26 / 47
第26話 目下炎上中
しおりを挟む
一晩経ってもSNSからの通知は止まない。スマホのロック画面がこの件に関する通知で埋まるのが嫌で、一旦アプリからの通知を切った。
どれだけネットで炎上していようと、仕事には行かなければならない。ネットではあんなに叩かれているのに、日常生活はいつも通りで、そのちぐはぐさに余計混乱しそうになる。仕事中はなるべくこのことを考えないように努めた。
仕事が終わってからもひがおさんからのメッセージは返ってきておらず、通知欄は相変わらず地獄の様相だ。案の定昨日の私のツイートは火に油を注いだらしく、ひがおさんのファンから熱心に暴言を吐かれている。ひがおさんは確かにフォロワーが多いし、活動歴も長いけれど、ここまである意味情熱的なファンがいるのはすごいな、なんて他人事のように思っていた。
時間が経って冷静になるにつれ、リプライで暴言を吐いてくる人間は数人で、同じ人がいくつも送ってきていることに気が付いた。それなら、と思ってその数人をブロックしたけれど、なぜか別のアカウントを作ってまでリプライを送ってくるので、もう無視を決め込んでいる。
ひがおさんからのメッセージを待つため、SNSの画面をPCでつけっぱなしにしていると、通知欄に流れてくるリプライに何やら掲示板サイトのURLが貼られているものが見えた。タイトルは『ひがおが底辺VTuberと揉めてる件についてwwwww』。
わかりやすく人を煽るタイトルだなあとも思いながら、好奇心に駆られてURLをクリックする。やたらとピンク色の強い広告をスクロールしていくと、この炎上に至った経緯がまとめられ、その下にいくつかコメントが並んでいた。
『またVTuberかよ、いっつも燃えてんな』
『これV側契約してないって言ってるしマジでしてないんじゃね?
ひがおって前もなんか問題起こしてた絵師でしょ』
『ひがおなんかやたらグチグチ言ってるしマジでそれはある』
こんな掲示板のことだからもっと酷い言葉が並んでいるのかと思ったら、私よりひがおさんの方が責められていて拍子抜けする。
『親ガチャ失敗とかVも大変だな』
『こいつひがおのことママとか呼んでなかったし、やべえの見抜いてたんだろ』
『熊白ゆきとかいうやつはママに気に入られてるけど枕でもしてんの?』
そんな文字列が見えて、ゆきのことをハッと思い出した。このゴタゴタで一瞬記憶の隅に置かれていたけれど、ゆきからも返信はきていない。画面をSNSに戻し、フォロー欄からゆきを探す。何スクロールかすると、彼女のアイコンが見つかった。どうやらブロックはされていないらしい。けれど、彼女のツイートは、ひがおさんのあのツイートがされた時間以降更新されていなかった。
確かにゆきはひがおさんと親子コラボと称して配信することがよくあった。ひがおさんはゆきのために描きおろしのイラストや、配信のファンアートをよく描いていたし、純粋に仲がいいんだと思っていた。
「熊白ゆき」はひがおさんが初めて立ち絵を担当したVTuberらしい。だから2番目に担当した私や、私より後にデビューした企業勢の「エーリカ」より思い入れがあるのはわかる。けれど彼が描くイラストは圧倒的にゆきのものが多くて、私のものはほとんどなく、エーリカの絵も依頼されて描いたことがわかるものしかない。一体何が彼をそうさせているのだろう。
2人の間にどんな関係があるのか私は知らない。けれど、ゆきのSNSが更新されていないということは、彼女にも何かあったか、それとも思うことがあって沈黙しているのか、とにかく何か理由はあるのだろう。
もしかしたら、ゆきはひがおさんの発言の理由を知っているかもしれない。そう思い、私はスマホを開いてメッセージアプリを起動した。
暴言の数々にはすっかり慣れてしまったけれど、それでも解決できるものならしたいし、そうでなくてもせめて理由を知りたい。何より、このまま私だけ耐えなきゃいけないのがつらかったし、「月島ヨナ」がかわいそうだった。
『ゆき姉、ひがおさんのあのツイートについて何か知ってることはありませんか?
