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お目こぼしってやつ?

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マリエルちゃんを見送った私は、その足でお父様のいる執務室へ向かった。

「お父様、クリステアです。お話があるのですが」
ノックして声をかけると「入りなさい」とお父様の返事があったので、そっとドアを開けて中へ入った。
「お父様、お忙しいところ失礼いたします。ベーコンのことでお話あるのですが」
「む? 新作レシピか」
「違います。今王都でベーコンが話題になっているのをご存知ですか? 王都の冒険者ギルドに領地の冒険者ギルドでベーコンを買い付けてくるという常設依頼が出ているそうですが……」
「ああ、そのことか。ティリエから連絡があったが、それがどうかしたのか?」
あれ、お父様知ってたの?
「なぜ放置されているのですか。王都の料理人に買い占められているのではないですか。それに、王都では高値で取引されているみたいですよ?」
それくらいなら、我が家から王都で売り出せばみんなもっと安く手に入るのに。
「手に入れたベーコンをどう扱おうが本人次第だ。オークの捕獲数や作れる量に限りがあるのだから販売数の制限は変えられぬ。冒険者達が自分達の食を豊かにするために食べようが、懐を温めるために高値で売ろうが自己の判断の上のことであり、そこから生ずることに関しては自己責任というものだろう」
えー、ちょっと冷たくない?
「王都の民にしても、料金を上乗せしてでも欲しいというのだから、構わずともよい。冒険者達が損をするわけでなし、我が領地を往復する費用を思えば多少割高でも王都の民にとっては安いものだろう。ティリエから報告を受けた際に王都のギルドで正規の値段より上乗せして流通しているようだがその点は冒険者のために目こぼししてほしいと頼まれている」
お父様は書類から目を離さず淡々と答えた。
言い方は冷たいけれど、冒険者達のちょっとした小遣い稼ぎになってるから目こぼししてあげてねって、ティリエさんからお願いされてるって、そういうこと?
まあ、お父様も若い頃やんちゃして冒険者をしていたことがあるらしいから、彼らの懐事情も知っているだろうし、ティリエさんも冒険者のことを考えてお父様に頼んだんだろうな。
それなら、多少高値になるのは仕方ないのかも……

「とはいえ、王都での販売価格や冒険者の動きは常に見張らせている。あまりに暴利であれば何かしら対処せねばならぬが。需要に対して供給が追いつかない現状ゆえ、余程のことがない限り高騰し続けるのは仕方ないだろう……頭の痛いことだ」
ふう、とため息を吐くお父様。
まあねえ。オークだって常に手に入るわけじゃないし。
黒銀くろがねが以前オークの集落を殲滅したこともあって、しばらくは在庫があったけれど……近場にオークがいなくなっちゃったから、下手すると今後ますます品薄になるんだろうな。
黒銀くろがねには、定期的にオークを探して狩りに行ってもらうよう頼むとしても、今以上に生産量をあげるってわけにはいかないわよね。ううむ、困った。
「さしあたっては燻製の種類を増やすことも検討しているが……其方、何か案はないか?」
「えっ、案ですか? 急にそう仰られましても……王都こちらへ来る前に、色々な燻製があることについては職人達に教えていますから、彼らから商品になりそうなものを提案してもらうわけにはいきませんか?」
「ふむ、やはりそうか……工房に試作を作らせるとしよう」
ぶっちゃけソーセージとか作りたいけれど、それにしたってお肉が必要だしね。
ええと、確かウインナーが羊の腸で、フランクフルトが豚の腸、ボロニアソーセージは牛の腸を使うんだっけ?
基本的に狩った獲物はその場で解体することが多いから、痛みやすい内蔵系は埋めるか燃やすかだもんね。だから腸を手に入れるのは難しいかもしれない。
それなのにソーセージなんて作った日には、その貴重性からますます高値を呼ぶような気がする。
そもそも、内蔵を使うってこと自体受け入れられるかわからないし。

それに、オーク肉じゃないと作れないってわけじゃないけれど、ベーコンの代案にはならないから今のところは諦めるしかないか。
ソーセージ……いつかは作りたいけれど、今は作るのはだめだよね。
うん、封印だ、封印。

うんうんと頷く私を見て、お父様は執務の手を止めた。
「……其方、何か案があるのだな?」
「えっ⁉︎ そんな、あ、案なんて、あるわけがないじゃないですか……」
「あるのだな?」
「……案は、ないです」
ベーコンや燻製の打開策があるわけじゃないもん。嘘じゃない。
「ならば、新作か?」
うぐっ!
「……し、新作といえばそうですけれど、ベーコンの代わりにはなりませんし、ベーコンよりも手に入りにくいでしょうから」
渋々答えると、お父様はぐぐっと眉間のシワを深めた。
「ベーコンよりも貴重なレシピだと? それは一体どんなものなのだ?」
ひえっ! お父様の眼力がすごい……!
なんというか、獲物を見つけた猛獣のようにギラギラしているように見えるのは気のせいかな⁉︎
「あ、あの。動物の内蔵を使うので、お父様のお口にはきっと合わないかと思いますわ。ですから……」
「構わない。作ってみなさい」
お気になさらないでくださいませ、と続ける前に被せるようにお父様が言った。
「え、でも……」
「事業の方は気にしなくてもよい。其方は新作を作るように」
しばらく其方の新作を口にしておらぬしな、とぼそりと呟いたお父様は、重ねて私に新作レシピを作るように言明すると、自室に戻るように言って再び書類の山に取り掛かったのだった。

えええ……なぜかソーセージを作ることになっちゃったよ……どうしよ。

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お知らせ

現在、本作三巻の書籍化が進んでおり、正式に決定すると来週の6月29日頃までに該当話をWEBから引き下げる予定です。
三巻の詳細はまたわかり次第、近況ボード等でお知らせしたいと思います。
現在色々と頑張っておりますのでよろしくお願いいたします~!
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