19 / 431
2巻
2-2
しおりを挟む『うるさいね! このチビ! 黙ってな!』
『ちびじゃない。いまは、おまえのほうが、ちび』
真白が黒猫さんの頭を前脚で押さえつける。
『グッ! この……っ、覚えときな!』
『しょぶんされる、ちっぽけなまじゅうのことなんて、おぼえるわけない』
おおお? 真白、怒ってる? 執務室の空気が、冷え冷えとしてる……
『くりすてあを、たべようとしたの、ゆるさない』
『そうだの。主を牙にかけようとしたことは、到底許されない。万死に値する。食い出はなさそうだが、我が喰ってしまおうか。腹を下しそうだがな』
黒銀も、結構怒ってるね?
『ヒッ……!』
黒猫さんが短く悲鳴を上げ、ガタガタと震え始めた。
私はというと、周りが怒っているので逆に冷めてしまった。
っていうか、真白と黒銀が、弱いものいじめしてるみたいな図になっていてね……。私のためとはいえ、いたたまれない。
このままだと、黒銀が本当に黒猫さんを喰べちゃいそうだなぁ。
目の前でスプラッタを繰り広げられるのは……ねぇ? ちょっとしたホラーだよ。そんなの見たくない。それに――私、実は猫好きでもあるんだよね。飼ってみたいんだけど、そんなことを言っても、聞いてもらえないよね。えぇと、それじゃあ……
「殺処分しないで、このまま監視するわけにはいかないのでしょうか?」
「『『はあ?』』」
おお、見事なユニゾン。お父様と真白、黒銀が声を揃えた。
「クリステア、其方は自分が何を言っているかわかっているのか?」
信じられないという表情で、お父様が私に問いかける。
「ええ、もちろんですわ」
「まさか、契約する気か?」
「いえ、契約はいたしません」
「契約もしないでそばに置くことなど不可能だ。ましてや、捕縛し続けることなんて、できるはずがない。いつか隙を突いて逃げ出すぞ?」
『その通りだ、主。契約せずに魔獣をそばに置くことなど、不可能だ』
難色を示すお父様と黒銀。
私は少し考えて、解決策を提案する。
「魔力が一定量以上増えないようにできれば、この姿を保てますよね。そうしたら、悪さもできないのではないでしょうか?」
「そんなこと……いや、待て。そう言えばアレが……」
お父様は即座に否定しようとしたが、何か思いついたようで、執務机の引き出しを漁り始めた。
そこから取り出したのは、大きな魔石が連なるように配置された、バングルのようなもの。
「これは、生まれつき魔力量の多すぎる者や、魔力の使用を制限させたい者に対して使う、魔導具だ。多すぎる魔力を魔石の中に吸収するよう、条件付けしてある」
なるほど。魔力暴走防止アイテムってやつね。
「其方が生まれた時、其方の魔力量が多いと知り、これが必要になることもあるかと取り寄せておいたのだが……」
おおっと、まさか私用になる予定だったブツだとは。
私は内心おののきながらも、お父様に話の続きを促す。
「これが黒猫さんに使えるということでしょうか?」
「ああ、恐らく。しかし魔力を適度に吸収するという条件だけではな……。この魔導具を外されてしまっては、意味がない」
「外せないように固定する方法はないのですか?」
「条件の書き換えが必要だな。この魔導具を行使する者が、条件を書き換えるだけの力を持たなければできないが」
「なるほど。それなら、やってみます。魔導具を貸していただけますか?」
私が手を差し出すと、お父様は魔導具を私から遠ざけるようにして、眉をひそめる。
「これを使わずとも、さっさと処分すればいいだけのことだろう」
「お父様。私は真白や黒銀に無益な殺生はさせたくないのです」
『くりすてあ……』
『主、我等のことを思って……』
真白と黒銀が、感動した様子でこちらを見た。
「そこまで言うのなら、やってみるがいい。できなければ、処分するまでだ」
根負けしたお父様は、私に魔導具を渡そうとする。
よしよし――と思っていたところで、お父様がピタリと動きを止めた。
「待て。其方、昔から猫が飼いたいと言っていたな。まさか、この黒猫を飼いたいなどと思ってはおるまいな?」
ぎくっ! お父様、鋭い! そしてよく覚えてらっしゃいましたね!?
「契約せずとも、魔導具で矯正する以上は、私が責任持って監視しようとは思っております」
そう言ってみたものの……うう、お父様の顔が見られない。
『くりすてあ?』
『主?』
真白と黒銀も、疑惑の眼差しを向けてくる。
あっ、さっきまでいい感じだったのに! その眼差しがつらい! 図星なだけに、良心が痛む!
「と、とりあえず! 魔導具の書き換えをいたしますわね!」
これはもう、さっさとやってしまおう!
疑惑の眼差しの中、私はお父様の手から奪うようにして魔導具を手に取った。
「あの、書き換えってどうすればよろしいのですか?」
『やってみます』とは言ったものの、書き換えの方法を知らない。私のおばかー!
ううっ、大口を叩きながら何もできなくて、恥ずかしい。
固まる私に、お父様が呆れたように説明してくれる。
「私が過去に施した条件は、書き換えられるように解除してある。魔導具を手にして、魔力を込めながら書き換える条件を念じればよい。それで行使する者と、される者への条件の登録になる」
「わ、わかりました。ありがとうございます、お父様。まずは、魔力量の制限、かしら? 黒猫さんから黒ヒョウ……大きな魔獣に変化できる魔力量を超えないように」
これは、絶対条件だよね。
「次に、他者を害さないこと。少しでも悪意を持って傷つけようものならば、その時点で身動きができなくなるほど、魔力を奪い取るものとする。故意に魔導具を外そうとした時も同様とする。ただし、悪意ある第三者に対する抵抗が必要な場合は、その限りではない」
要は、悪さをしたらお仕置きしますよってことね。でも悪い奴に攻撃されたりした時に全く抵抗できないのはかわいそうだから、その時は例外ね? って感じかな。
『は? ちょ、ちょっと待ちなよ! 何勝手なこと……』
黒猫さんが何やら騒いでいるけど、聞こえなーい! 気にしなーい!
「また、私が死ぬようなことがあれば、その時はすべての魔力、命をも奪い取るものとする。第三者を利用し、魔導具を外そうとした時も同様。黒猫さんの死後、魔導具の魔石に残る魔力はそのままに、魔導具に登録した条件はすべて白紙とし、機能しなくなるものとする。最後に、すべての条件は、私の自由意志で随時変更可能とする」
こんなもんかな? ……と思った瞬間、魔導具がポワンと輝く。その光はすぐに消えた。
「あ、これで書き換えができたのかしら?」
『なっ、なんでそこまで徹底すんだい!? 解放しなよぉ!』
涙目で抗議する黒猫さん。
「……何か勘違いされているようですけれど、私のわがままであなたを処分しないだけですよ? 私が死ぬことで自由になるのなら、あなたはどんな手を使うかわからないじゃないですか。それなら道連れにしておかないと。私を守らないとあなたも消えちゃう、というのが合理的でしょう」
怯える黒猫さんに、私はなおも続ける。
「なんだかご不満みたいですが、優しい条件だったと思いますよ? 本来ならば『すぐ処分された方がマシだった』と思うくらいの苦痛を与えなければ、罰にならないと思いますけど……。最後は苦痛すら感じる間もないほど速やかに、かつ安らかに永遠の眠りにつけるのですから」
『ヒイィ……!』
私がにっこり笑いながら言うと、黒猫さんはガタガタと震えあがってしまった。腰が抜けて動けないようだ。……脅かしすぎたかな?
『主、それはちと、えげつないのではないか?』
『くりすてあ、こわい』
黒銀と真白がドン引きしている。
さっきまで黒猫さんを喰べちゃおうとしていた君たちには、言われたくないよ?
それに私だって、黒猫さんがお兄様たちを食べようとしたこと、怒ってるんだから。
黒猫さんには、少しは怖い思いしてもらわないとね。
でも、突然の事故や病気で私に何かあった時、本当に条件付けた通りになっちゃうのは、可哀想かな。……が、頑張って生き残ろう。長生きしよう、うん。
「大丈夫、私が死ななければいいことですもの。それに、黒猫さんにとっても特典はありますよ?」
『ヒィ……え? 特典?』
「ええ、私の監視下にいれば、食べるものや寝床には困りません。その姿のままならば真っ先に困ることでしょう?」
『そ、そりゃそうだけど、でも……』
「さらに、定期的に私がブラッシングやマッサージを行います。気持ちよかったでしょう?」
『マッサージ……あうぅ』
もふられた時のことを思い出したのか、もじもじする黒猫さん。
ふっふっふ、私のフィンガーテクは忘れられまい。
「お嫌でしたら、しませんけど」
『い、嫌なんて言ってないよっ! ど、どうせ逃げられないんだし、好きにすりゃいいだろっ!』
黒猫さんは半ギレだ。
「まあ、そうなんですけどね」
『ぎにゃっ!?』
私が魔導具を黒猫さんの首に装着すると、魔導具は大きさが自動的に変わってぴったりフィットした。おお、サイズ調整機能付きなんだね。
『主、魔獣を誘惑し、陥落させてどうする』
『くりすてあの、うわきもの』
「えっ?」
黒銀と真白に、白い目で見られてしまった。さらには、お父様まで呆れた様子で口を開く。
「クリステア……。其方のしていることは、名付けをしないだけで、魔獣契約とほぼ変わらんような気がするが?」
「えっ?」
……もしかして、私、やらかしちゃった?
魔獣の黒猫さんに首輪をつけてから、真白と黒銀の機嫌が急降下してしまった。
人間と契約した聖獣は、契約者に対する独占欲が強い。真白と黒銀は、二匹の時もちょっと張り合っていたのに、さらに黒猫さんが増えたから我慢ならないみたい。
私はご機嫌取りで大変です。
『くりすてあは、おれたちのこと、どうでもいいんだ』
「そんなことないってば」
『やはり、あの時ひとのみにしておけば』
「そんなこと言わないの」
そんなやりとりと共に、自室にてブラッシング&もふりタイムが延々と続いております。
さすがに手が疲れた……
黒猫さんは同じ部屋にいるんだけど、魔力補給しようと私に近寄ると、真白と黒銀にていっと撥ねのけられてしまう。魔力補給なんて、ちょっとの間くっついてるだけでもできるのに、それすら許せないらしい。
そんなことを何度か繰り返した末に、黒猫さんは部屋の隅でふて寝し始めた。ごめんよ、今は耐えてくれたまえ……
『こうなってしまったからには仕方ないが、あやつが我らの中では最下層であることは、確定事項だぞ? そもそも契約していないのだからな』
ようやく機嫌が直った黒銀が、念を押してきた。すると真白が割り込んでくる。
『くりすてあ、おれがいちばんだよね?』
『何を言う。我が一番に決まっておろう』
「あーはいはい。どっちも一番ですってば」
順位をつけようものなら、血で血を洗う争いが勃発しかねない。
『アホらし。あーあ、天下の聖獣様が人間なんかに媚びて、みっともないったらありゃしない』
そう言った黒猫さんを、真白と黒銀が一蹴する。
『『最下層は黙ってろ』』
『……! フン!』
「……はあ、お願いだから仲良くしてよね?」
契約聖獣は独占欲が強いと知っていたのに、やらかした私が悪いんだけど……
ちょっとは仲良くして欲しいなぁ。
そんなことを思っていると、黒銀が保留にしていた問題を蒸し返してきた。
『結局、名付けはせんのか?』
「名付けたら、契約が完了しちゃうんでしょう? 魔獣と契約したら危険だからしない方がいいって聞いたけれど……」
そういえばお父様は、『これでは魔獣契約とほぼ変わらない』と言ってたな。
『身近に置くなら名前がないと不便ではないか?』
「まあ、そうね。でもなんとかなるんじゃない? 黒猫さんとか、適当に呼べば」
『本当に適当だな。主よ、あそこまでガチガチの条件で縛れば、契約したも同然だぞ? あの条件ならば、名付けで契約が完了したところで、あやつは自分の命がかかっておるから主のことを害せぬ。むしろ死にものぐるいで護ることになるだろうよ』
それなら、契約しても問題ないかな。反対されたら面倒だから、お父様には内緒にして……
『それに、なにかあっても、おれがくりすてあをまもるからね?』
『そうだな。我らが主を護るから、気にすることはないぞ?』
「真白、黒銀……ありがとう」
二人はこんなに私のことを思ってくれているのに、私はもふりたいという理由だけで黒猫さんをかばってしまって……なんだか、申し訳ない。でも、二人に無益な殺生はさせたくないしね。
