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片思いの友達にチョコを渡す男子高校生
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「水野くん……チョコ、食べる?」
「えっ、いいけど……今日何の日か分かってんのか?」
帰り支度を済ませてバッグを背負った水野くんを引き止める。放課後の教室、委員会の仕事で居残った僕たち以外は誰もいない。渡すなら今しかないと逸る鼓動に背中を押され包装紙で飾られたチョコクッキーを手渡す。
「へへ……バレンタインだからチョコ作りたくなって」
「まー気持ちはわかるがせめて女子に渡せよな」
「わ、渡せないよ。男がチョコ作るとか変に思われそうだし」
「別におかしくないだろ。だって森谷パティシエ目指してんだろ?」
水野くんは僕が本当にただチョコが作りたくなっただけだと信じて疑わない。それを受け取るとバッグを机に置き椅子に座る。僕はその隣に座って反応を伺う。
「どれどれ……おっかわいいなーこれ」
「! 今回は結構うまく作れたんだ……!」
人型に型取ったクッキーにホワイトチョコとブラックチョコでコートとマフラーを着せて、さらにサンタ服やトナカイ衣装のものも用意したクリスマスがテーマのチョコクッキーだ。表情にも拘ってなかなかにかわいいものが仕上がった。水野くんに褒められるとほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあ早速、いただきます」
口を大きく開いてパクっと頬張ると「ん~」とにやけながら首を縦に振る。美味しいという気持ちが表情から伝わり心が弾む。
「やっぱ森谷の作るお菓子サイコーだな!」
「ほんと? ありがとう……!」
「マジで売れるよ。皆にも言えばいいのに」
「い、いやっそれはちょっと恥ずかしいかな……」
「勿体ねー。まあでも、その分俺が全部ひとりじめできるからいいけどな」
水野くんはいたずらっぽくにやりと笑って次々とチョコクッキーを口にする。卑怯だよ水野くん、いきなりそんな顔でそんなセリフ言われたら舞い上がっちゃうよ。と小躍りしたい気持ちを必死でこらえる。水野くんにひとりじめされるチョコにすら嫉妬してしまうほど愛が溢れてやまない。
「ん? なんだよ森谷、もしかしてお前も欲しくなった?」
「えっ!!?」
「声でか!」
予想外な言葉に思わず声を荒らげてしまった。恥ずかしさに赤くなる顔を隠すように口元を手で抑える。
「あっごめん、えっと……?」
「さっきからずっとこれ食べたそうに見てたからさ、最後の一個やるよ」
「あっそういう……じゃあ、貰おうかな」
僕が見てたのは水野くんの方なんだけど、とは流石に言い出せずチョコを受け取ろうと手のひらを広げる。すると水野くんはその差し出した手をスルーして直接僕の口元にチョコを運ぶ。
「はい、あーんっ」
「な、なななななっっ!?」
「はははっ、動揺しすぎだろっ!」
ふざけて恋人同士みたいな食べさせ方をしてくる水野くんに命の危険を感じた僕は椅子を思いっきり後ろに引いて距離を取る。手を胸に当てずともありえないほど心拍数が上昇しているのが分かる。仕掛けた諜報人はそんな気も知らずに足を手で叩いて爆笑している。
「ふっ、普通によこしてよ~」
「いいじゃん、誰も見てないよ」
「カ、カップルじゃないんだから……っ」
自分で否定するのも悲しいがこれは僕の一方的な片思いだ。今でこそ友達のように話せているが元々は全く接点などなかった。
水野くんは普通に女の子が好きでかっこよくてクラスの人気者。対して僕は特にこれといった特徴のない、少しお菓子作りが得意なだけの影の薄い男だった。クラスも違うから今日のような委員会の時でしかまともに会話ができなかった。
本来なら絶対関わり合うことのない人種なのだが、水野くんがスイーツ好きという情報を知りこれなら僕でもと必死で勉強して声をかけたのだ。本当はパティシエなんて目指していなかった。そういう設定にしておけば練習のためという体で自然と水野くんに食べてもらえるから。
あまりにもおいしいおいしいと喜んでくれるのが嬉しくて製作を続けていく内にめきめきと調理スキルが上がり、今では本当にパティシエも夢じゃないんじゃないかと自惚れてしまうほどだ。
「彼女とイチャイチャする時の練習だと思ってさ」
「し、しないよそんなことっ」
「えー、俺はしたいけどな」
時々水野くんはこうやって僕をからかう。まともに恋バナも下ネタもできないほどウブな人間が彼の周りにはいないから珍しくて面白がっているんだ。向こうにその気がないのは分かっているけれどやっぱり何回されても照れてしまう。
