ガチ恋オタクの厄介ちゃん

阿良々木与太

文字の大きさ
6 / 38

モヤつく

しおりを挟む
 話が盛り上がってしまい、結局店を出たのは23時を過ぎてからだった。帰る方向の違う2人と駅で別れて、電車に乗り込む。スマホをつけると1時間前にらろあの配信開始の通知がきていた。慌ててイヤホンを差し込み、通知をタップする。

 もしかしたら人がいなくて配信をやめてしまっているかもしれない。そんな心配を一瞬したけれど、配信中の画面が表示されてほっとする。いつも通りの画面の中で、らろあはいつもより楽し気な笑い声をあげていた。ゲームが上手く行ってるんだろうか。

 とりあえずコメント欄にこんばんは、と打とうとしたとき、見覚えのない名前が並んでいるのが見えた。コメントを打つのも忘れてコメント欄を遡る。

 「サクラ」という女の子らしかった。配信の直後からコメント欄にいて、今の時間までずっとコメントを続けている。それで彼はテンションが高いのか。最近は初見さんも少なかったしな、と思いながらどうにもモヤモヤした。

 リスナーが増えることは配信者にとっては喜ばしいことだ。その配信者を推している私にとっては自分のことのように嬉しいはずなのに、喜べない。現にコメント欄に文字が打てない。ただの文字が並んでいるだけの空間なのに、自分が入り込む場所がないように思えた。


「いやー、サクラちゃんが見てくれるから頑張れるわ!」


 らろあがにこにこと笑いながらそんな風に話す。コメント欄がパッと動いて、『本当ですか?嬉しいです』とサクラからのコメントが書き込まれた。

 気持ち悪い、と咄嗟に思ってしまった。自分が好きな配信者が、リスナーと話してるだけで気持ち悪いなんて、自分でも性格が悪いと思う。配信にはサクラ以外コメントをしている人間はいないし、彼がサクラとだけ会話する状態になるのは当たり前なのに。

 そもそも気持ち悪いと思うなら自分がコメントをして間に入ればいいだけだ。それなのに、こんばんはの一言すら打てない。それがどうしてかはわからなかった。気持ち悪いと思いながらも、彼の言葉は耳に入ってくる。私以外に向けられている言葉だ。

 せめても、とコメント欄を閉じた。らろあが読み上げるから嫌でも内容は入ってくるのだけれど。

 あんなに楽しかった飲み会の後だというのに、急激に気持ちが冷めてしまった。重苦しい感情が電車と同じくらい揺れている。たった15分の乗車時間がやけに長く感じた。

 最寄り駅に着いて、電車を降りる。辺りは暗いし、人もいない。さすがに両耳にイヤホンをしているのは危ないか、と左耳のイヤホンをとってだらんとぶら下げる。右耳からは変わらずらろあの楽しそうな声が聞こえてくる。

 おこがましいことだけれど、少しくらいらろあが寂しがってればいいのにと思っていた。ここのところ配信に入り浸っていたわけだし、この時間までずっとリスナーがいることも少ないし。

 小学生の子供のように足元の石ころを蹴る。石は数メートル先まで転がり、暗闇に紛れて見えなくなった。


「これ、今日もう配信やめれないなあ」


 時間はもう23時半を過ぎている。いつもならそろそろ疲れ始めるらろあがそんな風に話していて悔しい。この感情を悔しいと称していいのかわからないけれど。

 サクラもずっとコメントを続けている。そろそろ疲れてやめればいいのに。それか他の人が来てくれればいい。私はこの空間に混ざりたくないけれど。

 この2人きりの空間に混ざりたくなくて、もしかしたら他の人もコメントしていなかったのかもしれない。コメント欄のログを見た感じ、今日は他に誰も書き込んでいなさそうだった。

 きっとそうなんだろうと、前向きに考える。いや、こんなことを前向きと言ってはいけないか。これは幼すぎる嫉妬だ。茉優が恋とかいうから意識してしまっているのかもしれない。

 らろあの声以外耳に入ってこないから、彼のことばかり考えてしまう。気が付けば住んでいるアパートが目の前にあった。階段を上がり、部屋に入る。扉を閉めてチェーンをかけると、らろあの声が余計に響いた。

 イヤホンを抜き、スマホをベッドに放り投げる。そのまま自分も寝転がってしまいたい衝動を抑えて風呂場へ向かった。らろあの配信も見たいけれど、先にメイクを落としたいし、体も洗い流したい。それに一度離れないと配信を見ている間にイライラしてしまいそうだった。

 風呂に入っているうちに、少しずつ気持ちは落ち着いた。24時を過ぎてもらろあは配信を続けていて、しばらくはそれを見ていたけれど、気が付けば寝落ちしてしまっていたらしい。朝起きてアーカイブを確認すれば、2時まで配信が続いていた。サクラもその間ずっとコメントをしていたようだった。

 アーカイブは見返さなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...