転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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ついにヤツが!!!

「まったくもう、ごめんなさいねぇうちの子ったら」
「ルビィ、やめてよもおぉ……」
マリエルちゃんは抱っこしたルビィに腕をペシペシされながら薦められた席に座った。

私もその隣に座ると、朱雀様が流れるようにサーブしてくれたお茶をいただく。
白虎様が物欲しげに私をチラ見してくるので、羊羹をテーブルに出した。
その途端、四方八方から手が伸びて、あっという間に皿が空になった。

まったくもう、食いしん坊たちめ。
呆れつつも小ぶりに作ったどら焼きを出す。

「いや……突然見知らぬ者が増えていれば驚いただろう」
セイが苦笑しつつ答える。
セイはマリエルちゃんが人見知りが発動すると噛み噛みになるのを知っているからねぇ。

「ええと……あの、その。この方たちは以前聞いていた……?」
マリエルちゃんがチラチラと青龍様と玄武様を見る。

マリエルちゃんは特別寮に入ってしばらくしてから「白虎様と朱雀様ということは、どこかに青龍様と玄武様がいたりするんですか?」と何気なく聞き「ど、どうしてそれを……⁉︎」と動揺したセイにより知られたというね。

まあ、前世のオタクあるあるというか。
マリエルちゃんとしては、前世の知識から疑問に感じたことをふと聞いてみただけなんだけど、セイからしてみれば「なぜヤハトゥール内でも秘匿されているはずの四神獣の存在を⁉︎」と驚きしかないわけで。

もちろん、私が後でマリエルちゃんに話したりしていないことは説明しておいたし、セイも「わかっている。クリステア嬢から聞いていたのであればあのような聞き方はしないはずだ」とわかってくれていたのでホッとしたのだった。

「ああ、青龍と玄武だ。普段は情報収集と警戒を担っている」
元々表に出たがらないお二方だったので、自然とそういう振り分けになったそうだ。

え? 白虎様と朱雀様?
……どちらかといえば隠密行動より攻撃に特化している方々ですからね、考えるまでもないというか……ハハハ。

「情報収集と警戒……」
「ヤハトゥールから来た船の人の出入りや、そこからもたらされる情報を密かに集めてもらってるんだ。ヤハトゥールにも怪しい人物っているからね……」

主にセイの暗殺を狙っている現帝の正妃様ですね、わかります。

マリエルちゃんには、セイが現帝が女官に手をつけてできた落とし胤であることや、帝を守護する神龍によって密かに次の帝に選ばれていること、それに勘づいているであろう正妃が自分の子を帝にするために命を狙っていることは秘密にしている。

マリエルちゃんは「ひえぇ、四神獣の守護とか絶対、ヤハトゥールの重要人物とか、いずれヒーローとして活躍するとかそういう立ち位置じゃん……!」とこれまた前世知識から、ただ事ではないことだけは理解している様子。

その上で自分が出しゃばったところでろくなことにはならないから大人しくしていよう、というスタンスみたい。うん、賢明です。

「今のところヤハトゥールから来る船に怪しい者はいない」
「ほぼバステア商会との取引がある商人ばかりだね」

そもそも怪しい人物が乗る船は天候不順で出航しなかったり、体調不良を起こして動けなくなるそうだ。

うん、正に天罰ってやつだね。

「そうそう、その船だけど、今回クリステア嬢が喜びそうなものがあったんだ」
「え?」

セイの言葉を合図に、朱雀様が油紙の包みを持って来た。
「これ?」
「ああ、開けてみるといい」

「何かしら……」
セイに促されて包みを手に取る。

大きさの割に軽い包みだ。
油紙をまとめるために縛られた麻紐をほどき、ガサガサと開いていく。

「え……これって」
油紙に包まれていたのは、軽くて固い、スポンジのようなもの。
かと言って、いつもの棒寒天ではない。
もっと密度があって、乳白色をしていて、カチカチに乾燥しているのに、軽い。

「これって……まさか」
マリエルちゃんも包みの中を覗き込んで、目を見張った。

「高野豆腐……」
そう。中身は前世でいうところの高野豆腐だった。

「コーヤ……? いや神事豆腐だが?」
セイが私の呟きを聞いて訂正した。

いや、シンジだろうがコーヤだろうがどうでもいい。豆腐! 高野豆腐だ!
これがあるってことは、元の豆腐が作れるってこと。

「神殿で潔斎をする際、殺生は避けるためにこれが供されるんだ」
なるほど、神事豆腐か。おそらく神殿で作られているのだろう。

「ねえ、セイ。これの元を作るのに豆腐があるわよね?」
「ああ。だがヤハトゥールからドリスタン王国まで船で運ぶことはできない。すぐに傷んでしまうから……青龍に頼んでインベントリで運んでもらうことはできるが、そう度々渡せるものではないし、諦めてほしい」

確かに。高野豆腐ならいざ知らず、普通の豆腐を船便で運べるわけがない。
それならば初めから諦めてくれというのもわかる。

「にがり……にがりは?」
「にがり?」
セイが何それ? とばかりに首を傾げた。

そりゃそうか。元は武家の養い親のもとで育ったおぼっちゃまだものね。
にがりなんて知るわけないか。

「豆腐を作る材料で、塩……海塩を作る段階でできる液体よ。それは、手に入らない?」
「え、そ、それは俺にはちょっとわからない……かな?」

私の必死な様子に、セイが戸惑いながら答える。
「クリステア様は、塩……海塩の製法をご存知なのですか?」

朱雀様がスッとセイを庇うようにして私に問う。
「……あ、あの。知識として、ですけれど。実際に作ったことはなくて……その、豆腐を作るのに必要な材料としての知識程度でしかないので……」

ドリスタン王国では岩塩が採れるし、ヤハトゥールから藻塩が取り寄せられるし、さすがに手間がかかりすぎる海塩を私一人で作る気がしない。
火魔法でジュッとやったらできるかなと考えたことがあったけど、ただ海水が蒸発しただけだったし。

「左様ですか。ということは、クリステア様は豆腐の製法もご存知ですの?」
「ええ、まあ……作れるかどうかはわかりませんけれど」

豆乳作って、にがりいれたら多分できるよね?
細かいことはトライアンドエラーでつくりまくってやるわい!

豆乳とおからは今までだって作ってたから問題ないし。
引き上げ湯葉で満足していた日々よさらば!
寒天で固めてそれっぽいものを作ってみたけど妥協できなかったし、それもにがりが手に入れば問題ない!

にがり……ああ、にがり。
とりあえず高濃度のにがりをある程度の量持ち込んでもらえたら、インベントリで保管しておけばダメになることもない。
ギブミーにがり!

「では、こちらを差し上げましょう」
「……へ?」
朱雀様がにこりと笑みを浮かべて、私の前に小ぶりの瓶をコトン、と置いた。

「こ、こここれって……?」
「にがりですわ。私、こちらに来てしばらく柔らかな豆腐をいただいていなかったので頑張って自作してみようと思っていましたの。ですが、クリステア様が作れるとおっしゃるのであれば、お譲りしても構いませんわ」
「つ、作りますうぅーっ!」

やったー!
にがり、ゲットだぜ!

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