「いらないなら俺が食べちゃおっかな~」
「あっ……」
水野くんは自分の口元にチョコクッキーを運んで食べる素振りをする。口を少し開けて横目にこちらを挑発的に見つめる仕草が煽情的で直視できない。えっちな目で見てごめんなさいと心の中で謝罪する。
「ほらほら、これが欲しいのか?」
セリフだけ聞くと勘違いしてしまいそうだがこれはただのお菓子だ。
「あのっ……チョコ、ください……」
僕があげたチョコのはずなのに何故僕がねだっているのだろうか。水野くんは満足そうな表情で再び僕の方へと手を向ける。
「はい、あーんっ」
「あ、ふっ、んっ」
数cm間違えたら指が唇に当たってしまう。どきどきで顔が熱くなる。ゆっくりと口を開いて慎重にチョコクッキーを唇で挟むと水野くんと目が合ってしまい瞼をきゅっと閉じる。指が離れたところでぱくぱくと口の中に放り込む。チョコや砂糖の甘さなんかとは比べ物にならないほど甘く、幸福な時間に全身がとろける。
「ははっすげー顔真っ赤」
「は、恥ずかしくて……」
「森谷ってほんとかわいいな~」
「なっ……!?」
本当に信じられない男だ。好きという感情を通り越して怒りすら湧いてくる。気安くかわいいという言葉をその顔で言うなと喚き散らかしたい。だがそんな勇気があるならとっくに告白している。悔しいけれど僕はこの男にこれからも片思いを続け、一挙手一投足に翻弄され、そしていつか失恋するのだろう。
そうだとしても、今この瞬間を大切にしたい。水野くんと二人だけの時間を少しでも一緒に過ごせるのなら、それは僕の人生にとってかけがえのない思い出になるはずだから。
「ホワイトデーにお返ししなきゃな」
「えっ、い、いいよそんなの」
「バレンタインデーにチョコ貰って何も返さない奴は男じゃねぇよ」
少し背伸びして男らしく振る舞おうとする年頃の男子高校生といった姿をかわいらしく思いつつも、やっぱり水野くんのこういうかっこいいところが好きなのだと改めて思う。
「つーわけで、今度お菓子の作り方教えて」
「えっ、お返しなのに僕が教えるの!?」
「森谷以外に頼れるやついねーもん。嫌ならコンビニの飴な」
「さっきまであんなにかっこいいこと言ってたのに……!」
口では文句を垂れながらも、心はまた二人で特別な時間を一緒に過ごせることを嬉しく思い、顔が綻ぶのだ。
「えっ、いいけど……今日何の日か分かってんのか?」
帰り支度を済ませてバッグを背負った水野くんを引き止める。放課後の教室、委員会の仕事で居残った僕たち以外は誰もいない。渡すなら今しかないと逸る鼓動に背中を押され包装紙で飾られたチョコクッキーを手渡す。
「へへ……バレンタインだからチョコ作りたくなって」
「まー気持ちはわかるがせめて女子に渡せよな」
「わ、渡せないよ。男がチョコ作るとか変に思われそうだし」
「別におかしくないだろ。だって森谷パティシエ目指してんだろ?」
水野くんは僕が本当にただチョコが作りたくなっただけだと信じて疑わない。それを受け取るとバッグを机に置き椅子に座る。僕はその隣に座って反応を伺う。
「どれどれ……おっかわいいなーこれ」
「! 今回は結構うまく作れたんだ……!」
人型に型取ったクッキーにホワイトチョコとブラックチョコでコートとマフラーを着せて、さらにサンタ服やトナカイ衣装のものも用意したクリスマスがテーマのチョコクッキーだ。表情にも拘ってなかなかにかわいいものが仕上がった。水野くんに褒められるとほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあ早速、いただきます」
口を大きく開いてパクっと頬張ると「ん~」とにやけながら首を縦に振る。美味しいという気持ちが表情から伝わり心が弾む。
「やっぱ森谷の作るお菓子サイコーだな!」
「ほんと? ありがとう……!」
「マジで売れるよ。皆にも言えばいいのに」
「い、いやっそれはちょっと恥ずかしいかな……」
「勿体ねー。まあでも、その分俺が全部ひとりじめできるからいいけどな」
水野くんはいたずらっぽくにやりと笑って次々とチョコクッキーを口にする。卑怯だよ水野くん、いきなりそんな顔でそんなセリフ言われたら舞い上がっちゃうよ。と小躍りしたい気持ちを必死でこらえる。水野くんにひとりじめされるチョコにすら嫉妬してしまうほど愛が溢れてやまない。
「ん? なんだよ森谷、もしかしてお前も欲しくなった?」
「えっ!!?」
「声でか!」
予想外な言葉に思わず声を荒らげてしまった。恥ずかしさに赤くなる顔を隠すように口元を手で抑える。