『それに、主はあやつのことを黒猫と呼ぶが、我の名前とやや被るのが気に食わぬ。違う呼び名にしろ』
もしかして――黒銀にとって重要なのは、そっちだね? もう、黒銀ったら。
『ていへんとかでいいんじゃない?』
「ていへんって……底辺!? ま、真白ったら、そういうことを言っちゃだめ!」
真白、容赦ないなぁ。
『ちょっと! さっきから黙って聞いてりゃ、好き放題言ってるんじゃないよ!』
『『黙れ底辺』』
『きいぃ!』
キシャー! と怒りを露わにする黒猫さんに、冷ややかに返す真白と黒銀。
んもー、ほんっとに仲悪いなぁ。このままじゃ、真白たちは本当に黒猫さんを『底辺』って呼びそうだ。
さすがに不憫だから、名前を考えたほうがいいかな。女の子の黒猫さんに合う、『黒』を使わない名前、ねぇ。
ミケは違うし、タマは論外。名付けのセンスが皆無な私は、頭を抱える。
「黒猫さんの名前……黒は使わないで、かぁ」
闇はいかにも魔獣っぽいから嫌だなぁ。
うーん……夜? 夜ならいいんじゃない? 艶やかな毛並みだし、艶夜と書いて『えんや』とか? ……某アーティストか。それに字面がちょっとなまめかしいかな。
他に夜で連想するのは何だろう? 黒猫さんの目は金色だから、星夜、月夜? なんか違うな。
うーん、月……かぐや姫……そうだ!
「かぐや。輝く夜と書いて輝夜はどう? 夜を連想させる黒い毛並みと、月を連想させる瞳にぴったりだと思うのだけど」
『底辺の名前にしては立派すぎるのではないか?』
『こいつには、もったいない』
黒銀と真白は手厳しいなー。
二人はともかく、黒猫さんの反応はどうかなと、様子をうかがうと――
『かぐや……輝く夜? アタシが?』
「そう。異国には、かぐや姫っていう名前のプリンセスのおとぎ話があるのよ?」
『プ、プ、プリンセスなんて! ア、アタシには似合わないよ……そんな柄じゃないし』
黒猫さんはモジモジしていて、満更でもなさそうだ。
「気に入らない?」
『そ、そんなことないよ。でも……』
チラッと真白と黒銀を見る黒猫さん。二人のコメントが気になったみたい。
「私は輝夜って名前にしたいんだけどなぁ……だめ?」
『し、仕方ないねっ! アンタがそう言うなら従うしかないじゃないかっ! ふん! 好きに呼びゃいいだろ!』
……悪態をつきつつも、尻尾はぴんと嬉しそうに立っている。
おお、これがツンデレというものか!!
「じゃあ、あなたの名前は輝夜ね?」
黒猫さんのツンデレっぷりにニヨニヨしながらそう告げると、真白たちと契約した時と同じく、何かの回路が繋がるような感覚がした。これで契約完了かな?
なんだかちょっと疲れちゃったなぁ……
そんなことを思っていると、騒がしい声が聞こえてきた。
『こいつに、おひめさまのなまえなんて、なまえまけしてる』
『まあ、こやつはプリンセスという柄では確かにないな』
『うっさいよ!』
「もう……ケンカしたらご飯抜き! だからね!」
この一言で舌戦はピタリとやんだ。さすが、伝家の宝刀『ご飯抜き』。効き目あるなぁ。
あれから、黒猫さん――輝夜がもじもじしながら、かぐや姫とはどんな話なのかと聞いてきた。
私はところどころ合っているか怪しいものの、内容を語ってみせる。
「……というわけで、かぐや姫は月に帰ってしまったの」
『ふーん』
『ふむ』
『……うう、いい話じゃないかぁ……』
真白と黒銀はそっけない反応だけど、輝夜はなんだか感動している。
そんな彼女を横目に、黒銀が首を傾げて口を開く。
『要は、結婚したくないが故に、言い寄る貴族どもに無理難題を出して貢がせた挙句、トンズラしたということか?』
『なるほど』
黒銀の解釈に、私は慌てて反論する。
「ちがーう! いや、解釈の仕方によってはそうとも取れるかもしれないけど……ち、違うからね!」
『……アンタたち、ほんっとに性格悪いね!?』
輝夜がそう言うと、黒銀はフンと鼻を鳴らした。
『魔獣に言われたくないわ。性格の悪さは、魔獣の方が一段上を行くからな』
『かぐやは、しょうわる』
『きいぃ! アンタたち覚悟しな!』
キシャー! と、黒銀たちに飛びかかろうとする輝夜。
「あっ輝夜!? ダメよ!」
『へ? ……ふ、ふにゃあ?』
飛びかかろうとした瞬間、輝夜はへなへなとその場にくずおれた。魔導具の首輪が作動し、魔力を吸い取られたらしい。
「……だから言わんこっちゃない」
『ま、魔力があぁ……』
『がくしゅうのうりょく、ないね?』
『悪知恵は働くだろうにのぉ?』
……真白、黒銀。さては、わざと挑発したな?