私から連絡してるんだけど、返ってこなくて……。何か知ってることがあったら教えてください』
どうか、返信が来ますように。そう願いながら送信ボタンを押した。
どれだけネットで炎上していようと、仕事には行かなければならない。ネットではあんなに叩かれているのに、日常生活はいつも通りで、そのちぐはぐさに余計混乱しそうになる。仕事中はなるべくこのことを考えないように努めた。
仕事が終わってからもひがおさんからのメッセージは返ってきておらず、通知欄は相変わらず地獄の様相だ。案の定昨日の私のツイートは火に油を注いだらしく、ひがおさんのファンから熱心に暴言を吐かれている。ひがおさんは確かにフォロワーが多いし、活動歴も長いけれど、ここまである意味情熱的なファンがいるのはすごいな、なんて他人事のように思っていた。
時間が経って冷静になるにつれ、リプライで暴言を吐いてくる人間は数人で、同じ人がいくつも送ってきていることに気が付いた。それなら、と思ってその数人をブロックしたけれど、なぜか別のアカウントを作ってまでリプライを送ってくるので、もう無視を決め込んでいる。
ひがおさんからのメッセージを待つため、SNSの画面をPCでつけっぱなしにしていると、通知欄に流れてくるリプライに何やら掲示板サイトのURLが貼られているものが見えた。タイトルは『ひがおが底辺VTuberと揉めてる件についてwwwww』。
わかりやすく人を煽るタイトルだなあとも思いながら、好奇心に駆られてURLをクリックする。やたらとピンク色の強い広告をスクロールしていくと、この炎上に至った経緯がまとめられ、その下にいくつかコメントが並んでいた。
『またVTuberかよ、いっつも燃えてんな』
『これV側契約してないって言ってるしマジでしてないんじゃね?
ひがおって前もなんか問題起こしてた絵師でしょ』
『ひがおなんかやたらグチグチ言ってるしマジでそれはある』
こんな掲示板のことだからもっと酷い言葉が並んでいるのかと思ったら、私よりひがおさんの方が責められていて拍子抜けする。
『親ガチャ失敗とかVも大変だな』
『こいつひがおのことママとか呼んでなかったし、やべえの見抜いてたんだろ』
『熊白ゆきとかいうやつはママに気に入られてるけど枕でもしてんの?』
そんな文字列が見えて、ゆきのことをハッと思い出した。このゴタゴタで一瞬記憶の隅に置かれていたけれど、ゆきからも返信はきていない。画面をSNSに戻し、フォロー欄からゆきを探す。何スクロールかすると、彼女のアイコンが見つかった。どうやらブロックはされていないらしい。けれど、彼女のツイートは、ひがおさんのあのツイートがされた時間以降更新されていなかった。
確かにゆきはひがおさんと親子コラボと称して配信することがよくあった。ひがおさんはゆきのために描きおろしのイラストや、配信のファンアートをよく描いていたし、純粋に仲がいいんだと思っていた。
「熊白ゆき」はひがおさんが初めて立ち絵を担当したVTuberらしい。だから2番目に担当した私や、私より後にデビューした企業勢の「エーリカ」より思い入れがあるのはわかる。けれど彼が描くイラストは圧倒的にゆきのものが多くて、私のものはほとんどなく、エーリカの絵も依頼されて描いたことがわかるものしかない。一体何が彼をそうさせているのだろう。
2人の間にどんな関係があるのか私は知らない。けれど、ゆきのSNSが更新されていないということは、彼女にも何かあったか、それとも思うことがあって沈黙しているのか、とにかく何か理由はあるのだろう。
もしかしたら、ゆきはひがおさんの発言の理由を知っているかもしれない。そう思い、私はスマホを開いてメッセージアプリを起動した。
暴言の数々にはすっかり慣れてしまったけれど、それでも解決できるものならしたいし、そうでなくてもせめて理由を知りたい。何より、このまま私だけ耐えなきゃいけないのがつらかったし、「月島ヨナ」がかわいそうだった。
『ゆき姉、ひがおさんのあのツイートについて何か知ってることはありませんか?
私から連絡してるんだけど、返ってこなくて……。何か知ってることがあったら教えてください』
どうか、返信が来ますように。そう願いながら送信ボタンを押した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる