リ・インカーネーション

ウォーターブルーム

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1.訪れの時

5.魅く者と魅かれる者

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 ビッグ・ヒトヨタケが人為的な遺伝子組み換え操作によって誕生した、いわばヒトの手で「作られた生物」であることを財団Zの関係者から聞いて驚愕したのは、それだけではなかった。さらにこの研究所に来る途中で見たオオゴマダラと思われる蝶とその蛹も、やはり実はこの研究所が人為的に改良・・して作った合成生物であるという事実も知らされて、自然がいかに人類の手によって大きく改変させられているかをあらためて認識させられた、いやそれ以上に神波にとっては思い知らされたも同然の事実だったのだ。
「アア、あの蝶ですか。あの蝶もこちらで作られた人工生物ですよ。オオゴマダラの幼虫は毒性のある特定の植物しか食べないのですが、あの蝶の幼虫は毒性の無い普通の植物でも食用にできるのですよ。それと蛹もキチン質の層構造になった物ではありません。一部、本物の・・・金からできているんです。」それを聞いて、(ええっ!?しまった!。)と思ったのは神波だけではあるまい。
しかし本当に財団Zというのは、一体科学を何の目的で利用しようとしているのだろう・・・。相手の考えが読み切れない所に問題の奥深さが隠されている様な気がしてならない神波であった。
「ニューギニアで一体、どんな研究をしているのですか?。」と訊いても、「ここでは一般的なバイオテクノロジーを初めとした研究や実験をしているだけですよ。」とあいまいな返答しか返ってこない。ただ、財団が出資した企業の研究実験の検証をしているらしいということは、話の節々から感じ取ることができた。どうやら財団にとっては、ここニューギニア島の豊かな自然そのものが、一つの壮大な実験場となっているようだ。

 (これでいいのだろうか?。人間の生活や利益の向上のためにここまで自然に手を加えて、本当にこの世界に悪い影響はないんだろうか?。)と神波は思う。今までは普段の生活の利便性に慣れきっていてあまり考えてもいなかったのだが、今回の事態を通じてヒトがどこまでヒト自身を含めた自然を恣意的に利用したり都合よくコントロールできるのか、そして何よりもその自然からしっぺ返しをくらうことはないのだろうか、と考えさせられるのだ。最近、地球規模で二酸化炭素の濃度が増えて地球温暖化が進んだり、フロンガスを無処理で排出する量が多くなった結果オゾンホールが大きくなることで、次第に日本の気候や四季の温度変化が異常になってきて土砂災害や河川の氾濫、高潮の被害が過去に比べ増加している、あるいは日本にいないはずの外来生物が増えたり、従来棲息していた生物が環境の変化に適応できず死滅して生態系が破壊されたり、放射線障害による癌患者の増加やウイルスの突然変異による珍しい病気が流行ったりしていることとも因果関係があると聞く。このまま、これらの状況を発生させている根本的な原因に対処せず野放しにしたままで、果たして地球の未来は大丈夫なのかと不安な気持ちになるのだ。ところがこれらの問題に関心を示さないばかりか、中には問題解決に対し積極的に反対する政治家までいることも事実なのは確かだ。

 ともかくも財団のおかげで、神波達は研究所から自家用オスプレイを使って無事にホテルまで直行して戻ってくることができた上に、おみやげと称して研究所で実験用に栽培していたというビッグ・ヒトヨタケ刈り取り済みのものを5体もいただいてしまい、丁重なおもてなしまで受けて日本へ帰国する羽目になったのであった。こちらもそこまでされてはと遠慮し辞退しようとしたのであるが、「いやいや、神波様にはこれからもっとご協力いただくことになるので。」とか言われて押し切られてしまい、何とも断れない状況になってしまっていたのだ。今回のクエストでまあまあ目標としていたパーティ資金も稼げて、資金の管理は恋町に一任されることになった。
それから帰国して数日後、神波は早くも財団Zの中務から連絡を受けた。
「明日、会っていただけませんか?。場所は新宿三丁目で。」と何とも月並みな待ち合わせ場所とはなったものの、神波はニューギニア島での一件からの恩もあって断れずに承諾したのだった。

 「今日は神波様にあることをご協力いただきたくてお願いをうかがいに来たのです。」と中務。
先日のニューギニアの時のチャイナドレスではなく、黒いスーツとタイトスカートで身をかためている。髪はアップでまとめており、完全に商社のOLといったいで立ちだ。
「はあ、どんなことでしょう。俺にできることでしたら。」と言って考え込む神波。(一体、何を手伝えってのかな。)
「簡単なことです。最近、当財団とある製薬企業との提携で開発しました新薬のテストの効果検証に付き合っていただきたいのですわ。」
「新薬!?一体何の薬なんですか?。」
「それは企業秘密です。しかし、今回は特別にお教えしましょう。特定ホルモン分泌亢進促進剤『デルポア』の治験効果を確認したいのです。この薬の投与によって人体における、ある特定ホルモンの分泌量が増進しているかデータを取りたいのですよ。ホルモンの体内分泌量が増加するだけで特に人体には何の影響もありません。安心安全なテストですわ。期間は3日間。検討していただけませんか。」
一体どんなホルモンの分泌量を亢進させるのか、いかがわしい?薬の効果を人体実験する為の被験者モルモットとなった神波は翌日午後8時ジャストに財団の関係施設、それも群馬県のある温泉地帯の特別宿泊施設の一室にいた。
施設の建物は3階建てのコンクリート造りの洋館であったが、入り口を予め渡されていたカードキーで入ると、待合室の様な大広間には既に白衣を着たドクターと思われる若い女性と中務女史の2名が待っていた。

「お待ちしておりましたわ。さあ、お部屋にまずはご案内いたしましょう。」階段を上り3階の東側奥の部屋へ通され、時間が来るまで待機する。待機と言っても他にやることは無く、食事は朝だけで肝心の温泉への入浴も薬を服用後3時間と検査のための血液採取の時を除く、それら以外の時しか入れなかった。
1時間ほど部屋のベッドで寝転んで午後9時から最初の投薬ということで、1錠の丸い錠剤を渡されその場で飲んだ。3時間経過して血液採取が終了した後で真夜中の午前零時過ぎ頃、露天風呂の温泉に入り久しぶりに湯舟に浸かり、ゆったりとくつろいだ。不思議なことに自分以外に他の人影は無く、風呂場でも他人が入浴している姿はついぞ見かけなかった。そして入浴場から部屋へ戻り、いよいよ就寝しようとした時のことだった。
突然、ドアをノックする音が聞こえた。

「どなたですか?。」「ワタシ、中務です・・・。」
ドアを開けるとはたして、中務女史がガウンをまとった姿で立っていた。髪はほどいてワンレングスとなっている。入れとこちらが言わないのに明けたとたん、彼女が滑り込む様に入って来て、後ろ手にドアを閉めてしまった。「体の調子はどう?。」と中務。「ハイ、今の所はなんとも無いです。」と仕方なく応じる神波。
その後、彼女と神波は他愛もない話を延々と30分程も続けていたが、神波が眠たそうにベッドへ身を横たえて欠伸あくびをした時だった。突然、彼女が彼の体の上からガバッと覆いかぶさる様に抱きついてきたのだ。
「アッ、な、何をするんですかあ!。」と神波が叫んだとたん、彼の口は彼女の柔らかく甘いくちびるの感触とともにふさがれてしまった。眼を丸くしている神波の浴衣をはだけさせながら、彼の胸板をまさぐる彼女・・・。もう彼女の目つきは異様なまでに妖艶ようえんな光を放ち、ガウンを脱ぎ捨て全裸になった肢体からは、妖しい魅力を全身にたたえている。
「アア、いい匂い・・お姉さん、もう我慢できないわあ~。」と言って悶える様に体をしならせ、神波の股間に手を入れようとした。
「う、うぐぐぐっ・・・。」神波はうめき声をあげながらも、彼女の猛攻・・に必死に耐えていた。ともすると理性が吹っ飛んでしまいそうになるのを何とかこらえている。しばらくもみ合いが続いたが、神波が最後の理性を振り絞って彼女のしなやかなボディにパンチを一発くらわすと、彼女からふっと力が抜けて瞬時にクタッと伸びてしまった。顔を赤らめながらもようやく冷静になれた神波は、彼女を自室から廊下の長椅子まで運び、一旦そこで彼女を降ろすと部屋へ戻った。