しばらくすると、輝夜はなんとか動けるようになった。身動きが取れないほど魔力を吸い取られるのは少しの間だけで、時間が経過すると、ある程度の魔力は回復するらしい。
『うにゃあ……酷い目に遭った』
「もう。条件は知ってるんだから、気をつけないと」
『条件を付けたのはアンタだろぉ!?』
「そうよ? もっとガチガチな条件に変更してもいいけど?」
『……滅相モゴザイマセン』
私は輝夜を膝の上にのせ、もふり始めた。
真白と黒銀から大ブーイングが起きたけど、さっき輝夜を挑発したことを指摘して黙らせる。
ちょっとのことで、大変な騒ぎだ。
「はあ……契約獣が増えれば増えるほど、大変な気がする。セイはどう対処してるのかなぁ?」
セイは、東の島国ヤハトゥール出身の男の子で、私の友達だ。なんでも、後継者争いで命を狙われたため、留学を名目にここドリスタン王国に逃げてきたらしい。ヤハトゥールは前世の日本にそっくりな文化を持つ国らしく、私が日本の食材を求めていた時、ヤハトゥールの輸入品を扱うバステア商会で出会ったのだ。
そんなセイは、白虎・朱雀・青龍・玄武の四神獣と契約している。彼らは聖獣と似たような存在ではあるものの、ヤハトゥールでは神獣と呼ばれているのだとか。
たしか、ヤハトゥールを発つ時に、一気に契約することになったんだっけ? 契約した時の状況が違うから、彼と自分を比較してもしょうがないか。
……そういえば、真白や黒銀とダブル契約をしたのは、セイと契約してる白虎様が原因だったなあ。私の魔力が美味しいから魔物に狙われるんじゃないかと心配して、護衛として真白たちを連れてきてくれたのだ。あの時は本当にびっくりした。
とはいえ、契約したことで助かったこともある。
聖獣が護ってくれるからという理由で、お出かけできるようになったり、もふれたり、もふれたり、もふれたり……大事なことなので繰り返し言いました。
その時――背後から突然、声が聞こえた。
「おい、お嬢。お前、膝に何をのせてんだ?」
「ひゃあっ!?」
私は驚いて飛び上がる。振り向くと、そこには噂をすればなんとやら……白虎様がいた。
普段は魔力の消費を抑えるためにミニサイズの虎の姿なのだけど、今は人型の男性の姿だ。どうやら転移魔法でやってきたらしい。
『おいこら、白虎の! 主の背後を取るでない!』
『くりすてあをびっくりさせたら、だめ!』
私の代わりに抗議してくれる黒銀と真白。私は心臓を落ち着かせながら、ゆっくりと息を吐く。
「ああ、びっくりした。白虎様、どうなさったんです?」
「ん? お前さんに届け物があってな。それより、その黒いのはどうした?」
白虎様は輝夜を指さして聞く。あれ? 輝夜がカチコチに固まってる。
「どうしたの、輝夜? ええと、この子は今日契約した、魔獣の輝夜ですわ」
輝夜をゆさゆさと揺らしても、身じろぎひとつしない。心なしか冷や汗をかいているような……肉球が汗でしっとりしてる?