「あっごめん、えっと……?」
「さっきからずっとこれ食べたそうに見てたからさ、最後の一個やるよ」
「あっそういう……じゃあ、貰おうかな」
僕が見てたのは水野くんの方なんだけど、とは流石に言い出せずチョコを受け取ろうと手のひらを広げる。すると水野くんはその差し出した手をスルーして直接僕の口元にチョコを運ぶ。
「はい、あーんっ」
「な、なななななっっ!?」
「はははっ、動揺しすぎだろっ!」
ふざけて恋人同士みたいな食べさせ方をしてくる水野くんに命の危険を感じた僕は椅子を思いっきり後ろに引いて距離を取る。手を胸に当てずともありえないほど心拍数が上昇しているのが分かる。仕掛けた諜報人はそんな気も知らずに足を手で叩いて爆笑している。
「ふっ、普通によこしてよ~」
「いいじゃん、誰も見てないよ」
「カ、カップルじゃないんだから……っ」
自分で否定するのも悲しいがこれは僕の一方的な片思いだ。今でこそ友達のように話せているが元々は全く接点などなかった。
水野くんは普通に女の子が好きでかっこよくてクラスの人気者。対して僕は特にこれといった特徴のない、少しお菓子作りが得意なだけの影の薄い男だった。クラスも違うから今日のような委員会の時でしかまともに会話ができなかった。
本来なら絶対関わり合うことのない人種なのだが、水野くんがスイーツ好きという情報を知りこれなら僕でもと必死で勉強して声をかけたのだ。本当はパティシエなんて目指していなかった。そういう設定にしておけば練習のためという体で自然と水野くんに食べてもらえるから。
あまりにもおいしいおいしいと喜んでくれるのが嬉しくて製作を続けていく内にめきめきと調理スキルが上がり、今では本当にパティシエも夢じゃないんじゃないかと自惚れてしまうほどだ。
「彼女とイチャイチャする時の練習だと思ってさ」
「し、しないよそんなことっ」
「えー、俺はしたいけどな」
時々水野くんはこうやって僕をからかう。まともに恋バナも下ネタもできないほどウブな人間が彼の周りにはいないから珍しくて面白がっているんだ。向こうにその気がないのは分かっているけれどやっぱり何回されても照れてしまう。
「いらないなら俺が食べちゃおっかな~」
「あっ……」
水野くんは自分の口元にチョコクッキーを運んで食べる素振りをする。口を少し開けて横目にこちらを挑発的に見つめる仕草が煽情的で直視できない。えっちな目で見てごめんなさいと心の中で謝罪する。
「ほらほら、これが欲しいのか?」
セリフだけ聞くと勘違いしてしまいそうだがこれはただのお菓子だ。
「あのっ……チョコ、ください……」
僕があげたチョコのはずなのに何故僕がねだっているのだろうか。水野くんは満足そうな表情で再び僕の方へと手を向ける。
「はい、あーんっ」
「あ、ふっ、んっ」
数cm間違えたら指が唇に当たってしまう。どきどきで顔が熱くなる。ゆっくりと口を開いて慎重にチョコクッキーを唇で挟むと水野くんと目が合ってしまい瞼をきゅっと閉じる。指が離れたところでぱくぱくと口の中に放り込む。チョコや砂糖の甘さなんかとは比べ物にならないほど甘く、幸福な時間に全身がとろける。
「ははっすげー顔真っ赤」
「は、恥ずかしくて……」
「森谷ってほんとかわいいな~」
「なっ……!?」
本当に信じられない男だ。好きという感情を通り越して怒りすら湧いてくる。気安くかわいいという言葉をその顔で言うなと喚き散らかしたい。だがそんな勇気があるならとっくに告白している。悔しいけれど僕はこの男にこれからも片思いを続け、一挙手一投足に翻弄され、そしていつか失恋するのだろう。
そうだとしても、今この瞬間を大切にしたい。水野くんと二人だけの時間を少しでも一緒に過ごせるのなら、それは僕の人生にとってかけがえのない思い出になるはずだから。
「ホワイトデーにお返ししなきゃな」
「えっ、い、いいよそんなの」
「バレンタインデーにチョコ貰って何も返さない奴は男じゃねぇよ」
少し背伸びして男らしく振る舞おうとする年頃の男子高校生といった姿をかわいらしく思いつつも、やっぱり水野くんのこういうかっこいいところが好きなのだと改めて思う。
「つーわけで、今度お菓子の作り方教えて」
「えっ、お返しなのに僕が教えるの!?」
「森谷以外に頼れるやついねーもん。嫌ならコンビニの飴な」
「さっきまであんなにかっこいいこと言ってたのに……!」
口では文句を垂れながらも、心はまた二人で特別な時間を一緒に過ごせることを嬉しく思い、顔が綻ぶのだ。
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