 翌朝まで眠れなかったが朝食が終わった後、中務がやや青ざめた顔で入って来て神波に謝った。
「ごめんなさい。実は昨晩の様なことが、ある意味で新薬の副作用なのよ。」と彼女は切り出した。彼女の説明によると新薬『デルポア』が分泌を増進させるホルモンというのは、異性誘因性フェロモンのことだったのだ。つまりあのビッグ・ヒトヨタケのクエストとも関係する物質なのだった。この薬の服用によって本人は気づかなかったが、大量のフェロモンをそれも通常の30倍以上分泌しており、それが体表から拡散すると昨晩の様な出来事が起きてしまうのだそうだ。しかし、神波が考えたのはそういった出来事が予想できたうえでわざと財団側は、中務という女性と男性である神波とをカップリングさせたのではないかという疑惑だった。まあ、男性にとってはうれしいハプニングと受け取れなくもないが、それで割り切ってしまったらもう身もフタもないというわけだ。神波も昨晩の出来事をどう受け止めていいのか、迷ってしまっていた。
「俺も正直、戸惑っています。でも約束なんで実験はこのまま続けさせていただきますよ。」と答えた。

 その後はなんともなかったが、実験の最終日の3日目、今度は若い女医に変化が見られた。彼女は神波と接触する時は防護用マスクを着けていたのだが、突然息苦しいからと言ってマスクを神波の目前で取り外してしまったのだ。
その顔は既に上気だっており、目もどこか夢を見ているかの様にうつろだった。
「ねえ君、ちょっとシャツを上にあげてくれる?。」と言って、今まで聴診なぞしたことも無かったのに急に聴診するからと言い出したのだ。
「先生、薬の服用と血液の採取だけしかしないと聞いていますよ。なんで新たな検査が加わったんですか?。」と尋ねても、「いいから。」とまるで聞き入れない。仕方なく聴診に応じていると、聴診器を持っていた手から器具がバタリと落ちて、女医は神波の胸をいきなりさすり始めてしまった。
「先生、くすぐったいですよ、やめてください。」「いいのよ。今、触診しているとこだから動かないで・・。」
女医の目はいよいよ妖しい輝きを放ち、顔を真っ赤にさせながらもどこか虚ろな表情のまま、いきなり神波の体を抱きしめた。
「いいのよ、アタシをめちゃめちゃにしてっ!。」と叫ぶと突然、神波を押し倒してしまった。神波は必死にもがいたのだが、「ウフフ・・・。」と女医は笑いながら、凄い力で抱きしめてくる。
「もがいたって無駄よ、もう逃がさないわよ。」と女医が美しくも凄惨せいさんな声でそう言い放つと、自分の服を引き裂いて豊満な胸をあらわにしようとした、まさにその時だった。
「だめえ~、神波君はアタシのものよっ!。」と叫びつつ、今度は中務が髪を振り乱して、なかば半狂乱の様子で部屋へと乱入してきた。
「うわああああっ。」
さすがに神波もすっかり気が動転してしまい、中務にまで抱きつかれそうになったところで渾身の力を振り絞って起き上がるやいなや、2人に宛て身を食らわせて気絶させるとそのまま建物を飛び出し、走って逃げていった。
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