怪奇幻想恐怖短編集

春泥

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蟲の気持ち

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 散歩をしていると、虫が口の中に飛び込んでくる季節になった。
 よく、目の中にも突進してくる。
 小さな羽虫の類だが、巨大な障害物(わたしのことだ)がやってくるから避けようとかそういう危機感はないのだろうか。これが高速道路であれば、フロントガラスにびしゃびしゃ潰れてはりつく虫は、時速100㎞という鉄の塊の移動速度に対応できなかったのだと、まあ理解できる(時速100㎞で行き交う鉄の塊が列をなしているような危険地帯には近寄らなければよかろう、と思わないでもないが)。
 その辺を歩いている人間、わたしは、特に目が大きい訳でもないのに、目の中に飛び込んでくる。これは、大海に小船を浮かべて網で海水をかき混ぜていたら偶然魚が捕獲できた、ぐらいの確立でしか発生しないのではないかと思うのだが、海を泳ぐ魚を網で捕えるよりもはるかに容易に、虫は目や口の中に飛び込んでくる。

 目に入った場合、微小な虫であっても、とても痛い。ドライアイで涙がなかなか出て来ないため、かなり長い間、いつまでも痛い。
 口に入った場合は、まず間違いなく飲み込んでしまう。せめてもの救いは、一体なんだったのか、よくわからないまま呑み下していることだ。

 生きたまま人間に呑み下された虫は、体内のどのあたりで息絶えるのだろうか。

 子どもの頃、一度だけ、かなりの大物を呑んだことがある。「大物」といっても虫ではある。住宅地のその辺を飛んでいるありふれた奴には違いない。中学生だった。自転車で、若さ故の恐れ知らずでスピードを出し、歌など歌いながら疾走していた。

 がぼっ

 実際にはそんな音などしなかったはずだが、感覚的には「がぼっ」だった。通常の小さい羽虫よりもはるかに巨大な虫が口の中にがぼっ飛び込んできて、考える間もなく、呑んだ。

 あれは一体なんだったのだろう。

 考えるのも恐ろしいので、考えないようにしていた。大きさからすると、蠅だろうか。あるいは、一瞬でわけもわからず呑み下したのだから、カナブン級の大物だったのかもしれない。まさかセミということは、いくらなんでも、ない。

 ただちに喉に指を突っ込んで吐き戻すことも一瞬頭をよぎったが、自分の口の中から蠅あるいはカナブンが、半ば潰れた状態で出てくるのかと思うと、そのまま胃酸で消化したほうがよいという結論に至った。
 そのとき、食道を通過しながらもがいているだとか、胃の中でもしばらくブンブン飛び回っている姿だとか、恐ろしいことは極力考えないようにしていた。
 わたしは、自転車をとめて立ち止まることさえせず、半ばパニック状態でペダルをこいだ。

 あれから何十年も過ぎた今なら、想像することができる。人間に丸呑みされた虫は即死状態で胃に到着するのか否か。

 交差点の手前で自転車でスピードを落としながら角を曲がった。
 そこには大口をあけたカエルに似た化物がいて、わたしは自転車ごとすっぽり、その口に呑まれてしまう。
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