そんな輝夜はおかまいなしに、白虎様は私に詰め寄った。
「は? 魔獣と契約? お前、何考えてるんだ!?」
「そう言われましても……」
かくかくしかじかと、成り行きを説明すると、白虎様は呆れる。
「お前なぁ……。俺が何のために真白や黒銀を探してきてやったと思ってんだ」
私の魔力を狙う魔物たちから護ってもらうためですよね? わかってます。
『主は自分で此奴を退け、支配下に置いてしまったのでな。我らの出る幕なぞなかったわ』
『まもらせて、くれなかった』
拗ねたように言う黒銀と真白。
あああ、ごめんよぉ……君たちのプライドをへし折るつもりはなかったんだけど。
「お前な、今後ほいほい契約するんじゃないぞ? これ以上面倒見きれんだろ?」
「はい。気をつけます」
白虎様のお叱りを受け、私は頭を下げる。
「わかったならいい。おい、そこの」
『ピャッ!?』
白虎様は、ひょいと輝夜の首根っこを掴んで持ち上げた。
輝夜はかなり緊張して……いや怯えてる?
「ふーん? 元はそこそこ強い魔獣のようだが、今は普通の猫より魔力が強い程度ってとこか」
輝夜をしげしげと眺める白虎様に、私が応じる。
「首に嵌めている魔導具で、猫型を維持できる程度の魔力しか持てない仕様にしています」
「契約獣の魔力を削ぐなんて、普通はやらねぇけどなぁ」
「元々契約する予定ではありませんでしたので」
「そうか。しかしこのままじゃただの愛玩動物でしかないぞ?」
「私としてはもふれるだけで満足なので、大丈夫です」
「まあ、護りだけなら真白と黒銀で十分とは思うが。今回のように不意を突かれたら、やばいんじゃないか?」
うっ、それを言われると……。私は言葉に詰まる。
「いざという時に備えて、これも戦力になる方がよくないか?」
白虎様はそう言うと、ガチガチに固まった輝夜を私の膝に下ろす。その瞬間、輝夜はダッシュで部屋の隅に隠れた。
私は輝夜を目で追って少し考えてから、白虎様に向かって首を横に振った。
「すぐに力を戻しては罰になりませんし、反省もしないでしょう?」
「お嬢は手厳しいねぇ」
くくっと笑う白虎様。
むっ。そんなことないと思うけど。
「白虎様は反省の時間が短いから、懲りないんじゃありませんこと? セイに伝えておかないといけませんわね?」
ジト目でそう告げると、白虎様は慌てた。
「だあぁっ! お前なぁ。あいつには余計なこと言うなよ!?」
「冗談ですよ。それより、先ほどおっしゃっていた届け物ってなんですの?」
112
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
「商売する女は不要」らしいです
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリアナ・ヴァルトハイムは、第二王子の婚約者だった。しかし「女が商売に口を出すな」と婚約破棄され、新しい婚約者には何も言わない従順な令嬢が選ばれる。父にも見捨てられたエリアナは、自由商業都市アルトゥーラへ。
前世の経営コンサルタントの知識を武器に、商人として成り上がる。複式簿記、マーケティング、物流革命——次々と革新を起こし、わずか一年で大陸屈指の豪商に。
やがて王国は傾き、元婚約者たちが助けを求めて土下座してくるが、エリアナは冷たく突き放す。「もう関係ありません」と。
そして彼女が手に入れたのは、ビジネスでの成功だけではなかった。無愛想だが誠実な傭兵団長ディアンと出会ってーー。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
【完結】三歳年下の婚約者は、嘘を覚えた
恋せよ恋
恋愛
ランバート侯爵令嬢フィオーラには三歳年下の病弱な婚約者がいる。
保養地で十二歳まで静養するフィッチモ公爵家の嫡男、エドワード。
病弱で儚げだった可愛い彼を、フィオーラは献身的に励まし支えた。
十四歳でエドワードが健康を取り戻し王都へ戻ると、環境に変化が。
金髪に青い目の整った容姿の公爵家嫡男に群がる令嬢たち。
「三歳年上の年増」「素敵なエドワード様に相応しくないおばさん」
周囲の令嬢たちによるフィオーラへの執拗な侮辱。
そして、エドワードの友人の義妹マリアンヌの甘い誘惑と、接近。
思春期真っ盛りのエドワードと、美しいフィオーラの関係は拗れていく。
二人の婚約の結末は、婚約解消か、継続か、はたまた……。
若い二人の拗れた恋の行方の物語
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。