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死神と取引した女(1)
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「お前の寿命は、もうすぐ尽きる。お前を連れに来た」
目深に被ったフードのせいで、顔の見えない男はそう言った。
死神、なのだろう。
恐ろしく背が高く、床まで裾が届くローブを纏い、無慈悲なカーブを描く、特大の鎌を持っている。
「そんな……」
まだ若い女は、くなくなとその場にへたり込んだ。そこは女が暮らす、粗末な小屋だ。
「私は、まだ恋を楽しんだこともないのに」
「地獄で悪魔の慰み者にでもなるがいい」
死神の声は冷たかった。
「では、私は地獄に堕ちるのですか」
「あたりまえだ。恋敵を危うく死なせるところだったんだぞ。あの憐れな娘の命が、お前の盛った毒のせいで尽きる前に、お前の方の寿命が来たのは幸いだった。しかし、それでも殺人未遂だ」
それでは、あの人を、あの小娘に盗られてしまう――
女は唇を噛んだ。彼女の気持ちを見透かしたかのように――いや、恐らく見透かせるのだろう――死神は言う。
「たとえ恋敵を一人亡き者にしたところで、あの男はお前の物にはならない。お前は、姿形は美しいが、心が醜く歪んでいる。あの男のように賢い者が、それに気づかぬと思うたか」
女は床に手をついて、うなだれた。白いうなじが露わになり、鎌で刈るには丁度いい位置だった。それに、もうそろそろ時間だ。死神は頭上高く大鎌を振り上げた。
「ちょっと、待って!」
女は急に顔をあげて、下から死神のフードの中を覗き込んだ。そこには顔があるはずだが、鼻の下あたりまで降ろされたフードの奥は漆黒の闇だった。女は心の中に冷たい闇が染み込んでくるのを感じ、身震いしたが、最後の気力を振り絞った。
「お願いです、待ってください!」
*
道行く女を、人も馬も避けて通る。
ほんの数ヶ月前まで、彼女は美しく、若い男ばかりか老人でさえ熱っぽいまなざしで彼女の姿を目で追ったものだ。
それがどうだ。
現在の女は、まるで老婆のように腰が曲がり、片足を引きずりながら、杖にすがるようにしてようやく歩いている有様。かつては黄金色に輝いていた豊かな髪はすっかり白くカサカサになり、ぼうぼうと皺くちゃの顔を覆っている。片方の眼窩は空洞を晒し、歯の抜けた口元は巾着のようにすぼんでいた。
一体彼女に何が起きているのか、と村人は不思議に思っていた。何かよくない病気だろうか。村人はおそれをなし、誰も彼女に近寄らないし、話しかけもしない。
「まだ死にたくない。なんでもするから、欲しいものはなんでもあげるから、もう少しだけ生きさせて!」
彼女は振り下ろされる大鎌の前で無謀にも、死神に泣いて縋ったのだった。
死神のフードの奥の暗闇から「ほう」という声が漏れた。彼女はぞっとした。あのフードに隠れた闇の中で、彼は笑っている。そう思っただけで、全身の血が凍りつく思いだったが、もう遅かった。
「なんでも、そう申すか」
「はい」
死神の骨ばった手――いや、それは実際、白い骨のようであった――が彼女の怯えきった顔の前に翳され、次の瞬間、顔に焼けた火箸を押し付けられたような熱と痛みが彼女を襲った。
「七日間の猶予をやろう。この綺麗な青い目玉に免じてな」
死神の手には、血まみれの目玉――彼女の左の眼窩から引きずり出され、血を滴らせた眼球が握られていた。
目深に被ったフードのせいで、顔の見えない男はそう言った。
死神、なのだろう。
恐ろしく背が高く、床まで裾が届くローブを纏い、無慈悲なカーブを描く、特大の鎌を持っている。
「そんな……」
まだ若い女は、くなくなとその場にへたり込んだ。そこは女が暮らす、粗末な小屋だ。
「私は、まだ恋を楽しんだこともないのに」
「地獄で悪魔の慰み者にでもなるがいい」
死神の声は冷たかった。
「では、私は地獄に堕ちるのですか」
「あたりまえだ。恋敵を危うく死なせるところだったんだぞ。あの憐れな娘の命が、お前の盛った毒のせいで尽きる前に、お前の方の寿命が来たのは幸いだった。しかし、それでも殺人未遂だ」
それでは、あの人を、あの小娘に盗られてしまう――
女は唇を噛んだ。彼女の気持ちを見透かしたかのように――いや、恐らく見透かせるのだろう――死神は言う。
「たとえ恋敵を一人亡き者にしたところで、あの男はお前の物にはならない。お前は、姿形は美しいが、心が醜く歪んでいる。あの男のように賢い者が、それに気づかぬと思うたか」
女は床に手をついて、うなだれた。白いうなじが露わになり、鎌で刈るには丁度いい位置だった。それに、もうそろそろ時間だ。死神は頭上高く大鎌を振り上げた。
「ちょっと、待って!」
女は急に顔をあげて、下から死神のフードの中を覗き込んだ。そこには顔があるはずだが、鼻の下あたりまで降ろされたフードの奥は漆黒の闇だった。女は心の中に冷たい闇が染み込んでくるのを感じ、身震いしたが、最後の気力を振り絞った。
「お願いです、待ってください!」
*
道行く女を、人も馬も避けて通る。
ほんの数ヶ月前まで、彼女は美しく、若い男ばかりか老人でさえ熱っぽいまなざしで彼女の姿を目で追ったものだ。
それがどうだ。
現在の女は、まるで老婆のように腰が曲がり、片足を引きずりながら、杖にすがるようにしてようやく歩いている有様。かつては黄金色に輝いていた豊かな髪はすっかり白くカサカサになり、ぼうぼうと皺くちゃの顔を覆っている。片方の眼窩は空洞を晒し、歯の抜けた口元は巾着のようにすぼんでいた。
一体彼女に何が起きているのか、と村人は不思議に思っていた。何かよくない病気だろうか。村人はおそれをなし、誰も彼女に近寄らないし、話しかけもしない。
「まだ死にたくない。なんでもするから、欲しいものはなんでもあげるから、もう少しだけ生きさせて!」
彼女は振り下ろされる大鎌の前で無謀にも、死神に泣いて縋ったのだった。
死神のフードの奥の暗闇から「ほう」という声が漏れた。彼女はぞっとした。あのフードに隠れた闇の中で、彼は笑っている。そう思っただけで、全身の血が凍りつく思いだったが、もう遅かった。
「なんでも、そう申すか」
「はい」
死神の骨ばった手――いや、それは実際、白い骨のようであった――が彼女の怯えきった顔の前に翳され、次の瞬間、顔に焼けた火箸を押し付けられたような熱と痛みが彼女を襲った。
「七日間の猶予をやろう。この綺麗な青い目玉に免じてな」
死神の手には、血まみれの目玉――彼女の左の眼窩から引きずり出され、血を滴らせた眼球が握られていた。
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