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解体小屋はどうしよう?

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あれから朱雀様も合流し、皆で掃除を頑張ったおかげで厨房はすっかりきれいになった。
もちろん、厨房全体や冷蔵室にクリア魔法をかけておくのは忘れなかった。
「ふう……これでなんとか使えそうね」
寸胴鍋やフライパンもパントリーに仕舞い込まれていたのを発見し、使用できそうなものだけ念入りに磨いて棚に戻した。
あとはインベントリに入れておいた道具類を出せばいいわね。
それから食材を出して……と、インベントリには調理済みのものばっかりだったっけ。
私はインベントリに収納していたメモをポケットから出すフリをしながら取り出し、基本的な調味料や食材をざっと書きこんでミリアを呼んだ。
「ミリア、このメモの材料を発注してきてくれるかしら」
「かしこまりました」
ミリアはメモを受け取ると、ミセス・ドーラに発注依頼するために女子寮へ向かった。
「さて……と。厨房はなんとかなったわね。あとは……」
私はテーブルに突っ伏すようにしてへばっているニール先生を見る。
ニール先生の解体部屋を無理矢理明け渡してもらう形になったので、その代わりになる場所を確保しないとニール先生の使役する魔獣たちのご飯が準備できなくなっちゃうよね。
「先生、新しい解体場はどこにしますか?」
「……へ? ああ……そうだね。ええと、こっちに……」
ニール先生はのろのろと立ち上がり、若干ふらつきながら厨房の奥にあるパントリー横の扉の前に立った。
「そうだ。君たちもここを使うなら登録しておくといい」
そう言ってポケットから鍵を出したので、私たち全員が出入りできるよう、魔石に魔力を登録した。
後でミリアの分も登録しなくちゃね。
扉を開けて奥に進むニール先生の後に続くと、前世の土間のような殺風景な空間に出た。
「あっちの扉は外に繋がっていてね、身元のしっかりした者だけを登録して出入りを限定しているんだ。食材はここに届くはずだよ。外部の者が厨房や寮内に入りこむことはできないから、食材の搬入時はここに立ち入らないように。ここから無理矢理外に引きずり出されて誘拐……なんてことはないと思うけど、念のためにね」
「は、はい」
ニール先生ったら、さらっと怖いこと言わないでほしいわ。
「じゃあこっち。ここから庭に出られるよ」
ニール先生の誘導で寮の外へ通じるのとは別の扉にまた魔力登録してから先に進むと、がらんと広い庭が見えた。
庭木の手入れは特にされていないみたいだけど、野趣あふれる庭といえばまあ……という程度なので気にならなかった。
「ええと、この辺りに解体小屋があるといいんだけど……すぐに対応してくれる大工がいるかなぁ。とりあえずオークを一体解体したばかりだから数日分はなんとかなるけど……うーん、当面はこの木に吊るしてやるかな」
先生は扉から出てすぐの空間を指し、そのすぐそばにある大きな木で解体するか思案していた。
ええ……こんなオープンスペースで解体だなんて、うっかりその現場に遭遇でもしようものならまたぶっ倒れかねないじゃないの。勘弁してほしい。
これは一刻も早く解体小屋を作らないと私も魔獣たちも困ることになりそうだわ。
よおし!
「小屋はそんなに大きくなくてもよいのですか?」
「そうだねぇ……僕の魔獣たちの食事で使うのは大きくてオークくらいのものだし。そいつを吊るしたり、台で解体したりするスペースがあれば問題ないかな」
ニール先生は「ここからここまでの面積で~」と歩いて希望の敷地面積を示した。
「なるほど……わかりました。では失礼して」
「えっ?」
私は足元に手をついて、先生の希望のスペースに小屋を作るイメージで土魔法を発動した。
ゴゴゴ……と土がせり上がって壁や天井となり、床が硬化していく。
うーん、解体となると血だのなんだのを洗い流さないといけないだろうから、排水のための溝を作って、床はほんの少しだけ傾斜させて水を流しやすいようにコンクリートをイメージして……
「……と。こんなものでいかがでしょう?」
換気用の窓と出入り口は開けておいたから、ここだけ大工を呼んで窓枠と扉を作ってもらうしかないわよね。
ここまでできていたら、当面は解体するだけならなんとかなるだろうし。
あっ、水の出る魔導具の設置が必要ね。
これは高価だからお父様にお願いしてすぐに寄付していただこう。うん。
すっくと立ち上がって背後の皆を見ると、ニール先生やセイがあんぐりと口を開け、黒銀くろがね真白ましろと白虎様は「あーあ……」と言いたげな表情で、朱雀様はただにこにこと私を見ていた。
……あれ?
「ク、クリステア嬢。今のは……土魔法かい?」
「え、あの、はい。そうですけど……」
……やばい。
そういえば海に魚を捕りに行った時、ティリエさんが私くらいの年でここまでできる子はいないようなこと言ってなかったっけ……?
いやでもあの時より規模はずっと小さいよ? これでもNGなのぉ⁉︎
「はは……いやぁ、さすがエリスフィード公爵家のご令嬢だ。ここまでできるなんて優秀だなぁ」
ニール先生は顔を引きつらせて言う。
「……魔法はマーレン師から教わりましたので」
小屋の作り方なんて教わってないけどね。
「ああ、そうか! マーレン先生に師事していたんだっけね。そうかぁ、それならここまでできても不思議はないかもね。マーレン先生の魔法学の授業は本っ当に厳しかったからなぁ……」
ニール先生は「はは……いやー大変だった、うん」と呟きながら遠い目をしていた。どれだけ厳しい授業だったんだろう。
先日の学園長室でのやりとりから、ニール先生の学生時代にマーレン師が魔法学の講師だったみたいだし……これは、なんとか誤魔化せたかな?
「マーレン師はとても熱心に指導してくださいましたの。感謝しておりますわ」
ダメ押しで「マーレン師のしわざ」であると擦り込みしておく。
マーレン師、ごめんなさい。
でも、マーレン師が面白半分にあれこれと詰め込み指導したのは間違いないからね!
「……クリステア嬢、ここで学ぶ必要あるの?」
ニール先生に真顔で聞かれてしまった。
いやいや、私が入学前に学んだことなんて偏ってるだろうからね?
それに、マリエルちゃんや他にもお友達を作って学園生活をエンジョイしたいという野望だってあるのだ。必要なんてあるに決まってる!
「学園では様々な学びがあると伺っております。私のような若輩者が得るものは大きいと思います」
「……そっかぁ。うん、頑張ってね」
私は引きつり笑いで答えるニール先生に「はい!」と満面の笑顔で答え、このままうやむやにしてしまえとばかりに、解体道具をここに運ぶよう黒銀くろがねたちにお願いしたのだった。
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