日の儂らにそうした様に冒険者に捜索をさせるだけさせて
 保護自体は自分達の手柄にしようとしてるみたいなんじゃ
 ……まぁ、報酬自体は払うじゃろうから普通の冒険者なら問題は無かろうがの」

ゼーレンさんはぶっきらぼうにそう吐き捨てる。
成程ね、言葉通り前回の私達の件で聖教が味を占めちゃったか。

「そうですか……ですけどまぁ問題はないでしょう
 私達だって目的はミアの情報ですし、聖教が保護はいらないと言えば
 私達もそうするまでですよ」

私は敢えて明るい口調でゼーレンさんに返す。
……本音を言えば聖教に戻りたくなかったらそれに協力はしてあげたい、だけど
私達に出来る事なんてたかが知れてるし、何より優先するのはミアの情報だ。
ならば余計な事はせずに淡々依頼をこなすのが最善手なのは間違いない。
……まぁ、それが出来ないから私は未熟者なんだろうけど。

「……まぁ、そうじゃな」

私の答えにゼーレンさんは僅かに言葉を詰まらせるも同意してくれる。

「心配しなくてもいいわ、恐らくだけど聖女候補の中に
 ミァザの様な子はもういないと思うわ」

そんな私達の会話にフィルが入ってくる。

「そうなの? ミァザさんは何か物凄く嫌がってたみたいだけど」

思わず聞き返す私、それを聞いてフィルは1つ息を吐いた後に

「そもそも、聖女候補は聖教にとって栄誉ある役職なの
 法皇が聖女候補の選定を始めると宣言したら立候補者が殺到するくらいのね
 だからミァザの様に逃亡したりする子はまずいないの
 多分あの子が最初なんじゃないかしら? 巡教中に逃げ出そうとしたのなんて」

さも当然の様にフィルは言って来る、何だかとある神社の福男みたいな感じだね
アレはただ単に縁起物なんだけど。
ってちょっと待って、それってつまり……

「ちょっと待ってフィル、という事は
 他の聖女候補の行方不明って……」
「……恐らくは何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高いわね
 もしくは……自分から首を突っ込んだか」

少しだけ視線を横に外してフィルがそう言って来る。
おや? 何かフィル知ってるっぽい?

「おんや、その言い方だとフィルお姉ちゃん
 聖女候補になってる子達が誰か心当たりがあるっぽい?」

それまで話を静観していたマリスが
今正に私が思った疑問をそのまま口に出す。

「……どうかしらね
 無いとは言わないけど確証は無いわ
 それにだからと言って私達のやる事が変わる訳じゃないでしょ?」
「ま、そうなんだけどね~」

マリスの問いにフィルはぶっきらぼうに答え、マリス自身も
そのまま話を打ち切る。
……この2人、やっぱり何か知ってるっぽいね。
けどそれを私に言わないって事は、私が知る必要のない事かな。
ならこの話題はこれでおしまいにした方が賢明か。

「それで、次の捜索候補の目星ってつけているんですか?
 ゼーレンさん」

一先ず話題を変える為にゼーレンさんに水を向ける。

「それなんじゃが……聖教が大々的に依頼をかけた事でちと厄介な事になっての
 近場、と言うか比較的安全な2件は既に他冒険者に取られた状態なんじゃ」

ふむ、まぁそれも当然か。
冒険者は挑戦者じゃない、死んだら元も子もないから
自分の力量以上の依頼は受ける事はしない、レベルという基準もあるしね。
なので簡単な依頼はすぐに埋まる傾向にある。
けどそのままだとベテラン冒険者が簡単な依頼を独占しかねないから
その調整役にギルドがある訳だけど。



「それでじゃな……残った依頼が
 レン嬢ちゃんが『時越えのセレナ』から忠告を受けた場所
『オルテナウスの町』なんじゃ」
「……ッ!?」



ゼーレンさんの言葉に、リア以外の全員が息を呑む。
頭が悪い私だけど、流石に行ったら死ぬと言われた場所を忘れるほどじゃない。

「確かにそこも聖女候補が行方不明になったって話だよね
 けど、マリスが言うにはそれ以上に厄介な事が起こってるって……」
「うん、言ったよ
 正直レンお姉ちゃんの件が無くても近寄りたくはない場所かな~」

私の言葉にマリスが続く。
それにしても好奇心の塊のようなマリスが近寄りたくないって……
どんだけ厄介な事が起こってるんだろう。

「不確定な情報が多いんだけど、分かってる事は
 ある日突然町の住民が消え去ってしまった事と、調査に行った人達全員
 商人冒険者軍人聖教問わず帰ってこないって事ぐらいかな~
 ね? 正直ロクな事になってない感じしかしないでしょ?」
「儂の方でも同じような感じかの、それに長年の勘が警鐘を鳴らしとる
 この依頼は受けるべきではない、とな」

マリスとゼーレンさんが口々に言う。
うん、聞いただけで何だかヤバそうな感じだ。
人が消えて向かった人も帰ってこないってだけでもヤバいけど
1って事だ、これは流石に致命的過ぎる。
人が次々消えていく所に何の情報もなしに突っ込んでいくのは
それこそ忠告通りにそこに居るによって
あっさり殺されたっておかしくない。
リアの事はあるけど……これは依頼を断るべきかな?

「……流石にこれは行かない方がいいかな
 リアの情報は欲しいけど、流石に私達が死ぬ訳にはいかないかな」

傍から見たら臆病と罵られそうだけど、流石にこれは受ける訳にはいかない。
リアの為の依頼だけど、それこそ私達が死んだら元も子もない。
そんな私の発言だけど、フィルはあからさまにホッとした顔をして息を吐く。

「良かった、レンが死地に行くって言わないで
 レンが行くって言うならどこへだって行くつもりだけど
 流石に死ぬって言われてる所に行こうなんて言われたら
 土下座してでも止めたわよ」

心底安心した様でフィルは私に笑いかけながら言う。
……って言うかこの世界も土下座があるんだね、まだ見た事ないけど。

「我も賛成です、マスターにどんな危機が訪れようと守り切るつもりですが
 それでも見えている危機に向かう事は賛同できかねましたので」

それまで無言だったリーゼも口を開く。

「マリスの意見はさっき言った通りかな
 マリス1人ならいくらでも危ない橋を渡るけど、流石にみんながいるなら
 ある程度は自重しないとね~」
「いや、そもそも自分から危ない橋を渡ろうとしてんじゃないわよ」

マリスの軽口にフィルが突っ込む、後はゼーレンさんだけど……

「決まり……じゃな、元々儂の方に来た依頼じゃから
 依頼の取り下げは儂がやっておく
 まぁ聖教の奴らにネチネチと嫌味を言われるかも知れんが
 嬢ちゃん達の命には代えられんからな」

ゼーレンさっは口角を上げながらそう言ってくれる。

「……有難う御座います」

私は素直に頭を下げ、礼を言う。

「礼など不要じゃよ、こうして嬢ちゃん達と楽しく食事させて貰う事が
 儂にとって最高の報酬なんじゃからな、カッカッカ」

そんな私に、気にするなと言わんばかりにゼーレンさんは呵々大笑した。 
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