転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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モテる女はつらいよ

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自室に戻った私はさっそく皆にクラス分けのことを話した。
「ほう、あの娘が同じ組? それは重畳」
「そっかぁ、まりえるといっしょでよかったね!」
「セイ様やマリエル様とご一緒でしたら安心ですね!」
皆も嬉しそうだ。
「ええ、本当によかったわ。皆と違うクラスになったらさみしいもの」
聖獣契約者ということもあって、セイとは同じクラスになるんだろうなと予想していたけど、マリエルちゃんも一緒になるとは思わなかったからすっごく嬉しい!
ニール先生はSクラスは他のクラスより人数が少ないって言っていたから、その人たちともできれば仲良くしたいなぁ。
成績優秀者ばかりらしいから「ライバルと仲良くできるか!」なんて敵対心持たれなきゃいいけど……
「それで、我らの要望に関してはどうなったのだ?」
黒銀くろがねに聞かれて、浮かれて失念したまま部屋に戻らなくて本当によかったとセイに心の中で感謝した。
「ええと、そのことなんだけど、学園内を自由に移動することに関しては問題なさそうなの。でも、もう一つの危害を加えてもお咎めなしっていうのは難しいんじゃないかって、ニール先生が……明日、学園長に相談してみるそうよ」
「そうか」
「へーんなの。おれたちにてをだそうとするやつらがわるいのに、やっつけたらおれたちがおこられるの?」
う……真白ましろの疑問もごもっとも。
真白ましろたちからしてみればまとわりつく虫を払う程度の感覚なのだろうけれど、きっと払われたは払われただけでとんでもない目にあうかもしれないからね……
そうなると、いくら聖獣といえども契約者がいる以上、学園内での私闘で相手に危害を加えたとして処罰の対象になりかねない。
もちろん、契約獣に手を出そうものならその加害者だって処罰は免れないだろうけど。
問題は、契約獣だけじゃなく契約者である私も処罰の対象になることよね。
きっとこの二人のことだから、私に非がないのに処罰されるとなると黙っていないはず。
最終的には私に迷惑をかけたと落ち込むのまで目に見えている。
どう説明したものかと悩んでいると、ミリアがおずおずと前に出た。
真白ましろ様……あの、もし何かあれば叱られるのは聖獣の皆様ではなく、クリステア様やセイ様になると思います」
「ミリア⁉︎」
いつもなら静かに様子を見ているだけのことが多いのに。
「……どうして? おれたちがわるいやつをやっつけてどうしてくりすてあがしかられるの? もんくがあるならおれにいえばいい!」
真白ましろがガタッと立ち上がり、ゆらりと殺気をまとわせはじめたところを黒銀くろがねが抑えた。
「落ち着け真白ましろ。以前主が言っておっただろう。我らが何かしでかせば契約主である主が処罰されると」
黒銀くろがねはハッとした様子の真白ましろの肩を掴んでソファに座らせた。
「だって……だって、くりすてあもおれたちもわるくなくても? それでもくりすてあがしかられちゃうなんておかしいよ!」
「そうだ。だから我らが反撃しても我らに非はないものとして、主が処罰されぬようにせねばならんのだ」
え……お咎めなしって条件は私のためなの?
黒銀くろがねの言葉に真白ましろは口を尖らせた。
「でも、むずかしいんだよね?」
「どうであろうな。明日、ニールの交渉次第になるだろうが……」
「……おれ、いまからあいつのとこにいってぜったいこうしょうせいこうさせろっていってくる!」
真白ましろが再び立ち上がろうとするのを黒銀くろがねが頭を掴んで押さえつけた。
「まあ待つがいい。白虎の奴が言い出したことだ、何か考えがあるのだろう。出方を待とうではないか」
「ええー? びゃっこはばかだからかんがえてないとおもうけど?」
……私も真白ましろの意見に賛成だわ。
万が一、何か考えていたとしても、ろくでもないことだったりする可能性のほうが高い気がするもの。
「……その点については否定できぬが、我らだけで暴走してもよいことにはならん。この時ばかりは結束すべきだろうよ。明日、彼奴らと話し合うことにしようぞ」
「むうぅ……」
ほおを膨らませて黙り込む真白ましろ
ああ、美少年のふくれっつらって可愛い……
黒銀くろがね真白ましろの頭を押さえたままだった手をポンポンしてる……あっ払われた。
なんだかんだ言っててもこの二人、結構仲良くなってる気がするなぁ。
私が微笑ましく二人を見つめていると、真白ましろがポンッと聖獣化して私のところへ駆け寄ってきた。
『くりすてあーくろがねがいじめるー』
「誰もいじめてなどおらぬだろうが!」
私は焦る黒銀くろがねを見て笑いながら真白ましろを抱き上げた。
「あらあら。黒銀くろがねは皆のことを思って言ってくれたのだからいじめてなんてないでしょう?」
『んーん、あたまぽんぽんたたいた!』
真白ましろは小首を傾げてそのまま私を見つめながらもたれかかった。
くっ……あざとい!
真白ましろったら、どこでそんなあざとい仕草を覚えてくるの⁉︎
「そ、そう……じゃあ、痛いの痛いの飛んでいけー」
私が内心悶えながらも、頭を魔力を込めながら撫でると、真白ましろは気持ちよさそうに目を閉じた。
『えへへ、きもちいー』
「ふふふ、よかった」
「む……謀ったな、真白ましろ!」
私たちの様子を見ていた黒銀くろがねまで聖獣の姿になって私にまとわりついてきた。
『くろがね、じゃま!』
真白ましろがそう言って黒銀くろがねをゲシゲシと蹴った。
これこれ、やめなさいってば。
私は慌てて真白ましろ黒銀くろがねから離す。
『主、真白ましろの奴に蹴られた。我にも今のをやってくれ』
黒銀くろがねはそう言って頭をぐいっと私のほうに向ける。
「え?」
えーと……痛いの痛いの飛んでけーって、あれ?
『くろがねはいしあたまだから、やるひつよう、ない!』
真白ましろは更に蹴りを繰り出そうとするので、黒銀くろがねからできるだけ離しつつ、魔力を込めながら黒銀くろがねにもおまじないをしてあげた。
『うむ。これはいい。主のお陰でよくなった』
「そう、よかったわね」
『くりすてあー、おれにもっとやって?』
真白ましろ……もう痛くないでしょ?」
『いたくないけど……もっと!』
そう言って頭をぐりぐりしてくる真白ましろの可愛さよ……あざと可愛いすぎぃ!
『ぬう。ならば我もだ!』
黒銀くろがねまで身体を押しつけてきた。
黒銀くろがね、お前もか!
はー(聖獣に)モテる女はつらいわね……
私はしばらくの間、二人を撫でまくるハメになったのだった。
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